アダマンタイトゴーレム


 初めて深層に降り立ってから2週間が経過した頃、俺もエレノアも順調に深層での調査を続けながらミスリルゴーレムを絶滅させる勢いで狩りを続けた。


 1日も休まずにミスリルゴーレムを狩り続けている姿は、剣聖から見ても異様な光景に見えるらしく“頭がイカレてる”と言われる程である。


 食えない鉄級冒険者ですら3日に一回は休みを取るぞと言われれば、確かに俺達の狩りは常識を逸していると言えるだろう。


 俺たちからすれば、これが日常なんだけどな。


 冒険者ギルドからも、絶え間なくミスリルを持ってくる俺達には若干うんざりとしているようで、俺達がギルドに帰ってくると少し嫌な顔をされる。


 ミスリルを持ってきてくれること自体は有難いのだろうが、それでも仕事量が増えるのは感謝されないのだろう。


 文句はギルドマスターに言ってくれ。俺達は仕事をしているだけなのだから。


「燃えろ」


 そんなこんなで毎日深層へと潜る俺達は、今日も今日とてミスリルゴーレムを灰に変える。


 道案内をしてくれる剣聖は、毎日の狩りに嫌気がさしてお休みだ。それでいいのかオリハルコン級冒険者。


 ここは本当にミスリルゴーレムが溢れており、死者の森よりも多くの魔物と出会えた。


 上級魔物ということもあり、レベルも順調に上がっている。


 狩りをしていて、最も楽しい時間だ。


「あら、レベルが上がったわ。これでレベル53ね」

「おめでとうエレノア。この街に来てからレベルの上がり方が速いな」

「そりゃ、これだけの魔物がいれば嫌でもレベルが上がるわよ。ジークもかなり上がってるでしょ?」

「エレノアと同じスピードで上がってるな。今はレベル59だ」

「もうすぐ60代に突入するのね。毎回言うけど、狡いわよ」


 可愛らしく頬を膨らませるエレノア。


 これだけ見れば可愛い女の子であるが、頬を膨らませながらミスリルゴーレムを焼き殺しいている姿を見ると全く可愛く思えない。


 魔物を狩ってる時のエレノア程、女の子に見えないものはないだろう。


 エレノアは、頭だけを綺麗に焼き焦がしたミスリルゴーレムの残骸に座ると、大きく溜息をつく。


 既に昼時の時間であり、そろそろお腹が空く頃合いだ。


 俺は何も言わずに今日買ってきた肉サンドを取り出すと、エレノアに渡し俺も横に座る。


 もちろん、隙だらけなので護衛に闇狼達を配置して。


「ありがと、ジーク」

「どういたしまして」


 それだけの会話を交わし、黙々と肉サンドを食べる。


 露店で売られているこの肉サンドは羊(ぽい動物)を使って作ったものであり、かなりお腹にたまる上に味も美味しく値段も安い。


 既に生涯働かなくとも問題ない程の金を手に入れてはいるが、俺もエレノアも基本的に金銭感覚は庶民なので安くて多くて美味い物を好んで食べていた。


 生活レベルを上げると戻れないとか聞くし、俺はこう言う慎ましい生活の方が性に合っている。


 エレノアも、同じ考えを持っているのかあまり贅沢をしようとはしなかった。


「そういえば、ジークの防具はどうするのかしら?結局そのまま使ってるわよね?」

「そうだな。そろそろ変えないととは思ってるんだが、ミスリルゴーレム狩りが忙しくて武器屋を回れてない。今度休みの日に行くとするか」

「それじゃ、明日を休みにしましょう。お金はもう十分あるでしょう?」


 ミスリルゴーレムを換金しまくったお陰で、懐は過去最高に暖かい。


 防具を新調するぐらいは使っても問題ないが、できる限り安く済ませたいな。


 素材とかは自分で持ち込むか。多少は金が浮くだろうし、なんならミスリルをそのまま渡せばかなりいい対応をしてくれるだろう。


 今日の帰りにギルドマスター辺りから、腕のいい鍛冶師が居る店でも聞いておくか。


 俺はエレノアの言葉に頷くと、残った肉サンドを口の中に押し込んでミスリルゴーレムの残骸を回収する。


「次いでにエレノアの仕込みナイフも作ってもらうか。ミスリルを持ち込めば、安く済むだろうしな」

「いいわね。私も念の為に防具ぐらいは作った方がいいのかしら?」


 エレノアの格好は、魔術学院の頃から被っている帽子と魔道士らしいダボッとした布服を着ている。


 動きやすいように工夫されているが、とても防御力があるとは思えない装備だった。


 今考えれば、よくこの服装で上級魔物を狩ってたな。


 一歩間違えればあの世行きだぞ。


「動きの邪魔にならない程度の防具は付けた方がいいかもな。心臓とかを守ってくれる胸当てとか」

「確かに、それぐらいは必要かもしれないわね。いい機会だし、私も色々と新調するわ。お金はあるんだしね」


 そんなことを話しながら、深層を再び歩き出す俺達。


 しばらくミスリルゴーレムを焼き殺して回ると、明らかに見た目が違うゴーレムが姿を現した。


 ミスリルゴーレムとは違い、桜色の金属で全身を形作るゴーレム。


 ミスリルゴーレムとは桁違いの圧を感じるとなれば、俺達も警戒をせざるを得ない。


 師匠よりは弱いが、それでも強い。


「初めて見るゴーレムね。あの色の金属となると、アダマンタイトゴーレムが妥当かしら?」

「アダマンタイトゴーレム........ギルドで確認しないと分からんが、恐らく最上級魔物だろうな。同じ最上級魔物である師匠よりは弱そうだが」

「そうね。自称破滅級魔物と言うだけはあるわ。燃えろ」


 アダマンタイトゴーレムが動き出すよりも速く、エレノアが魔術を放つ。


 第六級炎魔術がアダマンタイトゴーレムの頭を轟々と焼くが、アダマンタイトゴーレムは倒れることなく前進してきた。


 全く効いてないという訳では無いが、エレノアの第六級魔術を耐えるとは流石最上級魔物。


 一筋縄では行かなそうだ。


「あら、これを耐えるのね。ならもう少し火力を上げましょう。第七級魔術の味はどうかしら?」


 魔術に耐えられた事に焦ることなく、エレノアは続けざまに第七級炎魔術を放つ。


 その火力は第六級魔術とは比べ物にならない程高く、アダマンタイトゴーレムの全身を焼き焦がした。


 出来れば頭だけを燃やして欲しかったが、第七級魔術となるとピンポイントで攻撃や仕掛けるのは難しい。


 仕方が無いと言えば、仕方が無い。


 エレノアの炎に焼かれたアダマンタイトゴーレムは何とか俺達に攻撃しようと藻掻くが、距離が遠すぎる。


 俺達に手が届く前に力尽きると、そのまま煙を上げながら地面に倒れ込んだ。


「最上級魔物と言えど、エレノアの魔術には敵わなかったようだな。師匠が“余裕”と言ってたのは本当だった訳だ」

「第七級魔術が使えれば余裕ね。デュラハンより少し強い程度かしら」


 エレノアはそう言うと、黒ずみになったアダマンタイトゴーレムの死骸を蹴り飛ばして仰向けにさせる。


 桜色の綺麗に輝く光沢はそこにはなく、この闇のに相応しい黒だけが残っていた。


「先に闇狼に魔石を砕かせるべきだったわね。そしたら、放置狩りに新たな魔物が追加されたのに」

「それを早く言えよ。今から探すぞ。ギルドに報告しなきゃならんし、アダマンタイトを確保しないと」

「........本音は?」

「最上級魔物相手に放置狩りできるとか最高じゃないか!!」

「いつも通りで安心したわ」


 最上級魔物を放置狩り出来るかもしれないというワクワクを抑えきれない俺に、呆れながら笑うエレノア。


 その目は、新たな玩具で遊ぶ子供を微笑ましく見る目に近かった。


 その後、もう一体のアダマンタイトゴーレムを発見し、無事闇狼で魔石を砕けることが判明。


 しかも、ミスリルゴーレムと同じ速さで魔石を砕いたので、放置狩りの効率が更に上がることだろう。


 俺はルンルン気分で、その日の狩りを終えるのだった。



【アダマンタイトゴーレム】

 最上級魔物。全てがアダマンタイト出できており、ミスリルゴーレム以上の防御力を誇る........はずなのだが闇狼に瞬殺された。

 一体でも出現すれば小国が滅ぶレベルであり、その危険度は上級魔物とは比べ物にならない。

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