剣の頂


 魔の渓谷の最下層である“深層”に降り立った俺達は、順調にミスリルゴーレムを屠っていた。


 剣聖が“わんさかいる”と言うだけあって、ミスリルゴーレムは少し歩けば群れで出会う程にゴロゴロといる。


 これだけの数の上級魔物が居るとなれば、そりゃ冒険者ギルドも放って置かないわな。剣聖と言う、この深層に降りたっても無事に帰還できる冒険者が居るなら尚更。


「凄いのぉ。上級魔物がまるで最下級魔物の様に屠られていくぞ。あそこまでの殲滅力は儂でも出せんな」

「魔術師の強みだな。広範囲の攻撃が得意だから、数でのゴリ押しが効かないんだよ。自分より弱い相手に対しては、かなり強く出られる」

「ほっほっほ。儂は対人対一の方が強いからのぉ。こう言う群れで襲ってくる魔物にはちと弱い」

「よく言うよ。奇襲してきたミスリルゴーレム3体を斬り伏せておきながら」


 スムーズにミスリルゴーレムを殲滅するエレノアを見て、感心の声を上げる。


 ミスリルゴーレムは魔術に対する耐性もかなり強いはずなのだが、エレノアの超火力の前には為す術ない。


 魔術一発で頭を燃やし尽くせば、魔石と大量のミスリルを残した金の成る残骸の出来上がりである。


「やっぱりゴーレム狩りは楽しいわね。ダンジョンで狂ったようにアイアンゴーレムを燃やしていた頃を思い出すわ」

「あの時は酷かったな........アイアンゴーレムが視界に入った瞬間に、全身を燃やされてたんだから。まだ、頭だけを燃やされるミスリルゴーレムの方が救いがあるかもしれん」

「本当は全部燃やし尽くしたいんだけどね。それをすると、取れる素材が無くなるから」

「全身を烈火のごとく燃やされるのと、頭だけを燃やされるのに違いはあるのかのぉ........?」


 楽しそうにミスリルゴーレムを屠るエレノアと、それを見てほっこりする俺。そして、俺達の会話に首を傾げる剣聖。


 幾ら上級魔物と言えど、このメンツが集まってしまえばどれだけ数を用意しようと敵わない。であったミスリルゴーレムは、全てエレノアの手によって屠られていく。


 そして、その残骸は闇狼(強化前)がせかせかと拾い集めては、俺がなんちゃってマジックバックに入れていた。


 今日だけで今週のノルマに余裕で行きそうだな。なんなら、1ヶ月分ぐらいは行けるかもしれん。


 俺はギルドの金庫から一門も金が無くなるのでは?と心配しながらも、ミスリルと魔石を集め続けた。


「その魔術も便利そうじゃのぉ。闇に紛れる狼か」

闇狼ダークウルフだ。ペットとして可愛がるも良し、影に入れて護衛に使うのも良し。こうして細々としたことを手伝わせるも良しの可愛い奴だ。世話代もかからないから、かなり有能だぞ」

「ほー、それはいいのぉ。酔いつぶれた時に背負って貰ったりとかもできそうで。まぁ、儂は魔術が一切使えぬから無理じゃがな」


 剣聖は残念そうに呟きながら、俺の横で待機する闇狼の頭を撫でる。


 闇狼は所詮魔術なので、剣聖に恐れる事無く静かに頭を撫でられるだけだった。


 これが本当の魔物や動物なら、本能で剣聖のヤバさを感じて逃げ出してただろうな。どれだけ心が優しくとも、その身に纏う圧を感じてしまえば逃げてしまうのが動物や魔物の性だ。


 ゴブリンとかの知能が低く、本能も馬鹿な魔物なら話は別だが。


「剣聖は魔術が使えないのね。使わないのではなくて?」

「全くと言っていいほど使えぬな。それこそ、第一級魔術すら使えぬ。魔法陣をきちんと覚え魔力操作も問題ないのに使えぬから、一重に才能が無いという事じゃな」

「剣の才能を授かった代わりに、魔術関連は捨てたのか」

「そうとも言える。少しは魔術を使ってみたいとは思うがのぉ。こればかりはどうしようも無いわい」


 何かを得るためには何かを捨てなければならない。俺達だって、レベル上げの為に時間を捨てている。


 まぁ、エレノアの場合はレベル上げが趣味みたいな所があるし、俺に至っては放置ゲーしてればいいから捨てているものは少ないが。


 エレノアが心配と言うのと、程よく実践をしなければ動きが鈍るという理由で魔物狩りをしている訳だし。


 あれ?俺もエレノアも捨ててるもの無くね?


 強いて言えば、平穏な日常を捨てているぐらいか。油断すれば即、死が待ち受けるような世界に足を踏み入れていると言うのは、平穏とは程遠いしな。


 そんなアホなことを考えていると、岩の影からミスリルゴーレムが姿を現す。


 どうやらエレノアには見つからなかった運のいい個体だったようで、俺達の後ろを取ってきた。


 残念ながら、その運もここで尽きたが。


「砕け」


 短い命令と共に、影の中で俺を護衛していた闇狼(強化版)がミスリルゴーレムの魔石を噛み砕く。


 ゴーレムに対しては絶対的な強さを誇る闇狼の前に、ミスリルゴーレムは一切の抵抗もできずに素材へと姿を変えた。


「........何度観ても仕組みが分からんのぉ。魔術を使っておるのは分かるんじゃが、何をやってるかさっぱりだ」

「そりゃ、目で見るのは不可能な戦い方だからな。魔力を見る目があれば別かもしれないけど」

「んなもん持っておらぬわ。儂は普通のドワーフじゃぞ」


 普通のドワーフは、ミスリルゴーレムを鉄の剣で切り裂かねぇんだよ。


 驚くことに、剣聖の持つ剣はただの鉄剣であった。


 特に魔術的技術が組み込まれている訳でも無く、見た目が鉄の特殊な金属や魔物の素材でもない。


 だが、この御仁はミスリルを切り裂く。


 剣聖は俺の魔術のネタが分からないと言っていたが、俺から言わせれば鉄でミスリルを切り裂けるネタが分からない。


 剣の振り方も割と普通に見えたし、一体何をどうやったら鉄でミスリルを切り裂けるのだろうか。


 何かスキルでも持ってるのかな?聞いても教えてくれないだろうけど。


 街中を話しながら歩くような気軽さで深層を歩き続ける俺達だが、昼時を迎えれば流石に休憩を取る。


 光球ライトの魔術に照らされながら、俺達は適当なところで休憩を取った。


「いやぁ、こうして光があると楽じゃのぉ。鞄の中がよく見える」

「普段はどうやって深層で狩りをしてるんだ?」

「戦いの際は光などつけぬよ。邪魔になるだけじゃし。飯も歩きながら、適当に干し肉を齧る程度じゃ」


 なんと言うか、普通だな。


 噂では、剣の斬撃を空間に配置して結界を創り出すとか聞いたのに。


 俺がその事を言うと、剣聖は声を上げて笑う。


 あまりに大き過ぎた笑いのせいでミスリルゴーレムが数体寄ってきたが、護衛の闇狼が全てを片付けてくれた。


 後で回収しないとな。ギルドの金庫を空にするまでは、ミスリルの回収は続けなければ。


「そんな化け物じみた事など出来るわけないだろうに。儂に出来るのは、ただ剣を振り下ろす事だけじゃ」

「それじゃ、噂は嘘だったと?」

「当たり前じゃろ。空間に斬撃を配置する?何を訳の分からん事を言っておるんじゃ。儂に出来るのは、精々斬撃を飛ばす位じゃな」


 あ、斬撃は飛ばせるんだ。


 俺も一応剣を使ってはいるが、斬撃を飛ばすなんて芸当は出来ない。これを機に、剣聖に剣の扱いについて教えてもらうのも良いかもしれないな。


 問題は、授業料となるものを払えない事だが。


 オリハルコン級冒険者となれば、金など有り余るほど持っているだろう。俺達が指名以来で受けたこの深層の調査も、報酬はかなりいい金額になっている。


 この依頼を10年近く受けている剣聖ともなれば、それはもう溢れんばかりの金を持っている事だろう。


 なんかいい方法ないかな........酒は仕入れる方法が無いし、魔術は剣聖が使えないから無理。


 うーむ、いい案が浮かばない。


 結局、俺は剣聖の機嫌のいい時にサラッと聞くと言う小狡い方法しか思いつかなかったのだった。





 朝コメント見たら、皆んな同じ反応で爆笑しました。オリハルコンゴーレム君だって、頑張ってるんだよ‼︎経験値なんて名前付けてあげないで‼︎(フラグ)

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