新しい装備が手に入ったら、すぐに使いたいよね


 新しい防具と武器の作製を依頼してから一ヶ月後、魔の渓谷の調査を進めていた俺達は中層にやってきた。


 何故わざわざ経験値効率の悪い中層にやって来たかと言うと、昨日新たな装備を手に入れたからである。


 本当や深層の調査をしなければならないのだが、やはり俺もエレノアも新品の武具をいち早く使って見たかった。


「アダマンタイトの仕込みナイフと胸当て、それにリッチの布でローブまで作ってくれるとはね。ちょっと得した気分だわ」

「残った素材は好きにしていいって言ったから、その分サービスしてくれたな。しかも、料金は要らないと来た。俺達からすれば、捌くのが面倒な素材がある程度売り捌けて万々歳だ」

「ふふっ、ジークとお揃いの格好になるとは思わなかったけどね。似合ってるわよ?そのローブ」

「バカにしてるだろ」


 防具と武器を作ってくれたおっちゃんは、かなり気前が良かった。


 上質な素材をかなり渡したし、残った素材は好きにしてくれと言ったのが良かったのか頼んでもないローブを作ってくれた上に、代金はタダにしてくれたのだ。


 素材だけで代金分以上の金になるから、サービスしてくれたんだろうな。


 アダマンタイトで作られた胸当てと脛当、そして腕当とそれぞれの武器。これだけ作ってもらっておいて、料金はゼロなのだから俺達からすれば得した気分である。


 エレノアとペアルックになってしまったが、エレノアは機嫌が良さそうだし俺も特に気にはしてないので問題ない。


 問題があるとするなら、俺の成長を見越した上で作られたローブなのでかなりダボッとした格好になってしまっている事ぐらいだ。


「急遽、お願いした仕込みナイフも作ってくれたし、感謝しかないな」

「私は足に、ジークは腕に仕込みナイフを仕込ませてるわね。しかも上から二番目の希少鉱石のアダマンタイトよ。私達の装備を売るだけで、10年以上働かなくても問題ないだけの金が手に入ってしまうわ」

「ギルドの査定も凄い金額だったしな........契約外の素材だから色を付けて買い取られてないはずなのに、軽くミスリルの20倍は金額が行ってたぞ」


 俺はそう言いながら、右腕に仕込んだアダマンタイト製の仕込みナイフをカチカチと起動確認を行う。


 スイッチを押すことで起動する仕込みナイフであり、スイッチオンにしていれば手首を動かすことでナイフを出し入れすることが出来る。


 よく漫画で暗殺者が使う仕込みナイフそのものであり、これを見た時の俺のテンションは爆上がりだった。


 そのテンションの上がりようは、アリアが軽く引くレベルである。


 エレノアと武器や防具の感想を話しながら中層を歩いていると、今日のお目当てであるオークが姿を現す。


 流石にミスリルゴーレムにナイフは効果が薄いので、今回はこのオークで使用感を確かめるのだ。


 後、オーガも。


「私からやってもいい?」

「どうぞ。新しい仕込みナイフの力を見せてくれ」

「任せなさい」


 エレノアはそう言うと、腰にぶら下げたトンファーを構えること無くオークに向かっていく。


 どうやら、今回はトンファー無しで戦うようだ。


 エレノアに気づいたオークは、雄叫びを上げながらエレノアに迫る。


 普段なら魔術で燃やし尽くされるか、トンファーで頭を潰されるかの2択だが今日は違う。


 エレノアは軽くつま先で地面を叩くと、仕込みナイフを起動。


 桜色にきらめくアダマンタイトのナイフが姿を現し、オークの首に向かって的確に足が振るわれた。


 一瞬の静寂。


 そのすぐ後に、オークの首がゆっくりと地面に落ちて首から血の噴水が上がる。


 マジかよ。突き刺すような動きで蹴ったのに、首を切り裂いたぞ........


「切れちゃったわ」

「切れちゃったな」

「私のイメージではオークの首筋にナイフが突き刺さってるはずなのだけれど、切れ味が凄すぎてそのまま首を切り落としたようね」

「アダマンタイト、とんでもねぇな。中級魔物が相手とは言え、ここまで綺麗に首を切り落とせる物なのか」


 オークの死体を見れば、綺麗な切り口が。


 剣聖がミスリルゴーレムを切った時のように、切断を感じさせず元々こうであったかのような切り口が広がっている。


 あまり仕込みナイフの扱いに慣れていないエレノアですら、この切り口を作り出せるのだから剣聖がアダマンタイトの剣を使ったら天地をも切り裂いてしまいそうだ。


「本当に凄いわね。見なさいジーク。オークの骨まで綺麗に切れてるわ。鉄ならこうは行かないでしょうね」

「アダマンタイト様々だな。あのおっちゃんが“小国ならば国宝になり得る”と言うだけはある」

「何者かしらね?アダマンタイトの加工なんて、相当な技術がないと出来ないと聞いたのだけれど」

「他人の詮索はあまり良くないよエレノア。世話になったんだから余計にな」


 とは言え、エレノアがそう言いたくなる気持ちも分かる。


 アダマンタイトの加工と言うのはとても難しいらしく、鍛冶に優れたドワーフであってもひと握りしか加工出来ないそうだ。


 それだけの技術を持ちながら、なぜこの街で鍛冶師をしているのか。


 謎ではあるが、こう言う詮索は辞めておいた方がいい。時として、好奇心は身を滅ぼすのだから。


 アリアのお父さんであるおっちゃんの謎が深まりながらも、オークをさっさと解体して次なる獲物を探す。


 次に現れたのはオーガだった。


 エレノアに最初を譲ったので、次は俺の出番。


 普段ならば、魔術で頭を吹き飛ばしているところだが今日は違う。


「随分と細くなったわね」

「俺の手に1番馴染んだのはこれだからな。親父には申し訳ないが、俺には細めの剣の方が扱いやすい」


 両親からの贈り物である剣よりもかなり細い剣。今まであまり気にして使ってこなかったので気づかなかったが、俺には細く軽い剣の方が性に合っていた。


 どうやら、俺は剣聖タイプの剣士らしい。


 パワーよりも、素早さと技術で相手を斬り伏せる剣士という訳だ。


 俺はオーガに恐れることなく近づくと、オーガは俺に向かって大きく拳を振り上げる。


 ダンジョンにいた頃は、大きく距離を取って魔術で反撃していただろうが今は何もかもが違う。


 ゆっくりと振り下ろされるオーガの拳を紙一重で避けると同時に、俺はさやから桜色に煌めく刀身を引き抜いて円描く。


 折角の試し斬りなのだから、今日は少し時間をかけさせて貰おう。


 僅かな時間差を置いてから、オーガの悲鳴が聞こえる。


 オーガの腕は、肘から先が無くなっていた。


「凄まじい切れ味だな。全く抵抗が無かったぞ」


 俺は、アダマンタイトの剣の凄さに驚きつつも続け様にオーガの足元に入って両足の膝から下を切り飛ばす。


 バランスを崩したオーガは、顔面から地面に落ちるがその間に首元に剣を置かれているとなれば、胴と首が泣き別れるのは必然だ。


 オークと同じく、血の池を作ったオーガは、左腕だけを残して息絶えた。


「お見事ね。中級上の魔物が雑魚扱いだわ」

「これがアダマンタイトの切れ味か。見ろよ。少しの刃こぼれも無ければ、剣に血すら着いてない」

「ジークの腕があってこそだと私は思うけどね。どれだけ剣の質がよかろうと、それを生かすも殺すも使い手次第よ?」

「そう考えると、剣聖はおかしいな。鉄剣でミスリルを切ってるんだから」

「........あれがアダマンタイトの剣を持ったらと思うと、ゾッとするわね」


 俺もエレノアもあの剣の頂きに立つ御仁がアダマンタイトの剣を持った姿を想像し、苦い顔をする。


 その気になれば、山すら両断してしまいそうだな。


 俺はそう思いながら新たな防具と武器に慣れる為に、次々と魔物を屠るのだった。

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