フィーバー!!


 アイアンゴーレムが鴨だと知ってから、俺達はアイアンゴーレムが絶滅するのではないかと思われるほどの勢いで狩りを続けた。


 アイアンゴーレムが視界に入った瞬間に魔術をぶっ放し、アイアンゴーレムが何か行動をとる前に制圧する。


 それだけであら不思議、金と経験値が溜まっていくのだ。


 この階層ではアイアンゴーレムの出現率がかなり高く、それはもう面白いほどにアイアンゴーレムを狩れてしまう。


 流石にモンスタートラップを踏んだ時レベルでは無いものの、ちょこっと歩けばアイアンゴーレムに出会えるのだ。


「やばい、超楽しいわ。金になるわレベルが上がるわでいい事づくめね」

「これはフィーバーだな。手当り次第アイアンゴーレムを燃やすだけの簡単なお仕事だ」


 満面の笑みでアイアンゴーレムを燃やすエレノアは、どうやらこのアイアンゴーレム狩りが気に入ったようで、ウキウキしながらアイアンゴーレムを燃やしている。


 軽いサイコホラーに見えるが、レベルの上がり方が尋常じゃないし、金は溜まりまくるしで笑顔になる気持ちもよく分かる。


 2週間毎日魔物を狩りまくって、ようやくレベルが1上がっていた頃とは大違いだ。


 僅か2週間で、エレノアのレベルは5も上がり、レベル23となっている。


 勿論、俺のレベルもとんでもない上がり方をしておりレベル29にまで上がっていた。


 アイアンゴーレム狩り、超楽しい。


「どうしようジーク。こんな快感を知ったら、普段の狩りに戻れないわ。気持ちよすぎるもの」

「それは良かった。しばらくはここでレベル上げだな。レベルが上がりにくくなるまではここで狩りを続けよう」

「目安は?」

「大体30位で。俺のレベルの上がり方を見て、その後も狩るかどうかは決めよう」

「後7レベル上げるまではここで狩りができるのね。最高じゃない」


 キラキラと目を輝かせながら、素材と化したアイアンゴーレムのインゴットを拾うエレノア。


 あのインゴット1つで銀貨2枚もするのだから、笑いが止まらない。


 この街は冒険者の街。冒険者が多く集まるということは、それだけ多くの武器や防具が売れるのだ。


 そして、武器や防具を作るには必ず鉄が必要となる。


 特に、魔力を内包した鉄である魔力鉄は、魔術が使えず魔力強化も使えない冒険者にとっては唯一の魔力攻撃手段だ。


 内包した魔力を自由に取り出して剣を強化できる為、銀級以上の戦士系冒険者は皆この魔力鉄を使った剣を持っていると言われているほど。


 俺は魔力強化が使えるから、特に必要性を感じなくて武器を変えてないけど。


 そんな魔力鉄は勿論需要が高い。


 ギルド職員の顔が引き攣るほど大量にインゴットを持ってきたとしても、銀貨2枚で必ず買い取ってくれた。


 俺もエレノアも、散財するようなタイプでは無いので金が溜まる溜まる。


 今では1日金貨3枚はコンスタントに稼ぐようになり、もうこれだけで食っていけるレベルである。


 昔は銀貨1枚でも稼いだ部類だったのに........アイアンゴーレム一体狩ったら2日分の収入になるんだもんな。


「あ、見つけたわ」

「冒険者は?」

「いないわよ。燃えろ」


 ガンガン溜まる金と急速に上がるレベルに快感を覚えてしまったエレノアは、アイアンゴーレムを見つけると周囲に冒険者が居ないことを確認してから魔術を放つ。


 万が一他の冒険者が戦っているところに魔術を放つと、揉める原因になるからな。


 1週間ぐらい前に、それが原因で喧嘩をしている冒険者パーティーをギルドで見たし。


 アイアンゴーレムの狩り方もかなり効率的になり、第三級魔術一発と第二級魔術を2発放つ事でロスなくアイアンゴーレムを倒せる事が分かった。


 個体差があるので、レベルの高いアイアンゴーレムが相手だと倒せない場合があるのだが、95%はこれだけ問題なく倒せる。


 エレノアが、アイアンゴーレムに向かって魔術を放ちながら効率のいいやり方を探す姿は、ちょっと気持ち悪かったとだけ言っておこう。


 ニヤニヤしながら“これはダメ、これはヨシ”と言っている姿は、正直引いた。


 これだから効率厨は........


 あっという間に燃え尽きたアイアンゴーレムの残骸を拾いつつ、エレノアは自分で作った地図を見る。


「モンスタートラップってどこにあるのかしらね?早く見つけたいわ」

「こればかりは根気強く探すしかないな。他の冒険者に聞いても“分からない”としか帰ってこなかったし、モンスタートラップを踏んで無事に帰って来れる冒険者の方が圧倒的に少ない」

「この街にいる最高ランクの冒険者は金級冒険者だったわね。彼らなら何か知ってるかもしれないわよ?」

「金級冒険者の連中は滅多に会えないからな。無理だと思うぞ。それと、知ってても言わなそう」

「むぅ、地道に探すのは面倒ね」


 金級冒険者ともなると、その数はグッと落ちる。この国が小国と言うのもあるが、このレルベンの街にも金級冒険者はたった4人しかいなかった。


 チラリと顔を見た事はあるが、話したことは無い。まれに見掛けるが、話すタイミングなどなかった。


 金級冒険者からは個室が使えるらしいから、直ぐに2階に行くんだよな。話したくても話せない。


 可愛らしく頬をふくらませるエレノアは、少し残念そうにしながらも気持ちを切り替えたのか前を向く。


「焦ってもしょうがないか。地道に地道に探していきましょう」

「そうだな。横着すると、大抵ロクな目に遭わない。俺たちは俺たちのペースで行けばいいさ」

「........そう言えば、第五階層はどんな感じなのかしら?」

「ダンジョンボスって呼ばれる魔物だけが存在するエリアらしいぞ。確か、中級上に分類されるオーガって魔物がその奥にあるダンジョンコアを守ってるんだとか」


 残念なことに、このダンジョンは第五階層までしかない。この国では1番規模の大きなダンジョンだが、世界には100階層を超える超巨大ダンジョンもあるのだとか。


 もう少し強くなったら行ってみたいな。レベル上げには最適な感じがするし。


「へぇ、私のレベルが30を超えたら挑もうかしらね?ちなみに、オーガに勝つとこのダンジョンはどうなるの?」

「特に何も無い。また暫くしたら、オーガが復活してくれるんだとか」

「........これはオーガ狩りの予感がするわ。アイアンゴーレムを一生ペチペチ殴ってたい。燃えろ」

「これは重症だな」


 いずれやってくるであろうオーガ狩りに顔を暗くするエレノアは、下を向きながらもアイアンゴーレムを見つけると躊躇無く魔術を叩き込む。


 コイツ、慣れすぎて、普通の会話をしながらでもアイアンゴーレムを狩れる様になってるぞ。


 俺はエレノアの適応力に驚きつつ、偶には俺にも譲れと言わんばかりに俺もアイアンゴーレムに魔術を撃ち込むのだった。


【魔力鉄】

 魔力を内包した鉄。加工すれば、自由自在に内包された魔力を引き出すことが出来、魔術の使えない戦士が重宝する魔法攻撃を手に入れることが出来る。

 が、内包魔力には限りがあるため使い切りであり、よっぽどの事がない限りは内包されている魔力を使うことは無い。

 強度は鉄よりも少し硬い程度。ミスリル>魔力鉄>鉄の順。


【オーガ】

 大きな牙と角を持った中級上の魔物。緑色の肌をしているが、ゴブリンやオークのは違い筋肉ムキムキの引き締まった肉体をしている。体長も3mと大きく、ありとあらゆる攻撃に対して耐性が高い。

 更に、魔力をコントロールすることができるため“身体強化”の使用も可能。物理と魔力を合わせた攻撃ができるため、かなり強い。

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