混沌たる帝


 人々が寝静まる時間となっても尚騒がしいレルベンの街。そんな街の中核たるダンジョンの第四階層にて、闇に紛れる者達は遂にその時を迎えた。


 ダンジョンの奥深くにあるとある洞窟。未だに発見されていないその場所で、黒いローブに身を包んだ三人組。


 彼らの顔は、緊張とこの先に起こるであろう未来に希望を持っている。


「遂にこの時が来たな。これが成功すれば、我々“混沌たる帝カオスエンペラー”が本格的に動き始める」

「それだけ重要な計画の1つなのに、何で人手が足りてないんですかねぇ。俺、二徹してるんですけど」

「フヒヒヒ、そう言うな。貴様の力量を見込んだ上での仕事なのだからな」


 眠たげなまなこをぶら下げ、欠伸を漏らす技術者の不満を狂信者が諭す。


 彼のように魔道具に精通した者は数少ない。さらに言えば、本来禁止されている魔道具の研究及び作成をしている者となれば、希少な人材である。


混沌たる帝カオスエンペラー”と自らを名乗る組織には何万と言う構成員がいるものの、技術者の様に魔道具を造れるものは1%にも満たなかった。


「研究出来ればそれでいいとは言ったけど、こんなに酷使させるとは思ってなかったぞ........」

「まぁ、しょうがないわな。俺達にはちんぷんかんぷんの話だし」

「少しは理解して手伝おうって気は無いのか?」

「素人知識で手伝って大事になった方が面倒だろ?これが最善だ」

「........」


 狂信者の横で干し肉をかじる戦士は、技術者の言葉に反論する。


 技術者も、一理あると思ってしまったので返す言葉がなかった。


「さて、夜も更けた。行きましょう同志諸君」

「はいはい。こんなクソ暗いダンジョンともやっとおさらばだ」

「ダンジョンを出た時にはきっといい光景が見られると思うぞ。なんせ、今からダンジョンスタンピードを人為的に起こすんだからな」


 殆どのダンジョンは、外の時間とリンクしている。


 外が昼ならダンジョンの中も昼であり、外が夜ならばダンジョンの中も夜だ。


 ダンジョン内の冒険者達が少なくなり、対応が遅れるであろう夜遅くに彼らは動き出す。


 三人は立ち上がると洞窟を出て、とある場所に向かった。


 第四階層のモンスタートラップがある場所。そこに辿り着いた彼らは、早速準備に取り掛かる。


 とは言っても、魔道具を作った技術者がその殆どを行い、残りの二名は護衛だったが。


「魔法陣の問題なし。魔石も問題無し。魔力も安定しているし、装置に問題は見られない........行こう。これでようやく休みが取れる」

「遂にこの時が来たな。小さな実験を繰り返していた時とはおさらばだ」

「フヒヒヒヒフハハッアッハッハ!!遂に、遂に我らの計画が動き出すのだ!!これに成功すれば、あのお方達も喜ぶぞ!!」


 これから起こる事に目を輝かせ、高らかに笑う狂信者。


 イカれた頭の持ち主の思考は理解し難いと技術者は思いつつも、自分も似たようなものかと思い直しダンジョントラップを発動させる為に1歩1歩踏み込んでゆく。


 そして、ダンジョントラップが発動する場所にまで来た。


 戦士が集めてきた情報通り、ここのダンジョントラップが発動したようで、数え切れないほどのアイアンゴーレムがどこからともなく姿を表す。


 普通の冒険者ならば取り乱していた事だろう。しかし彼らは冷静だった。


 ........どこぞのアイアンゴーレム狩りに快感を見出す変態共は嬉々として戦いそうだが。


「始めろ」

「さぁ、俺の自信作ちゃん。やっちまいな!!起動!!」


 地面に魔道具を突き刺し、魔力を流し込んだその時。


 アイアンゴーレム達の動きは止まった。


【ダンジョンスタンピード】

 ダンジョン内で起こる魔物達の暴走。ダンジョンの規模にもよるが、大抵の場合は数百から数千規模の魔物がダンジョンから地上に向かって這い出てくる。

 現状、ダンジョンスタンピードが起こる原因は分かっていない。


 その夜。第四階層は地獄と化していた。


 ダンジョン内を徘徊するアイアンゴーレムは、何かに操られたかのようにダンジョンの外を目指して進行を始め、その数を徐々に増やしている。


 アイアンゴーレムが数百体以上も集まり行進する姿は、絶望そのものと言えるだろう。


「フヒャッハッハッハッハ!!これが魔道具の力!!素晴らしい!!」

「すっげ。ダンジョンの魔物に介入して命令を書き換えるんだっけ?」

「簡単に言えば。ダンジョンが生み出した魔物も所詮は魔物だから、操る方法はあるんだよ........大体の国では禁止されてるけどね」


 技術者が作った魔道具の効果は、想像以上だった。


 アイアンゴーレムを人為的に操作し、ダンジョンスタンピードを引き起こす。


 ダンジョン内の魔物を操る研究は、あまりにも危険で失敗のリスクが高いため禁止させているが、彼らにそんな法律など関係ない。


 混沌をこの世界にもたらす為に結成された組織である“混沌たる帝カオスエンペラー”にとっては、寧ろこれが正義だった。


「素晴らしい!!素晴らしいぃぃぃぃ!!」

「おい、アイツの頭が狂ったぞ。何とかしてくれよ」

「俺に言うな。それと、元々あいつの頭は狂ってる」

「確かに」


 戦士はテンションが上がりすぎて叫びまくる狂信者から静かに距離を取りつつ、技術者を守れる様に周囲の警戒を続けた。


 この魔道具の使い方を知っいるのは技術者だけだ。彼が死ねば、何をどうしたらいいか分からなくなる。


 狂信者もその仕事があるはずなのだが、彼を見る限り頭から抜け落ちているように思えた。


「この魔道具は動かせるのか?」

「無理だ。発動中は」

「なら、外がどうなるのかを見れるのはもう暫く後だな」


 戦士がそういった矢先だった。


 僅かに見えるアイアンゴーレムの先頭の一体が、崩れ落ちたように見えた。


「──────────?気のせいか?」

「どうした?」

「いや、多分気のせいだ。何でもない」


 かなり開けた場所で見晴らしもいいが、アイアンゴーレムとの距離はかなり離れている。


 戦士は、まず自分を疑った。


 が、その考えは即座に覆される。


 最初の一体が倒れたのを皮切りに、次々とアイアンゴーレムが倒れ始め素材へと姿を変えていったのだ。


 さすがに、何十体とアイアンゴーレムが倒れ始めれば戦士も自分の目を疑うことは無い。


 彼は、万が一のために剣を構えながら技術者に声をかけた。


「気のせいじゃねぇ!!おい、どうなってる?!」

「俺に聞くな!!魔道具は正常に動いてる!!」

「アイアンゴーレムがなんの脈絡もなしに倒れてるぞ?!まさか、ダンジョントラップの魔物には何らかの制限があるのか?!」


 次々と倒れていくアイアンゴーレム。


 魔道具は起動中でその場を離れることが出来ない技術者と、それの護衛のためにいる戦士。


 狂信者もアイアンゴーレムが素材へと変わっていく様子を見て冷静になったのか、技術者の近くで周囲を警戒し始めた。


「な、何が起きているのです?!アイアンゴーレムが急に倒れ始めた........!!」

「見りゃわかる!!考えられる原因はなんだ?!」

「........多分、お前の言う通りダンジョントラップの魔物には何らかの制限があるのかもしれんな。まだそのほとんどが闇に包まれたダンジョンの事だ。可能性は十分に有り得る」

「そんな........では、我々の計画は失敗ということか........」

「残念ながらそうなるな。俺たちはダンジョンと言う存在を知らなすぎた。それが失敗の原因だ」


 三人は落ち込むが、実際は影に潜む狼たちが器用にアイアンゴーレムの魔石だけを噛み砕いているだけだ。


 しかし、かなり遠くで行われている事。夜のため視界が悪い事。闇狼達は闇に潜んでいるためその姿を見ることが出来ない事。


 これらの不運が重なって、彼らはその存在を認識することが出来なかった。


 ものの数分で素材へと姿を変えたアイアンゴーレムの残骸を見て、技術者はため息を着く。


「引き上げよう。ダンジョントラップの魔物には制限がある。これが分かっただけでも収穫だ」

「もう少し調べないのか?」

「........もう少しだけ調べる。仮説を立てるぐらいまではやろう」


 計画が失敗した事を悟った彼らは、その後実験している所を冒険者に見つかり捉えられてしまうのだが、それはもう少し先のお話。


 そして、この失敗は混沌たる帝カオスエンペラーの計画を大幅に狂わせることとなる。

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