第四階層


 第三階層のモンスタートラップを無事に乗りきった俺達は、少し休憩を取った後に第四階層へと向かった。


 第四階層からは地図が売られていない。冒険者ギルドで聞いた理由としては、冒険者の利益を確保するためと言っていた。


 まぁ、第四階層にはベテランと言われる銀級冒険者しか来ないし、穴場の狩場とかを持っているだろうから地図を販売されると商売上がったりなのだろう。


 新人冒険者のように、引き際を間違えるなんてこともないだろうしな。


 俺としては地図があってくれた方が楽なのだが、売らないと言われればその判断に従わざるを得ない。


 俺達は所詮ただの冒険者。ギルドの決定には逆らえないのだ。


「ようやくあのじめったい森から卒業ね。何も無いただの岩山に感動を覚える日が来るとは思わなかったわ」

「同感だ。岩山がここまで新鮮に見えるなんて、想像もしてなかった」


 第四階層へと降りてきた俺たちの視界に入るのは、一面岩肌の何も無い空間。


 森とは違い開放感に溢れたその岩山の数々は、森を見飽きた俺たちにとっては気分がいいものとなっている。


 この街に来てから見ていた景色が街と森だけだったからな。これはこれで新鮮だ........毎日通うようになれば嫌気も差してくるだろうが。


「ここにはどんな魔物が出てくるんだっけ?」

「アイアンゴーレムって言う魔物だけだ。種類は1つしかないが、聞いた話だと数が多いらしい。一体相手に手こずると、あっという間に囲まれてリンチされるんだとか」

「それは恐ろしいわね。アイアンゴーレムの強さにもよるけど、苦戦するようなら戦い方を考えなければならないわ」


 アイアンゴーレム。


 土魔術にもある“ゴーレム”の名を冠したその魔物は、全身が鉄でできた物理魔力共に優れた防御力を持つ。


 そもそもの素材が鉄であり同じ鉄を弾き返せるだけの硬度と、魔石から供給される魔力を纏うことによって得た魔力防御によって並の魔術は耐えられてしまう。


 ベテランである銀級冒険者ですら4~6人パーティーで挑み、場合によっては全滅してしまうらしい。


 流石は中級魔物。格が違う。


「どう倒すの?」

「基本は炎魔術のゴリ押しだ。この階層は魔術師がいないと詰みって言われるほど、魔術師の技量が試される場所なんだよ」

「へぇ。それは面白いわね。学院を主席で卒業した私の腕がなるってものじゃない」


 ニヤリと口を歪めるエレノア。


 ついさっきゴブリンメイジをボコボコに殴っていたから忘れていたが、エレノアの得意分野は魔術だ。


 この階層は、エレノアの魔術が光るかもな。


 俺はやる気に満ち溢れているエレノアの背中を軽く叩くと、彼女のやる気がさらに出るように声をかける。


「頼んだぞ。最強の魔術師さん」

「任せなさい。アイアンゴーレムだろうがなんだろうが、燃やし尽くしてやるわ」


 このやる気が空回らなければいいが、さて、どうなる事やら。


 俺はまだ見ぬ魔物に少しワクワクしながら、アイアンゴーレムを探し始めるのだった。


【アイアンゴーレム】

 物理、魔力防御力に優れた中級魔物。

“魔術師が居ないと詰み”と言われるほどその体は固く、剣で切り裂くとなればかなりの技量が必要とされる。

 弱点は魔石。甲冑の見た目をしているので、隙間に上手く剣を通して心臓部にある魔石を壊すと即死するが、その前に大体反撃されしまう。

 大きさは3m程で、一体倒せば村はしばらく鉄資源に困らないと言われている。


 アイアンゴーレムを探すこ5分。


 甲冑の格好をしたアイアンゴーレムを見つけた。


 その手に剣を持っている訳では無いので騎士とは表現出来ない上に、3メール近くもあるので人と見間違うことは無い。


「見つけたわね。あれでしょ?」

「そうだ。早速炎魔術で焼き殺すか?」

「もちろん。周囲に他の魔物の気配もないし、派手に行くわよ!!」


 ややテンションが高めのエレノアは、即座に魔術を行使して第二級炎魔術である“炎球ファイヤーボール”を放つ。


 一つだけではなく連続して何個も放たれた炎の球は、まるで雨のようにアイアンゴーレムに降り注いだ。


 アイアンゴーレムの体がぐらつき、目に見えて弱っているのがわかる。


 ........アレ?弱くね?


「あら?このぐらいは簡単に耐えると思ったのに、随分と拍子抜けね」


 エレノアも同じ事を思ったのか、首を傾げる。


 おかしいな。聞いた話ではかなり強いって言っていたのだが........


 エレノアは、首を傾げながらも魔術行使を止めない。


 アイアンゴーレムは、結局反撃することなく燃え尽きて素材へと姿を変えてしまった。


「........弱くぎないかしら?ジーク、その話を聞いた冒険者って新人だったかしら?」

「いや、ベテランの銀級冒険者だったな。酒を奢ったついでに話を聞いた」

「弱くない?」

「弱いな。あれなら、第三級炎魔術を2~3発当てるだけで勝てるぞ」


 第二級炎魔術だけで完封できてしまう相手に、手こずる要素なんであるのか?


 そりゃ、数が多ければ対処も難しくなるだろう。しかし、あの冒険者の言い方からして一体でもかなりの強さだと言っていたはずなのだが........


「銀級冒険者の魔術師、弱すぎ?」

「かもしれないわね。強い魔術師って大抵宮廷魔術師団を目指すって聞くし」


 宮廷魔術師団........あぁ、国お抱えの魔術師の事か。


 確かに、不安定で命懸けの冒険者よりも、宮廷魔術師団の方が給料もいいし危険も少ないだろう。


 エレノアやフローラのような魔術学院を主席で卒業して、冒険者をやっている人の方が圧倒的に少ないしな。


「ちょっと次は俺にやらせてくれ。もしかしたら、エレノアの魔術が強すぎただけかもしれん」

「いいわよ。と言っても、ジークの炎魔術でも十分倒せると思うけどね」


 とりあえず素材を回収(魔力を内包した鉄インゴットと魔石)し、次なる獲物を探す。


 数が多いと言われてるだけあって、次の獲物はあっという間に見つかった。


「よし、んじゃやるぞ」

「ファイトよジーク」


 エレノアからの声援を受け取りつつ、俺もエレノアと同じ第二級炎魔術“炎球ファイヤーボール”を同時更新してる攻撃を仕掛ける。


 何十個もの炎の玉が一斉にアイアンゴーレムへと降り注ぎ、爆発を起こしてアイアンゴーレムは燃え尽きてしまった。


「........」

「........」


 素材となったアイアンゴーレムを見つめる俺達。


 やっぱり弱くね?大した魔力も消費せずに、一方的に倒せんなんて思ってなかったんだが。


「これなら、オークの方が強いかもしれないわね。お肉取れるし」

「だな。だが、考えてみろ。中級魔物だから、きっと経験値はかなりいいぞ。そして、狩りやすい。囲まれたとしても、炎竜巻ファイヤーサイクロンを放てば一発で片付く」

「あら?もしかして、レベル上げには持ってこいの相手........?」

「そういう事だ。魔力鉄もかなりの金額になるし、これは片っ端からアイアンゴーレムを殺し回った方がいいかもしれん」

「何それ最高じゃない。はやくアイアンゴーレムのモンスタートラップを見つけないといけないわ」

「だな。空を飛ぶわけでもなければ、魔術を打ってくるわけでもない。ここは最高の狩場オアシスだ。俺たちにとっては、鴨が葱を背負って来るのと大差ないぞ」

「カモ........?よく分かんないけど、最高の狩場ってことね」


 アイアンゴーレムがあまりに弱すぎたことと、経験値がたんまり貰える(おそらく)ことにより、この第四階層でアイアンゴーレムを狩りまくる事が決定した。


 さらに嬉しいことに、闇狼でもアイアンゴーレムを狩れる事が分かった。


 甲冑の中って影だから、狼たちが入り込めるんだよね。そして、中の魔石を砕けばあら不思議、アイアンゴーレムの素材が出来上がりという訳だ。


 これは楽しくなってきたぞ。


 効率のいい雑魚狩りができると分かった俺とエレノアは、その日アイアンゴーレムを狩れるだけ狩りまくるのだった。

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