魔術の改良は常に考えよう
冒険者の街に来てから1週間後、俺達は順調にダンジョンでのレベル上げに勤しんでいた。
モンスタートラップのルールも大体分かるようになり、今では1日3回は最低でもトラップをわざと発動させては魔物の大軍と戦っている。
モンスタートラップが回復する時間はおよそ2時間。
魔物を殲滅し終えたら3階層に行って少し強い魔物と戦い、2時間後にまた戻ってくると言うのが今のサイクルである。
そんなイカれた狩の仕方をしていたためか、エレノアのレベルは目標にしていた15にまで上がり、俺も23までレベルが上がっていた。
ダンジョン様々である。
そんな激闘に燃える日々を過ごす俺たちではあるが、週に一回はダンジョンに潜らない日を作ることとなった。
今日は自由日。俺は魔術の改良のために実験場となるダンジョンに向かう。
「........で、なんでエレノアも着いてきてるんだ?」
「ダメかしら?」
「いや、ダメとは言ってないけど、今日はダンジョンに潜ってもトラップを踏んだりはしないぞ」
「分かってるわよ。魔術の改良をするのでしょ?なら、魔術に詳しい私がいた方がいいじゃない。ジークが知らない魔術も教えてあげるわ」
エレノアはそう言うと、屋台で買った串焼きを口の中に放り込む。
宿で朝食を食べたというのに、よく串焼きを食えるな。しかもそれ5本目だろ。
俺は“太るぞ”と言ってやりたがったが、仮にも女性に体型の話をするほど愚かでもないので何も言わない。
人の地雷源で踊り狂うほど俺は自殺志願者では無いのだ。
「それに、か弱い女の子が街中で一人で居たら襲われちゃうわ。この街はあまり治安が良くないみたいだしね」
「........か弱い女の子?嬉々として魔物を殺戮する奴が?」
「あらジーク、顔に虫が付いてるわよ?」
エレノアはそう言うと、にっこりと笑ってトンファーを構える。
やべ、急いで訂正しないと思いっきり殴られる。
俺は、若干顔を青くしながらさりげなくエレノアと距離を取りつつフォローを入れた。
「うんうんうん。エレノアはか弱い女の子だね。森の中で号泣するもんね」
「........それはそれで喧嘩売ってるでしょ。本気で殴るわよ」
「んな理不尽な」
ちゃんと少女らしい事をしていたとフォローしたじゃないか。
解せぬ。俺はそう思いながら、結局軽く頭を叩かれるのだった。
年頃の女の子とは難しい生き物だな。
「全く。相変わらずその口は喧嘩を打ってくるわね。私に殴られるのが趣味なのかしら?」
「人を変態呼ばわりするな。思ったことを言ってるだけだよ」
「なお悪いわ。ジークはもう少し乙女心を学ぶべきね。それはそうとして、なんの魔術を改良するの?」
「“
今の闇狼では精々中級魔物が限界であり、それ以上の魔物となると大抵何らかの対策手段を持っている........らしい。
実際に出会ったことがないので分からないが、魔力を纏った攻撃などをしてくるらしいので耐久力が乏しくその特性で誤魔化している狼には厳しいだろう。
となると、やはり闇人形の改良が鍵となってくる。
この街に着く前にも色々と思いついては人気のないところで実験を繰り返していたが、失敗続きだった。
「へぇ、その内騎士団とか作りそうね。剣や槍を持った重装歩兵が、魔物を蹂躙してそうだわ」
「いいなそれ。真っ黒な騎士団。ちょっとロマンがある」
重厚な盾を持った歩兵や、騎士の格好をした闇人形達。
個々がかなりの戦力を持ち、それでいながら高度な連携が取れればもはや一人軍隊だ。
いいなぁ、かっこいいな。今までは効率を求めていたが、余裕が出来たらそういうロマンを求めてもいいかもしれない。
「ふふっ、そんな顔しちゃって。ジークも子供ね」
まだ見ぬ理想の魔術を思い浮かべてワクワクとした表情を浮かべる俺を見て、エレノアは優しく微笑む。
小さく呟かれたその声が、俺の耳に入ってくることは無かった。
【レッサースネーク】
体長2~3メールの蛇。大きさはそこそこあるものの、噛み付く、締め付ける以外の攻撃手段を持たない。
上位種になれば毒性を持ったり、眷属を増やせたりもするが大抵進化する前に狩られてしまう。
休みの日と決めたはずなのに、何故かダンジョンにやってきている俺とエレノアは人が居ない場所で魔術の改良実験を行っていた。
エレノアはその知識を使って俺の魔法陣の悪い所を指摘し、俺は考えついていた案を出しては実験を繰り返す。
二回ほど近くの木をへし折ってしまったが、それ以外は順調に実験は進んでいた。
........成功しているかどうかはともかく。
「またダメか。物理的攻撃力を持たせるのには成功しても、魔術を使わせるのは難しいな。これが出来たら一気に戦略の幅が広がるだろうに」
「そもそも、魔術から魔術を発動させるなんて意味が無いものよ。普通に魔術を使えばいい話だもの。やっぱり弓でも持たせたら?」
「弓だと矢っていう制限があるだろ?そこら辺を無くしたいんだよ。矢を回収させるにしても、命令が面倒だし」
長らく研究してきた闇人形に物理的攻撃力を持たせることは、既に成功している。
2ヶ月ぐらい前かな?闇狼と闇人形の違いを色々と調べて実験を繰り返していたら、成功したのだ。
原因はやはり人型を構成する魔法陣。これに物理干渉を阻害する魔法陣が隠れていた。
これに関しては、正直仕方がないと思っている。元々偵察に使うだけの魔術であるから、必要のない部分を削ぎ落とす必要があるのだ。
これのおかげて、魔力の消費を抑えれる。日光に当たると消える仕様は未だに必要ないと思っているが。
そして、今行っているのが“闇人形に魔術を打たせる”実験。
物理的攻撃力を手に入れたんだから、次は魔力攻撃を手に入れようというわけである。
これが出来れば、最早冒険者パーティーと何ら変わりない。
前衛と後衛の役割を持てれば、それだけで戦略の幅が広がる。
エレノアの言う通り弓を使っても良かったのだが、俺としては魔術の方が使い勝手が良いと判断した。
その結果がコレなのだが。
エレノアは、俺が意地でも弓を使う気は無いなと察したのだろう。他の案を出てきた。
「先に闇人形達武器や防具を強化したら?
「
「そうね。
そう言って胸を張るエレノアだが、俺は知っている。
エレノアの魔術講座はとにかく長いのだ。
探知の魔術を教えてもらう際も、関係の無い話をペラペラと話して時間が潰れたし、ほかの魔術を教えてもらった時も長ったらしい話を聞かされた。
タチが悪いのは、その中に役立ちそうな知識があるということである。
聞く価値がない訳では無いが、今教えて貰ってる魔術とは全く関係ないよね。
エレノアは教師に向い無いなとその時思ったものだ。
それだけ魔術が好きなのだろう。効率効率と言っている割には、非効率な魔術なんかも多く覚えているし。
俺は苦笑いを浮かべると、ダンジョンの外に向かって歩き始める。
「........あー、お手柔らかにね?とりあえず、宿に帰ってから聞こうかな」
「大丈夫よ。今から話しながらでも」
「警戒怠らべからず。油断大敵さ」
結局、その日はエレノアの魔術講座を永遠に聞くこととなった。
まぁ、タメになる話が多かったし、色々と思いついたからメモだけして来週実験するとしよう。
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