地元冒険者ギルドの風物詩
魔術の改変が上手く行き、放置狩りの効率がかなり上がったことを喜んでは親にこってりと叱られてから二週間後。
俺は今日の冒険者稼業はお休みにしてゼパードのおっさん達に連れられ、冒険者ギルドの酒場で早めの昼食を取っていた。
放置狩りによって狩った魔物の素材回収も、とりあえず適当に見つけた洞窟に
毎度怪しまれない程度の魔物の素材を持ち出しては換金しているお陰で、日に銀貨1枚以上をコンスタントに稼げるようになった。
まだ良い案が浮かばないが、こう言う閃はふとした瞬間に浮かぶものである。
その時が来ればきっと良い案が浮かぶさ。
魔術改変により生まれた
闇人形を使っていた時は120程度しか出せなかった兵隊達が、なんと200近くにまで跳ね上がったのだ。
これでいながら維持する魔力も大して要らないのだから、大したものである。
最初こそ覚えるのは大変だが、1度覚えてしまえばかなり便利な魔術だな。
お陰で狩りのスピードも目に見えて速くなり、この2週間でまたレベルがひとつ上がっていた。
コレでレベル11。銀級冒険者としてやって行けるだけの力は十分にあるだろう。
「んで、なんで態々ココに呼んだんだ?タダ飯を食わせてくれるってだけじゃないんだろ?」
「おうよ!!今日はこの街の風物詩が見られるから呼んだのさ」
「風物詩?」
この街に長く住んでいるが、この季節に何かと祭りがあったという事は記憶していない。
俺が首を傾げていると、昼前から酒を飲んでいるフローラが補足を入れる。
「正確には冒険者ギルドの風物詩だねぇ。懐かしいなぁ、私も7年前ぐらいにやったよ」
「フローラ、貴方飲みすぎよ」
既に酔っ払っているフローラは、隣に座るラステルの身体をベタベタ触っていた。
フローラは酔うと人に絡むタイプか。今は同性のラステル相手だから問題ないが(ラステルは嫌そうにしてるが)、異性相手にそんな事した日にはそのまま持ち帰られそうである。
フローラ、明るい性格な上にかなりの美人だからモテるんだろうな。問題は怒らせると魔術を撃ってくる事ぐらいか。
1度他の冒険者と揉めている姿を見たことがあったが、その時のフローラはマジで怖かった。
背中から般若の像が見えたもん。目の瞳孔は開ききっており、声はドスが効いて全くの別人だったのをよく覚えてる。そして、死角を付いて魔術を叩き込んでいた。
あの日以来、俺はフローラを怒らせるのはやめようと心に誓ったね。
好き好んで自ら虎の尾を踏みに行く必要は無いのである。
「冒険者ギルドの風物詩か。一体なんなんだ?」
「見りゃ分かるさ。俺達はともかく、お前は参加するかもしれんぞ」
「は?何を言って──────────」
俺がそこまで言いかけたその時、冒険者ギルドの扉が勢いよく開かれる。
やってきたのは4人........いや、1人本気で気配を消している上に人々の死角に入って上手く隠れてる奴がいるな。全員で5人か。
全員が魔術師の格好をしており、体を覆うローブと杖、そして帽子を付けていた。
この見た目で集団となれば、大体誰かは予想が着く。恐らく、この街の魔術学院の生徒だ。
ギルド内に居るほとんどが五人に注目する中、俺はのんびりと昼食を食べるグルナラに質問を投げかける。
「これが風物詩か?」
「そうだよ。今日は魔術学院の卒業式。そして、魔術学院に残らず冒険者になろうって言う変わり者達が登録をしに来る日さ。彼らは即戦力の魔術師だからな。冒険者登録が終わったその瞬間に、自分達のパーティーに入ってくれと人が群がるのさ」
「へぇ、それが毎年続けば確かに風物詩になりそうだな」
「鉄級から銅級のパーティーがこぞって勧誘する姿は圧巻だよ。ジーク、お前も参加しなくていいのか?」
「いいよ俺は。魔術師は俺一人で事足りるし」
「ハッハッハ!!そりゃそうか。学院を首席で卒業したフローラですら驚く魔術を使えるんだから、必要ないわな!!」
グルナラは豪快に笑うと、俺の背中をバシバシ叩く。
痛い痛い。レベルが上がったとは言え、耐久力は人間と変わらないんだぞ。もっと丁重に扱え。
「ジーク君はこのままソロを続けるんですか?あのレベルの実力なら、銀級冒険者のパーティーでもやっていけそうですけど」
「俺はいずれ世界を旅するつもりだからな。それについて来れる人じゃなきゃ無理だよ。それと、最低限自分の身を守れる人じゃないと」
「それは........難易度が高そうですね。旅をするとなると、危険度が信じられないぐらい跳ね上がりますし」
「一応言っておくが、一人旅も危ねぇからな?」
「分かってるよ。もう少し強くなってからこの街を出るさ」
俺はそう言うと、ギルド内がワッと沸き上がる。
どうやら、魔術学院の卒業生達が冒険者登録を済ませた様だ。
それと同時に一気に人がなだれ込み、早朝の普通依頼争奪戦のようなむさ苦しい押し合いが始まる。
あの中に入りたくないし、巻き込まれたくもないな。
卒業生達、ビビって逃げるんじゃないのか?
「おうおう、相変わらずスゲェ人だ。ジーク坊ちゃんも行かなくていいのか?」
「さっきその話はグルナラ達と終わらせたよ。下手な魔術師より、俺の方が強い」
「アハハハハ!!それはそうだな!!だが、パーティーを組むと言う点ではいいんじゃないのか?ずっとソロって訳にも行かんだろ」
「別に俺はソロのままでもいいぞ?ゼパードのおっさん達みたいにみんな仲良く出来ればいいが、そうもいかないのが人間だからな。人間性も知らんのにパーティーを組むのはちょっと」
「ジーク、お前歳いくつだよ........」
12(前世46)歳ですね。なんなら君たちより人生経験は豊富だからね。
こっちの世界に来てから随分と年相応の態度や考え方になったとは思うが、前世で学んだことを生かさない訳では無い。
少なくとも、人となりを知らずにパーティーを組むのは勘弁願いたいのである。
気が合えばいいが、致命的に気が合わない相手の場合は面倒事しか待っていない。少なくとも、あそこで目立ちたがり屋の男魔術師とはパーティーを組めそうにないな。
........ん?そういえば、気配を全力で殺していた奴が居ないぞ。揉みくちゃになっているから見落としているだけかもしれないが、魔術帽が見えない。
ギィ、と扉が開く音が聞こえ、そちらに目を向けると、その人物は冒険者ギルドから出ていこうとする寸前だった。
あの人混みの中、しかも目立つ格好でいるにも関わらず誰の目にも止まってない。
俺は少しその人物に興味を持った。
俺は席を立ち、慌てて後を追う。もちろん、奢ってもらったお礼は言ってから。
「........ご馳走さん。また奢ってくれ」
「お、ジーク坊ちゃん、もう行くのか?」
「ちょっと用事を思い出してな。また今度飲もう。酒は飲めんが」
「ハッハッハ!!酒が飲める歳になる頃には、ジーク坊ちゃんはこの街を離れてるだろ?」
「それはそうだな」
俺はゼパードのおっさん達に別れを告げると、その魔術師の後を追うのだった。
【エドナス冒険者ギルドの風物詩】
毎年、魔術学院の卒業生の何人かが冒険者になりに来る。魔術師の数は少なくは無いが、即戦力として戦える魔術師は貴重な為熱烈な勧誘(おもに鉄級、銅級冒険者パーティー)が掛かる。場合によっては銀級冒険者パーティーからも声がかかることもあり、ある意味冒険者のエリート街道だろう。
フローラもそんな熱烈な勧誘を受けた1人ではあるが、最初はゼパード達のパーティーでは無かった。
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