放置ゲーの醍醐味はレベル上げだけじゃない
冒険者となってから1ヶ月が経過した。
冒険者ギルドに残った余り物の依頼もほとんど終わらせ、依頼主達との交流もそれなりに深めた俺は再び冒険者らしい生活をしている。
街を出ては森に向い、常設依頼に出されている魔物を狩ったり薬草を採取したりとしていたのだが、俺はあることに気づいた。
レベルも金も稼ぐなら放置ゲーした方が圧倒的に効率よくね?
そうだよ!!放置ゲーの醍醐味は放置した後に入ってくる沢山の経験値と
レベルを上げることだけに着目しすぎて忘れていたが、放置ゲーは戦った敵のドロップ品も回収されるのだ。
そして、そのドロップ品を使って強くなるのが定番である。
懐かしいなぁ、人権レベルの装備が確率ドロップなくせに超激渋で、経験値効率がどれだけ悪くなろうともそこで放置ゲーしたのが。
結局その装備がドロップした時には既に上位互換アイテムが課金で買えるようになっていて、ブチ切れていたのも覚えている。
マジで許さんからな。返せよ俺の2ヶ月。
唯一の救いは、課金装備とドロップ装備が併用して使えたことだが、それで人の怒りが収まるなら警察はいらねぇんだよ。賠償しろ糞運営。
昔のトラウマを思い出して思わずイラついてしまったが、ともかく放置ゲーには経験値とドロップ品が不可欠。
と言うわけで、今からながら俺はドロップ品を現実世界でどうやって回収するのかという手段を考えていた。
........森の中の木の上で。
家で考えてもいいのだが、毎日のように冒険者稼業に勤しんでいる息子が急に部屋に籠ったら怪しまれる。それに、実験は人目の付かない場所でやりたいので必然的に普段狩りとして使っているこの場所が最適となる。
護衛に闇人形を何体か影に潜ませ、木の上で悩むその姿はとてもでは無いが冒険者には見えないだろう。
誰かに見られたら(ゼパードのおっさんとか)恥ずかしさのあまり死んでしまいそうだ。
「使える魔術としては
術者の意思次第で闇の中から沈めた物体を回収する事もできるが、問題は移動が出来ない点である。
1度発動させてしまえば維持は難しくないものの、この闇沼を移動させる事は出来ない。
しかも、影が無くなれば闇の中に入っていた物体は地上に出てしまうので倉庫として使うにも不便さが残るのだ。
移動と半永続的な倉庫としての役割、この二つの課題をクリアしなければ俺の目指す放置ゲーは完成しない。
「どうしたもんかなぁ........どこか洞窟を見つけてそこに溜め込むか?んで、毎日回収する?繋ぎの案としてはいいけど、結局解決してないし場所が変わったらまた最初からになるな」
一先ず、何か案が浮かぶまではコレで凌ぐとしよう。俺は、“やる事リスト”を取り出すと他の人がみても分からないように日本語で“ドロップ品の回収方法”とだけ書いて、闇人形達にここらの近場に洞窟が無いか探させるのだった。
もちろん、途中で見つけた魔物は殺すように命じて。
「さて、俺は少し実験するかな。最近は仕事ばかりで実験できなかったし」
俺はそう言うと木から飛び降りて、周囲の安全を確保するために闇人形達に監視をさせる。
これは魔物に対処する事を想定しているのは勿論、人が来た時に即座に実験を中断できるようにする為だ。
今からやるのは闇人形の改良実験。今回は、人型では無く狼の姿をした闇人形を生み出そうという実験である。
人型から狼型に変われば効率が上がるのか?と言う疑問はあるだろうが、正直やってみない事には分からない。
「えーと、ここの部分が人型を形成する魔法陣で、これを第三級炎魔術の奴と組み替えるからこうなって........コレを形成すれば多分行ける........はず」
ぶつけ本番で魔法陣を魔力で描くと酷い目に遭うのは既に何度も経験しているので、1度描くべき魔法陣を地面に描いてからそれを見て慎重に魔法陣を組み立てるようにしている。
それでも慣れていない魔法陣を行使すると失敗することがあるのだから、俺は感覚でできる天才では無いのだろう。
地面に魔法陣を書き終えた俺は、熟練に達している魔力操作を行いながらゆっくりと魔法陣を描いていく。
完全にオリジナル(少なくとも俺が知る中では)の魔術なので詠唱の補助は無しで魔法陣を描きあげると、魔力を消費して魔法陣に書かれた術式が行使させる。
「よし、ここまではOK、問題はどう言う効果が出るかだな」
毎度、この時ばかりは信じもしない神に祈りを捧げたくなる。主に、俺に害のある魔術になりませんようにと。
この祈りが届いたのか(祈ってすらないが)、今回は俺に害が及ばないようだ。
魔法陣からから現れたのは、漆黒の闇に包まれた体長1メートル程の大きめな狼。
毛並みまで再現された狼は、静かに俺の横に並び立つと命令を待っているかのようにお座りをして待機した。
「これは........成功したのか?」
今までが失敗続きだったせいで、これが成功しているのかどうか分からない俺は少し困りながらも真っ黒なオオカミに指示を出してみる。
「クルッと回って」
「........(クルッ)」
「お、命令を聞いた。これ、もしかして成功なのでは?」
まて、喜ぶのはまだ早い。先ずは、餅ついて(落ち着いて)のんびりお茶を飲もう。
いや違う。先ずはもっと複雑な命令も聞けるかどうか確認を........いやその前に闇人形との違いを確認するべきか?
久々に実験が成功した嬉しさで、頭の中がこんがらがる俺。
落ち着くんだ。ゆっくり深呼吸しよう。
「すーふぅー、すーふぅー........よし、落ち着いた」
先ずは命令をどこまで理解するか確認しよう。それと、攻撃手段を持っているかどうかだな。
闇人形は物理的干渉力を持たない。これにより、態々闇剣なんて面倒な物を持たせているのだが、これが不必要となれば闇剣に割いていた魔力が自由に使えるようになる。
この狼........仮に名前を
この
「あの木に攻撃しろ。先ずは、噛みつきからだ」
「.......」
闇狼は無言のまま俺が指さした木に近づくと、牙を向いて噛み付く。
闇人形ならば木には干渉できずすり抜けるだけとなるが.......
バキィ!!
なんとこの狼は木を噛み砕いたのだ。
「まじかよ」
思わず声が漏れる。
ただ人型の部分を狼に変えただけのはずなのだが、どこかに物理的干渉を伸び出す魔術が組み込まれていたか?それとも、人型の部分の魔法陣に物理的干渉を妨げる何かがあったのか。
どちらが正しいのかは知らないが、今回はラッキーの方を引いたのは大きい。これで、放置狩りのスピードが少しは早くなるだろう。
「少しづつだが、良くなってきてるな」
俺はそう呟くと、この狼のことをもっとよく知るために色々と実験をするのだった。
尚、帰る時間が遅くなりすぎて両親にこれでもかと言う程叱られるのだが、それはまた別のお話。
【魔道具】
魔法陣を刻み込んだ魔石と魔力によって動く道具。刻まれた魔法陣によって様々な効果を及ぼし、戦争に使われる兵器から人々の生活に役立つ物まで。中には何に使うんだよという物もあるが、意外とそういう物は人気が高かったりする。
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