好感度上げ
初めて冒険者としての仕事を終えてから2週間後、俺は順調に冒険者稼業を続けていた。
初めて自分で稼いだ金の殆どは両親への贈り物で吹っ飛んでしまったが、その後は順調に貯金を続け、今後ダンジョンのある都市に向けて行く為の資金源としている。
初日に稼いだ額は銅貨83枚。安めの宿に泊まっていれば3~4日泊まれる程のお金を稼いだが、これを安定させるとなると結構難しい。
最初は運良く大きめのゴブリンの群れに当たったが、毎度毎度そんなに都合よく行かないのが現実。調子のいい日は銀貨1枚程稼げるにもあるが、悪い日は銅貨50枚程だった時もあった。
まぁ、俺の場合は宿代も飯代も掛からないので稼いだ分がそのまま貯金されるが、この街を出たらそうも行かないんだろうな。
家に金を入れようとしたら“今後の為に貯金しておけ”と言ってくれた親には感謝しかない。
親父とお袋には、初めて依頼を成功させて金を稼いだその日の内に買ったアクセサリーをプレゼントした。
親父には安物のネックレスを。お袋には、安物の髪留めを。
大体一つ銅貨40枚程の安物ではあったが、両親はたいそう気に入ったみたいで、次の日からそのアクセサリーを付けて店を営んでいる。
それはいいのだが、来る客来る客にそのアクセサリーを自慢しないで欲しい。
一緒にアクセサリー選びを手伝ったくれたゼパードのおっさんたちはともかく、よく店に来る常連客にまで生暖かい目で見られるのは流石に恥ずかしい。
しかし、自分の子から持ってこられたプレゼントに喜ぶ両親に“やめてくれ”とは言えないので俺は大人しくからかいを受け入れるしか無かった。
「よし、こんなもんか。どうだい?おばちゃん」
「いやぁ、助かるよ。最近は腰が悪くてねぇ。こう言う草取りをするだけでも腰に来るのさ」
「それは大変だね。俺も歳を食ったらそうなるのかな?」
「ハハハ!!なってみれば分かるよ。そうだねぇ、後30年後には私の言ってることが分かるはずさ」
今回の依頼主であるおばちゃんは、笑いながらそう言うと俺の背中をバシバシと叩く。
最初の四日程は街の外に出て常設依頼をこなしていた俺だが、ここ最近は余っている依頼を片っ端から受けてはこうして街の人々と交流を深めている。
人間社会で生きていくためには人との繋がりが欠かせない。それに、自分への評判が良くなれば、万が一何かあったとしても味方になってくれる可能性も高かった。民意は時として権力すらも動かすのは、前世で何度も見た光景である。
今日の仕事は草取りだ。広大な庭を持つおばちゃんの家は雑草がよく生えてくるらしい。そして、それをおばちゃん1人で草取りしているらしいのだが、今年から体にガタがきはじめて難しくなったそうだ。
冒険者ギルドに依頼を出したものの、半日近くかかる仕事でありながら報酬が銅貨25枚は割に合わない........らしい。
命のかからない依頼で銅貨25枚はそれなりの報酬だと思うのだが、冒険者基準だと割には合わないそうだ。
だがしかし、様々な魔術を使える俺にとって、この依頼は破格である。
僅か1時間足らずで、自由に伸びていた雑草達は根こそぎ取り払われ、それなりに綺麗な庭へと姿を変えていた。
いい魔術練習になったな。正確なポイントに必要量の魔力を送り込んで効率よく草を刈る。
日常生活こそ最高の修行場なんて言われている漫画もあったりするが、まさしくその通りだ。
おかげで、細かい魔力操作と適切な魔術選択が更に向上した(と思う)。
「それにしても、魔術は便利だねぇ。私も使えたらもっと楽に草取り出来ただろうに」
「おばちゃんは才能が無かったの?」
「少なくとも、聞きかじりでやってみたけど無理だったよ。それに、魔術を完璧に扱うにはレベルが高くなければダメだって話じゃないか。レベル1の私には到底無理な話だね」
俺、レベル1の時から第四級魔術が使えたんですがね。
俺はそう思いつつも、口には出さない。
冒険者達と話して分かったが、レベル1の時点で使える魔術は精々第二級魔術まで。第三級魔術をレベル1の時点で使える人材は、それこそ魔術学院の首席レベルでないと無理らしい。
もしかして、俺って凄い?
どこぞの“俺、何かやっちゃいました?”系主人公のような悪目立ちはしたくないので、第四級魔術が使える事は基本秘密にしようと思っている。
この世界の常識はだいたい分かってきてはいるが、冒険者としての常識はまだまだだな。
フローラが言ってくれなければ、調子に乗って口を滑らせていたかもしれない。
「それは残念だけど、魔力操作がかなり出来るようになれば“身体強化”って言う魔術みたいなのは使えるようになるよ」
「それが使えたら何か変わるのかい?」
「大体レベル0.5分ぐらい身体能力が上がるらしいね。達人にもなれば、5レベル差をひっくり返せるんだとか」
「ほー、そりゃ凄いね。でも、年寄りには難しい話かな。そんな気力なんて残ってないさ。あ、これ依頼完了書ね。予定よりも随分と早く終わらせてくれた上に、想定よりも綺麗にしてくれたんだからちょいと色をつけておいたよ」
おばちゃんはそう言うと、依頼完了書と呼ばれる紙を手渡してくる。
これをギルドに持っていけば依頼完了だ。この依頼完了書には、冒険者への評価が書かれており、中には契約以上の報酬をくれる場合もある。
このおばちゃんは見るからに金には困って無さそうだし、ここは有難く受け取っておこう。
「ありがとおばちゃん。また依頼が張り出されてたら受けるよ。この街にいる間はね」
「それは助かるねぇ。でも、自分の事を優先しなよ。老い先短いババァより、若者の明るい未来の方が大事さね」
「おばちゃんはまだまだ若いよ。もう40年は生きるさ」
「ハッハッハ!!お世辞が上手いね!!」
俺はおばちゃんと別れると、冒険者ギルドへ向かう。
まだ昼前の明るい時間であり、ギルドが1番混まない時間帯だ。
俺は最近担当になりつつある紫髪の受付嬢、エレーナに依頼書を渡した。
「また人気のない依頼を持っていったんだ。物好きだね。昨日はドブ掃除と城壁の建築じゃなかった?」
「そうだな。1日働いて銅貨58枚だ」
「しかも、最高評価を取ってそれだからね。ジーク君みたいに仕事ができるなら別だけど、普通の冒険者なら銅貨10枚ぐらいは低いかな」
「そりゃ、みんな受けない訳だ。常設依頼をやった方が稼げるもん」
「だから物好きって言ってるんでしょ?私としては安全な依頼を受けてくれて安心できるけどね」
話しながらさっさと依頼書を処理するエレーナは、依頼完了書を見て“また最高評価........”と呟きながら報酬を渡してくれる。
硬貨を入れる専用の入れ物から出された銅貨は全部で30枚。あのおばちゃんは、銅貨五枚の色をつけてくれたみたいだ。
「ありがと。なんかいい感じの依頼ってある?」
「ないわよ。そんなのあったら皆が競い合って持ってくわ。あそこに貼られている中で1番割がいいのは常設依頼よ」
「そっか。まだ昼前だし、もう1つぐらい適当なの持ってくるか」
俺はそう言うと、また人気のなさそうな残っている依頼を適当に受けるのだった。
ちなみに、評価は最高評価を貰い依頼先の魔道具屋の店主からはとても感謝され、昼飯をご馳走になった。やっぱり、丁寧さはどこでも必要だな。
【オスカ】
ジークの転生した世界。様々な種族が存在し、共存している。
ジークの住む大陸は五大陸のひとつであり、人種が多く住む大陸。その他四つには他の種族が独自の文化を持って生きている。
この星は、地球と時間の流れや季節などはほとんど一緒。1週間は6日であり、1ヶ月は30日。1年は360日となっている。
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