初日の成果


 その後も森の中を歩き続け、それなりの収穫を得て初日の仕事を終えた。


 まだ日が落ち始めたぐらいの時間帯だが、初日だし今日は切り上げてもいいだろう。


 成果はゴブリン18体とスライム3体、そして薬草が色々だ。最初は魔物も探していたのだが、圧倒的に効率が悪いので薬草採取に切り替えた形となる。


 誕生日に貰ったバックパックがパンパンになるまで採取したので、それなりの金額は行くだろう。


 個人的には銅貨五十枚分らいあると予想しているが、どうなんだろうか。


「スゲェなジーク。薬草のこともちゃんと分かってたし、魔物相手に一切脅えることなく的確に殺す。デッセンが護衛依頼をしてきたからてっきりダメダメだと思ってたぜ」

「そうだね。ゴブリン12体と戦う時なんかは正直ボコボコにされると思ってたよ。ジーク、失礼を承知で聞くがレベルは幾つなんだい?」


 冒険者にとって、自身のレベルと言うのは生死を分ける程の重要なものである。


 そんな重要な情報と言うのは、はっきり言って自殺行為だ。


 よほど親しく信頼出来る相手でないと教えてはならないと、両親にも教わっている。


 前の世界風に言うなら、自分の住所や口座番号をネットの海に公開してるのと同じという訳だ。前の世界の方が圧倒的に悪用されるので少し意味あいが違うかもしれないが、こういう事だぞと思っておくのがいいだろう。


 もちろん、この質問に答えるわけが無い。


 親しい相手ではあるが、教えるほど親しくは無いのだ。


 俺は人差し指を口元に当てると、ニッと笑う。


「内緒。でも、ゼパード達よりは低いと思うよ」

「そりゃ当たり前だ。俺達より高かったらビックリだよ」

「ねぇねぇ、ジークちゃん。魔術は全部独学?」

「んー、母さんに教えてもらったから、全てが独学ってわけじゃないけど大体は独学だね」

「凄っ、私なんて師匠に泣かされながら魔術を覚えたのに........」


 フローラはそう言うとガックシと肩を落とす。


 俺は幼い頃から魔術に触れてきたし、何より先入観が無い。この世界の常識は、前の世界の非常識。


 何から何まで新鮮だったあの頃は、全て自分なりの解釈が必要だった。


 独自なりの魔術解釈をしつつ、自分に合った魔術行使のやり方を見つけ出して実行しているので、恐らくフローラと俺の行っている魔術行使は似て非なる物だろう。


 何より、3歳の頃からずっと行っている魔力操作がある。


 必要な時に必要な分だけ魔力操作をしている魔術師とは訳が違うのだ。俺は今も寝ている時も常に魔力操作を続け、体内で高速に魔力を循環しつつ闇人形達にも魔力を送っている。


 魔力操作だけならこの世界でも中の上に入れるのでは?と最近は思っているほどだ。


「ハッハッハ!!フローラは良くも悪くも馬鹿だからな!!そのお師匠様も教えるのが大変だっただろうよ!!」

「ゼパード、貴方焼き殺されたいの?」

「おっと、フローラさんは頭脳明晰で物覚えも良い天才ですよ。かつて魔術を生み出した大賢者様に次ぐ頭脳です」

「よろしい」


 フローラの殺気に当てられて、全力でヨイショをするゼパード。この二人はこういうやり取りが多いな。


 仲がいいのはよろしい事だ。


“仲良きことは美しきかな”。武者小路実篤先生もそう仰っていた。


 二人のやり取りに思わず笑顔が零れつつ、俺達は冒険者ギルドに帰ってきた。


 まだ冒険者達が依頼から帰ってきておらず、ギルド内はかなり空いている。


 ピーク時になると受付に長蛇の列ができあがり、場合によってはギルドの外まで列が並ぶこともあるそうだ。


 それだけ冒険者の数が多いって事だな。


 この小さな街ですら、ギルドから溢れるほどの列をなせるだけの人が居るとなると世界には冒険者がどれほど居るのだろうか。そして、その数多くの冒険者達の中でたった5人しかなれないオリハルコン級冒険者と言うのは、一体どれほど強いのだろうか。


 噂では、最上級魔物相手に舐めプをかましながら余裕で勝てるなんて話もあるが、どれほどのものかは実際に見て見ないと分からない。


 オリハルコン級冒険者の話はどれもがぶっ飛びすぎてて、何が真実なのか分からないんだよなぁ........


 俺はそんなことを思いつつも、受付のお姉さんに話しかけた。


 常設依頼の場合は、依頼の紙を持ってなくても問題ない。何故か後ろにゼパードのおっさん達が着いてきているが、気にしたら負けだ。


「すいません、常設依頼の達成を報告したいんですが........」

「あー、はいはい。それじゃ、ギルドカードを見せてくれるかな?」


 俺は言われたままにギルドカードを出す。


 完全に子供扱いだな。この世界での成人は15歳からなので、子供なのは間違っていないのだが。


 紫と黒が混じったポーニーテールの髪をしたお姉さんは、ギルドカードをとある魔道具にかざすと、何かを確認して俺に戻してくる。


 恐らく、ギルドカード本物かどうかを確認したと思われるが、詳しい仕組みなどは一切分からないので違うかもしれない。


「それで、何を持ってきたのかな?」

「これをお願いします。多分、常設依頼10個分ぐらいはあるんで」


 子供相手の為か、優しく声をかけてくれるお姉さんに俺は背負っていたバックパックの中身を少しだけ出す。


 薬草の束だけとりあえず出しておいた。


 と言うのも、ここの受付窓口は小さすぎてバックパックの中身をひっくり返す訳にも行かないのだ。


 ひっくり返したら、雪崩のように受付から薬草やら魔物の素材やらが落ちいてしまう。


 しかし、見せるならバックパックの中身を見せるべきだった。受付のお姉さんは俺が取ってきたののはこれだけだと勘違いし“査定するね”とだけ言って、後ろに行ってしまったのだ。


 俺が引き止める間もなく、受付の奥に消えていってしまったお姉さんを見て、俺はどうしたものかとゼパードのおっさんを見る。


 ようやく初心者冒険者らしいミスをしたからか、ゼパードのおっさんの顔は嬉しそうだった。


「今のジークが悪いな。見せるなら全部、もしくは量が多いからカウンターに移動したいと言うべきだったぞ」

「受付嬢には二度手間を取らせたな。申し訳ない」

「まぁ、これも慣れですよ。ジーク君は賢いので、直ぐになれるでしょうし」


 少しすれば、お姉さんが帰ってくる。


 その手には、光り輝く銅貨が握りしめられていた。


「はい、これ査定分と依頼報酬。全部合わせて銅貨五枚だね」


 へぇ、薬草の束1つで銅貨五枚か。依頼報酬が確か銅貨二枚とかだったから、査定は銅貨三枚。親父から聞いていた相場通りだな。


 俺は一旦“ありがとうございます”と言って、お金を受け取る。そして、申し訳なさそうに、バックパックの中を見せた。


「あの、今のはほんの一部なんで、全部査定をお願いできますか?」

「........ん?それは君が全部取ってきたの?」

「はい。すいません、昨日冒険者になったばかりで、どうしたらいいか分からず........」

「あー、なるほど。それはしょうがないね。結構量がありそうだし、後ろに行こうか」


 多分、この見た目じゃなかったら嫌な顔をされてたんだろうなぁ。


 もしも、こちらの世界に来る前の姿だったら滲み出る“面倒臭い”オーラを感じていたはずだ。


 今は子供だからお姉さんも優しく接してくれているが、大人になれば相手もそれ相応の態度に変わるのである。


 ずっと子供のままで居てぇ。


 俺はそう思いつつ、お姉さんに連れられてギルドの査定所に向かうのだった。


【ギルドカード】

 ギルドに所属していることを証明するカード。身分証のように使われることが多く、各ギルドが必ず発行している。

 ギルドカードが本物かどうかを判断する魔道具は、その魔道具に登録した魔力がギルドカードに宿っているかを判別している。しかも、個人を判別できるようになっているため、明らかにオーバーテクノロジーではあるのだが、かつての魔道具師の天才がギルドのために作りあげた最高傑作である。

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