舐めんなよ


 ゼパードのおっさん達と話しながら、俺は何度も訪れている森に足を踏み入れる。


 この森の浅い場所は、庭と言っても過言では無い。レベルが低い時は放置狩りの場所としてお世話になったし、冒険者としてのイロハを積む時もお世話になった。


 闇人形達は、さらに奥の所で今日も俺の為に狩りをしてくれている。未だに数による虱潰しが最適なレベリングなのはどうにかしなければならないが、やはり解決策が思いつかないので頑張ってもらうしかない。


 ゲームの世界なら無限湧きしてくれるから、楽だったんだけどな。経験値が向こうから歩いてくるなんて都合のいい話は、この世界では存在しない。


「ジーク、先ずは何をするんだ?」

「先ずは魔物を探しつつ薬草でも集めるよ。薬草も沢山集めればいい値段になるらしいからね」


 護衛として来ているゼパードのおっさんが俺に何をするか問うが、この森でやることなんてだいたい決まっている。


 薬草採取と魔物の討伐。


 この森に鉱石なんてない上に、特殊な依頼を受けている訳でもないのでこれ以外にやることは無い。


 俺はズカズカと森の中に入っていくと、途中で木に傷をつけながら闇人形数体の回収を試みる。


 ゼパードのおっさんどころか、両親ですら知らない闇人形。


 第四級魔術の行使は、切り札としてなるべく人前では切らない方針なのだ。


 狩りをしている闇人形のいくつかを消して、誰も見てないところで再召喚すればよかったのだが、ゼパードのおっさんに会ってから思い出したのだから仕方がない。


 いつもなら忘れないのだが、今日は珍しくポカった。


 普段通りに振る舞えているはずだが、知らず知らずのうちに緊張しているのかもな。


「迷いなく進むな」

「何か目印でもあるのか?それとも、適当か?」

「んー、今の段階じゃ何も言えないね。森の中を歩き慣れてる感はあるから、少なくとも蔦に引っかかるとかはなさそう」

「ジーク君、私より歩くの早いんですけど........」

「それは、そのシスター服が動きにくいからだろ。森に適した服装にしろよ」

「私は仮にも聖職者ですよ?シスター服を脱ぐことは有り得ません」

「“仮にも”って言ってる時点でダメなんだよなぁ」


 俺の跡を着いてくる四人は、雑談を交わしながらも周囲の警戒を怠っていない。


 これがベテランか。普段通りにしてるのに、隙が全くない。


 親父もお袋もそうだったが、銀級以上の冒険者は軽口を叩きながらも周囲の警戒をできるんだな。


 俺にはまだできない芸当だ。レベルが上がろうとも、こう言う所にPSプレイヤースキルが出てくる。


 あのレベルに行くまでに一体どれだけの時間要するんだろうか。


 俺はそう思いつつも闇人形達を数体回収し、自身の影の中に待機させる。


 これで不意打ちは防げるだろう。闇人形の改良もまだやらなければならないし、冒険者になってもやるべきことが絶えないな。


 ゼパードパーティーの会話を聞きつつも森の中を歩くこと十数分後。俺は魔物が残した痕跡を辿り、ゴブリンの群れを発見した。


 本当にこの森はゴブリンがよく出現する。両親とこの森に来た時は、必ず言っていいほど戦った魔物だ。


「数が多いな........ひぃふぅみぃ........12体もいるぞ」

「珍しいな。ゴブリンの群れってのは大体5~6なんだが、今回はその倍も居るじゃねぇか。逃げるか?」

「は?なんで逃げるのさ」


 ゼパードのおっさんの提案に思わず素で反応する。


 既にゴブリンから得られる経験値は極小(検証は諦めてるから違うかもしれないが)。しかし、貴重な経験値であり金蔓だ。


 逃げの一手なんて有り得ない。


 ゼパードのおっさんは、相手の数が多すぎるから1人では対応しきれないと思っているのだろう。


 魔術の研究をしていることは知っているが、俺がどの程度の魔術を使えるのかを知らないのだ。


 親父からレベルも聞いているだろうが、俺のレベルは10。それにいざとなれば切り札も幾つかある。負ける要素は一切ない。


 ゼパードのおっさん達はどうしたものかと俺を見るが、何かを諦めたように小さくため息を着くと俺の肩に手を置いた。


「まぁ、これも経験か。ジークがそう判断したんならやってみるといい」

「大丈夫、死なせはしないから。いざとなれば助けるよ」

「回復は任せてください。第三級白魔術までは使えるので」

「頑張って!!ジーク!!」


 俺は、既に俺が負けると思っているゼパードのおっさん達に若干イラッとした。


 唯一フローラだけは純粋に応援してくれているが、後は俺が負ける未来しか見えてない。


 イラつきが顔に出なかった俺を褒めてやりたい気分だ。先ずは応援しろよ馬鹿野郎。


 舐めんなよ。こちとらグレイウルフ(中位下)相手に放置狩りしてんだよ。


 ゴブリンだからと言ってレベルという概念がある以上、侮ることはしないが余程の事がなければ負けない。


 少し本気でやろう。第二級魔術と言えど、鍛え上げられた魔力操作と(お袋曰く)ケタ外れの魔力量によってその威力は通常の第二級魔術とは桁違いになる。


 得意な黒魔術を使えば尚更だ。


 俺は、魔力で同時に20個の魔法陣を空中に描き始める。


「は?え?ジークちゃんなにやってんの?!」

「これは.......第二級黒魔術の闇弾ダークバレット?でも数が多すぎますよ」

「凄いのか?魔術の同時行使なんてお前もやってただろ?」

「数が違いすぎるよ!!それに、込められてる魔力が尋常じゃない!!第三級魔術に込める魔力量だよ!!」

「魔術構築も早すぎます。魔力操作が並外れている証拠ですね........シャルルはこんな事できるなんて一言も言ってないんですけど」


 ゴチャゴチャと騒ぐ四人だが、今は静かにしてくれ。声が大きすぎて、ゴブリンに気づかれる。


 事実、耳のいいゴブリン数体がこちらを今まさに振り向こうとしていた。


 が、俺の魔術行使の方が一足早い。


「貫け」


 第二級魔術を20個同時発動。更に、12本はゴブリンに向かって飛ばし、残りは仕留め損なった時のために待機させた。


「グギ!!」

「グガッ!!」

「グギャ!!」


 ゴブリン達の悲鳴が次々と森の中で木霊する。


 闇弾は正確にゴブリン達の頭だけを吹き飛ばし、討伐証明となる耳と牙を残して頭半分は肉塊へと変わった。


 念の為に少し多めに闇弾ダークバレットを用意していたが、要らなかったな。


 闇人形ダークパペット闇剣ダークソードを即座に何体も出現させれるように、魔術の訓練を積んできたかいもあってか、この程度では脳に負担を感じない。


 後、30本ぐらいは余裕で増やせそうだ。


 おれは待機させていた8本の闇弾をキャンセルして霧散させると、周囲の警戒を怠らずにゴブリンたちの死体を見に行く。


「よし、ちゃんと全部脳の所だけを吹っ飛ばせたな。闇弾に関してはほぼ完璧と言っても過言じゃない」

「凄いじゃないか。正直、数の暴力にやられて痛い目を見ると思ってたぞ」

「僕も思ってたね。フローラやラステルが驚くほどの魔術を行使できるなんて、流石はあの二人の子供だよ」

「え?嘘。魔術の研究を勝手にしているとは聞いてたし、魔術の腕もかなりのものとは聞いてたけど、ここまで凄いことなんてある?普通に銀級どころか金級冒険者としてやって行けるだけの戦闘力があると思うんだけど」

「同じことをやれと言われたら無理ですね。ジーク君、もしかして神童なのでは?」


 魔術の難しさを理解しているフローラとラステルは心底驚き、魔術の難しさを知ってはいても理解はしていないゼパードのおっさんとグルナラは俺の魔術に感心する。


 魔術師と戦士の魔術における認識の違いを俺は感じつつも、全員が驚いた顔をした姿を見れて俺は大変満足だった。

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