初依頼(常設)


 銀級冒険者の手助けもあり、冒険者ギルドへの登録は想像以上にスムーズに終わった。


 どれだけ実力を持っていようとも最初は皆鉄級冒険者から始まるので、俺も例外に漏れることなく鉄級冒険者から始まる。


 その日は、ゼパードのおっさん達と両親に誕生日を祝われ、誕生日プレゼントとして冒険者に必要なアレコレを貰った。


 革防具や耐久力に優れたバックや靴。魔法行使の際の助けとなる媒介である指輪etc.....


 相当金がかかったであろう俺への誕生日プレゼントは、俺が無事に冒険者としてやって行けるようできる限り死亡率を下げてくれるものばかり。


 危険と隣り合わせの冒険者になる事を簡単に承諾してくれたとはいえ、親父もお袋も俺の事が死ぬ程心配なのだろう。


 その日の夜は、久々に家族三人で川の字になって寝た。


 翌朝、日が登り始めたと同時に俺は冒険者ギルドの扉を開く。今日から俺は冒険者。割のいい依頼というのは直ぐに無くなるので、なるべく早く言って依頼を確保しなければならない。


 が........


「ラグビーやアメフトよりも酷いなコレは。悪質タックルが横行しまくってる」


 どうやら俺が来た時間ですら遅かったらしい。


 既に多くの冒険者達が集まっており、我先に割のいい依頼を奪い合っていた。


 さながら、バーゲンセールに来た主婦達だ。


 違う点があるとすれば全員が武器を持っていることと、当たり前のように肩で相手をはじき飛ばしている事だろう。


 通勤ラッシュ時の人混みに慣れている俺ですら、流石にこの中に混ざる勇気はない。


 まだまだ成長途中の俺では、ガタイのいい冒険者達に吹っ飛ばされる未来が見える。


「お、ジーク坊ちゃんじゃないか。おはようだな」

「おはようゼパードのおっさん。凄い人混みだな」

「朝は毎度こんな感じさ。低ランクの割のいい仕事はいつも早い者勝ちだ。明日からはギルドが開く時間とともに来ることを勧める。常設の依頼を受けるなら別だがな」


 冒険者ギルドにくる依頼は大きくわけて三つ。


 1つは目の前で取り合っている通常依頼。


 依頼人がギルドに金を出して冒険者を雇う。これはその日その日で依頼が変わるので、こうして割のいい依頼を死ぬ気で皆奪い合うのだ。


 二つ目はゼパードのおっさんが言った常設依頼。


 これは冒険者ギルドからの依頼であり、いくらあっても困らない薬草の採取やゴブリンなどの魔物の素材なんかを集めてくる。


 しかしながら、基本は通常依頼の方が報酬が大きいので他の依頼を受けていた時にたまたま取れたりしたのを売る為に受けることが多い。


 そして最後に指名依頼。


 これは、通常よりも高い金を払って特定の冒険者に依頼を出すやり方だ。


 依頼の内容は様々だが、多くの場合は高位冒険者を雇い入れて確実に仕事を成功させる為に使われる。


 中には特殊な技能を持った冒険者も居り、低位冒険者でありながら指名依頼を受けて稼ぐ者も居るそうだ。


 今日はゼパードのおっさんの言う通り、常設依頼を取る事になりそうだな。この感じだと、割のいい依頼は残って無さそうだし。


「常設依頼は何を取ってくればいいんだっけ」

「薬草や魔物の素材なら基本はなんでもOKだ。大抵の物は常設依頼に入ってる。常設依頼にするか?」

「そうするよ。俺があの中に入って行っても吹き飛ばされるだけだ」

「ハッハッハ!!まだまだジーク坊ちゃんは小さいからな!!軽く小突いただけで吹き飛ばされるのは間違いない!!」


 ゼパードは豪快に笑いながらそう言うと、俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でてから席を立つ。


 毎度の事ながら、セットした髪を崩さないでくれ。


 俺はそう思いつつも、冒険者ギルドを後にする。


 街の南門。俺が放置狩りをしている森に近い門に行くと、ゼパードのパーティーメンバー達が既に準備を終えて待っていた。


 大盾を背負うグルナラに、如何にも魔法使いですと言わんばかりのローブと帽子を被ったフローラ。そして、シスター服を着たラステル。


 彼らは俺とゼパードを見つけると、大きく手を振りながらこちらへ近づいてきた。


「おはようジーク。随分と様になってるじゃないか。デッセン達からのプレゼントか?」

「そんなところだよ。多少の調節はできる革防具だから、長く使えそうだ」

「おぉ、あのジークちゃんがしっかりと冒険者らしい格好をしてるね。カッコイイよ」

「ふふっ、ジーク君ももう冒険者ですからね。私達と同業者って事になりますか」

「今日はよろしくお願いします。親父が無理言ったみたいで」


 各々が反応する中、俺は丁寧に頭を下げておく。


 友達のような距離感で付き合っていたとしても、相手はベテランでありこちらの都合に付き合わせているのだ。


 親しき仲にも礼儀あり。礼儀があることないことでは、相手に与える心象は大きく違う。


「おうよ!!俺もダチの息子は心配だしな。ちゃんと冒険者をやれるかどうか見ててやるよ」

「今日はジークにほぼ全てを任せるつもりだからよろしく。いざとなれば助けるけど、それを期待しては行けないよ」

「分かってるよ。大丈夫、勇敢と無謀を履き違えるほど馬鹿じゃないつもりだから」

「ハハッ、それは楽しみだね」


 又しても、ぐしゃぐしゃと頭を撫でてくるグルナラとゼパードに少しウンザリしながらも、俺達は南門を出て森へと向かう。


 念の為、闇人形の何体かは俺の影の中に入ってもらうか。


 万が一があっても困るしな。


 レベルだけで言えば既にベテランと肩を並べる程ではあるが、レベルが高いからと言って冒険者ができる訳では無い。


 親父とお袋に口うるさく言われたことを思い出しつつ、俺は初めての冒険者生活を踏み出すのだった。


【常設依頼】

 冒険者ギルドが出している依頼。通常依頼と比べると報酬は落ちるものの、割の悪い仕事よりは全然稼げるので(冒険者の腕次第ではあるが)意外とコレをメインに活動している人は多い。

 魔物の買取から需要の高い薬草、ギルドによっては採掘してきた鉱石なんかも買い取ってくれる。


 ジークが初めての依頼を受け街を出た頃、デッセンとシャルルは店で仕込みをしていた。


 普段ならばまだ寝ている時間だが、2人とも息子が家を出る姿を見たくて早起きしたのだ。


「........貴方、手が止まってるわよ」

「そういうシャルルこそ止まってるじゃないか........はぁ」


 せっかく早く起きたのだから、早めに仕込みをしようとしているにもかかわらずその手の動きは重い。


 その理由は言わずもがな。


 今朝、送り出したジークの事が心配で仕方がなかったからだ。


 今日は銀級冒険者が護衛に付いているとはいえ、心配は心配。子を思う親の心に嘘はつけない。


「........俺の両親もこんな感じだったのかもしれないな。なるほど、心配されるわけだ」

「そうね。私も同じ気分よ。子を持ってようやく親の気持ちがわかるとはね」


 危険な魔術の研究をしていた時ですら少ししか心配しなかった2人が、今日は想像以上に気に病んでいる。


 2人はようやく冒険者になる事に反対した親の気持ちが分かりつつも、自分達がジークを止める権利はないと理解していた。


「明日はもっと心配だな。ゼパードにこっそり護衛するように頼むか?」

「........いいかもしれないわね。1週間ご飯代タダにすれば引き受けてくれそうだし。ジークは人に好かれやすいからね」

「はぁ、ジーク、無事に帰ってきてくれよ」

「あの子は賢いし、強いから大丈夫だとは思うけど、心配は心配なのよねぇ........はぁ」


 朝日が登る中、夜は冒険者達が騒ぐ店の店主たちの溜息はジークが帰ってくるまで続く。


 親離れよりも子離れの方が難しいのかもしれない。

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