新人冒険者


 異世界生活13年目。遂に12歳となった俺は、誕生日を迎えると同時に冒険者ギルドへと向かう。


 レベルは目標としていた二桁のレベル10にまで上がり、手段を選ばなければ親父に勝てるかもしれないところまで来ている。


 この世界では、基本的に特殊な能力や技術がない限りはレベル差が3以上あると勝てないとされている。


 もちろん、同種族の場合でなければその限りでは無いが。


 しかし、それでも親父に勝てるかもしれないと思っているのは、そのレベル差を強引に埋める手段として魔術を多く持っているからだ。


 まだ経験差があるので奇襲&はめ技を使わないと勝てないだろうが、それでも勝算の目があるだけ俺の成長を感じる。


 初めて親父とお袋に街の外に連れ出されてからというもの、毎週外に連れ出されては魔物を狩ったり薬草の知識を詰め込まれたりしたので、冒険者としてやって行けるだけの技量はあるはずだ。


 半年程はこの街で冒険者のランクを上げつつ、下積みを頑張ろうと思っている。


 最低でも銅級にはなっておきたいな。


 冒険者ギルドは世界中にある組織であり、どこの国にも属さないとされている機関。とはいえ、多少の干渉は受けるだろうがどこかの国に肩入れすることは決してない。


 かつて冒険者ギルドを作り上げた偉大なる先人曰く、“弱き民を守るため”が理念だ。


 正直、弱き民云々はどうでもいいが、貧困層の仕事の斡旋などもしており、どの国にも欠かせない役割を持つ巨大組織である。


 社会のセーフティーネットとしての役割もあるんだな。


 そんな巨大な組織である冒険者ギルドに所属する冒険者には階級が存在し、下から鉄級、銅級、銀級、金級、ミスリル、アダマンタイト、オリハルコンの順に階級が上がっていく。


 これはこの世界に存在する金属の価値順と全く同じであり、上に行くほどその地位を持つ人は少なく権力が大きくなるのだ。


 最高ランクであるオリハルコンに至っては、一国の王ですら頭を下げる存在だとまで言われ、この世界に5人しか存在していない。


 噂では皆自由人すぎて冒険者ギルドでも扱いきれない存在らしいが、それだけ強く我も強いのだろう。


 どうせ目指すならオリハルコンを目指したいな。


 ちなみに、親父とお袋は銀級冒険者。


 銀級まで行けばベテランと言われる。


「ここから冒険者人生が始まるのか」


 剣と盾が描かれた看板を掲げる建物。このマークが描かれているのが、冒険者ギルドである証だ。


 今日は登録だけして明日から活動をするつもりであり、初日だけは親父の知り合いである冒険者のオッサンパーティーと行動することが決まっている。


 つまり、テンプレ展開は全く期待できないのであった。


 やってみたかったんだけどな。“ヘイベイビー!!ここは赤ん坊が来る場所じゃないぜ?!大人しく帰ってママの乳でもしゃぶってるんだな!!”って奴をボコる展開。


 何をアホなことをと思われるかもしれないが、男とはそういう生き物である。アレだ。授業中にテロリストが現れて、それと戦うことを妄想するのと同じだ。


 中学二年生の最も頭の悪い時期を生きた男なら分かってくれるだろう。........分かってくれるよね?


 誰に聞いてるんだよと俺は1人で突っ込みながら、冒険者ギルドの扉を開く。


 中に入れば一目で冒険者と分かる人たちで溢れかえっていた。


 昼前から酒を飲む者、貼りだされた依頼書を眺める者、受けた依頼書を広げて作戦を立てるパーティー、可愛い女冒険者をナンパする者とナンパがしつこくて殴り飛ばす者。


 正しく混沌カオスであるが、全て親父やお袋から聞いた通りの光景だ。


「コレが冒険者ギルド。なんというか、想像通りだな。ギルド内に酒場があって、依頼書が貼りだされている。アニメで見た光景だ 」


 俺は感動を覚えつつも、邪魔にならないように直ぐ様扉からは退いた。


 感動するのもいいが、人の邪魔になっては行けない。冒険者登録する前から人と揉めたくないしな。


 脇に逸れて冒険者登録の為に受け継がに向かう途中、俺はおっさんに声をかけられた。


 スキンヘッドの大剣を担いだ如何にも人相の悪い冒険者であるが、知り合いである。


「お?ジーク坊ちゃんじゃないか」

「ゼパードのおっさん。久しぶりだな」

「あー!!ジークちゃんだ!!お久ー」

「ん?おぉ、ジークじゃないか........あぁ、今日はジークの誕生日だもんな。明日は面倒見るんだし」

「あらあら、ジーク君ももう冒険者になれるぐらい大きくなったんですね。私の記憶の中ではまだ赤子ですよ」


 スキンヘッドの大剣使い事ゼパードのおっさんとそのパーティーメンバーは、俺を見つけるやいなや俺の頭をぐしゃぐしゃに撫でる。


 せっかく朝整えた髪が台無しになってしまったが、彼らに悪意は無いので受け入れるとしよう。


 明日も世話になるんだしな。


 親父の知り合いであり、ウチの店の常連であるゼパードパーティーは皆いい人達だ。


 大剣使いのゼパードを始め、風魔術の使い手フローラ、盾使いのグルナラ、白魔術の使い手ラステルの4人がパーティーを組んでいる。


 全員ベテランである銀級冒険者であり、この街でもかなり顔が効く。敵に回しては行けない人達だ。


「今から登録か?」

「そうだよ。今日で晴れて12歳になったからね」

「そりゃめでたい。この後予定は?」

「無いよ。強いて言うなら、夜は父さんと母さんが祝ってくれるぐらいで」

「デッセンの野郎も家庭を持って随分と大人しくなったな。精々しっかり祝われてやれ。昼は俺達が祝ってやろう」

「それは昼飯を奢ってくれるって事でいいのかな?」

「おうよ!!友人のガキが誕生日に冒険者になるんだ。祝わないと罰が下るってもんだぜ」


 そういえばゼパード達は俺が誕生日の日には必ず店に顔を出しては、俺に色々なものを食わせたり面白い話をしてくれたな。


 もしかしたら、今日もここで俺が現れるのも待っていたのかもしれない。


 人相は悪いが、本当にいい人なのだ。


「よし、ならチャッチャと登録を済ませちまおう。登録料は持ってきてるか?」

「勿論。銅貨5枚でしょ?」


 俺はそういうとポケットから銅貨を5枚取り出す。


 この世界の通貨は冒険者ギルドのランクと同じで、下から鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、ミスリル貨、アダマンタイト貨、オリハルコン貨となっている。


 基本的に100枚で上の硬貨と同じ価値があり、銅貨1つでパン一つ買える値段となる。


 もちろん偽装はできないように細かい装飾が施されており、鉄貨や銅貨はどう見ても赤字だろと思う程装飾は凝っていた。


 日本の一円玉も作るのに三円かかるらしいし、価値の小さい硬貨は作るのが大変なんだろうな。


 この貨幣は基本的にどの国でも使えるが、それは銀貨まで。金貨以上の大金は金の内包率から銀貨に変えられたり、その国の価値に合った硬貨に変えられる場合があるそうだ。


 これは昔、金の量をちょろまかして金貨を製造した国が多発した為、その対策として作られたんだとか。


 今では大帝国金貨、王国金貨、皇国金貨と呼ばれる3種類の金貨以外は、両替が必要となっている。


 大きな買い物をしない限りは銀貨で済むので、庶民にはあまり関係の無い話だ。


「ちゃんとあるな。なら一緒に登録しちまうか。俺が居た方が話が早いだろうし」

「いいんじゃないか?僕達は先に料理を注文しておくよ」

「そうしておいてくれ。さ、行くぞジーク坊ちゃん」

「坊ちゃんは辞めてくれよ。店で呼ぶならともかく、外で呼ばれるのは恥ずかしい」

「ハッハッハ!!それもそうだな!!」


 豪快に笑うゼパードに連れられて、俺は受付に向かうのだった。


【冒険者ギルド】

 ほぼ全ての国に存在する機関。大きな街には必ず言っていいほど存在し、場合によっては村にも支部があったりする。

 冒険者の育成及び管理を主な仕事としており、荒くれ者が多い冒険者を纏めている。

 全ては“弱き民を守るため”。冒険者が民に害をなすことを許さず、厳しく監視しているため市民や国からの信頼は厚い。が、組織の肥大化による腐敗は避けられず、中には腐りきった冒険者ギルドもある。

 様々な依頼を受けており、犯罪行為でない限りは依頼を承諾してもらえる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る