ファ〇キンゴブリン
森の中で見つけたゴブリンの足跡を追う事、10分弱。ようやくゴブリン達が見えてきた。
数は五体で、何やらグギャグギャ言いながら地面を見ている。
もしかしたら、動物を殺して喜んでいるのかもしれない。
「居たな。あれがゴブリンだ。気持ち悪い顔面してるだろ?冒険者の口喧嘩で“テメェの面はゴブリンにも劣るな”って言っとけばキレさせることが出来るから覚えておけ」
「何の話だよソレ」
「実体験だ」
いや、今言うべき話では無いよね。
確かに口喧嘩で使えば相手をキレさせることは容易だろうが、それを今この状況で教える必要は無い。
お袋も同じことを思ったのか、静かにため息を吐いて頭を抱えていた。
多分、後で親父は怒られるであろう。
「ゴブリンの数はわかるか?」
「五体だね。レベルは流石に分からないけど」
「分かったらビックリだ。お前は“スキル持ち”じゃないんだからな」
親父はそう言うと、ゴブリン達から死角になるように移動を始めた。
俺もお袋もその後ろについて行く。
この世界には多少の才能さえあれば魔術を使える他に、“スキル”と呼ばれる特殊な力を使うことが出来る。
しかし、この“スキル”は魔術師以上に使用者が少なく、生まれて直ぐに獲得する以外に獲得方法は無い。
後天的にスキルを獲得することは出来ないという訳だ。
そして、スキルを持っている者は“スキル持ち”と呼ばれる。
俺は生まれながらにしてスキルを持っている勝ち組ではなかったので、残念ながら魔術や剣を磨くしかない。
前世を引き継いでいると言う点で見れば“スキル持ち”と言っていいかもしれないが、この世界で有名なスキルである“聖女”や“勇者”とは違う。
俺はあくまで前世持ちと言うだけであって、スキルは発現していないのだ。
「よし、ジーク、ここからは1人でゴブリン達を倒してみろ。大丈夫、今のお前なら1人で全員を殺せるだけの実力はあるからな」
「剣だけ?それとも、魔術の使用もあり?」
「その判断も自分でするんだ。冒険者は、その都度適切な判断力が問われる。即座に正しい判断が出来なきゃ死ぬだけだぞ」
「そうよ。まぁ、今回は私達も付いてるから気楽にやりなさい。死にそうになったら助けてあげるから」
逆に言えば死にかけなければ助けないのか........
俺は両親の若干スパルタ教育に体を震わせながらも、この世界で初めて自分の目で見るゴブリン達を見据える。
闇人形達ですら圧勝できる程度の戦闘力しか無いゴブリンに苦戦しているようでは、この世界で旅をするなんて到底不可能である。
心を殺せ。相手は害虫、某北海道には生息しないGを殺す様に事務的に処理するんだ。
違いは血が出るかどうかだけ。血なら闇人形との視界共有時に死ぬほど見ただろ。
俺はゆらりと剣を引き抜くと、牽制として第二級魔術の
魔力操作もこの数年でさらに向上し、最低威力の第二級魔術ですら岩を砕ける程にまでなっていた。
「穿て」
俺の合図とともに闇弾は放たれ、正確にゴブリン達の頭を貫く。
しかし、一体だけは足に魔術を命中させた。
もちろんワザとだ。
魔術に頼り切った戦い方はあまりに良くない。それに、魔物を斬り殺す感触を今の内から覚えておかないと、いざと言う時に身体が鈍るかもしれないという判断だ。
「グギャ!!」
唐突に足を貫かれ、仲間達の頭が吹っ飛んだゴブリンは悲鳴を上げつつも根性でこちらを振り返りその手に持った棍棒を振り下ろしてくる。
親父の剣よりもかなり遅い。子供がチャンバラで振る剣ですらもう少し早いぞ。
俺はゴブリンの懐に潜り込むと、そのまま剣を横凪に振り払う。
手に残る感触がとても気持ち悪いが、ここは弱肉強食の世界。動物愛護の精神なんて持っていたら死ぬのだ。
ゴブリンの胴体を真っ二つに切り分けると、俺はそのまま後ろからさやから抜かずに剣を振り下ろす親父の剣を避けた。
あっぶね。もう少し反応が遅れていたら影の中にいた闇人形が動いてたな。
「お、ちゃんと警戒しながらしていたな。偉いぞジーク。魔物を狩ったからと言って油断しないのはいい判断だ」
「危うく父さんを斬り殺すところだったよ」
「ハッハッハ!!俺も現役を引退したとは言え、まだまだ動けるさ。我が子に斬り殺されるほどは弱かねぇよ!!」
親父はそう言って盛大に笑いながら、俺の頭をグジグジと乱暴に撫でる。
親父は気づいていないが、割とマジで殺されそうだったんだよなぁ。
6匹目のゴブリンかと一瞬思って、本気で魔術を行使するところだった。
第四級魔術“
「それにしても、綺麗な魔術ね。到底独学で身につけたとは思えないわ。無意識に身体強化も使ってたみたいだし」
「身体強化?」
「身体を魔力で覆うことで肉体を強化する事が出来る技術よ。魔術を使わない剣士が覚える技ね」
「魔術とは違うの?」
「違うわよ。魔術は魔法陣を構築して魔力を媒介に現象を起こすもの。身体強化は魔力を纏うだけで、魔法陣を構築して現象を起こす訳では無いもの」
なるほど。だから“魔術基礎”の本に載ってなかったのか。
異世界の定番魔法である身体強化。作品によって位置付けは違うが、この世界では誰でも使える強化術なのだろう。
俺は無意識で使っていたようだが、それは恐らく色んな異世界転生系の話を読んでいたからだろうな。
今の今まで見落としていたのは、魔術の研究に勤しみ過ぎたせいもある。
「父さん、なんで教えてくれなかったのさ」
「いや、俺は使えねぇし」
親父に文句を言うと、親父は呆気らかんと答えた。
え?使えないの?
「........ん?剣士なら覚える技術なんでしょ?」
「剣士ってのは基本的に魔術を使えないやつが成る職だからな。魔力操作があんまり得意じゃないんだよ。剣士でも身体強化を覚えているやつは稀だぜ?身体能力なんざレベルを上げればどうとでもなるからな」
「母さんの言ってるニュアンスだとみんな覚えるように聞こえるけど?」
「言葉足らずなんだよ。昔からな」
いや、言葉足らずというか言い方が悪いでしょこれ。
お袋を見るが、お袋は少し可愛らしく首を傾げるだけ。まだまだ美人な姿でやられるとかなり様になるが、それでごまさかれると思うなよ。
「母さん。剣士でも使う人は稀って言ってるけど?」
「そうね。それが?」
「........いや、なんでもないです」
こういう時のお袋は、何を言っても無駄だ。
11年間も一緒に暮らしていると、自然とわかるようになる。
俺はお袋に文句を言うのを諦めると、殺したゴブリン達に目を向けた。
無惨にも殺されたゴブリン達は血の池を作り出し、血の鉄臭い臭いと臓物の生臭い臭いが混じってとてつもなく不愉快な臭いになっていた。
だが、不思議と吐き気はしない。
うわぁ、とは思うものの、ただそれだけだった。
魔物の死体は何度も見てきているし、もしかしたら既に慣れてしまったのかもな。
「よし、それじゃ解体するか。ゴブリンは心臓部にある魔石と尖った牙が売れる。それと討伐の証として右耳を切り落とすんだ。魔物を殺す際は、なるべく価値を下げないことも意識するンだぞ」
「分かったよ」
「でも、それに拘りすぎるのはダメよ?命あっての冒険者。先ずは生きることを最優先にしつつ、余裕があったら価値を下げないように殺しなさい」
俺は両親から冒険者の心得を聞きつつ、自分の手で殺したゴブリン達を解体していく。
すまんなゴブリン達。人間が生きるための糧となってくれ。
「そういえば、レベルは上がったか?」
「いや、まだだね。ゴブリンをどのぐらい倒せばレベルは上がるの?」
「レベル1~2に上がるなら、だいたい5~8ってところだな。今回はゴブリン達のレベルが低かったか」
こうして、その後もゴブリンを数頭狩った後、俺はレベルアップした振りをして森の近くで夜を越し、家に帰るのだった。
【身体強化】
魔力を全身に纏うことで自身の身体能力を上げる技術。魔術が使えない者が使う技術ではあるが、レベルアップの方が恩恵が大きいためあまり重要視されていない。
精々レベルを0.5上げる程度と言われているが、極めるとレベルを5近くはね上げる技なので軽視するのは禁物だ。
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