11歳、レベル7

 初めて放置によってレベルアップした日から二年後。異世界生活12年目、俺は11歳となった。


 毎日のようにレベルアップに勤しみつつ、俺は魔術の研究に明け暮れる。レベルは既7になっており、この調子で行けば冒険者になる頃にはレベル10に到達するのを夢じゃない。


 効率のいい魔物狩りの方法を考えては実行し、今ではグレイウルフと呼ばれるゴブリンやスライムよりも格が二段階程高い魔物も狩れるようになってきている。


 闇人形ダークパペットの魔術にも手を加え、昼間でも消滅せずに狩りができるようになったし、同時に動かせる闇人形の数は100を超えていた。


 闇人形が昼間でも動けるようになった事が特に重要で、陽の光があろうとも関係なく狩りを続けれるので経験値の溜まり方が段違いに早くなっている。


 まさか、闇人形ダークパペットの魔法陣にデメリットが盛り込まれてるとは思わねぇよ。


 恐らく、魔術を行使する際に消費する魔力を減らすために組み込まれたのだろう。


 理由は分からないが、もしかしたらこの魔術を開発した魔術師はこのデメリットを組み込まないと魔術を行使出来ない程しか魔力が無かったのかもしれない。


 おかしいと思ったのだ。単純な魔法陣でできている第二級魔術である“闇弾ダークバレット”が陽の光に当たっても消滅しないのに、複雑な魔法陣出できている第四級魔術の“闇人形ダークパペット”は陽の光に当たると消えるとか。


「やっぱり、思考を固定されると中々気づけないものだな。視野は広く、常に疑って物事を見ろって訳か」


 未だに数によるゴリ押し捜索が1番効率のいい方法なのはどうにかしなければならないが、今はこれ以外に何か手がある訳でもないので仕方がない。


 それでも、125体の闇人形によるゴリ押し捜索はそれなりの効率を叩き出し、この2年でレベルを6上げているのは中々なものだろう。


 ちなみに、経験値の測定云々は諦めた。


 どうやら魔物にもレベルの概念があるようで、その魔物を倒したレベルによっても経験値が変わるらしい。


 俺はこの話を聞いた時点で、経験値の測定は無理だと悟った。


 だって魔物のレベルとか確認のしようがないもん。


 一応、相手のレベルを確認する魔術もあるそうだが、相当高度であり魔術が得意とされるエルフ種の中でも高位に当たるハイエルフのごく一部しか使えないとか。


 俺の持っている“魔術師基礎”の本にも相手のレベルを確認する魔術の魔法陣は載っていないので、使える使えない以前の問題だ。


「この魔術基礎に乗ってる魔術は全部使えるようになったし、ここからは自分で開発したり人のをみて盗む必要がありあるんだよなぁ。やる事がまだまだ山積みだな」


 この“魔術基礎”の本には一般的に使われる第二級魔術と、応用として幾つかの第三級、第四級魔術が乗っている。


 魔術は覚えておいて損は無いと思ったので、とりあえず全部覚えて使えるようにはなっていた。


 人には得意不得意があるように、魔術を行使する際の属性にも得意不得意が出る。


 お袋の場合は炎が得意であり、水が苦手。俺は黒魔術と白魔術が得意で、それ以外は全て普通だった。


 白魔術は、死者を操ったり亡霊を出現させる黒魔術とは対極の属性だ。


 死者や亡霊を浄化し、人々を癒すのである。


 宗教色の強い国では神聖視される魔術であり、高位の魔術の使い手への待遇はとても良くなる。


 黒と白、両方の第四級魔術を行使できる俺は一体どう言う扱いを受けるんだろうな。


 少しだけ危ない好奇心が湧きつつも、俺は親父の待つ庭へと出ていく。


 今日は、店は休みであり、いつもの如く親父にボコられる日である。


 親父とお袋は、俺がこっそりレベリングしている事を知らない。つまり、レベル1のままだと思っているわけだ。


 俺は未だにレベル1のふりをしなければならないので、この親父との剣の稽古は神経を使う。


 少しでも力加減を間違えれば、両親にレベルが上がったのでは?と怪しまれてしまう。


 そうなれば、せっかく作れあげた放置ゲーを説明するなり辞めるなりする必要が出てくる。


 できる限りレベルを上げておきたい俺としては、かなりの痛手だ。


「お、ようやく来たなジーク。遅いぞ」

「ごめんよ父さん。ちょっと考え事してた」

「........また魔術か?」

「そんなところだね」


 俺がそう答えると、親父は小さく溜息を着く。


 両親は、俺が魔術に熱心なのは知っている。そりゃ目の前で魔術の実験なんかを毎日やっていれば、どんなバカでも気づけるだろう。


「魔術に熱心なのは構わないが、また庭の芝生を枯らすなよ?ようやく生えてきたんだから」

「分かってるよ。既にあの魔法陣に関しては結論が出てるから問題ないよ」

「そう言って、この前そこにある木をへし折ったのはどこのどいつだ?全く。俺もシャルルも魔術の研究なんてしないってのに。どこの誰に似たのやら........」

「あ、あはははは」

「笑い事じゃないわよ?昔は魔術の本を読んで喜んでいただけなのに、そこの本に乗っている魔術の行使をするだけじゃ飽き足らず研究まで始めるんだもの」

「あ、あはははは........」


 親父とお袋からのダブルパンチを食らって、俺は乾いた笑いを返すことしか出来ない。


 大分心配を掛けているな。だが、許して欲しい。


 将来、楽させれるようにいっぱい金を稼いでくる為の投資とでも思ってくれ。


「まだレベル1なのに第三級魔術まで使いこなせるし、才能だけはピカイチなのよね。本当に魔術学院とかに入らなくていいのかしら?」

「いいよ母さん。俺は冒険者となるために魔術の研究やらをしているだけであって、別に魔術を学びたい訳じゃないんだ。目的と手段が入れ替わったら意味ないよ」

「お金の心配は要らないわよ?」

「だから大丈夫だって」


 確かに魔術は楽しいが、別に専門の機関に行ってまで学びたい訳じゃない。


 俺は、世界を見て回りたいのだ。それに、お袋は金の心配は要らないと言っているが、酒飲みの冒険者から聞いた話だと魔術学院は相当な金がかかるらしい。


 少なくとも、一般的な家庭の子どもが気軽に通える金額では無いとか。


 魔術学院とは、魔術に関する事を学ぶ場だ。


 要は魔術を学ぶ学校であり、大抵の国には1つ以上存在している。


 基本的に、12歳から15歳までが通う場であり、そこで優秀な成績を収めると国からスカウトされたり研究者として学院に残ることが出来る。


 魔術の研究施設もあれば、試し打ちをできる場所も多くあると言う。


 確かに夢のような場所ではあるが、俺はなるべく早く効率のいい経験値稼ぎができるであろうダンジョンに行きたいのだ。


 そして世界を回って見てみたい。


 エルフの国やドワーフの国。獣人の国に、この世界で最も信仰されている宗教であるラビリンス教の本殿があるラビリンス皇国。


 噂でしか聞かないという悪魔の国に、龍達が住まう渓谷。天高くに登る天使たちの国。


 そんなワクワクさせるような世界が、俺を待っているのだ。


「ほんと、ここだけは私たちに似てるわね。血は争えないというかなんと言うか........」

「ハッハッハ!!いいじゃないか。世界を見て回りたい気持ちはよく分かる。そのお陰で、シャルルと出会えたわけだしな」

「それもそうね。ジーク、そろそろ帰ってきなさい」

「はっ!!」


 まだ見ぬ世界に思い馳せる余り、視界が飛んでしまった。


 俺はお袋の声で正気を取り戻すと、親父と剣の稽古を始めるのだった。


「あぁ、そういえば来週は2日程外に行くぞ」

「外?」

「街の外だ。冒険者としての基礎を叩き込んでるし、初めて魔物と戦わせてやろう」

「おぉ!!それはいいけど、父さん。そう言うのは殴り掛かる前に言って欲しかったかな!!」

「ハッハッハ!!すまん!!忘れてた!!」


 全くこの親父は。そんなんだから、オーダーミスしてお袋に怒られるんだぞ。

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