レベルアップ!!


 翌朝。太陽が登り始め街を照らす時間になると同時に俺は目覚める。


 普段ならばもう少し暖かい布団の中で寝ているのだが、今日ばかりはレベルアップしているかどうかが気になり過ぎて早く起きてしまった。


 遠足が楽しみすぎて早起きする子供かととは思うが、楽しみなのでしょうがない。


「さて、レベルは上がって──────────ん?」


 脳内で自身のレベルを確認する前に、自分の体の異変に気づく。


 全身を支配する全能感、今ならば何をやってもできそうな気分だ。空だって飛べるし、魔王だって殺せる気がする。


 体内に流れる魔力は明らかに増えており、普段の魔力操作では少し持て余す魔力量だ。


 頭は冴え渡っており、視界もいつも以上にクリアに感じる。


「もしかして........」


 俺は急いでレベルを確認する。


 すると、昨日まで1だったレベルは2に上がっていた。


「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 俺は思わずテンションが上がる。


 異世界に来て9年。ゼロ歳からコツコツとやり続けた“放置ゲー(正確には放置狩り)”が成功したのだ。


 俺は嬉しさのあまり、大声で叫ぶ。幸い、両親は既に店の準備をしている為俺の声は届かなかった。


「やった!!やったぞ!!異世界で初めて放置ゲーを作った!!」


 勿論、まだまだ改善点も問題点もある。しかし、今は放置ゲーが成功した事を喜ぶのだった。


 数分後。ようやく正気を取り戻した俺は、影に潜む闇人形と視界を共有する。


 確かにレベルは上がったが、今のレベルは所詮2。


 俺はまだ、そこら辺のゴブリンに殺されてもおかしくないクソザコナメクジだと言うことを忘れてはならない。


(お、ちゃんと命令通り影の中に隠れてるな)


 闇人形は陽の光に弱く、日差しを浴びると消滅してしまう。闇剣は問題ないのだが、剣は使い手が居て初めて剣となる。早めにこの闇剣の魔術を解析して、闇人形に組み込めるようにしないとな。


(人形、魔物を何体倒した?)


 俺の質問に、闇人形は右手の薬指と人差し指を立てる。


 10体か。ゴブリンが四体ぐらいのはずだったから、あの後6体の魔物を倒したことになるな。


 俺が想像する以上に効率が悪いが、それはしょうがない。ここは現実であり、ゲームの世界では無いのだ。


 魔物が定期的に湧くらしい“ダンジョン”に闇人形達を配置出来れば経験値効率は高まるだろうが、この街にダンジョンは無い。


 冒険者になって多少経験を積んだらダンジョンに行くか。


 今後の目標を立てつつ、俺は闇人形達に質問を続けた。


 結果として、倒した魔物は全てゴブリン。何体目を倒した時にレベルが上がったのか分からないが、少なくとも10体のゴブリンを倒せばレベルが上がるようだ。


 ゴブリンの経験値を10としておこう。これからは、ゴブリンから獲得出来る経験値を基準として他の魔物の経験値も測っていかないとな。


 その為には、レベル2~3に上がるのにどれだけの経験が必要となるのかを知らなければならない。


 こういうレベルが上がるシステムは、分かりやすい法則がある........多分。


 少なくとも、俺が作っていたゲームでは分かりやすい方式があった。レベル×200。それがレベルアップに必要な経験値である。


 勿論、レベルが上がる度に適正レベル帯でないエリアでレベル上げしても貰える経験値は低くなるように設定されていたが。


 この世界のシステムが分からない以上、これらを自分で見つけなければなならない。攻略法が一切明かされてない、リリース当初のゲームって感じがして楽しいな。


 中には最初からwikiを見る奴も居るだろうが、俺は自分なりの持論を持ってレベル上げや装備を考えていた。


 ギルド内で情報交換をし、自分なりに考えて最強を目指すのだ。人によってはつまらないと思うかもしれないが、俺は自分の道を自分の手で切り開くあの感覚がとても楽しかった覚えがある。


 今頃ギルメン達は何をやっているんだろうな。会社にいた奴も数人ギルドに入っていたので、俺が死んだ事は伝わっているだろう。


 悲しんでくれているのか。それとも、ウザイやつが死んで喜んでいるのか。


 険悪な関係を築いてきた記憶は無いが、人はどこで恨みを買っているか分からないものである。もしかしたら、ギルド内でも嫌われていたかもしれない。


 っと、いかんいかん。今はこっちに集中しなければ。


(闇人形達に命令。影を通り掛かったゴブリンだけを攻撃しろ。影からは絶対に出るなよ?夜になったら昨日と同じ方法で狩りを進めてくれ。勿論、討伐数を数えて)


 闇人形達は命令を理解すると“了解”とばかりに小さく敬礼をして影の中に潜って行った。


 自分で作った闇人形だが、ちょっと可愛いな。最初にこの魔術を作り上げ、闇人形をこのモデルにした人はセンスあるよ。


 俺はそう思うと、闇人形との視界共有を解除してレベルが上がったことによる肉体の変化を確認する。


「ふっ!!」


 何も無い空間に蹴りを繰り出すと、明らかに昨日とはキレの違う蹴りが放たれる。


 なるほど、確かにこれは筋トレとか馬鹿らしくなるレベルの強化だ。


 素人からアマチュア並に蹴りの速度が上がっている上に、体幹もしっかりとしている。


 レベルが1上がるだけでここまで違うとなれば、そりゃ皆レベル上げが最も効率のいいトレーニングだと思うわな。


 俺も思うもん。


 魔力も倍以上に増えている。身体能力の向上率とは比較にならないぐらい魔力量が上がっているのだが、これはレベル1の時に頑張ったお陰か?


 レベルを上げる際の振れ幅は人によって違う。俺の場合は魔力の方が上がりやすい体質なのだろうか。それとも、レベル1時代に魔力の総量を上げれるだけ上げていたからなのか。真相は分からない。


 こういう論文発表している研究者とか居ないの?既にレベルを上げてしまっているので、時すでに遅しだが。


「まぁいいや。魔力さえ上がればなんとでもなるしな」


 俺はそう言って、無詠唱で闇人形ダークパペットの魔術と闇剣ダークソードの魔術を行使する。


 レベルが上がって思考力も上がったのか、魔術の発動も早い。


 レベルアップは、とんでもない恩恵を人にもたらしているんだな。


 僅か1秒で作り上げられた闇人形は、剣を持つとすぐさま影の中に入る。


 さて、後はこれが何体作れるかだな。


 レベルアップのおかげで、自然魔力回復の量も上がっている。


 昨日は10体が限界だったが、今日は何人増員できるのやら。


「これはアレだな。闇の軍団を作り上げて、魔力量にものを言わせた圧倒的物量で戦うのがメインになりそうだ。何万体も作れるようになれば、1人で軍を相手できるぞ」


 たった一人で相手の数千、数万の軍を相手に戦う黒魔術師。国によっては魔王とか悪魔と契約した邪に堕ちたものとか言われそうだか、そんなの関係ない。


 かっこいい。それだけで俺を突き動かす原動力となる。


「いずれは、闇人形達にも魔法を撃たせたりとかしたいな。一人軍隊。かっこいいじゃぁないか」


 俺は未来に思い描く自身の活躍を想像しながら、気持ち悪い笑みを浮かべるのだった。


【レベル】

 ジークの転生した世界にある概念。レベルは1から始まり、上限はない。レベルを上げる方法は幾つかあるが、最も知られているのは“魔物を討伐する事”。

 レベルは全ての生物に宿るものであり、魔物や動物ももレベルを持っている。ゴブリンだからといって侮れば、レベル100越えのゴブリンに殺される時もあるかもしれない。

 冒険者の中では、レベル5以下が見習い。レベル10未満が一般、レベル10以上がベテランとされている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る