放置ゲー開始
魔術の研究を初めてから2年が経った。今年で9歳。異世界生活10年目である。
毎日のように魔術の研究に明け暮れ、店の手伝いをし、休日になれば親父に剣でしばかれる。
そんな日々を過ごしていたが、結論から言おう。時間が圧倒的に足りねぇ!!
分かっていたことではあるが、魔術はそんな単純なものじゃない。1+1=2と言う答えにならないのが魔術。1+1をした結果が、3だったり100だったりするのだ。
生涯をかけて魔術の研究をしたのにも関わらず、一切の成果を残さずに死にゆく研究も多数いる中でたった二年で魔術を改変する事が出来るほど甘い世界では無い。
冒険者になれる年齢は12歳から。俺はその時期に冒険者になるつもりなので、そろそろレベル上げを開始したい。
「──────────と、言う訳で間に合わせだがこれでやるしかないな」
俺は魔術を行使すると、2つの魔法陣から剣を持った闇人形が姿を現した。
2年間も同じ魔術を使い続ければ、詠唱も必要ない。魔力操作も5年間ずっと続けて来たので、最初の頃とは比べ物にならない程早く“
物理的攻撃力を持たないなら、物理的攻撃力を持った物を持たせればいいじゃない。
そんな脳筋思考で生み出したのが、この剣を持った闇人形である。
闇人形は物理的にものに干渉することは出来ない。しかし、魔力で形成された物なら触れることが出来る。
“
これは物を斬ることが可能であり、闇人形に持たせることで攻撃力を得ることが出来る。
本当なら、この魔術を解析して物に干渉できる魔法陣を探し出し“
「闇に飲まれて三日間目が見えなかったり、庭の芝生を枯らして親に怒られたりしたからなぁ........」
両親は、俺が熱心に魔術の研究をしている事を知っている。余りに危険すぎるので、どちらかが見てる時でないと実験はダメだと言われたのも時間が足りない理由であった。
流石の俺も、親に心配をかけたくない。そんな訳で、魔術研究は急速に遅くなったのだ。
「まぁ、魔術の研究はおいおいやればいい。今は、コイツを量産してレベル上げをしてみるか。上手くいくか分からんから、とりあえずどれか一体と視界共有しないとな」
作れる闇人形は最大で10体。剣を持たせなければもう2体ほど行けるが、攻撃力のない闇人形に価値は無い。
魔力の自然回復力と、闇人形と剣の維持に使う魔力が拮抗するのがこのラインだ。
もし寝落ちしても、魔力が尽きない限りは命令通りに動いてくれるだろう。
「それじゃ、放置ゲースタートだ。問題点も探さないとな」
その日の夜。人々が寝静まった暗闇の中で、10体の闇人形が街の中から外へ解き放たれた。
そういえば、この世界で街の外を見るのは初めてだな。
俺はワクワクしながら、ベッドに寝転がり目を閉じるのだった。
【魔術】
この世界に存在する概念であり、魔力を用いて魔法陣を描くことによりその効力を発揮する。魔術には階級があり、下から第一級魔術、第二、第三と順に数字が上がっていく。現在確認されている階級魔術は最高で15。
ジークの母が使った“
この世界では人間は第三級魔術を使えれば1人前、第五級魔術を使えれば天才と呼ばれるレベルなので、幼くして第四級を使える(しかも同時行使)ジークはかなり凄い。
闇の中から視界が晴れた時には、既に街の外に出ていた。
多くの草木が生い茂りながらも、人々が通れるように街道がしっかりと用意されている。
闇人形に指示を出して後ろを振り返らせると、そこは城壁に囲まれた我が街エドナスがあった。
(おぉ、いかにも異世界って感じだな。中から見た城壁とは大違いだ)
命令を解除し、親父から見せてもらった地図に書かれていた森を目指す。この世界の地図ははっきりいってゴミ同然だ。
距離もゴチャゴチャだし、全部が“大体”で書かれている。
森までの距離は2km程。方角は分かっているので、後は闇の中で障害物を無視しながら進むだけだ。
再び闇の中に入り、闇人形達は森へと辿り着く。
ここからは獲物探しだ。この森の中には多くの魔物が住んでおり、森の浅い所には弱めの魔物が住んでいる。
なんでも、この森には魔力が多く充満しており奥に行けば行くほど空気中にある魔力が濃くなる。強い魔物というのは、魔力が濃い場所を好むので自然とそこに生態系が作られるようになったんだとか。
そんな危ない場所の近くに街を作るなよとは思うが、魔物とは資源。資源がなければ人々は生きていけないので、そこら辺は割り切るしかない。
森の浅い所にいるのは、スライムやゴブリンと言った序盤の定番モンスター。見た目の特徴も聞いているが、皆が想像するような魔物だ。
これは、この街で冒険者として活動してるおっちゃん達から聞いたから間違いない。
冒険者が来る飯屋という事で、こういう情報は自然と入ってくるのだ。
この店の子供として、手伝いをしていて良かったと思える部分の1つだな。子供は好奇心旺盛だし、基本俺はおっさんたちを煽てて気分を良くさせるから口が回る回る。
冒険者のお姉さんからは可愛いと可愛がられるし、子供とは役得な生き物だ。
お陰で要らない情報も多く手に入ったが、いつか必要になるのではと思ってメモはしてある。
(よし、魔物を探すか)
闇人形に出している指示は魔物の探索、闇に紛れての奇襲、人間を視認した場合は奇襲をやめて闇に潜伏の3つだ。他にも細々とした指示は出しているが、大きく分けるとこの3つである。
特に3つ目は重要で、人に見つかると面倒事になる。下手をすれば、冒険者総出でハンティングだ。
そうなれば放置ゲーは出来ない。俺は冒険者に教えて貰った知識を活用しながら魔物を探した。
(........ぜんっぜん魔物が見つからねぇ!!)
夜の為か、魔物も眠っていしまっている。しかも、冒険者に聞いた魔物の探し方も月明かり以外に光がないため視界が悪すぎて使えない。闇人形に魔物の探し方を教えてはいたが、彼らはそこまで頭がいい訳では無かった。
そうなると手当たり次第になるのだが、広大な森の中を手当たり次第探し回るのは効率が悪すぎた。
これは今後の課題としてメモしておこう。早急に、効率のいい魔物の探し方を確立しなければ。
その後もしばらく森の中を探索すると、闇人形の一体が魔物を発見した様だ。
魔物を発見した際、闇人形達には集まるように指示してある。
俺の意思とは関係無く、闇人形は動き始めた。
闇の中を素早く移動し、辿り着いたは数頭のゴブリン達が眠る場所。
闇人形達は命令どおり、闇の中から奇襲を仕掛ける。
背後から出現すると、頭に思いっきり剣を突き刺した。
「グギ──────────」
うへぇ、月明かりに照らされているので少ししか見えないが、血が飛び散っている。
様々なグロ映画を見てきた俺だが、リアルで見ると流石に少し堪えた。
とは言え、人間とは慣れる生き物である。いずれ慣れ、人すらも殺せるようになるだろう。
頭に剣を突き刺されたゴブリン達は、小さな悲鳴をあげると息絶える。間違いなく死んでいるな。
これで、闇人形の奇襲はゴブリンに通用することが分かった。後は
(ゴブリン数頭じゃ、レベルは上がらんか。それとも、距離が遠すぎて経験値が入ってこないか。もし、レベルが上がってなかったら親父に聞いてみよう。レベル1からレベル2に上がるのに必要な経験値を)
おれはそう思いつつ、闇人形の視界共有を切って寝るのだった。
少し、明日が楽しみだ。
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