放置ゲー理論開始
体が成長し、ようやく少しづつ動きやすくなってきた異世界生活8年目。7歳となった俺は、遂に放置ゲー理論を構築する作業に取り掛かった。
5歳の頃に苦戦した魔力の遠隔操作もお手の物になり、今では街の端から端まで魔力を操作しながら飛ばすことも可能となった。
ちなみに、お袋の部屋からこっそりと持ち出した魔道具の事がバレて怒られた。使い方は間違っていなかったそうだが、あれば本来魔力操作を途中で途切れさせることを無いようにするためであり、決して寝ている時も魔力操作をし続けられるようにするものでは無いそうな。
普段あまり怒らないお袋だが、あの時だけは割とマジで怒られたのを覚えている。使い方を間違えれば、大怪我をする可能性もあったそうだ。
ごめんなさい。
そんなこんなありながらも、ようやく放置ゲー理論を作れる。
魔術を行使するにあたって才能が必要となるのだが、俺にはその才能がある事も分かっている。
既に幾つかの魔術は行使できるようになり、少しだけ生活が便利になった。
1番の鬼門であった“才能”の部分はクリア。後は“努力”で己を磨くだけである。
「やっぱり黒魔術が1番適してるかな。土もいいけど、黒の方が応用効きそうだし」
俺は長年愛読している“魔術基礎”の本を開きながら、そう呟く。
放置ゲーをするにあたって必要なのは、相手を倒せるだけの強さだけではない。
ゲームの世界なら強さだけを求めればいいのだが、ここは現実だ。強さと利便性を重視した物が必要となる。
人の目も気にしなければならないし、何より効率のいい狩り方を探す必要があった。
ゲームの世界とは違って、敵が次から次へと出てくるわけでも無ければ、人目を気にせずに狩りをする訳にも行かないのだ。
この世界には、魔石と呼ばれる魔力を溜め込むことの出来る石を使って“
しかし、この
こんな欠陥品使えるわけないだろいい加減にしろ。というわけで、土魔術は却下。となると、別の魔術を使わなければならないのだが、そこで目をつけたのが“黒魔術”だ。
黒魔術とは闇を操る魔術とされており、国によっては禁忌とされているものである。
主に宗教色の強い国では、死者を操ったり死霊を呼び出せる不穏な魔術は嫌われるのだろう。
幸い、この国では黒魔術は当たり前のように使われているので問題ない。お袋も黒魔術を使えるらしいしな。
それで、黒魔術を使ってゾンビでも作るのかと言われれば答えはNOだ。
俺が目をつけたのは“
この魔術は、闇の中に潜むことができるだけであって、使い道としては偵察なんかによく使われる。
太陽の光に弱く、陽の光に当たると消滅してしまうようなクソザコナメクジではあるが、夜ならば問題ない。
しかし、この“
俺は、この欠陥魔術を何とかして使えるようにしたい。
「もしダメなら、死霊やらゾンビを作り出すしかないな........」
そうなれば日本人としての倫理観は捨てることになる。俺は人間をやめるぞ、ジ〇ジョ!!
俺は1人で某吸血鬼のポーズを取りながら、先ずは“
「闇よ。その形を人としてこの世に現れよ。“
少し恥ずかしい詠唱をした後、俺は魔力を操作して魔法陣を形成する。
詠唱は、この魔法陣を作る際の補助として役に立つ。慣れれば無詠唱でも行使することが出来るが、かなりの練度を要求されるので今は無理だ。
魔法陣が床に浮かび上がると、そこから人型の闇が姿を現す。
身長は大体170cm。木偶人形のような形をしている闇が、俺の前に現れた。
「おぉ、やっぱり初めて使う魔術は興奮するな。右向いて」
「........」
闇人形に命令を下すと、闇人形は命令通りに右を向いた。
この魔術を選んだ理由としてもう1つ大きな理由がある。この魔術は物理的に干渉できない代わりにかなり細かい命令を聞かせられるのだ。さらに言えば、視界を共有することもできる。
これだけ便利な魔術なのだからみんなが使ってもおかしくは無いのだが、この魔術相当行使するのが難しい。
魔法陣が余りにも複雑すぎて、魔力操作がかなりできないと魔法陣を書けないのだ。魔法陣を覚える必要もあるしな。
俺は3年半もの間、1秒たりとも魔力操作の練習を欠かしたことが無いのにもかかわらず、この魔術を行使するには相当集中力を使う。
攻撃力を求める冒険者や一介の兵士には必要のない魔術だな。偵察任務をこなす人でなければ、使う機会が無いしこの魔法陣を覚えるメリットがないのだろう。
「視界共有──────────いでぇ!!」
闇人形と視界を共有すると、頭に激痛が走る。
慌てて視界共有を切り、痛む頭を抑えた。
僅かに見えたのは、俺が今見ている視界と闇人形が見ている視界。2つの視界情報が脳に入ってきた事により、情報を処理しきれず脳がパンクしたようだ。
これ、目を瞑って無いとダメだな。
俺は、もう一度目を閉じて視界共有を開始。今度は頭に激痛が走ることはなく、闇人形が見ている視界が脳に入ってきた。
「3歩前進」
おぉ、命令を下すとその通りに動く。これはちょっと楽しいな。ついでに、闇の中を見てみよう。
「潜伏」
俺の命令と共に、闇人形は影の中へと入っていく。
視界は真っ暗になり、何も見えなくなった。
「んー、何も見えないし何も感じない。これはさすがに無理だな。影から出ろ」
闇人形に影から出るように指示を出した俺は、視界共有を解いて次の指示を出す。
「よし、闇人形、俺を殴れ」
俺の指示通り闇人形は大きく拳を振りかぶると、パンチを繰り出した。
これが大人であれば俺はぶっ飛ばされ、後ろにあるベッドに激突し痛みで涙を流すだろう。
しかし、コイツは物理的干渉ができない木偶の坊いや、木偶の坊ですら物理的な干渉はできるのだからそれ以下だ。
やーいやーい、木偶の坊以下の闇人形!!
闇人形の拳は虚しくも俺をすり抜け、虚空を切った。
「今後の課題は物理的攻撃力を持たせることだな。魔力消費には問題なし。3年間四六時中魔力訓練を行ったお陰か、魔力はまだまだあまり余ってる」
闇人形を操作する際は常に魔力を消費する。しかし、3年間の努力は裏切らなかった。
魔術行使の際に大量に消費した魔力すらも既に回復し、魔力は満タン。使用量よりも回復量の方が多い。
「物理的攻撃力を持たせる方法か........とりあえず魔法陣を解析してみるか」
魔術の行使に必要な情報は、全て魔法陣に詰まっている。
先ずはそれの解析からだな。
既に幾つかの魔法陣については意味がわかっている。“魔術基礎”にも乗っていたし、自分で見つけ出したものも。
様々な魔法陣が複雑に絡み合い、1つの魔術として効果を発現するのだ。
どうやって見つけたかって?
何度か失敗して家の一部を燃やしたりもしたが、幸いバレてない。
その後は庭で実験している。
また何度も失敗する羽目になりそうだな........火関連の魔術じゃないから多分大きな被害にならないとは思うが魔術を舐めては行けない。
“
こちらは流石にバレたが、俺がやったとは思わなかったらしく心配された。
その後、衛兵がしばらくの間近所をよく回っていたが、俺は何も知らないことにしておく。大丈夫、バレてないならセーフや。
「出来れば、怒られたくないな」
俺はそう呟くと、庭に行くために部屋を出るのだった。
今日はここまで。明日からは12時(0時)過ぎに一つづつ投稿します。
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