夜闇と物置の者ども

 しんと静まった夜の埃を被った物置。その物置の中で静寂を壊している者が二人。物置とは別の世界にいるかのような。

 一人はまるで黒の女王のようで、もう一人は白の女王のようで。この場に似つかわしくない人々だ。

「さあさあ、今宵もゲームをするかしら?」

 白い方が口を開いた。

「そうね、ゲームを始めましょう。」

黒い方が答えた。

 いつもこうしているかのようだったが、今日は少し違った。

「ちょっと待って、私も埋もれていたくないわ。」

 卓上の駒とは違うところから声がした。物置には埋もれているものが多くある。きっとその中のうちの一つの目が覚めたのだろう。

「ちょっと待ってあげるから、貴女の名前を名乗りなさいな。」

歌うように黒の女王が言った。


「私は、そこに置いてある色褪せたカードよ。だから参加させて下さいな」

「カードはチェスに参加出来ないわよ?大きさが噛み合わないもの」

「ならお茶会をしませんか?」

「カードは濡れたら困るでしょう」

「ならお話会にいたしましょう」

「なんの話を持っているの?」

「いろんな話を持っているの。」

「面白そうね、どうかしら?白。」

「いいんじゃないかしら?面白ければ。」

「駒とカードが話すなんて変な世界ね。」

「ではお話会を始めましょう。」

「では、私はこの物置の話をしましょう。」

「楽しみにしているわよ。」

「この物置は埃を被っていて、とても静寂でした。けれど、ある時突然静寂が切り裂かれたので目が覚めました。この物置に人が来ていたのです。驚いて耳をすましてみると遊んでいるようなのです。それで、埋もれたくないと思いました。」

「誰が話していたんでしょうね。」

「私たち以外に話している人を見たことはないけれど」

「私たちかもね」

「駒がカードの目を覚ましたと思うと、おかしいわね。」

「何が起こるか分からない世界だもの。あり得るわよ」

「言われてみればそうね。」

「もうすぐ、他の物どもも覚めるでしょう。埃を被った夢から。」

「そうなれば賑やかでいいわね。」

「全員覚めたらうるさそうだけれど」

「それはそれで面白いわね」

「何が面白いのかよく分からないわ」

「そういえば、貴女はなんのカードなのかしら?」

「私はダイヤのQ」

「よろしくね。キュー。」

「クイーンよ。クイーン。」

「ごめんなさいね。よろしくね。ダイヤのクイーン。」

「こちらこそよろしく。赤の女王、白の女王。」

「私の色は黒だけれどよろしく。」

物置が、少し賑やかになったかのように思えた。

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黒の女王と白の女王 主宮 @nushomiya

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