第1000条「セイジンーずっと、傍にー」
囀る小鳥。
差し込む光。
そして服には、ふくよかな感触。
「……またか……」
起き抜けに、苦笑いしつつ。
両親不在の我が家に住み着いた、もう一人の住人を捕らえる。
「
そろそろ、起きよー」
「んぅ……。
もっと、じっくり、コトコト、寝かせる……」
「そんな、カレーじゃないんだから。
そもそも、
「ハルの物は、
ハルの部屋は、
「素直に、自供しようか。
俺に、甘えたかったんだと」
「トリック&トリート」
「ハロウィンちゃうし、拒否権
「あうぅ」
軽くチョップするも、無表情で頬を膨らませる
というか。
つまりは、そういう
「……やっぱ、
こっちは、本番我慢してるのに。
そっちは、いつでも寝込み狙えるって」
「
よって、
「ごめん、そういう話じゃない」
「では、どういう話?」
「
「ブイ」
「恥ずべき
「あうぅ」
2発目のチョップ。
またしても拗ねる
が、少しして、やはりフラットながらも、目を泳がせ、モジモジする。
「……ハル。
こんな
「好きだけど大好きだけど愛しくて
ほ、ほらぁ?
これでも俺、絶賛、禁欲中、だしぃ?
朝から、こんな、ガッツリ抱き付かれてると、そのぉ……。
……ねぇ?」
「……夢の中では
「許可取ったでしょ、一応。
ちゃんと、5年前の時点で。
逆にさ、
もし俺が、そうしなかったら?」
「ボコる」
「はい、詰んだー。
それはそうと、没収」
「ぐえー」
「と、溶ける……。
「そしたら、俺が融接するまでだよ。
寝惚けてないで、ほら。
早く、着替えるよ。
手ぇ挙げて」
「手出しは?」
「しません。
少なくとも、期日。
今晩までは」
「……フニャフニャ」
「いや、
俺の手ク、見せてやる!」
「ふぁっ……。
ハル、
……あぁっ……」
実際に、本番には及ばないなりに鍛え上げた。
この5年で培った対
数分後。
「
これに懲りて、少しは反省なさい」
「今に、見てろ……。
「……お仕置きが足りないみたいだな」
「ちょ……。
ごめ、ハル……。
これ以上は、もう、キャパオ……」
「だったら、言う事、聞きなさい、よっ!」
「……あぁんっ……」
本日の2戦目。
「ご飯、食べてるから。
落ち着いたら、来なね」
やがてガクンッと、ベッドに崩れる、
「ターミネータ◯?」
それを確認し、やや呆れてから。
※
「で、
食事の席でする話ではないのを重々承知で。
「据えハル食べぬは
「据えてないし、ちゃんとした恥を知って。
あと、『据えハル』って
「おさまけポケモ◯。
群青タイプ。
鳴き声つぐつぐ。
元・人気子役で、演技が得意」
「聞いてない。
あと色々、違う。
それはそうとさ、
どうか、どうにか加減、勘弁してませんかねぇ。
俺達まだ、未経験ではある
もちっと、節度、節操、礼節を……」
「節度、節操、礼節」
「そうそう」
「
「うん、マジで反省してないのな、あーた」
「……ハル、嘘
この前は、お咎め無しだった」
「昨日ね?
そりゃ、時間と精神に余裕が
でも今日は、5年前から定めていた休みだ」
「つまり、
「違うし、誇るな!」
「ふ、ふふふ」
叩いて被って、の要領で両手をヘルメットにし、声だけで笑う
予知していたので、
「あうっ。
ほー……ほー……」
ダース・◯イダーみたいな声を出しつつ、
そんなに強くもしていないし、赤くもなっていないというのに。
条件反射の類である。
自業自得だというのに、
そのままスマホを取り出し、ノートした箇所を見せる。
「『オリジン協定』(恋人編)第996条。
『
「『オリジン協定』(恋人編)第997条。
『
「……っ」
が、勝ち誇った顔が鼻持ちならなかったので、アドリブで反撃に出る。
「トラップ・カード、発動。
『オリジン協定』(恋人編)第998条。
『
「おっ?
そう来たか」
「勝った。
ふ、ふふふ」
腰に手を当て、胸を張る
しからばと、
「『オリジン協定』(恋人編)第999条。
『モヤシな
「あうっ」
崩れる
本日3度目の、
「力仕事といえば。
今週分の兵糧、まだ調達してなかったっけ。
夜まで時間
「お買い物デート」
「ん?
まぁ、かなぁ。
行きたい?」
「任意同行」
「被疑者が自分から言うケースは、前代未聞かな。
昨日と今日に限っては、さほど間違ってない気がするけど。
時に、
大学のレポートは、済んでるの?」
「ふ、ふふふ」
「そうだった。
忘れかけてたけど、成績は
「な、
「いや、『優秀さ』がね?
忘れられる
こんな、髪色にそぐわず、極彩色な人」
「こうなっては、
実力行使、荒療治による再生も、
「はい、そこー、手を
「うー」
「拗ねても
「断固拒否。
ハル、やれ」
「
俺としては、役得だけど。
じゃ洗い物、手伝ってくれる?」
「共同作業」
「いや、何度目のだよ」
5年経っても変わらない、少しズレたやり取り。
これから先も、このままなら
※
飲食物の補給をしに、スーパーへとやって来た二人。
が。
これには、
早速、頬を膨らませる。
「ハル。
コスパ」
「いや、うん、分かるよ!
確かに一見、無駄だよねエコじゃないよね!?
2ℓ買って水筒に入れてた方が、安上がりだよね!
でも、ちょっと待って
どうか、こっちの言い分も聞いて
「清聴。
「
ここは、最寄りではあるけど、紅茶の2ℓは売ってない!」
「言われてみれば。
他には?」
「2つ目!
俺は、紅茶じゃなきゃ癒やされないっ!」
「
「別腹なので!」
「なれば、
それはそうと、やはり非効率」
「最後に、3つ目!
小分けにする
きちんと、自分の欲望を飼い馴らせる!
よって、その実、エコ!」
「っ」
そのまま、顎に手を当てる。
「なるほど。
目から鱗」
「ではっ……裁判長っ!」
「可決」
「っしゃあっ!」
こうして、承認を得る
どう考えても、ほぼペットの扱いなのだが。
二人は、それを気にしないのだった。
「相変わらずだねぇ、お二人さん」
そんな
二人と同じ大学の経済学部に通う親友、
「
「久し振りだな、ナツ」
「おひさー、
元気そうで
シン
「ああ。
ナツもか?」
「まぁねぇ。
学内にもコンビニ
ちょっとした買い物でも、ついケチッちゃうんだよねぇ」
「
「あははっ。
ありがと、
現在(正確には5年前、夏休みの直後から)。
紆余曲折を
二人を見ても、
本人も、自覚してはいたが。
互いに認め合い、信頼し合ってさえいれば。
とやかく言う
「じゃ、そろそろ行くね。
シン、
今日は、お楽しみにねぇ」
「なぁっ!?」
「ナツッ!
さては、色々見計らって、イジるのメインで、狙い澄まして、ここに来たな!?」
「んー?
「御意。
今夜は、寝かせない」
「
「わーお。
じゃあ、またねぇ、二人共。
近い内に、また会おうねぇ」
「後で感想、
「やったー。
お裾分け、ゴチでーす」
「なぁつぅるぅさぁぁぁんっ!?」
そんな感じに、会話し。
レジへと向かう
再び、買い物を開始した。
の、その時。
「シキィ!!
おめ、
お菓子ばっか食べんなってんだろ!!」
「
ポテチ!!」
「そういう話しとらん!!
お前の
付き合わされる身にもなれよっ!!」
「そうか?
俺は、平気だぞ?
「おめーがアホみたいなトレーニング日課にしてるからだろうが!!」
「じゃあ、
毎日、100km!!」
「
トゲトゲした口調とは裏腹に、一気に場が和む。
「……変わんねぇなぁ、あいつ
「仲睦まじい。
ふ、ふふふ」
「でも、
「賛成。
触らぬシキアキ、
さもなくば、大火傷で済まない」
「な」
こうして、華麗に素通りした。
※
この5年間。
彼女の暴走を止めるのに、苦労した。
一緒にお風呂に入ったり、
お
その一方で、
かと思いきや、彼の両親にまで取り入り、気に入られた。
お
そんなこんなとしている間に、時は
二人の『オリジン協定』は、
第1000条にまで、差し掛かろうとしていた。
そして、今日。
互いに成人となった二人は。
「……」
「……」
食事、入浴、着替え、ドライヤー。
焦れったそうに目を逸らし、正面に戻し。
「……
「……大丈夫じゃ、ない。
心臓、大渋滞。
でも……もう待てない、待ちたくない、待たされたくない。
ハルが……ハルが、
今
……
「……俺もだよ。
俺も同じだよ、
この5年間、耐えに耐えた。
大言壮語した手前、引くに引けなかったけど。
……どーにか、なりそうだった。
けど」
拳を
「……
「……平気。
でも、その前に。
胸に手を当て、目を閉じ。
「……『
それが、この子の名前。
二人から、1文字ずつ借りて付けた。
それだけ聞くと、
仲良し家族の印象を受ける、微笑ましいルーツである。
だが、しかし。
その候補に、
「……それ。
……
「そう。
けど、それだけじゃない。
多少なりとも、愛されてもいた。
さもなくば、12年もの長きに渡って。
「一理
利用してたって、話だったろ?」
「それも、間違いではない。
でも、信じたくなかった。
二人にとっての
だから数日前、確認して来た。
二人に会いに、刑務所に」
「え?
……一人、で?」
「
首を横に振り、
「二人は、更生していた。
出所まで、まだ時間は掛かるけれど。
きっともう、夫婦にも、家族にも、戻れないけれど。
『一度だけでも
そう、
……辛い
全部、
だって……
経緯や、目的はさておき。
実際に、生を受けた。
オリジンが、
それは……
これから、子供が宿るかもしれない箇所を。
「……だからこそ。
この子の名前は、『
リサイクル、リメイク、リベンジ、リブートじゃない。
ハルが、解呪し、
パパとママが、一度は幸せを願ってくれた。
今度こそ大切に、幸せにし続けたい名前。
そういう、決意表明」
「……そっか。
……強いな、
その頭を、穏やかに撫でた。
「……ハル。
やはり、
こんなの、ただのエゴ、自分勝手?
子供の
「確かに、特殊ケースではあるかも。
「うっ……」
目を下に向け、苦しそうにする
そんな彼女を、
「でもさ。
多分、俺も、多かれ少なかれ、ズレてるんだ。
それが
そこまで考えてくれて、
そう、同調してしまった」
「ハル……」
離したくない。
そう、
「まだ、なってもいないけど。
まだ、デキてもいないけど。
だって、そうだろ?
シテないのに子供の名前決めてるとか。
普通、あんま
でも、
ちゃんと、向き合ってた。
俺にも、
それってさ……すげー
多分、誰にも
中学になるまで。
彼女に、深く慈しまれていた。
正反対な、二つの家族の実例を、我が身で体感し。
二十歳という節目に入り。
「確かに、内容が内容だし。
最初から全部、明かすのは、酷でしかないよ。
でもさ……だったら、また、待てば
ポジティブな面だけ、先に伝えて。
その時が来たら、改めて、話す。
それで、
だからさ……一緒に、立ち向かお?
戦おうよ、
「……承知」
目を閉じ、額を合わせ。
互いの意思を、確認する二人。
やがて、
追って、笑みが
やっと。
本当に、やっと。
今度こそ、
笑顔と
彼女に、全幅の信頼を寄せられた
「……っ!!」
堪らず、
勝った。
あの、忌まわしき夏の夜を。
黒歴史を、打ち消したのだ。
まだ、不完全ではあるものの。
自分と違って
現状で求められる、最低条件はクリアした。
諸々の準備が完了し。
晴れて、自分達は、今。
身も心も、一つとなる。
「
「……ハル……」
覆い被さる
組み敷かれる
最早、二人は、
言葉、衣服、体裁、時間、理性。
それ
そして、パージされた状態で。
「……」
月下に冴える、想い人の、ありのままの肢体。
ロマンチックなシチュエーション。
二人だけのロケーション。
5年間、暖め続けたテンション。
迸りそうな、エモーション。
元から併せ持った、神秘的な雰囲気も相俟って。
最高に美しく、輝いていた。
「……っ……」
羞恥に耐えられず、両手で胸、下半身を隠す
間髪入れずに、
「……意地悪……」
「5年間も縛り付けといて、言う?」
「……合意の上だったっ」
「それはそれとして、不満だったのっ!」
「……男って、面倒……」
「大丈夫。
「
細やかな抵抗として、
健闘空しく、今度は足を
結果、逆効果。
露出した状態での開脚と殊更、恥ずかしいポーズとなる。
「〜っ」
声にならない悲鳴を上げる
かと思えば、
今度は、
「……許さない……」
「え、えと……。
……
「
ずっと、ずっと……ハル断ちしてたっ」
「いや、してないよね摘み食いしてたよね思いっきり寝込み狙ってたよねぇ!?」
「ハル……。
……平らげるっ」
「ちょ、まっ……!?
いきなり、そんな……!?
こ、壊れちゃうっ!!
俺が、壊れちゃうからぁっ!!」
「平気。
どれだけ壊れても、
「マッチ・ポンプ!!」
早速、彼のポンプを
それが、開戦の狼煙となり。
そうして、攻守交代もしつつ、何度か試合をし。
夜が明け、朝が来たタイミングで、どちらからともなく寝落ち。
音信不通で心配になり、駆け付けた
彼女の用意したご飯を、怒られながらも、起き抜けに食べた。
そんな
後日、互いに大目玉を食らい。
課題や補講に追われ、大変な目に遭うのだった。
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