第11条「ユウジンー嬉し涙は、流すも良しー」

「ごめんなさいっ!!」



 翌日、凪鶴なつるの部屋を訪れ。

 開口一番に、紺夏かんなは土下座した。



 こうなると、凪鶴なつるは少なからず予測していた。

 昨日、帰宅してぐに、寵海めぐみから聞いていたのだ。

 彼女に、事情を話した、と。



 なんだかんだ人の紺夏かんなことだ。

 負い目を感じ、みずから謝罪に赴くのは、自明の理。

 


 凪鶴なつるは、困った。

 彼女にけるべき、言葉が見付からなくて。



「……熊耳ゆうじさん。

 どうか、めて。

 君に謝られるだけのいわれが。

 今の凪鶴なつるには、い」

「私には、るっ!!

 私怨と私情で、あなたを傷付けた!!

 私の独りよがりに、身の程知らずにも、無関係なあなたを巻き込んだ!!

 しかも、ただえぐっただけじゃない!!

 あなたの恐怖を、悲しみをっ!!

 トラウマを、蘇らせてしまった!!

 知らなかったからって、許されるあやまちじゃないっ!!

 私……私はぁっ!!」



 座っていたベッドから降り、近付き。

 凪鶴なつるは、紺夏かんなの頬を摘んだ。

 


「……許した。

 今のが、罰。

 これで、この件は不問」

「そ、そんなっ!!」



 続いて、てのひらを押し付け、グリグリ捏ね回す。



「……じゃあ、追加。

 凪鶴なつるの質問に、大人おとなしく、素直に聞くこと。

 了承?」



 話すことうなずこと出来できず。

 紺夏かんなは、サムズアップをした。



 そこまでして、ようや凪鶴なつるから解放された。

 安心した拍子に、思わず深呼吸をする。

 別に、酸欠になってもいないのを承知で。



「君。

 ハルのこと、好き?」



 今度こそ、ガチで呼吸困難に陥りかける紺夏かんな



 こんなズバズバ切り込んでくるとは。

 流石さすがに、計算外でしかなかった。



 しかし。

 ここで誤魔化ごまかすのは、違う。

 今の紺夏かんなには、今度こそ凪鶴なつるに誠実に接する義務、恩義がる。

 それまで、反故ほごにはしたくない。

 そこまで、落ちぶれたくはない。



「……好きだよ。

 無論むろん幼馴染おさななじみとしてだけじゃない。

 人として、異性として。

 ……私は、女として。

 男としての、ジン。

 ……ううん。進晴すばるが、好き」

「なら何故なぜ、告らない?

 コスタイ」

「あー……」



 あからさまに、気不味きまずそうに顔を逸し、頬を掻く紺夏かんな

 凪鶴なつるは、小首を傾げる。



なにか、わけり?

 言えないのならば、別に」

「言うっ!

 ちゃんと、言うからっ!

 それくらいは応えさせてっ!

 そんな簡単に、無罪放免みたいにしないでっ!」

「……面倒」

「せめて、『難しい』って言って!?

 そんな、明け透けに突き放さないで!?

 っても今の私に、そんなこと頼む資格いけど!」



 ツッコミつつも謝罪する紺夏かんな



 これでは、話が進まない。

 普段ならともかく。

 劣勢、咎人のままでは、てんで回せない。



 そう悟り、打開策を練る紺夏かんな



 ややってから。

 この場は、開き直ることにした。



「……分かった。

 今日の所は、なるべく罪悪感を覚えないようにする。

 今、最優先すべきは、織守おりがみさんだから。

 だから、それについては後日、改めて済ませる」

「……?

 別に、今のでも充分」

「私の、気持ち的な問題なのっ!!

 かく、それくらいはさせてっ!!

 お願いだからっ!!」



 お願い。

 それを受け、凪鶴なつるの目の色がわずかに変わる。



「それは、友達として?」

「……へ?」

「友達としての、お願い?

 なれば、凪鶴なつるにも、答える義務が発生する」

なぁんでぇっ!?」

「別に、どこも不思議じゃない。

 友達のリクエストには、応える。

 それだけ」

「……待って?

 ……え、友達?

 ……織守おりがみさんと、私が?」

「?

 いな?」

「う、うーん?

 ……どーだろ。

 確かに、同士だとは思ってたけど……」

「じゃあ、友達」

「『じゃあ』って、なに!?

 そこ、イコールじゃなくない!?」

「しからば、定義は?」

「え!?

 えと……RAINレインしたりぃ。

 コイバナしたりぃ。

 放課後、一緒にご飯行ったりぃ。

 あるいは、着せ替えしたりぃ。

 ……とか?」

「最後以外、クリア済み」

「そうだったぁ!?」



 生まれて、この方。

 凪鶴なつるには、友人などという稀有な存在はなかった。



 最近こそ、進晴すばる優船ゆふね切火きりかと親しくなれど。

 どうせなら、同性の友人が、もっとしいし、大事にしたい。



 信頼を勝ち取るための、手っ取り早い方法。

 それこそが、『リクエスト』である。



 そこら辺の事情を、なんとなく察し。

 ははーんと、紺夏かんなは思った。


 

「そうだよ!

 織守おりがみさんと、私は、友達!

 だから、喧嘩したら、きちんと謝らなきゃならない!

 有耶無耶にするのは、違う!

 そんな生温いのは、友達とは言わない!」

まこと?」

まこと

 少なくとも今、私の中ではっ!」

「なれば、従う。

 追って、謝罪されたし」

「ありがとぉ、織守おりがみさぁんっ!!

 お礼言うのも、なんか違う気がするけどぉ!!」

「……難しい……。

 一夜漬けで臨む受験より、難しい……」

「そこまでじゃないよ!?

 織守おりがみさんが、考えぎなだけだよ!?」



 無表情のまま、頭をグルグルさせる凪鶴なつる



 ……よく進晴すばるは年中無休、四六時中、この不思議ちゃんを相手取れるな。

 そう思えてならない、紺夏かんなだった。



「で、ごめん、織守おりがみさん。

 議題は、『私が、どうして、進晴すばるに告白しないのか?』。

 だったよね?」

「左様」

「分かった、話すよ。

 ところで、なんさっきから、古風なの?」

「デフォ」

「唐突な横文字!」

「短くて言いやすい。

 よって、コスタイ。

 ブイ」

「……そだね!」



 一旦、思考放棄し。

 紺夏かんなは、身の上話をする。



「の前に。

 そこ、体を痛める」

「ふぇっ!?

 ちょ、あのっ……!?

 お、おおお、織守おりがみさんっ!?」



 紺夏かんなをお姫様抱っこし、ベッドに座らせ、クッションを用意する凪鶴なつる

 フェイシャルの少なさに反した好待遇に、困惑しつつ。

 紺夏かんなは、大人おとなしく享受することにした。



「……進晴すばるから、聞いたことい?

 RAINレイン誤爆事件」

「初耳」

「そっか。

 まぁ、だよね。

 あいつ、自分から弱み見せるタイプじゃないもんね。

 少し前まで、常にガッチガチに塗りたくって固め捲ってたもんね。

 その割には授業中、ノート取ると見せかけて、小説書いてるんだけど」



 なんとなく居心地いごこちの悪さを覚え。

 紺夏かんなは、体育座りをした。



「中学の頃はさ。

 あいつ、現代っ子らしく、スマホで書いてたんだ。

 そしたら間違って、グループに、書きかけのをコピペ送信しちゃったの。

 で、慌てて消去して、なんとかこときを得たの。

 さいわい、既読も付けなかったからね。

 ……私以外は」

「運命……」

「かもね。

 それ阻んだの、織守おりがみさんだけどね」

「グサッ」

「口で言うんだ?

 なんか、織守おりがみさんて結構、面白いね」

「どこが?

 具体的に述べよ」

「しまった、そういうタイプだった、これタブーだったぁっ!!」



 後日のタスクが、再び増えた。



「それはそうとして。

 進晴すばるも、それに薄々、気付きづいてるんだよ。

 その後、ぐ、私からフォロー、メッセしたし。

 一瞬だけとはいえ、あいつの自作、読んでるし」

「……ストーカー?」

「それ、禁句っ!!

 普通だからっ!

 好きな相手とグループしてたら、特に会話してなくても!

 定期的に張り付いたり、読み返したりするのはマナー、セオリーだからっ!!

 意中の相手のことは残さず網羅したくなるのは、自然だからっ!!

 少なくとも、私の中ではっ!!」

「そーっ……」

織守おりがみさぁん!?

 そんな、分かりやすく、ドン引かないでぇ!!

 セルフ効果音出しながら、物理的にメンタル的にも距離置かないでぇ!!

 お願い、戻って来てぇ!!」

「ただー」

「いや、早ぁっ!!

 口調の緩さに反して摺り足、すごっ!!

 ガッシ◯のアー◯みたいっ!!

 友達、便利っ!!」

「そーっ……」

「あー!!

 ごめん、ごめん、もう言わない、便利扱いしない、本当ホントごめんっ!!

 ほら! 二人だけでも、グループ作るからっ!

 ねっ!?」

「必要性と、旨味と、今までとの違いが分からない」

「だよね、ごめん!

 私も、言ってから思った!

 じゃあ、ほら!

 子どもの頃の進晴すばるの写真、送るからっ!!」

「いまー」

「おかー!!」



 離れたり、急接近したり。

 気分はさながら、フリスビーやボールで遊ぶ犬のようだ。



「で、本題に戻るけど」

「清聴」

「ありがと。

 ところで、なんで私の膝に、座ってるの?」

「特等席」

「別に、なにくないよ?

 見晴らしも、座り心地も」

「お気になさらず」

「するよ?

 気にするし、気になるよ?

 あと、私の手を、シートベルト代わりに使わないでくれる?」

「……注文、多い。

 キャパオ」

「普段どんだけ自由に過ごしてるの!?

 どんだけ進晴すばる寵海めぐみさんにデレデレなの!?

 あと多いのは、私の注文じゃなくて、織守おりがみさんのツッコミ所だよ!?」

「ぷ、プシュー……。

 プチシュー……」

「食べたいの!?

 て、煙出て来た、わぁぁぁ!!

 お、織守おりがみさぁぁぁんっ!?

 しっかりぃぃぃぃぃっ!!」



 情報過多により、熱暴走する凪鶴なつる

 そのまま、しばら紺夏かんなの膝枕で休むのだった。



「……回復、完了」

かったぁ。

 ご、ごめんね、本当ホント

 あんまり、うるさくしないようにするね?」

「平気。

 この程度で、凪鶴なつるはへこたれない」

「うん。

 私が平気じゃないから、へこたれそうだから、言ってるんだ」

「お雑魚ざこ

可愛かわいく言えば許されると思ってるよね絶対ぜったいそうだよね?」

「ハルのが、面白かった」

なんの話ぃ!?」



 またしても脱線しそうだったので。

 紺夏かんなは、なかば強引に話を戻す。



「……で、ごめん。

 どこまで話したっけ?」

「君が、ハルのストーカーだった件」

「そうだった。

 ありがと、織守おりがみさん。

 それはそうと、その件に関しては、日を改めて、また話そっか」

「デート」

「そんなポジティブな感じかなぁ。

 この際、それでいや。

 とまぁ、そんなわけで。

 互いに気付きづいた上で次の日、学校で会ったわけよ。

 私としては、もう、告白チャンスだと思ったわけよ。

 それを盾に取りつつ、あいつの趣味を肯定する。

 そうすれば、一気にランク、ステップ・アップ。

 晴れて私達も、カップルの仲間入りーと。

 そしたら」

「そしたら?」

「あいつ全部、かったことにしやがった。

 メッセ消す感覚で、何食わぬ顔で、接して来やがった」

「ギルティ」

「ね!?

 そうだよね、そう思うよね!?

 あいつ、本当ホント信じらんないっ!!

 せめて、『昨日のことは内密に』とか、『変な空気にして、ごめん』とかさぁ!!

 それくらいは、言うべきだよね!?

 そう思うでしょ!?

 織守おりがみさんっ!!」

「うぉう……」

「だよね!?

 やっぱ私、間違ってないよね!?

 しかも、朝イチ!!

 迎えに行った早々にだよ!?

 あったま来たから、その日から登下校、別にしてやったよ!

 おかげで遅刻増えたみたいだけど!

 そんなん、知ったこっちゃないね!!

 大体、あいつが悪いんじゃん!!

 幼馴染おさななじみの私に、隠しごととか!

 進晴すばるくせに、生意気なんだよっ!!

 あっちが告白さえして来れば、こっちはいつでも、オッケーしたってのにさぁ!!

 私だって、アプローチの一つくらい、されたかったってーのぉ!!」

「ど、ドードー……」



 一気にブレーキの壊れた紺夏かんなに、押し負ける凪鶴なつる

 そのまま、少し腕をブンブンさせると、落ち着いた。



「とまぁ、そんなわけで。

 なんかもう、冷めちゃってさ。

 あー……私って所詮、その程度だったんだなぁ、って。

 そしたらもう、どーでもくなって。

 んで、高校に入ったら、クラスも別々になってさぁ。

 これを機に、せめて、あいつに相応ふさわしい子を、見付けようって。

 そしたら私も、あきらめつくかな、って。

 だから、織守おりがみさんに協力したの。

 でも……」

「……でも?」

「二人が、一向に煮え切らないからさ。

 なんか……モヤモヤして。

 そしたら、こう……。

 沸々ふつふつと、よこしまになって……。

 忘れてた本音が、ぶり返しちゃって……。

 その果てに、その……。

 ……ごめんなさい」

「……?

 つまり……嫉妬?」

「……お恥ずかしながら。

 いや、もう、本当ホント、今更、何様だよって感じだよね!

 自分から何年も宙ぶらりんでいたくせにさっ!

 本当ホント……。

 ……私って、なんなんだろうね……」



 例えるならば、感情のフリー・フォール。

 上がり下がりの激しぎる紺夏かんなに、振り回されつつ。



 そんな、素直な彼女を。

 凪鶴なつるは、羨ましく思った。



熊耳ゆうじさん」

「いや、うん、大丈夫、分かってるよ!

 私本当ホント、そんなんじゃないから!

 この前のは、ちょっとした弾みで!

 今は、ちゃんと応援してるから!

 織守おりがみさんたちこと

 寵海めぐみさんから、事情も聞いたし!」

「事情より。

 凪鶴なつるの話を、聞くべし」

「え!?

 あ、うん。

 そう、だね。

 ごめんね? 織守おりがみさん。

 それで、なに?」



 バッド・ループに突入していた紺夏かんなを、どうにか呼び戻し。

 そのまま、凪鶴なつるげる。



「君に、頼みたいこといくつかる」

なんなりと!」

ず、一つ。

 金輪際こんりんざい、名字、禁止」

「……へ?」

凪鶴なつると、熊耳ゆうじさんは、友達。

 しからば、呼び捨てでしかるべき。

 いな?」

「いや、まぁ……。

 そう、だけど……。

 ……いの?」

「大歓迎」



 言いながら、す◯ざんまいみたいなポーズを取る凪鶴なつる

 かと思いきや、そのまま紺夏かんなに近寄り。

 彼女を、ハグした。



「容疑者、確保」

「ぐっ!?

 い、今は、刺さるっ……!」

「呼べー。

 呼べー。

 呼び捨てろー。

 その方が時短、楽だぞー?」

「圧力っ!!

 わ、分かった!

 改めて、よろしくね!?

 えと……!

 ……『凪鶴なつる』っ!!」

「任せよ、『紺夏かんな』」



 紺夏かんなから離れ、綺麗なフォームで敬礼する凪鶴なつる



 表情や口調に反する賑やかさに。

 思わず、紺夏かんなは笑ってしまった。



「次に、二つ目。

 やはり『ナツ』は、紺夏かんなが呼ばれるべき。

 よって、返還する」

「え!?

 いやいやいや!

 気にしなくていから、全然っ!

 あんなの、一時の気の迷いでしかないって!」

「一時だろうと、なんだろうと。

 大切な友達が、迷っているのを。

 凪鶴なつるは、放ってはおけない」

凪鶴なつる……」



 再び、今度はゆっくりと近付き。

 紺夏かんなの頬に、凪鶴なつるは手を置いた。



「……紺夏かんな

 謝るべきは、凪鶴なつるの方。

 凪鶴なつるは、君をだました。

 ハルを……君の好きな人を。

 目で、見てしまった。

 結果的にとはいえ。

 君を、いたずらに困らせた。

 ……本当ほんとうに、ごめんなさい。

 でも……もしも、許されるのであれば。

 凪鶴なつるは、彼と。

 ……ハルと、付き合いたい。

 すべてとは言わないまでも。

 彼のほとんどを、凪鶴なつるが占領したい。

 けれど、凪鶴なつるは、同時に。

 紺夏かんなの気持ちも、守りたい。

 君の、『ハルへの好き』だって、尊重したい。

 だから、『ナツ』を返す。

 ハルを、もらう代わりに」

凪鶴なつる……」



 今まで、どこか適当にあしらっていた、利用していた凪鶴なつる

 そんな彼女に、優しくされ。

 紺夏かんなは力量、器量の差を痛感させられた。



 素直に、思ってしまったのだ。

 かなわないなぁ、と。



 同時に、うれし涙を流してしまった。

 ようやく、報われたなぁと。



「……言えるかな。

 今更、私に」

「問題い。

 凪鶴なつるが、アシスト、レジストする」

「……えと、うん、大丈夫だよ?

 私の方で、なんとかするから」

「手出し無用」

「うん。

 出そうとしてるの、凪鶴なつるなんだ。

 そして十中八九、ろくことにならないってか、即バレするんだ」

「??」



 伝わらなかった。

 紺夏かんなは、素直にあきらめた。



 なるようになるだろう。

 多分。



「最後に、三つ目。

 今、進晴すばるは、フリー」

「え?

 うん。

 知ってるよ?

 っても、形式上だけどね」

いな

 昨日、『オリジン』、解散した。

 だから、またしても無所属」



 ……。

 …………。

 ……………………。



「えぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇっ!?」



 ここに来て、まさかのフリ展開。

 紺夏かんなの口から、今年一番いちばんの絶叫が放たれても、不思議ではない。



 もっとも。

 思いっ切り劈いているので。

 堪らず、凪鶴なつるは耳を塞いだのだが。



「な、なんでぇ!?」

凪鶴なつるは、紺夏かんなの秘めた熱情を知った。

 である以上、素通りは出来できない。

 紺夏かんなにも、なにかしらのチャンス、補填が入るべき。

 でないと、アンフェア」

「そうかもだけどぉ!!

 にしたって突然、急展開、生き急ぎ過ぎでしょぉ!?」

「杞憂。

 これは、一時のこと

 ハルにも、そう伝えた。

『一旦、解散しよう』と」

「それ、戦地とかで言う台詞セリフじゃん!!

 こういう、センチな場面で使うフレーズじゃないじゃん!!」

「おー。

 見事なライム。

 パチパチパチパチ」

「ねぇ褒めるもりるっ!?

 あと、そこじゃないよねぇ!?

 てか、それ!

 進晴すばる、ちゃんと聞いてた!?

 きちんと、期間限定だって、気付きづいてた!?」

「ボーッと棒立ちしていた」

「アァウゥトォォォォォッ!!

 ヤバイって、マジで!!

 あいつ今、絶対ぜったいろくに眠れてないよ!?

 なにもしてないのにヘトヘトだよ、確っ実に!!

 夏休みの最終日に、あんまりだよっ!!

 明日、学校で、ず間違い無く、『宿題1日で終わらせた』って、勘違いされるじゃん!!」



 現に、その通りだった。

 進晴すばるは絶賛、死に体だった。



「平気。

 ハルは、そこまでヤワではない。

 ……恐らく」

凪鶴なつるも、不安なんじゃん!!

 ぐに、電話しなって!!

 私となんか話してる場合じゃないでしょ、普通に!!」

いな

 今の凪鶴なつるは、ハルとはなんの関わりもい。

 むしろ、ここで攻めた方が、紺夏かんなためになる」

「は?

 ここまで敵に塩を送られて、従えるはずいから。

 私、そこまで女も、自分も、捨ててないから」



 急転直下。

 紺夏かんなが、絶対零度となった。

 (クラスのイメージする)凪鶴なつるなんて目じゃないレベルで、冷たくなった。



「ご、ごめん……」

「違うでしょ?

 謝るべき相手は、進晴すばるでしょ?

 私に謝ったって、解決しない。

 ほら。早く、連絡したげなって。

 電話じゃなくて、メッセでもいから。

 なんなら、私が偽装して」



 などと、二人で凪鶴なつるのスマホを触っていたら。



「……あ」

「あ……」



 誤って、どちらかの指が、RAINレインの着信ボタンを押してしまい。



『な、ナツ!?

 ナツか!?』

 


 秒で、渦中の進晴すばるが、出てしまった。



『ナツ、ごめんっ!!

 俺が、全面的に悪かった!!

 でも、どうか!!

 もう一度だけ、俺にチャンスをくれないかっ!?

 俺……このまま終わりだなんて!!

 そんなの、だよっ!!

 もっと、ナツと話したいっ!!

 あわよくば、イチャイチャ』

「はいはい、そこまでー。

 凪鶴なつる、フリーズしてるからー」



 ピクリとも動かなくなった凪鶴なつるに代わり。

 紺夏かんなが手を叩き、気を引く。



『ゆ、ユウッ!?

 なんで、そこにっ!?』

「男子禁制」

『す、すまんっ!』

「分かればよろしい。

 それより、ジン。

 昨日のは、気にしないでいから。

 凪鶴なつる、解散のもりだったんだって」

『……はい?』

「詳しくは、追って私から連絡する。

 あとは、本人に直接、確認しな。

 てなわけで、ジン。

 今から2時間後に、学校ね。

 場所は、私達の教室。

 そこに、凪鶴なつる、派遣するから。

 はい、決定けってー」

『は……はぁ!?

 どういうことだよっ!?

 てか、なんでユウが仕切るんだよっ!』

「二人が、てんで頼りないからでしょ。

 んじゃね」



 一方的、強制的に電話を切る紺夏かんな

 そのまま、スマホを凪鶴なつるに返却する。



 刹那せつな、動きを取り戻し。

 凪鶴なつるは、紺夏かんなに助けを求める。



「か、紺夏かんなぁ……」

「任せな。

 残り時間で、ばっちり仕上げてみせる。

 こんなことろうかと、見繕って来たんだ。

 えず、髪型と服だけでも、いじろっか」

押忍おす……」



 こうして、凪鶴なつるはマネキンとなり。

 ほどくして、進晴すばるの姉も参戦し。

 二人のコーディネートにより、劇的にビフォアフし。



 そして、進晴すばる凪鶴なつるは。  

 一つの答え、決断を迫られるのだった。

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