第9条「オンジンー挨拶と労いは、欠かすべからずー」
希望と絶望。
それは、常に表裏一体。
絶望している時にこそ、光に
希望を持っている時こそ、闇に染まり易い。
それを
生きる
趣味と実益を兼ねる、困難さ。
現代社会の、世知辛さを。
「は、はは……。
……俺……マジで、
宿題や差し入れなど
家族にまで、手厚く支えられて。
その上で、
選考外、だなんて。
何度確認しても、結果は同じ。
自分のペンネームも、タイトル名も、載っていない。
最終選考まで残ってないから、評価シートさえ
スマホにさえ、嘲笑われている気がする。
「お前、眼中
「っ!!」
腹いせなのを承知で、スマホを壁に叩き付ける。
いとも
もしかしたら、壊れたかもしれない。
こんな
「あぁ……!!
あぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁっ……!!」
狂おしい
死にたい。
目に付く
自分を蹴落とした審査員に、物申してやりたい。
勝ち残った作品を、今
次から次へと押し寄せる、ドス黒い欲望。
やがて、それ
「もう、死んじゃえば?」
「死んじゃおうよ」
「小説は、君の全て、君その物だった。
それを軽々しく拒む、否定する、薄情な世界なんて。
もう、こっちから願い下げだ。
命なんて、捨てちゃおうよ」
「どうせ、誰も悲しまない、苦しまないさ。
だって、君は『選考外』。
そもそも、誰の目にも止まってないんだから」
「……」
知らぬ間に握っていた
世界も、未来も。
ーー自分自身も。
「……」
目を閉じ、深呼吸し。
覚悟を、定め。
「……?」
先程まで
天国か地獄への片道切符が。
知らぬ間に、手元から消えていて。
「……
ハル」
いつの間にか侵入していた。
自分の小説を、最初に『選考外』扱いした審査員。
「……なん、で……」
「今は、
連絡が取れないから、駆け付けてみれば。
間に合った、命拾いしたから、
画面割れ、暗転したまま、ベッド脇で転がるスマホを見下ろし。
「もう一度。
何度だって、問い詰める。
君は、一体、今、ここで。
いや……
質問などではない。
明確な、命令。
憤怒に満ちた、脅迫である。
空っぽなまま、
こんな
「……終わらせようと、したんだ。
嫌いな物、全部」
膝から崩れ落ち、
「……嫌いなんだ。
俺の
結果だけ突き付けて敗因を教えてくれない、まるで審査してくれない、
てんでタイトル、文章の形を成していない、一発ネタでしかない、面白くもないのに評価されてる連中も。
……俺自身も」
涙を流しながら。
「……俺は、自分が取り分け嫌いだ。
作画や設定が崩壊してるアニメ、お遊戯会染みた実写化の炎上を見て、『いい気味』って悦に入る。
何一つ刺さらない原作が、コネや謎のゴリ押しでメディア化されると、『頓挫、延期、爆死しろ』って切望する。
こんなに一生懸命、心血、リソース注いでるのに、感想もハートも
公共の場で、エロや異世界、ホラグロや下ネタ、薔薇や百合ばっか押されてると虫唾、悪寒が走って、『周りの迷惑、考えろよ』って謎目線になる。
楽しみにしてた
そんな、俺が。
俺は、大嫌いで、許せなくて。
……時折、無性に殺したくなる。
……こんな
泣き崩れる
しかし、
そんな自分も。
「……ごめん。
ちょっと、ヒスってた。
もう、大丈夫。
俺なら、平気だから。
ちゃんと、切り替えられるから。
俺は、そういう
そういう
……だから」
「……っ」
そのまま、彼に訴える。
「ハル。
そこまで、下から振る舞う?
ピンチなのに、殻に閉じ篭って、
穏便に、波風立てずに、上手く立ち回ろうとする?」
「……それが、『全員、楽になる』唯一の道だからだよ。
人間なんて所詮、エゴの塊。
いつだって、誰だって、本心では。
他者なんて全員、見下してる。
踏んづけて、
自分を認めさせくて、崇めさせたくて、
だったら、最初から
同じ目線に立つから、反感を食らう。
平等であろうとするから、上下、雌雄を決する。
他の車を、先に行かせるみたいに。
電車で、席を譲るみたいに。
相手に合わせて、引けば
そうすれば、誰も
誰にも迷惑を掛けない。
誰の負担にもならない」
「……ハル。
落胆中の
ハルの優しい声、口調が好き。
けれど、
……切なく、儚くなる」
「……ハル。
そこに、含まれていない。
ハルが言う所の『
肝心のハルが、入っていない。
ハルが、『迷惑掛けまい』と無理をする、気を遣う、振る舞う
それ自体が、皮肉な
「じゃあ、俺の
どうせ
こんな、お荷物の
「ハルは……お荷物なんかじゃない。
ハルは、
ハルは、
「
「俺は、その程度の凡人!!
ちっぽけな、しょーもねぇ、評価にさえ値しねぇ、
俺を理解しているのは、俺だけだ!!
間違っても、あんたじゃねぇ!!」
「
「じゃあ、答えてみろよ、えぇ!!
俺は今回、
あんたにも
1万以上の投稿作の中から、たった1本!!
的中
これ
そのまま、持って来た鞄から、箱を出し。
ケーキだ。
お手製の、チーズ・ケーキが、ホールで出て来た。
頂上に、チョコ・プレートを乗せて。
『ユキヨシ先生
お誕生日おめでとう』
「……は?」
この程度の
暴走状態の自分に、こんな質問を投げ掛けられるのを予測しているのも。
参加する
それが、述べ1万本。
簡単に、短時間で、ノー・ヒントで、探し当てられる
だのに、この女性は。
目の前に
自分の拙作を。
自分を。
見付けて、くれた。
評価、してくれた。
「なんで……。
「造作も無い。
全部、最後まで読めば、自ずと取れる」
「……冗談でしょ?
全員のを、読んだっての?
1万本だぞ?
最低文字数、10万字だぞ?
中には、40万字とかも
単純計算で、最低10億字以上だぞ?
君は……それを
この、たった1ヶ月ぽっちで?
高校生の貴重な夏休みを、
「
ちゃんと、有効活用した。
そして、肯定。
ハルの
ハルは捻くれ者だから。
思いの
惜しむらくは、アピール。
もっとステマすれば
「等価じゃないじゃん……。
全然、
同じなんかじゃ、ないじゃん……」
「肯定。
今のは、失言だった。
ハルの作品は、そこまで軽くない。
「……ごめん、
これからは、あんま言わんから、今回だけ許して。
……
「左様。
「
普通、有り得ないでしょ……?
イカレを、イカレで上回るの、
こっち、逆に冷静になった、ビビっちゃったじゃん……?」
「ヘタレ」
「コンナロー!!
今のは、今回ばかりは、
首根っこを
「『オリジン協定』第9条に
だから、マージン用意した。
ケーキ、チキン、ポテト、ピザ、クッキー、ビスケット、ホット・サンド、エトセトラ。
「
「これからも、
されど、ハル。
君程度に、
「あーた、この前、
「だから、使い倒せ、踏み倒せ。
君の
「はい、スルー入りましたー。
わー、久々だー」
「ハル。
もっと、
困ったら、
君は、
だから、今度は
君の永久、最強ヒーロー、ヒーラーになる」
「ナツ……。
……ありがとう」
「礼には及ばない。
この程度では、まだまだ恩返しになっていない」
「
これ以上は、
せめて、もう少し小分けにして?」
「それはそうと、ハル」
「
「
あと数分で、ここに来る」
「いや、本格的にクリパじゃん、ヤッバ!!
俺、予選通過さえ
「新しいハルくんの誕生だよ。
ハッピーバースデー」
「今度は、
で、ナツさん、最初のお願い!!
片付けと用意、手伝って!!」
「ギョイサー」
慌ただしく、作業を済ませ。
「よぉ!!
来たぜ、
って、
「『けんぷふぁー』」
「お!?」
「ふ、ふふふ。
君
文学とは、高尚な事物。
君程度に理解
ふ、ふふふ」
「
俺、カラオケ歌えるぜ!?」
「ば、
……
こんな、類人猿、に……?」
「
勝ったぞー!」
「屈辱、驚嘆。
ハル、
抜本的な見直し、早期改善が叫ばれる」
「
てか、
「それは、
消えろ、招かれざる客
ボケ」
「いきなり当たり強くね!?
てか、
あ、今更か!!」
「
ハルの友人だろうと、エコでなければ信用に値しない。
この、掃除サボり魔。
ボケ」
「ひっでーな!!
最近は、ちゃんとやるようになったぜ!?
「
ならば、
次からも、ちゃんと継続されたし」
「サンキュー!!
ところで、
お前は、ここで
「飾り付け、料理、掃除、エトセトラ」
「
「ハルに、頼まれた。
料理は、自発的」
「『ハル』って、誰だ!?」
「訂正。
言語、思考レベル、最低までダウン。
これより、君の察し力にまで調整する。
「
「
「『同士』って、
「『オリジン』」
「『オリジン』って、
「『オリジン』、とは」
「いや、いぃつまでやっとんじゃ、口
まぜるな危険にも
早よ、入って来んかいっ!!」
「あれ、ハル」
「おぉ!
「今、拾うな、そこ!!」
という天然コントを挟んだものの。
6人は、派手に騒ぐのだった。
※
「ありがとね、
送ってくれて」
「問題
招いたのは、
「そうだけど。
……まぁ
気を付けて、帰ってね」
「御意」
これで解散かと思い、踵を返そうとする。
が、
「……
余っ計でしかない
もう少しで、ジンが。
……進晴が。
私と、同類、同等に。
リアリスト、ミザントロープ、ニヒリスト、ペシミストに、なったかもだったのに。
現実に、打ちのめされてくれたのに。
『夢』なんていう
「……
泣き笑いしながら、
「……
私が、
正しい
ちゃんと地に足付けて、現実に、将来に向き合ってるのに。
その向き自体が、間違ってたっての?
私だけが全部、悪いっていうの?
そんなの……
こんな仕打ちって、
あんまりだよ。
ねぇ、そう思わない思うでしょ思うって言ってよ思ってよ思いなさいよ、ねぇ。
……
「……ごめんなさい。
先程から、話が見えない」
顔を上げ、
「そうやって、
私の気持ち、全部、知ってて!!
あいつの目の前で、あいつの
間接的に、婉曲的に、雑にフラれて!!
それでも、まだ、忘れられなくて!!
クラス離れたから益々、接点、
二人だけで、遊び誘う勇気も蛮勇も甲斐性も
そんな、ダメダメな私をっ!!
「な、
「
私、知ってるんだから!!
全部、ちゃんと、分かってるんだから!!」
それでも
「
出会ったのも、お風呂に入ったのも、共に過ごした年月も、互いの熟知度も、一緒に映ってる写真の枚数も、話した言葉の数も、彼への想いも!!
全部、私が
なのに、
おかしくないおかしいよおかしいでしょおかしいっておかしいってばちゃんちゃらおかしいよねぇ!?
一体、彼に
ここまでの地位を、築き上げられたのっ!?
どうせ、体でも売って、抱き込んだ、唆したんでしょ!?
この、淫乱、花魁っ!!」
「違う……。
ハルも、
「ねぇ、教えてくれるかなぁ!?
私は、
あなた個人のエピソードなんて、どうでも
でも、ニッチ、センシティブ
だから、代理にしてあげるから教えて、
ベッドの上の
彼と交わって、どう思った!?
やっぱり、
それとも、大穴でテクニシャン、誘い受けだった!?
どんな下着、どんなプレイだった!?
どんなコス、下着なら、
もしかして毎日、ズッコンバッコンやってるの!?
私から、
さぞかし、悦に入ったんでしょうねぇ!?
そりゃそうだよね、最初からそれ目当てだったんだからぁ!!
ねぇ今どんな気持ち教えて教えろ教えなさいよぉ泥棒猫ぉ!!」
「話を、聞け」
「大体、『ナツ』って
それ、私のじゃん!!
私が昔、
それで呼ばれてる時点で、当て擦りバーター陰険女でしかないじゃん!!
……返してよ……!!
本家本元の私に、私だけの『ナツ』を……!!
……返せぇぇぇぇえぇぇぇぇぇっ!!」
「っ」
咄嗟に、
一方、
サディスティクに、微笑んだ。
「ありがと。
けど……
これで晴れて合法、対等。
正当防衛が、成り立つ。
私も、あなたを存分に甚振れる」
声と体を不気味に揺らす。
「ねぇ、
私ずーっと、思ってたんだ。
あなたにだけは、
あなたが、
そんなあなたなら、私も、ギリ祝福
でも、あなたは、なーんも変わらない。
関係も、顔も、ちーっとも揺らがない。
私には、それが許せない。
もう、恋人同士になっても、おかしくないのに……!
いつまでも、いつまでも、偽装カップル
それじゃあ、
……解釈違いなんだよ、『カモフレ』なんかじゃぁっ!!」
前述の通り。
付け足せば。
自身にもダメージが入る危険が付き纏う手前。
ともすれば告白もしれない現場だった都合上。
二人の、初めての会話さえ知らない。
だから、分からなかったのだ。
それが、
悪魔の、言葉である
「……ちがう……」
機械的を通り越して、無気力な声で。
か細く否定する
その変化に
今の彼女には、備わっていない。
「違わないよ?
カモフレじゃんカモフレだよカモフレすぎカモフレでしかない。
単なる、足枷でしかないんだよ」
「あぁ、あぁぁぁっ……!
……あぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!!」
頭を抑え、ベッドでのたうち回る
ここに来て
だが、もう遅い。
少し前まで。
ここで言う所の缶詰とは、『修羅場』の
それとは別に。
同様に。
幼い頃に与えられていた、シーチキンみたいな缶詰に。
何十年も、眠らせていた。
そこから、封印していた感情が。
トラウマと共に、舞い戻る。
「お、
ごめん、大丈夫!?
ねぇっ!?」
「ちがう……!!
わたしは、わるくない……!!
わたしは、ゴミなんかじゃない……!!
わたしは、ロボットなんかじゃない……!!
わたしは、エコ……!!
わたしは、おもしろい……!!
わたしは、べんり……!!
わたしは……!!
……ハナ、はぁっ!!」
隠蔽していた、過去の、もう一人の自分。
自分の心を解き放つ、最後のキー・ワード。
それを、口にした時。
「……『ハナ』?
ハナって、
誰の
てか、大丈夫?
ねぇ」
心配な
そのまま、勢い良く、部屋を飛び出し。
階段を踏み外し、見事に頂上から転落する。
「ちょ、ちょっと!?
「触るなぁっ!!」
ボロボロの体と心で、
「……今の君とは、話したくない。
……今の君を、もう。
……見たく、ない」
それだけ
数分後。
「な、
どうしたのよ!? 一体!!」
駆け寄って来てくれた
当たり所が
この分なら、明日の夜までには治るだろう。
念の
問題なのは、そこではない。
それが
画面割れこそすれど。
彼のスマホは、壊れていなかったらしい。
まるで、今の
そう、
「……ハル。
明日の君が、
明日、
……花火を、見て
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