第6条「タイジンー困った時は、助け合うー」

 進晴すばるは、悩んでいた。

 保健室に行くか、行かざるべきか。

 結果、右往左往し、ブツブツ言っていた。



 そもそもの発端ほったんは、体育の授業。

 マラソン中に、凪鶴なつるが倒れ。

 そのまま、保健室に運ばれ、戻って来ず。

 そして現在、放課後に至る、という次第である。



 昨日の件もり。

 進晴すばるは晴れて、ボッチの仲間入りを果たし。

 仲間で同士の凪鶴なつると、普通に話せるようになった。

 その矢先に、出端ではなくじかれたのである。



「……やっぱ、アレだよなぁ。

 もっとフォローしとくんだったなぁ。

 あー……」

功刃くぬぎ

「いや、でもなぁ。

 改めて考えると、やっぱ、ことだったんだよなぁ」

「おーい」

「そうじゃなくても、ハードル高いよなぁ。

 凪鶴なつるさん、女性だし。

 こういう、センシティブなのはなぁ。

 しかも、体育の途中とか、ともすれば如何いかがわしい」

功刃くぬぎってば!!」

「どわぁ!?」



 いきなり名前を呼ばれ、後退る。



 気付きづけば、目の前に新志あらした。

 腰に手を当て、ジトを向けていた。



「……なにしてるんだか。

 ここ、保健室の前なんだけど。

 なんで、凸らんの?」

「い、いやぁ、その……」

「呆れた。

 昨日のは、マグレか。

 ま、あんたらしいっちゃ、らしいけどさ」



 苦笑いする新志あらし

 かと思えば、バツが悪そうに後頭部を掻き。

 手をポケットに入れつつ、目を逸らす。



「……悪かったよ、昨日は。

 流石さすがに、言いぎた」

「それ、俺に言う?

 凪鶴なつるさんじゃなくて?」

「言ったよ!

 誠心誠意、謝罪したよっ!

 今朝の内に、何度もっ!

 なんなら今も、フユが看てくれてるよっ!

 でも、てんで響かないんだよっ!

 打てば響くのに、靡かないんだよっ!

 逆ギレしそうなほどに、怒らないんだよっ!!

 びっくりするくらいなにも起こらないんだよっ!!

 そればかりか、サンドイッチ振る舞われたよっ!!

 しかも、うちが来るの見越してるしっ!!

 どっちのお見舞いか、分からんくなったよっ!!

 つーか、功刃くぬぎ

 あの人、なんであんな、優しいの!?

 そうじゃなくても、摩訶不思議だけどさっ!!

 それが一番いっちばん、謎なんだけど!?」

「そういう人なんだよ。

 うちの、ナツさんは」

「はー……。

 まさか、あんな善人が、実在するとはなぁ。

 世界は広いなぁ、本当ほんとう

「分かる」

「ね。

 ところで、功刃くぬぎ

 いや、すっごい今更だけどさ。

 なんで、シレッと、うちしゃべれてるん?

 昨日、派手に決裂したべ?」

「マジで今更だね」



 憎まれ口を叩きつつ。

 進晴すばるは、答える。



「だって、トシ以外、演技じゃん、あれ。

 どーせまた、騒動にかこつけて、ユウが提案したんでしょ?

 んで、一芝居打ったんでしょ?

 俺とナツを、大っぴらに、自由にするために」

「……バレてた?」

「モロバレだよ。

 っても気付いたの、帰ってからだったけど。

 二人は普段、渾名で呼び合ってるのに、他人行儀だし。

 新志あらしさん、あそこまでアタック強くないし。

 控井うついさん、普通に普段からジュース、ガブ飲みしてるし。

 二人は幼馴染おさななじみなのに、幼馴染おれたちこと馬鹿バカにするし。

 ユウ、妙に落ち着いてるし、説明台詞セリフちょこちょこあるし。

 全体的に、突貫工事感迸ってるし。

 意図的に先輩と天丼させてる節るし。

 そして、なにより。

 二人、演劇部じゃん。

 っても、流石さすがに、驚嘆したけど。

 脚本担当の控井うついさんが、あそこまでの役者とは」

「……く分かったね、そこまで」

「分かるよ。

 八方美人でも、無所属でも。

 いくら、広く浅くの付き合いだろうと。

 把握してるし、看破出来できるよ。

 それくらいは最低限。

 これでも、友達だし」

「なははっ。

 そりゃそーか。

 それより、あんた。

 怒ってないの?」

「怒ってるよ。

 でも俺だって、二人にひどこと言った。

 そもそも俺のが、ずっと早く、長く、二人をだましてた。

 違う?」

「それ引き合いに出されると、なんも言えんわ。

 あんたも風変わりだねぇ、本当ホント



 新志あらしは、背中を壁に預け、横目で進晴すばるを見た。



なにはさておき。

 演技だろうとなんだろうと。

 男に、二言はい。

 だろ?」

「ああ」

「じゃあ決まりだ。

 あんたは、うちを許さない。

 うちも、あんたを許さない。

 うちとあんたは、袂を分かった。

 この件は、これで終い。

 うちは、これで退陣するよ。

 あとは、そっちで適当に、勝手にやんな。

 二度と、うちを巻き込むな。

 そんでも、功刃くぬぎ

 いざって時には、迷わず相談しろ。

 友達らしく、世話焼いてやる」

「……大義名分じゃん、ようは」

「おぉっと。

 そういう湿っぽいのは、断固拒否る。

 昨日も、言ったはずだ。

 うちは、寛大なんだよ」

「聞いて?

 ねぇ、聞いて?

 あと、言ってないよ?」

「およ?

 んだけっか?

 まぁいや、そういうことで。

 てか、知るか。

 考えるの面倒めんどい。

 あと、あんたも」

「普通にひどい」

「ま、今のが嫌いじゃないけどね」



 暖かく突き放す新志あらし

 かと思えば、髪をいじり始める。



「……ところでさ、功刃くぬぎ

 ほらぁ、そのぉ……。

 ……なんてーか……」



 ここに来て、ズバズバ感がくなる新志あらし

 しおらしくなった理由に、進晴すばるは心語りがった。



「フリーだよ、あいつ。

 新志あらしさんなら、オトせると思う。

 なんだかんだ、息ピッタリだったし」

「なっ……!?

 べっ、別にあたしは、山門やまとことなんて、なんとも、一言もっ!!」

「『あいつ』。

 としか言ってないよ?

 俺も」

「……あ」

「やっぱトシなんだ。

 新志あらしさんて、その実、乙女だよね」

「た……たばかったな、コンナロー!!」

「一矢報いられるくらいでお咎め無しなら、安いもんじゃない?」



 昨日も現場に居合わせた野球部員、山門やまと 司希《しき》(通称トシ)。

 


 てっきり緩衝材、清涼剤、ステージ・ギミック、舞台装置として招いたと思ったのだが。

 どうやら新志あらしにとっては、違った。

 それ以外の含意が、仕込まれ、忍ばせていたらしい。



「お二人とも。

 どうか、お静かに。

 仮にも、保健室の前ですよ」



 不意に、後ろから声を掛けられる。

 新志あらし幼馴染おさななじみ控井うつい 優船ゆふねである。



「ちぇ。

 へーへー、分かりました。

 んじゃ、そっちで適当に潰してるわ。

 終わったら、呼んでくれぇ」

「はーい」

「ん?

 まだ、なにるの?」

「これから、ありがたーい、お説教なんです」

「そーそー。

 熊耳が特徴的な、おっかない鬼軍曹、プロデューサーからね」

「……俺の幼馴染おさななじみが、すまん」

いって。

 んじゃ、またな」



 空き教室の椅子いすに座り、スマホ弄りを始める新志あらし

 一方、控井うついは、進晴すばるを見る。



功刃くぬぎくん。

 昨日は、すみませんでした。

 謝って解決するとは思えませんが。

 数々のご無礼、罵詈雑言。

 どうか、お許しください」

「ううん。

 こっちこそ、ごめん。

 ところで、控井うついさん。

 もう、『進晴すばるくん』じゃないんだ?」

「あれは、台本ってこそです。

 生憎あいにく、今は違うので」

「そっか。

 なら、安心だ。

 でも、ちょっと残念だな」

「もぉ。

 駄目ダメですよ?

 そういう、天然ジゴロは」



 前のめりになり、進晴すばるの鼻をつつ控井うつい

 この子も大概だと、進晴すばるは思った。



功刃くぬぎくん。

 私、現実で恋した経験、いんです」

「……へ?」

「性格を始めとした、殿方のパーソナル・データよりも。

 相手の背景やビフォアフ、行動心理などの方が余程よほど、興味深いからです」

「……分かる気は、するな」

かったです。

 ですので、功刃くぬぎくん。

 今のあなたには、なんの興味もりません。

 だから、昨日のは全部、忘れてください。

 所詮、すべてまやかし、フィクションなので。

 今まで通り、友達として。

 今後とも、ご贔屓にしてください」

「……分かった。

 控井うついさんが、そう言うなら」

「ありがとう、ございます。

 では、これにて失敬」



 一礼し、去ろうとするも、立ち止まり。

 振り向かずに、控井うついは聞く。



「……ごめんなさい。

 やっぱり、もう少し、お聞かせ願えますか?」

「ああ」

「もし私が、あなたに本気だったら。

 あなたが、凪鶴なつるちゃんと出会ってなかったら。

 もっと私が、素直で、勇敢で、健気でいられていたなら。

 ……こんな、あやふやな私にも。

 あなたとワンチャン、りましたか?」

「……ったと、思うよ。

 だって、そうじゃなきゃ、おかしいだろ?

 昨日、あんな遠回し、遠回りなif話を、例えとして出すのは。

 それも、あれがシナリオだって、微塵もいぶかしまずに」



 飾らずに。

 けれど、荒々しくはならずに。

 進晴すばるは、続ける。



 嘘でもいから、守りたかった。

 彼女が『好きだ』と言った、トゲトゲしていない進晴すばる

 そんな優男を体現し、貫きたかった。


 

 きっと、これが最後だから。

 彼女の前で、こんなふうにねがうのは。



「でも、ごめん。

 それでも、やっぱ俺は。

 最終的に、凪鶴なつるさんを選ぶよ。

 控井うついさんじゃ、エコになれないから。

 でも、だからといって。

 控井うついさん個人に、抜かりがるんじゃない。

 俺達は、俺と、凪鶴なつるさん。

 俺達、『オリジン』じゃなきゃ」



 自分は、最低かもしれない。

 それでも、どうしても、凪鶴なつるを捨て切れない。



 昨日みたいに、静かな怒りなども宿してないから。

 中途半端にしか、接せられない。



 けど。

 きっとまた、あの人は、聞き耳立ててるから。

 だから、下手は打てない。

 ちゃんと、正直でいなくては。

 今度こそ、はっきりさせなくては。



「……そうですか。

 結局、なんなんですかね?

 凪鶴なつるさんの言う、『エコ』って」

「さてな。

 俺にも、よー分からん。

 けど、ま。

 その内、教えてもらえる気がするよ。

 凪鶴なつるさんなら、きっと」

「だと、いですね」



 唐突に、控井うついは振り返り。

 見るからに気丈に、笑った。



「聞きたくありませんか?

 凪鶴なつるちゃんが、倒れた理由」

「あー、いやぁ……」

「ご安心を。

 デリケートな感じではありません。

 想像以上に、可愛かわいくて、か弱くて。

 そして、ちょっとだけ。

 本当に、ちょっとだけ。

 ……羨ましい、内容です」

「……そっか。

 ヒント、ありがと。

 あとは、本人に聞くよ」

「はい。

 どうか、ご武運を。

 では、失礼します」



 背中を向け、進晴すばるの前から離れる控井うつい



 やがて、彼が保健室に入り。

 自身も、新志あらしの待つ空き教室に入った頃。

 控井うついは、限界を迎えた。



「あ、アキちゃぁん……」

「あーはいはい。

 ほら、おいで」



 すでに両手を広げ、スタンバイ済の新志あらしの胸に。

 控井うついは、迷わず抱き付いた。



「私……なれたかなぁ?

 未練なんて、欠片かけらように。

 その気なんて一切、持っていなかったように。

 恋になりそうだった感、隠し通せたかな?

 そんな、あの人にとっての、サブ・ヒロインを。

 ちゃんと、完遂、出来できたかな……。

 最後まで……演じ切れた、かなぁ……?」

「……ったり前だ。

 馬鹿バカ言ってんなよ、フユ。

 最高の名演技だった。

 うちが、知らしめてやる。

 全宇宙にな」

「アキちゃぁん……」

「だぁかぁらぁ。

 んな、簡単に泣くなってるだろ。

 ……抱き締めたくなるだろが」



 新志あらしは、控井うついを抱き寄せる。

 より強く、固く。

 けれど、痛くはならない程度に。



「ごぉめん……。

 ごめん、ねぇ……」

「謝罪はいから。

 可能であれば、はよい男見付けろ。

 まだうちしかないんだぞ?

 今お前に、抱擁こう出来できるの」

「……会えなかったら?

 もし、誰とも付き合えなかったら?」

「愚問だ。

 うちが、拾ってやる。

 うちが、お前を一生、面倒見てやる」

「私……早生まれで、かったぁ……。

 アキちゃんに、見付けてもらえて……。

 本当ほんとう、にぃ……」

「心配すんな。

 学年違おうが、世界が異なろうが。

 うちかならず、お前と出会ってやる。

 お前のボディー・ガード、お抱え役者、幼馴染おさななじみを全うしてやる。

 仕方しかたく、暇潰しにな」

「……うん……」



 開きかけていた、恋心を摘み取り。

 しばら控井うついは、静かに泣いていた。



 大切な友達、幼馴染おさななじみの、新志あらし

 彼女に包まれて、匿われて。





「パチパチパチパチ」

「案のじょうかよ」



 入って早々に、拍口で迎えられる進晴すばる

 やはり、盗み聞きされていたらしい。



「体調、どう?

 平気?」

「……むー」

「な、なに?」



 無表情で、頬を膨らます凪鶴なつる

 心当たりがいので、素直に真意を問う。



「……ハル、日和ひよってる。

 凪鶴なつるの前では、自然でい。

 その方が、エコ」

「いや……あなた、仮にも気絶したんですよ?

 ランニング中に倒れて、校庭に頭ゴッツーンしたんですよ?

 考えてもみてくんさいよ。

 そんな時に、マイルドに接するんは、鉄則でしょ?

 頭部のみならず、メンタルにまでダメージ入れて、どーするんですか」

「そういう理由なら、やぶさかではない」

「ご理解頂けてなにより。

 で、体調は?

 って……ごめん。

 これ、聞くのセーフだった?」

「問題い。

 原因究明は、すでに済んでいる。

 先程、切火きりか優船ゆふねと話して」

「それはなにより。

 てか、もう名前で呼んでるんだ。

 随分ずいぶん、親密になったね」

「友達。

 ブイ」

「おめっとさん」



 マジで、まるで怒っていない凪鶴なつる

 これは天然記念物認定されても、是非もい。

 思わず進晴すばるは、凪鶴なつるの頭をでる。



「ハル。

 今の君は、凪鶴なつるの同士?」

「え?

 あ、ああ。

 勿論もちろん



 唐突ぎて、言い淀む進晴すばる



 そのまま凪鶴なつるは、進晴すばるの手を握り。

 目を閉じ、愛おしそうに頬スリスリをして。

 上目遣いで、続ける。



「ハルが遊ぶのも、主に凪鶴なつる?」

「うん」

「ハルが時間を割くのも、主に凪鶴なつる?」

「そうだね」

「ハルは、ハルと凪鶴なつるだけの、共有財産?」

「そうなるね。

 てか、ごめん。

 これ、なに?」

「確認」



 トントンと、ベッドを叩く凪鶴なつる

 少し迷ったあと

 進晴すばるは、意を決して、従った。



 こうして、初夜数分前のような構図が出来でき上がった。



「ハル。

 凪鶴なつるは、バッテリー切れを起こした」

「へ?」

「昼休みに切火きりか優船ゆふねに謝られてから。

 凪鶴なつるは、深刻なハル不足。

 これからは、大っぴらに、ハルを独占出来できる。

 後ろめたさもく、堂々と、ハルとられる。

 そう考えたら、凪鶴なつるは。

 ハルが、しくなった。

 ハルが、隣にしくなった。

 ハルと、お話したくなった。

 そしたら、ハルと離れ離れになった。

 体育、異性だから、仕方しかたいとはいえ。

 凪鶴なつるは、もどかしく、寂しく、苦しくなった。

 たちまち、身体が、異常をきたした。

 内部が、エマージェンシー信号を出した。

 システムが、オール・グリーンではなくなった。

 結果、エンスト、ガス欠で倒れた」

「……つまり?」

「ハル。

 凪鶴なつるを、治せ。

 凪鶴なつるを、満たせ。

 凪鶴なつるに、構え。

 凪鶴なつるは今、無性に。

 ハルに、抱き締められたい。

 ハルを、充電したい。

 それしか、治療法がい」

「……凪鶴なつるさんや。

 まぁた、第4条、違反してる……。

 今度ばっかりは、言い逃れ出来できませんよ……?」

「突発的な不可抗力。

 何人なんぴとたりとも、抗い、侮りがたし」

「いや、まぁ、そうだけど。

 てか、それ、遠恋中のバカップルがなる類……。

 なんで、この至近距離で、カレカノ前から、陥ってるん……?」

「……さぁ?」

「『さぁ?』て、あーた……」

「先程は、離れていた。

 あの鬼教師に、切り離された」

めて?

 先生、悪くないから。

 多分、今の理由でも、なんだかんだ、許してくれそうな真人間だから。

 他の、一部の教師なら、即座に突っ撥ねるかもだけど」

いから、はよう。

 焦らすの、禁止。

 ハル、小生意気。

 やーい、やーい、意気地しー」

「風評被害が止まらない……」


 

 進晴すばるの言葉を無視して、小キックを噛まし。

 凪鶴なつるは、両腕を伸ばし。



「どーぞ」



 と、殺し文句を言った。



 本来であれば、大抵の男がオトされるだろうが。

 ここで、理性が崩壊しなかった自分を。

 進晴すばるは、称賛したい。



「……と見せ掛けて。

 どーん」

「おわぁ!?」



 自分のターンと思いきや。

 まさかの、凪鶴なつるの攻撃フェイズ。



 間の抜けた効果音を出しつつ、進晴すばるに突っ込み。

 そのまま、進晴すばるの胸に埋まる凪鶴なつる



 咄嗟に、両腕で上体を支えつつ。

 進晴すばるは、呆れ笑いをした。



凪鶴なつるさん?

 危ない真似マネは、おしになって?

 今度は、俺とセットで、怪我けがしちゃうよ?」

「つまり、堂々と、公然とサボれる?」

「『玩具おもちゃ買ってもらえそうな子供』みたいな眼差し、しないの。

 あなた一応、学年主席の模範生よ?

 いから、ほら。

 黙って、俺で充電してなさい」

「パパ、優しー」

「うん、せめて『お兄ちゃん』にしようか?

 い子だから。

 ね?」

「うむ。

 凪鶴なつるは、い子。

 とってもエコ」

「分かった、分かった」



 ズレたやり取りをしつつ。

 やっぱ、満更でもないよなぁと思う進晴すばる



 スマホもいじらず、会話もせず。

 ただ、抱き合っているだけ。



 そうやって、しばらく時間を過ごしてから。

 不意に凪鶴なつるは、モゾモゾし。

 進晴すばるの胸から離れ。



「……ハル」

「ん?

 なーに?」

「……凪鶴なつる

 ハルと、付き合える気がする」

「……。

 ……はい?」

 

 

 新たな火種。

 フラグを、呼び起こした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る