第5条「センジンー悪口は、迷わず断ち切れー」
タイミングとは、実に厄介である。
とある高校に通う1年生のスターに、彼女説が仄めかされ。
同時期に、知ってか知らずか、インフルエンサーまで、
普段から活動している
しがない一般人でしかない
八つ当たり、逆恨み、捏造、痴情の縺れで。
そういった背景しか取れない画像が生まれ。
結果、燃えに燃え、みるみる拡散され。
公式から、センシティブ判定を食らい。
アカウントごと、問題のツイート、写真は削除された。
だが、しかし。
一度、ネットの海に放たれた情報は、簡単に、完全には消えない。
待ったなしでネタ、火種にされ、やっかまれ、面白がられる。
その果てに、
濡れ衣、日曜日だというのに。
校長室に、呼び出しを受けた。
最終的に、丸く収まった。
同伴、同業の姉が、程良くサポートしてくれたお
それらが災いし、勘当された
そういった証拠、背景を適宜、提供してくれた。
今日も、自分から名乗り出てくれた姉に。
校長室での件は、すんなり片付き。
停学もお咎めも反省文も厳重注意も
良識
それだけに留まらず。
姉は、
彼女は一気に、世論を、ネットを味方にした。
その夜。
またしても残した、やみツイートを最後に。
芸能生命を、絶たれた。
しかし。
依然として、未解決のままだった。
※
それも、
掃除や勉強そっちのけで、ほぼ練習か遊び
思いっきり校則違反の派手なカーディガンを着た、意味も
やや控えめな印象を受ける、ひたすら肩身が狭そうにしている、文学少女然とした眼鏡っ子、
そして、最後に。
自称・事情通の新聞部の若きエースにして、一連の騒動の火付け役。
以上、5名からなる会合。
初っ端から、バチバチした空気を予感させたまま。
粛々と、会議は始められた。
「で、
結局、どーなん?
やっぱ、虚偽なん?」
「
過去に、付き合ってっぽい感じの頃は
あれは、単なる舎弟みたいな物だから」
「
あんたが?
ウケんね」
「あははっ。
マジ、それね」
トラウマとして残っている。
おまけに、フラれてからも、大規模に風評被害を
どれだけ潔白を証明しても、何度も釈明を求められる。
当事者としては、
しかし。
作り笑いで、誤魔化した。
「じゃねーんだよ。
こっちは、てんで笑えねんだよ。
ちゃんと、説明、謝罪しろよ」
甘かった。
いきなり、豹変、
というより。
自分は大して、悪くないのに。
あくまでも、巻き込まれた側なのに。
「あ、
私は、平気……。
平気、だから……」
「はぁ!?
何言ってんだよ、
こいつ、お前を
お前を、『控え』扱いしやがったんだぞ!?」
「……は?」
またしても、聞き捨てならない、覚えの
「やって
「あ、
「だぁぁぁ、ちくしょうっ!!
泣くなっ、この程度でっ!!
お前もお前で、
「何!?
そうなのか!?
「
女の戦いに、男がしゃしゃり出て来んじゃねぇ!!」
「何を言ってるんだ。
「あいつは
今は、おめーの話だろうが、お・め・え・のっ!!」
「なるほど!
だとすれば、
お前が同席してるのも、おかしくないか?」
「……あ?」
「お前、この場で
口調だけなら。
もしかして、男なのか?」
「マジに
「決まってる!
「この、脳筋がぁっ!!」
「はいはい、そこまで。
二人共、冷静に。
本題から、逸れ捲ってるから。
ね?」
「ちっ。
……分ぁったよ、
「なぁ。
俺、ヒトカラしてて
暇ー」
「死ぬまでやってろ、クソボケッ!!」
「死なねぇよぉ。
てか、
足癖悪い女は、男受け悪いぞぉ?
あー……でも、
んじゃ、セーフだな!」
「お前もう帰れや、マジでっ!!
そんな二人を宥めようとする
その裏で。
「……ごめん。
俺、
「う、うん……。
私にお水、持って来てくれた……」
「
「私のオーダー、代わりに頼んでくれた……」
「俺が、受話器の近くに
「私の苦手なトマト、食べてくれた……」
「好き嫌いはしょうがないよ。
俺も、コーン
「ピザやラーメン、取り分けてくれた……」
「どっちも、冷めると
「他の
「無観客って、寂しいじゃん。
取り残すのは、あんまりだなって」
「他の人達みたいに、荒々しく喋ったりもしないで、穏やかに、話してくれた……」
「まぁ、うん。
……鍛えられたからね」
「……」
「……」
「……です」
「……終わり?」
「……以上、です」
「……」
「……」
「……だけ?」
エピソードとイベント、スチルの薄さに。
思わず、本音を零してしまう
そのまま、グラスを
「ばっ……!?
待て、
性懲りも
「……は?」
「そいつ、炭酸飲むとキレ
「ちょ……!?
ジン、悪くなくない!?
てか、実在してたの!?
「『だけ?』、って……!!
私、こんなにも、あなたにアプローチされたっ!!
あなたに、求婚されたのにっ!!
なのに、どうして!?
私以外の女となんか、付き合うんですかぁ!?
あなたの運命の相手は、この私でしょう!?
ねぇ……私の、進晴くぅんっ!!」
「……」
これは、あれだ。
先輩と、全く同じ毛色を覚える。
けれど、ニュアンスが異なる。
いつの間にか、近過ぎる呼称で呼ばれている所を見るに。
今度は、バクマ◯の岩瀬パターンだ。
「
ぶっちゃけ、あれだろ?
単に、ちやほやされるのに飽きたってだけなんだろ?
だったらさぁ。
ここらで、手頃なのと本気で付き合えって、魔除けにすりゃあ
ちょーっとばっかし地雷だけどさ。
こいつ、
胸も
個人的、好みの話にしかならない。
よって、
それはそうと。
彼女の主張は、見逃せなかった。
またしても、
そして、特に。
「……そんなに、
彼女の、特異体質は明かさないのに。
そんなに、易々と、開示
それも、彼女が好いてる相手の目の前で。
ヒトカラ中とはいえ、他にも男が
ここに来て早々に、彼女は。
その『大切な
そもそも、
「大体。
てんで、耳を貸そうとしてくれないんだ。
俺に、恋人の有無を、真意を確かめない。
俺は、重要参考人なんだろ?
ストレス発散の場、激励会を装った女子会
3人だけで、勝手にやってくれよ」
「
その言い草。
まるで、実在でもしてるかの
「ジン……」
メンチを切る
言い足りなさそうな
覚悟を問う
ヒトカラで多忙な
一人以外は、張り詰めた状況の中で。
「……
それが、俺の同士の名だ」
もしくは、『ハルのランク云々』とか、かもしれない。
よって、これは重大な名誉毀損。
彼女を、傷付ける行為かもしれない。
でも、
これしか、もう道は残されていない。
自分が否定した以上、
かといって、その場凌ぎで
事態が、
ましてや、
こうなったら。
もう、他に選択肢は
「は?
……
え……。
……ガチで?」
彼の横で、
「マジだよ。
俺の相手は、ナツだ」
「え……?」
「いや。
その呼び方は昔、
「あ、あー。
だよね、うん。
平気、平気。
ちゃんと、分かってる。
分かってるから。
……
「ごめん。
最後、聞き取れなかった。
ボソッと、
「な、
気にしないでっ!
それより、ほらっ!
もっと、
「お、おう」
繕いつつ、その場を盛り上げよう、立て直そうとする
が。
「いや。
もう
「……は?」
またしても
「
もうちょい、マシなの選べって。
そりゃ、『手頃』なのとは言ったけどさぁ。
お前も、物好きな
だったら、
「……
「眉間にシワ寄せんなって。
あんな、
今からでも謝って、
で、そっちも
はい、
「ちょっとぉ!!
そこは、筆頭候補でしょぉ!?」
文句を言いつつ、
今度は、はんなり系になった。
チャパパ戦のフランキ◯を彷彿とさせた。
彼女は一体、水以外に、
「でも、
ちゃんと彼女として、引き継ぎ
「
それが
「それ、名案、採用。
確かに、
私と、
どっちも、
そうだね、うん」
「決まりだな。
おい、
今回は、これで多目に見てやる。
次からは、
「
大事な、愛人、バージンなんだから」
「……」
対等と見せ掛けて、明確な上下関係。
自分の同士への、度重なる、急速のバッシング。
臨界点に、達した。
「……ユウ。
悪い。
もう、色々、無理だわ」
「……こっちこそ、ごめん。
私も、これ以上は、擁護
巻き込んどいて、アレだけど」
「気にすんな。
ユウは、悪くない。
悪いのは、俺の対応と、態度。
そして、女運と、虫の居所だけだ」
「
どした?」
「
景気付けに、炭酸を一気飲みし。
雑にならない
自分の未熟さ、己の不始末と向き合った。
「……
その気にさせて、ごめん。
はっきりしなくて、ごめん。
それについては、弁解の仕様が
「ううん。
分かってくれたなら、それで」
「ああ。
ところで、
ちょっと、想像して
「
もしかして、TSとか好きなの?
私もだよ、
「なら、話が早いね。
高校生になった君に、彼女が
「それは、
「まぁ、それで
そう。
君に、最初の彼女、
天然な彼女に常に振り回されっ放しだけど、不思議と
奇想天外な彼女の言動が、いちいち新鮮で、ツボで。
頼む前から、相手も食べるの前提で、ご飯とか用意してくれて。
こっちが擦れてる、拗ねてる時は、ちゃんと叱ってくれて。
でも、全否定はせずに、改善策、代替案も出してくれて。
くっだらない話にも、きちんと聞いて、受け入れてくれて。
興味
普段は間延びしてるけど、いざって時は、バッチバチにキマってて。
ピンチになると、いつも
無愛想なのに、甘えたがりで。
ミステリアスなのに、子供っぽくって。
そんな恋人と一緒に過ごして行く内に。
君は、こう思うんだ。
『この先もきっと、
「……えと……。
……
「なのにさ、
そんな、大切な人が、さ。
接点も興味も権利もメリットも関係値も好感度も貢献度も信頼度も知識も理解も皆無な。
丸っきり赤の他人でしかない。
その人に、歩み寄る素振りすら、微塵も見せない相手に。
本人の
理不尽に、一方的に、悪口
不可解、不愉快、極まりなくない?」
「……ごめん。
ううん……言い方、変える。
「そりゃ、決まってんだろ。
生まれ変わっても、性別なり状況なり違ってても。
二人は、仲良しって
「違うよ。
本気で、好き合ってるんなら。
本気で向き合って、付き合ってる相手が
その二人が、問題や犯罪とも無縁なら。
ディスる権利なんて、誰にも
そんな愚行は、誰にも許されない。
俺が、二人に突き付けたいのは、そういう現実。
長くなったから、そろそろ纏めるよ」
電気は点いているのに、先程から
そんな壁の向こうの光景、住人をイメージしながら。
「俺は、あんたの彼氏でも、あんたの物でもねぇ。
俺は今、俺だけの。
行く行くは、
堪忍袋の緒を、
「すっ……!?
「
どういう了見だよ!? そりゃあ!!」
「
「言葉遊びしてぇんじゃねぇよっ!!
てか、いきなり豹変してんじゃねぇよ!!
つい
「それに関しては、あんたにだけは言われたくねぇ。
言っとくがな、
「はぁ!?
「あなた
自分の足元に、ガソリン巻いて。
しかも、ジンの
少し、頭冷やしな。
「お前にだけは言われたくねんだよ、
大体、今回の騒動!!
お前だって、噛んでんだろうがっ!!
それも、中途半端、思わせ振りにっ!!」
この、愉快犯っ!!」
「確かに、記事と火を起こしたのは、私。
でも私は今回、色恋沙汰には、関係
「良く言うぜ!!
未だに、意味深に、
ポジションに甘んじて、いつまでも宙ぶらりんにしてんじゃねぇよ!!
この、
「
せめて『策士』『裏ボス』『黒幕』とかにしてよ」
「変わんねぇよっ!!」
潮時、引き際だと察し。
「帰る」
「んぉ?
もう帰るのかよっ!!」
ドアノブを握る
同室で、あれだけ苛烈にドンパチしていたというのに。
どこまでも呑気、無垢な男である。
そんな彼の、坊主頭が。
有り得たかもしれない、可能性。
やっぱ俺には似合わねぇなぁと、
「おー。
ちょっくら、ツレに会ってくらぁ。
邪魔して悪かったな、トシ。
また今度、騒ごうぜ」
「いつだ!?
「いや、
まぁ、その内な。
追って連絡するわ」
「了解だ!
ここは俺に任せて、お前は先に行け!」
「大袈裟だっての。
あと、死んでくれんなよ。
葬式出るの、
「安心しろ!!
俺は、簡単には、くたばらんっ!!」
「安心しろ。
そもそも、
「それは寂しいぞ!!」
「本格的に
あと、トシ。
次からは、ちゃんと掃除当番しろ」
「分かった!
お前に言われたなら、守る!
友達だからな!」
「頼むわ」
隣のドアを、
「……
横恋慕の次は、かくれんぼ?
ってのは、冗談だけど。
俺、今日の
どーせまた、ユウがリーク、手引きしたって顛末だろうけ、うぉ!?」
割と勢い良く飛び込まれ、変な声を出す
部屋の唯一の住人だった
彼女は、
彼女は今、罪悪感、自責の念に苛まれてているのだ、と。
「……断っとくけど。
俺が、先陣切っただけだ。
元々、
ずっと、
そしたら、みるみる億劫、いずくなって。
だから、引っこ抜いて、引き千切って。
果てには、カッとなって、カットした。
ただ、それだけの話だよ。
ナツには、
ブンブンッと、首を振る
そのまま崩れ落ち、
やっと、口を開く。
「……ハル。
……どうしたら、
一体……ハルに、
ハルのコミュニティを、崩壊させた大罪を。
……
予想した通りのリアクション。
「……ホンッッットーに。
もう、しょうがないなぁ、ナツさんは。
まさか、もう忘れちゃった?」
「……君が、
俺には、『オリジン』が。
君が作り、恵んでくれた。
俺達の、居場所が
くぐもらないように、細心の注意を払い。
眩しくないミラーボールを見上げながら。
「俺達さぁ、ナツさん。
まだ、始まったばっかだろ?
いつまでも、
ちゃんと、自分を、互いを。
現実、見ようよ。
受験は、2年の夏が天王山。
来年の今頃は、対策尽くしだぜ?
高校生としての寿命は。
実質、今年までみたいなもんだぜ?
だったらさぁ……その前に、済ませとこ?
ちゃんと将来、見定めて。
実現させる
その
より一層、暴れてやりましょーよ。
俺達の、『オリジン』で」
涙が引っ込んだので、目線を下げ。
「だから、ほら。
顔。拝ませて、くんさいよ。
頼むから、さぁ……。
安心させてくれよ、俺を。
君は、『鉄仮面』『無表情』って、言って聞かないけどさ。
俺……君の顔、好きだ。
なんてーか……すっげー、ホッとするってか、癒やされる。
これだけ聞くと、面食いみたいだけど。
いや、まぁ、その、
……可愛いとは、思ってるけどね?」
「……物好き」
「へーへー。
悪ぅござんした」
涙も笑顔も見せぬまま。
「……責任は、取る。
ハルは、
これからも、
ハル、助ける」
「……
立ち上がり、柔らかい雰囲気を出し。
これまで必死に仮面を被っていた彼への、労いの言葉を。
「……ハル。
……おかえり」
「……ただいま。
……ナツ」
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