第3条「ヨウジンー無駄と粗末とトラブルは、避けるー」

 功刃くぬぎ 進晴すばるには、悩みがる。

 それは「自分の本心、オリジナリティ、武器などが分からない」こと

 中でも最近の頭種かしらぐさは、取り分け、「メンタル面」である。



 友達と遊んだり、フィクションに没頭するのも好きだ。

 反面、ふとした表紙に思考が捕らわれたり、拘束時間が長くてイライラしたり、嫉妬したり。

 そういうジレンマに陥る瞬間が、進晴すばるは嫌いである。

 そんなリソースがるのなら、少しでも執筆に割きたいくらいだ。



 とはいうもののの。

 結局の所、その小説とて、同じ。



 1度しかい高校生活、青春時代を捧ぐに相応ふさわしいか、はなはだ疑わしい。

 それに釣り合った、たいした内容とは言いがたい。

 これの方が無駄という気はいなめない。



 結果、さらにストレスが増す。



 そういった要素を発散し、切り替える糧にもなる分。

 これならまだ、ゲームやカラオケの方が生産、建設的かもしれない。

 


 そもそもの話として。

 進晴すばるとて、絶対ぜったいの自信、目的などを持っているわけではない。

 ただ、「小説を書くことでしか発散できない欲望」に従っているだけ。

 これを職業にするもりも、勝算もい。

 ましてや、カリスマやコネなど、もってのほか



 そんな自分が何故なぜ凪鶴なつるプロデューサーに選ばれたのか。

 進晴すばるには、それが不思議でならない。

 


 なので、昼休み。

 思い立って、聞いてみたら。



「コスタイ。

 それにハルは、エコ寄り。

 ちゃんと掃除も、ゴミ捨ても出来できている。

 だから、スカウトした」



 と、返された。



 予想以上の好印象、プラス査定。

 進晴すばるは、思わず恥ずかしくなる。



 と同時に、た堪れなくなった。

 


 またしても、結局は「エコ」絡み。

 それ以外の採用理由、付加価値なんて、なに一つい。

 やはり自分には、文才なんて、備わっていない。



 そう、痛感してしまった。

 はっきりと、理解してしまった。

 


 今のままでは、遅かれ早かれ、凪鶴なつるに切り捨てられてしまうやもしれない。

 危機感を覚え、進晴すばるは打開を図る。



 そこで進晴すばるは、凪鶴なつるの意見を採用した。

 ゴチャゴチャしがちな設定を、なるべくシンプルにし。

 それにより、一点突破型のストーリーにすることで、クオリティの向上。

 いては、オリジナリティを生み出さんとほっした。



 が。

 実際に書いてみて、思い知らされた。

 それもまた、愚策でしかなかったのだと。



 既存の未読、未知の作品と、ダブっているように思えてならない。

 題材は同じなのに、同じステージに立てている気がしない。



 やはり、自分には。

 才能、独自性なんて、い。



 自分には、これしか。

 小説しか、いというのに。



「は……。

 はは、は……。

 ホンッッット……。

 ……超、ダッセー……」



 今日も今日とて、弁当を恵んでもらっておいて。

 あんなにも、頼りにされて。

 もしかしたら、生涯のパートナーになるかもしれないのに。



 自分は、自分の中では、まだ、ただの一度も。

 凪鶴なつるの役になんて、立ててはいないではないか。

 そんなためし、まるでいではないか。



「はーっ……」



 椅子いすもたれ、ぼんやりと左を見る。

 開いた窓の向こうから、雲一つい青空が視界に入り。

 無性に憎らしく、腹立たしく思えてしまった。



 ほんの、出来心。

 進晴すばるは、それを埋め尽くしたくなった。

 自分の、三文小説で。



 名前なんて、書いてない。

 この趣味も、明かしていない。

 普段の連絡ならスマホで事足りるから、自分の筆跡も、知られていない。

 バレる心配なんて、きっとい。



 凪鶴なつるために残された、進晴すばるの課題。

 それは、「彼女の面白さを文章にしたため、自認させること」。



 あれだけユニークな凪鶴なつることだ。

 それくらい、簡単に出来できる。

 


 だから、とっとと、そのレポートも済ませ。

 凪鶴なつるとの関係を、白紙にしてしまおう。



 彼女みたいな有能が、いつまでも自分に縛り付けられているなど、愚の骨頂。

 そんな勿体こと、断じて出来できない。

 許せないし、許されない。



 だから、もう。

 ここで、終わりにしよう。

 


 そう思い、外を確認。

 こちらを見ている人がないのを目視し。

 そのまま、進晴すばるはノートを引きちぎらんとした。



 拙作せっさくは、真っ二つに割れ。

 作者の手から物理的に離れ、宙を舞い。

 把握出来できないほどに、バラバラに飛び散って行く。



 ーーはずだったのだ。

 後ろから伸びて来た手が、それを止めなければ。



「なん……。

 で……」

「ハル。

 それは、凪鶴なつるが聞きたい。

 凪鶴なつるが、ハルに、聞くべきこと



 進晴すばるからノートを奪い。

 窓を締め、退路を断ち。

 凪鶴なつるは、仁王立ちをした。



「……なにを、している?

 凪鶴なつるに、無断で」



 思わず、気圧けおされる。



 普段の進晴すばるなら今頃、作り笑いと口八丁で誤魔化ごまかしているだろうが。

 生憎あいにく、今の彼は、虫の居所が悪かった。



 無論むろんすべて自業自得だとは。

 彼自身、理解してはいるが。



「……織守おりがみさんってさ。

 割と、束縛しいなんだね」

なんの話?」

「『いちいち断りとか、らなくない?』ってこと

 別に、恋人でも家族でもないのにさ」



 自覚出来できほどに、皮肉たっぷりに笑う進晴すばる



 流石さすが凪鶴なつるも、これには怒りを禁じ得ないはず

 このままかこつけて、上手うまこと、解散まで持って行こう。

 そう、進晴すばるは自暴自棄になった。



「そもそもさ。

 なん織守おりがみさんが、そんなに怒って。

 あまつさえ、干渉して、口出しするの?

 関係くない?

 特に、懇意とかでもないでしょ?

 俺と、織守おりがみさん」

「……」



 しばらく黙ったあと

 凪鶴なつるは、自身の鞄に、ノートを入れ。

 そのまま、進晴すばるに詰め寄り、窓まで追い詰め。



 ギュッ、と。

 二人の手を、重ねて来た。



「な……なに?」

「ここまで、密着しているのに。

 物理的にも、客観的にも、つながっているのに。

 それでも、『関係い』?」



 今日とてクールな凪鶴なつる

 彼女の瞳が、わずかに揺れるのを肉眼で捉え。



 ここに来て、ようやく。

 進晴すばるは、我に帰った。

 凪鶴なつるを困らせた、寂しがらせた、と。



「……ご、ごめん。

 本当ホント、色々、ごめん。

 冷たいこと、言っちゃって」

「……?

 それは、平気。

 その仮説は、たった今。

 凪鶴なつるが、反証した」

「じゃあ、なんで。

 微妙に、泣きそうなの?」

「……?

 凪鶴なつる……そんな顔、していた?」



 気付きづいていなかったらしい。



 この数日で散見していたが。

 とかく自分絡みで、無頓着な人だった。



 空いている手を、顎に置き。

 凪鶴なつるは、一つの推測を立てた。



「……『織守おりがみさん』」

「え?」

「ハル。

 凪鶴なつるを、そう呼んでいる。

 さっきから、ずっと。

 多分、それが原因」

「……」



 ……そっち?

 拒絶とかじゃなくて?



 あーでも、これも『突き放し』ってことにはなる。

 ……のか?



「ナツ……。

 不可解ぎぃっ……」

「あ。

 戻った」

「お黙り……」

「なでなで」

「追い打ち、めたげてよぉ……」



 ヘナヘナと座り込む進晴すばる

 腰を屈め、頭を撫でる凪鶴なつる



 なんというか。

 進晴すばるは余計、自分がみっともなく思えた。

 


「ハル?

 どうかした?

 凪鶴なつるの、出番?

 話し合い、する?

 カラオケ?」

「ナツさんに、お金出させられないよ。

 俺にしか罪、メリットいのに」

「では、凪鶴なつるの家?」

「却下。

 ナツ絡みの寵海めぐみさん、怖い。

 俺、ミートパイにされる」

「しからば、いずこへ?」

「互いに、自分の部屋に戻ってからでもいよ。

 ダイレクトじゃなくても、スマホとかでも」

「不許可。

 今のハル、信用に値しない。

 またノート捨てそう。

 ちゃんと、凪鶴なつるの監視下に置かないと」

「そ、それは、まぁ……。

 そうかも、だけど……」



 平静に戻ったとはいえ。

 また暴走、闇落ちの可能性は否めない。 

 凪鶴なつるの主張は、理に適っている。



 しかし。

 時刻は、6時前。

 高校生である二人が、なる早で、無料で、健全に話せそうな場所など。

 他に、どこにるというのか。



「……ハル。

 凪鶴なつる、閃いた。

 候補を、立候補する」

「マジ?

 俺の知ってるとこ?」

「当然」



 もう片方の手でも、進晴すばるをロックする凪鶴なつる



 数分後。

 遅ればせながら、進晴すばる気付きづいた。

 これは、手錠だったのだと。



「ハルの家」





「ほら、凪鶴なつるちゃん!

 これも、持ってって!」

「い、いな……。

 アポしな手前……。

 これ以上、ほどこさせる、ほだされるわけには……」

なに言ってるのよ!

 普段、寵海めぐみさんに、あれだけお世話になってるんだからっ!」

「ジュースも持って行くとい!

 凪鶴なつるちゃんは、ゲームはするかい!?」

「ぼちぼち……」

「なら、これをするとい!

 この前出たばかりの、新作だ!

 きっと、面白いぞ!」

「うぉう……」



 次から次へと、手厚くもてなされ。

 凪鶴なつるは、目を回す。



 凪鶴なつるに手渡されていたお菓子や夕食、ゲームを、ヒョイッと持ち上げ。

 空いている手で、進晴すばる凪鶴なつるをリードする。



「こっち。

 俺の部屋、2階だから。

 歩ける?」

かろうじて……」



 凪鶴なつるの手を引き、自室まで案内し。

 ドアに『立入禁止』の札も貼り、内側から鍵を掛け。

 進晴すばるは、改めて凪鶴なつると向き合う。



 一方、凪鶴なつるはというと。

 テーブルの前で、クッションも使わず。

 背筋をピンとして、正座していた。



 無論むろん、飲食やゲームもしておらず。

 なんなら、スマホすら出していなかった。



 消去法な上に、発案者は彼女ではあるものの。

 一件の騒動の張本人は、他でもない自分。



 自責の念を隠せず。

 進晴すばるは、凪鶴なつるにクッションを提供する。

 


 が。

 何故なぜか、抱き締め始めた。

 足に敷くもりはいらしい。

 彼女も彼女で、その実、心細いのかもしれない。



 無理もいだろう。

 いくら、多少は互いを知って来たとはいえ。

 今の自分たちは、友達以下の、単なる同士。

 しかも、未成年で、恋人未満の異性。

 これでは、「身の危険を覚えるな」という方が、酷だろう。



 それはそれとして。



「……」



 ナツルは クッションを そうびした!

 ナツルは かわいさが 10101あがった!

 スバルに つうこんのいちげき!

 スバルは こんらんしている!



「……?」

「いや、ごめん、なんでもないっ!」



 仕方しかたいので。

 進晴すばるはもう一つ、クッションを渡した。



「あ」



 ふと、思い出したような声を上げ。

 凪鶴なつるは、進晴すばるのノートを鞄から出し、返却して来た。



「ごめんなさい。

 勝手に取って」

「ううん。

 俺の方こそ、ごめん」

「それは、そう。

 ちゃんと、かえりみるべし」

「はい」



 預かった小説を、受け取る進晴すばる



 と思いきや。

 凪鶴なつるが一向に、手渡してくれない。

 にぎったまま、放してくれない。



「……どうかした?」

「訂正。

 もう少し、借りる」

「どうぞ?

 そんなんでも、よろしければ」

「口の聞き方を慎め。

 これは、凪鶴なつるの同士。

 名人ハルによって生み出された神作。

 何人なんぴとたりとも、侮辱は許されない。

 たとえ、ハル本人であったとしても。

 凪鶴なつるの前でも、それ以外でも」

「どうしたの?

 てか、最初の台詞セリフ、おかしくない?」

「つい、力んでしまった。

 カッとなって、特撮ネタを披露した。

 凪鶴なつるとしたことが」

「今の、元ネタありきだったの!?」

「ウィザー◯第36話」

「高速補足!」



 緊張感のいやり取りのあと

 凪鶴なつるは、ノートを読み始め。

 やや険しい顔をした。



「……薄味。

 普段と真逆で、微妙……。

 両極端……」

「だから言ったじゃん。

 てか、『侮辱は許さない』じゃなかったの?」

「扱き下ろしてはいない。

 忌憚無い意見」

「『汚い』の間違いでしょ。

 それより、ほら。

 読了したなら、もう返してよ。

 なんの罰ゲームだよ、本当ホント



 やや強引に、奪い取る進晴すばる

 そんな彼を、凪鶴なつるが睨む。



「……ハル。

 今の君、嫌い。

 全然、エコじゃない」



 普段より2割増しで、機械的にげる凪鶴なつる



 ここに来て、まさかのてのひら返し。

 説教は済んだとばかり思っていたため

 進晴すばるは、棚上げを承知で、ムッとした。



「……どういう意味?」

「ノートが、気の毒。

 このノートは、ハルに引き裂かれるために、生まれたわけではない」

「は?

 俺は?

 俺の安否は?」

「そんなの、知らない。

 エコではないなら、ハルなんて知らない。

 すべて、自業自得。

 好きに、すればい。

 ただし、一人になんかさせない。

 凪鶴なつるが、道連れになってやる」



 またしても、ややズレた指摘。

 別に、ノートに心なんて、宿っていないというのに。



 進晴すばるの怒りメーターが、グングン上昇する。



「それに、キャラも。

 作るだけ、作っておいて。

 散々さんざん、引っ掻き回しておいて。

 弄んだすえに、持て余し。

 しまいには、ろうことか。

 ハッピー・エンドも、カタルシスも迎えないまま。

 創作者の手で、捨てられようだなんて。

 あまりに、むごい。

 あまりに、傲慢」

「今、自分で言ったじゃん。

 作ったのは、俺だよ。

 どうしようが、どうなろうが、俺の勝手。

 余所者が、口出しすることじゃない」

凪鶴なつるは今、ハルの家にる。

 余所者でも、部外者でもない」

「詭弁だろ、それ。

 気が変わった。

 だったら、出て行ってくれ」

「断る。

 凪鶴なつるは、ここに居座る。

 ハルが、きちんと自戒するまで」

「だから、反省したって。

 もう、こんなことしない。

 謝罪なら、もう済ませただろ?」

「反省とは、次に活かして始めて、意味を持ち、形をなす。

 ハルはまだ、糧にしていない」

「どうしたら、満足なの?」

「ハルが、凪鶴なつるを、活用すれば」

なんだよ、それ。

 具体案も解決策もいのに、簡単に

「それなら、る」



 凪鶴なつるは、スマホを持つ。



「『コクピット』。

 今回の作品、文章は悪くなかった。

 でも、悲しいかな。

 コクラ◯を始めとした、題材被り。

 数多あまたの既存には、太刀打ち出来できない。

 それを過去、凌駕する出力はい。

 だからこそ、他の自作から、パワーを借りる」

「……どういうこと?」



 少し、スマホを操作してから。

 凪鶴なつるは、画面を見せた。



「『tweloveトゥウェルヴ』。

 ハルが過去、自分探し、承認欲求目当てでやっていた、ラジオアプリ。

 そこで出していた、12ほんのオムニバスからなる、トーク小説。

 この中の、一つと、組み合わせる」

「なぁっ!?」



 まさかの、黒歴史。

 進晴すばるたまらず、腰を抜かす。



「な、なんでそれ、知って……!?

 しかも、未だに持ってるの!?

 教えてないし、アカウントごと消したはずっ!!」

熊耳ゆうじさんが。

 バック・アップを、譲ってくれた」

「あいつぅ!!

 向こうにすら教えてないのに、あいつぅ!!

 てか、いつの間に仲良くなったの!?」

一昨日おととい

 進晴すばるのノート、発見した日。

 その夜に、RAINレインが来た。

 クラスメートの伝手つてで、凪鶴なつるのIDを、聞いたらしい」

「個人情報っ!!

 現代ネット社会の闇っ!!

 あの、コミュ強ラブ探偵気取りめっ!!

 さては、俺から相談してぐに、水面下で接触しやがったなぁ!?

 しかも、え、なに!?

 全部、聴いたっての!?」

いな

 ハルのネット小説も、網羅した」

「ただのガチ勢じゃんかよ、それぇっ!!」



 頭を抱え、崩れ落ちる進晴すばる



 手持ち無沙汰となった凪鶴なつる

 えず、労いも兼ねて、背中を叩く。

 


「で、ナツさん。

 組み合わせるって、なにを?」



 割とぐに立ち直る進晴すばる

 開き直りとも言うが。

 進晴すばるが回復したのなら、凪鶴なつるなんでもかった。



「この中に。

 幽霊として蘇った女子との三角関係を題材にした、悲恋物がる」

「それと合体させようってこと

 難しくない?」

「現実的には。

 だから、天使を出す」

「……はい?」

「『告白をさせることで、霊を成仏させるキューピット』。

 略して、『コクピット』」

「サラッとトリプル・ミーニングになったね。

 発想は、面白いよ。

 可愛かわいらしいタイトルと、シリアスな設定で、シナジーとギャップも生まれそう。

 でも、そのテーマで、つかな?」

「一口に『告白』と言っても。

 家族や、友人など。

 特段、恋愛絡みじゃなくても可」

「なるほど。

 死神く◯みたいな感じでも行けるのか」

「あとは、シリアスとコメディの二足の草鞋わらじ

 なんでもりの弓矢で、ハチャメチャに解決したり。

 ないしは、切なく儚く締めたり。

 バリエーション、豊富」

「……ねぇ。

 それ今、思い付いたばかりなんだよね?」

無論むろん

 なにか、問題でも?」

「うん。

 問題がいのが、問題かな?」

「哲学?

 深そう。

 考察が捗る」

「違うよ?

 単なる、率直な感想だよ?

 くれぐれも、しないでね?

 考察も、勘違いも、拡大解釈も」

「御意。

 それはそうと、ハル」



 ベッドに座っていた、進晴すばるの眼前まで移動し。

 凪鶴なつるは、進晴すばるの足に抱き付いた。



「……凪鶴なつるさん?」

「……凪鶴なつるは、便利。

 凪鶴なつるは、ハルのために、役立てる。

 創作は、苦手。

 真面まともなコメント、感想も不可能。

 けれど。

 凪鶴なつるには、エコがる。

 凪鶴なつるは、3Rなら得意。

 ハルの作品を分析、網羅し。

 その中から、組み合わせ、再利用し。

 パワー・アップさせることが、可能」

「ん、んー?」

「他にも、様々な機能、オプション付き。

 ハルと、おしゃべり。

 ハルの、コスタイ、最適化。

 ハルの、食事のサポート。

 ハルの、気晴らし。

 ハルの、デレさせ」

「最後のは、凪鶴なつるさんだよね?

 あなたが、甘えたいだけだよね?」

「ハルにとって、凪鶴なつるはエコ。

 凪鶴なつるにとって、ハルはエコ。

 なれば現状、離れる理由など、許さない。

 それでもハルが、凪鶴なつるを振り落とそうものなら。

 こうして、足に組み付き。

 文字通り、ハルの足を引っ張り続けるまで」

めてね?

 人前では、勘弁してね?」

「ハルが素直なら、しない」

「素直になった結果。

 今日みたいに、なったんですが」

「だったら、最初から言えばかった。

 そうしたら、未然に防げた。

 モヤモヤしたなら、ぐに届けろ。

 ハルの心、頭のゴミを。

 凪鶴なつるなら、ぐに掃除出来できる。

 もっと早く、凪鶴なつるを頼れ。

 いつでも、さきに、凪鶴なつるを呼べ」

「……迷惑じゃ、ない?」

「微塵も。

 されど、強いて言えば」

「言えば?」

凪鶴なつるとしては。

 こうなってからは、少し迷惑。

 無駄と粗末と、トラブルは避けるに限る。

 コスタイ」

「参りました、恐れ入りました」

「遅い。

 けれど……最適解」



 さらに強く、進晴すばるの両足を挟む凪鶴なつる

 その体が、わずかに震えていた。



 進晴すばるは無意識に、抱き締めようとして。

 けれど、理性が働き。

 両腕を伸ばしたまま、固まってしまう。



「……意気地無し。

 躊躇ためらわずとも、拒まない。

 ハルは、妙な気は起こさない。

 その点は、凪鶴なつるも一目置いている」

「うぅれしくないなぁ、その信頼はぁ……」

いから。

 はよ、ハグれ」

「いや、あの……凪鶴なつるさん?

 俺達、そのぉ……。

 そういうんじゃあ、断じて」

「もうい。

 コスタイ、焦れったい」



 進晴すばるの両足を解放。

 ついで顔を上げ、起立し。

 少し下がり、助走を付けて。



「おわぁっ!?」



 凪鶴なつるは、進晴すばるに飛び込んだ。



「な、凪鶴なつるさぁん……」

「こっちのが、効率的」

「そうだけどさぁ……。

 仮にも女の子なんだし、その……」

「『仮』じゃない。

 凪鶴なつるは正真正銘、現役女子高生。

 ハル、失礼」

「ごめんて」

「許さない。

 罰として、ハル。

 凪鶴なつるに、命令すべし」

「え」

凪鶴なつるは、聡い。

 ハルが、凪鶴なつるに遠慮していること

 ちゃんと、気付きづいている」

「……凪鶴なつるさん?」

「これはれっきとした、第1条違反。

 よって、ハルに。

 凪鶴なつるの、有効活用を求める」

「いきなり、そんなこと、言われてもなぁ……」

「いつなら、可?」

「いや、『いつ』とかいから。

 そんなぐに、決められんから。

 こっちの複雑な男心も、分かってよ」

「そういうことなら。

 この場は、折れる」



 あっさり身を引く凪鶴なつる

 そのまま彼の体から離れ、ベッドから降りる。



 残念だなぁと。

 ほんの少しでも、思ってしまった。



 そんな自分を。

 進晴すばるは、叱責した。



「ハル。

 君は今、また1つ。

 大きなあやまちを踏んだ」

「へ?」

「正確な日時を、設定しなかった。

 それが、君の罪」

「……どういう意味?」

いずれ分かる。

 精々せいぜい、用心しろ。

 今に見ていろ。

 失敬」



 真相をぼかしたまま。

 凪鶴なつるは部屋を去った。


 

 そして、翌朝。

 答え合わせは、存外あっさり。

 されど大規模に、行われた。





「上述の通り。

 凪鶴なつるは、創作の才能がい。

 でも、ハルに恩返しがしたい。

 凪鶴なつるに、他になに出来できる?」



 二人での登校中。

 再び、凪鶴なつるが聞いて来た。



「いや。

 施しなら、もう充分、受けてるよ?

 弁当に、コメント。

 カラオケのも、趣味と実益を兼ねた気分転換だったし。

 なのに、これ以上だなんて。

 とてもじゃないけど、望めないよ」

「ならば、望め。

 凪鶴なつる、お役に立てるべし」

「そう言われてもなぁ」

「ハル、ちょろ甘。

 大方、そんな所だろうと思った。

 だから、噂を流した」

「噂?

 どんな?」

「『ハルに、彼女が出来できた』」

「へー、そう。

 そりゃ羨まけしから、はぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!?」



 正に、青天の霹靂。

 想定外の根回しに、思わず進晴すばるは立ち止まる。



「これで、ハルはもう、不必要に遊びに誘われない。

 エコでもない手合いに、無理に付き合う必要がい。

 仮の彼女、すなわ凪鶴なつるに、専念出来できる。

 無論むろん凪鶴なつるは。

 ハルに、彼氏らしい振る舞いなど求めない。

 ハルが、ハルの好きなことに尽力してさえくれれば。

 凪鶴なつるは、満足」

「ちょちょちょ……ちょっと、待って!?

 なんで、そんなことに!?」

「別に、唐突ではない。

 元より凪鶴なつるは、ハルと添い遂げる所存。

 むしろ、遅かったくらい

「そうだった!?

 あ〜!!」



 落ち込み、頭を抱え、屈む進晴すばる



 数分後。

 ふと顔を上げると、凪鶴なつるが消えていた。

 先程まで、ぐ近くにたというのに。



「……いや、ステルス持ちかい、放置かぁい!」



 ツッコんでいても仕方がい。

 進晴すばるは、重い足を、学校へと運ぶ。



 まぁ、でも?

 凪鶴なつるさん、友達とかないみたいだしぃ?

 影響力なんて、高が知れてるでしょ?

 別に、新聞部でもないし、つながりとかもいし。



「……新聞部?」



 はたと、気付きづき。

 いやな予測が、加速する。



 それを裏付けるように。

 やにわに、周囲が賑やかになる。



「おい、進晴すばる!!」

功刃くぬぎくん!?

 あれ、どういうこと!?」

なんで今まで、黙ってたんだよ!?」

「相手は!?

 お相手は、誰!?」



 凪鶴なつるに、直前まで起こしてもらえず。

 重役出勤ばりに、遅刻スレスレで登校する進晴すばる



 が。

 来てみれば、質問ラッシュ。

 正直、心当たりしかい。



「おはよう、ジン」

「おはよう、ユウ。

 それはそうと、コラ。

 よくもうち凪鶴なつるさんに、余計なこと、吹き込んでくれたな」

なんことだか。

 それより、これ、どうぞ。

 我が新聞部の、号外だよ」

「……」



 校門前で意味深に待ち伏せていた紺夏かんなから、ペーパーをもらい。

 進晴すばるは、息を呑んだ。



『1年のスターに、恋人疑惑!?

 我々、新聞部は先日、とある確かな筋より、ホットな極秘情報を入手した。

 なんと、かの高名な功刃くぬぎ 進晴すばる(無所属)に、恋人が出来できたというのだ。

 これまで、その人気に反して、叩いても叩いても一切、埃の出なかった功刃くぬぎ氏。 

 そんな彼に、浮いた話が急浮上。

 そのニュースは、我々新聞部さえもザワつかせた。 

 しかし、相手が相手。

 独自調査をしても、尻尾は出さず。

 残念ながら今回、その正体まではキャッチ出来できなかった。

 が、我々は決して、あきらめない。

 この失敗、屈辱をバネにし。

 近い内に、この特ダネを真実に昇華させ。

 かならずや、白日の下に晒してご覧に入れよう。

 報道の自由、正義の名の元に』



「な……!!

 なんじゃ、こりゃぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!」



 思わず、盛大に叫ぶ進晴すばる



 先に教室に入り、ベランダから高みの県を決め込んでいた凪鶴なつる

 彼女が、無表情で、進晴すばるにピースをした。

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