第1条「カイジンー嘘と遠慮は、ほぼ禁止ー」

功刃くぬぎ?」

「どうかしましたき?」

「大丈夫か!?」



 放課後の、カラオケにて。

 進晴すばるは、心ここにあらずとなっていた。



 しかも、いつもと異なり。

 設定だとか、台詞セリフだとか。

 そういう、後ろめたさを覚える類でもない。

 そもそも、現実世界の事象。



 すなわち、『織守おりがみ 凪鶴なつるについて』である。



 彼女は一体、どういうもりなのか。

 何故なぜあんな、唐突で不可解な発言をしたのか。

 進晴すばる趣味よわみにぎったのに、なにもして来ないのは何故なにゆえか。

 


 そんな不安に苛まれ、無意識に考察にはかどった結果。

 現状が構成されてしまった、というわけだ。



「……ごめん。

 なんか、疲れてるのかも」

「そりゃそうだよ。

 なんたって功刃くぬぎ、どのグループでもない、引っ張りだこな無所属だし。

 そうじゃなくても、うちのクラスで一番いちばん、必死にノート取ってるの、功刃くぬぎだし」

「確かに。

 待てよ……。

 あれなら、堂々とサボれるな!!」

「こーら。

 あんたが休んで、どーする。

 今は、『功刃くぬぎ』の話でしょーが」

「はは……」



「……あれ、板書じゃないです。

 自作の三文小説です。

 俺そんな、真人間じゃないです。

 確かに、メモも取ってるけど」

 などと、自白出来できはずく。 



 気遣きづかってくれるのは、ありがたいが。

 簡単に、おいそれと明かせる内容でもない。



 なんせ、相手は、あの織守おりがみ 凪鶴なつる

 ただでさえ悪目立ちしてる、我がクラスの誇る一匹狼なのだから。

 名前を出した所で、確実に、ろくことにならない。



 三十六計逃げるにかず。

 頭を切り替えるためにも、進晴すばるは戦線離脱、休息を試み。

 グラスを持って、席を立った。



本当ホント、ごめん。

 ちょっと、飲み物取って来るわ」

「俺、コーラ!!」

「あんたね〜……」

いって。

 他のみんなは?」

「お気遣いく」

「あんがと、功刃くぬぎ

「どういたしまして。

 じゃ、ちょっと行って来るわ」



 追加で、もう一人分のグラスを持ち。

 進晴すばるは、席を外し。



 ドリンクを補充しつつ。

 ひそかに、溜息ためいきこぼす。



「ジン。

 お疲れ様。

 どうやら、お困りのご様子ようすで」



 気を抜いている所を見られ、ビクッとし。

 ほどくして、構える必要がかったと後悔する。



 本当ほんとうに、今の自分は、どうかしている。

 自分を『ジン』と呼ぶのは、あとにも先にも、ただ一人。



 幼馴染おさななじみで同級生の、毛利◯。

 ではなく、熊耳ゆうじ 紺夏かんなだけなのに。



「……ユウ。

 来てくれたのか」

「気にしないで。

 私の、独断専行だから。

 今のジン、なんか放っておけなくって」

「いや……助かったよ。

 丁度、誰かに相談したかった所だ。

 気心の知れたユウなら、厄介なことにはならなさそうだ」

「助けましたし、次も助けます。

 それで?

 一体、なにったの?」

「あ、ああ。

 ところで、平気か?

 俺、山門やまとにコーラ頼まれてるんだけど」

「それなら平気。

 今、熱唱中だから」

「あー。

 そういや、あいつの番だったっけ。

 確かに、そこで持ってっても、飲まないか。

 にしても、流石さすがユウ。

 く見てるな」

「ジンには負けるよ」

「俺、そんなすごくないって」

「そんなこといよ。

 ところで、話って、なに

 誰かに聞かれたら、不味まずい感じ?

 外に出ていか、店員さんに確認して来る?」

「あ、ああ。

 頼むわ」

「頼まれました。

 少々、お待ちを」



 言うが早いか、カウンターへと向かう紺夏かんな

 持っていたグラスが、いつの間にか彼女の手元に移っていたこと気付きづき。

 いよいよ、末期かと、進晴すばるさらに落ち込んだ。



「『君、凪鶴なつるをエコにしてくれる?』って。

 今朝、織守おりがみさんに、そう言われたんだ。

 今日ずっと、それが、どうも引っ掛かってて……」

「へー。

 織守おりがみさんって、一人称、可愛かわいかったんだ。

 所謂いわゆる、ギャップ萌えだね。

 これは男女問わず、ポイント高いのでは?」

「ユーウー?」

「ごめん、ごめん。

 ちゃんと聞くから、怒んないで。

 にしても、『エコ』かぁ。

 確かに、なんく分かんないね」



 入口付近で、壁にもたれ、給水しつつ。

 そんな話をする二人。



「そもそも、ジン。

 なんで、織守おりがみさんと?

 なにか接点、ったっけ?」

「……想像にお任せします」

「ふーん。

 歴戦の幼馴染おさななじみに、隠しごと

 これは、アバンチュールな芳香がするなぁ」

「いや、どんな?

 てか、重複してる。

 いつも通り、フィーリングで喋りぎ。

 あと、そういうんじゃないから。

 断じて」

「誓って?」

「……多分」

「あははっ。

 ジンも、なんだかんだ、男の子してるねぇ」

「……変、かな?」

「ううん。

 むしろ、健全。

 ……ちょっと、寂しいけどね。

 本当ホントに、ちょこっとだけ」



 少し気不味きまずそうな顔をしてから。

 紺夏かんなは、ぐに繕い、空を見上げる。



「にしても、織守おりがみさんかぁ。

 彼女、妙な噂が絶えないんだよねぇ」

「そうなの?」

「そうなのです」

「例えば?」

「お?

 気になる?」

「……なる、かも」

よろしい。

 その素直さに免じて、特別に進呈しよう。

 クラス切っての消息通。

 を自称する私が知ってる、織守おりがみさんの秘密を。

 その情報量として、釜焼きホットケーキをダブルで」

「片方で」

「ちぇっ。

 覚えてろよぉ」

おごられる側がおごったら、怒られない?」



 危うく調子に乗りそうになったのを、なんとか止め。

 進晴すばるは、紺夏かんなに話をさせる。



「ほら。

 織守おりがみさんって、同性わたしから見ても、かなりの美人でしょ?」

「ユウの主観は、分からないけど。

 やっぱ、そうなの?」

勿論もちろん

 見てるだけで涼める、雪のような、純白のストレート・ロング(右目隠れ)。

 どこかアンニュイな、エメラルドの瞳。

 ノー・メイクでも映える、ナチュラル美顔。

 ハーフだからこそ醸せる、ファビュラスでエキゾチックなルックス。

 和風なネーミングとの相乗効果で生まれる、インパクト抜群のハーモニー。

 普段、真面まともに声も発しない、自由奔放さ。

 休み時間には決まって姿を眩ませる神出鬼没、ミステリアスさ。

 庇護欲を掻き立てられる、孤独なオーラ。

 細い腰と、長い手足と、バースト。

 他にも」

「ユーウー?」

「おっとっと。

 ごめん、ごめん。

 つい、熱くなって、脱線しちゃった。

 私としたことが」

「気にすんな。

 いっつも、そんなだ。

 んで、脱線したら、俺が正しいレールを引き直すだけだ」

「助かるぅ」



 照れ笑いで誤魔化ごまか紺夏かんな

 少し髪を掻きつつ、進晴すばるは催促する。



「それで?」

「あー、うん。

 そんな一際目立ってる織守おりがみさんだけど。

 結構、狙ってる人、多くてさ。

 で、校舎裏に呼び出して、実際にアタックした勇者がるんだけど。

 告白する前に、開口一番に、言われたんだって」

「『エコ』云々って?」

「『けんぷふぁー』。

 って」

「……ちょっと待て。

 謎解きパートで、さらなる謎ワード増やして、どうする?」

仕様しょういじゃん。

 現に、そうなんだし」

「そうだけど。

 それはそうとして、消息通の看板、撤去した方がいよ?」

「マジかぁ。

 これで、探偵業も終わりかぁ。

 次の生業なりわい縄張なわばり探さなきゃなぁ。

 って、こら。

 ジンまでボケになって、どーする。

 ツッコミ不在になるじゃないのよ」

「ボケの自覚はるんだ」

「失礼なっ」



 長年の経験で培った阿吽あうんの呼吸による即興コント。

 その心地良さが、疲弊した体に染み渡る。

 


 もっとも、紺夏かんなにはポカポカと、左手で叩かれているのだが。

 利用され煽られたのが、腹にえ兼ねたらしい。



「あ、そうだ。

 折角せっかくだから、この店にまつわる、怖い話を」

「そのサービス、らない」

「ここさぁ……出るらしいよ?」

「俺の話、聞いてる、聞こえてる?」

なんでも、定期的に、女の声が響いてるらしいよ……。

『くりんりねす・びーむ』とか、『あーるてぃめっとこうせーん』とか」

「どっちもビームじゃん。

 しかも、またエコ絡み。

 てか、なんで棒読み?」

「忠実に再現した結果。

 こんな感じで、投げ込みしてるらしいよ」

「『投げ込み』って言わなくない?

 そんな、フワフワしたの。

 てか、え、なに

 今、女性の間で、エコが流行はやってるの?」

「さぁ。

 私が知ってるのは、それくらいかな。

 えず、ジン」



 進晴すばるの肩に手を置き、空いている手でサムズ・アップし。

 紺夏かんなは、にこやかにげた。



「色々、疑われそうだから。

 そろそろ、戻ろっか。

 コーラ、補充し直した上で」



 気付きづけば、炭酸が抜け切り。

 頼まれていたコーラは、茶色い砂糖の塊と成り果てた。



「あ、言い忘れてた。

 織守おりがみさん、実は怪人で。

 人の生き血を啜って、食べちゃうらしいよ」

「……それ、なんで忘れてた?

 そして今、言う?

 俺、アセロラ飲もうとしてるんだけど?

 いや、真っ赤じゃん。

 確実に、意識するじゃん、不味まずくなるじゃん」

「だから今、適当に言った。

 これが本当ホントの、『真っ赤な嘘』。

 なんちゃって」

「ハントしてやる」



 バンパイアみたいなポーズを取り、口を開けている紺夏かんなにチョップし。

 なにか言いつつ背中を叩く彼女を連れて、部屋に戻る進晴すばる



 遅れた所為せいで、ご意見はもらったものの。

 さいわいなことに、変な疑いはく。

 そのあとは、滞りく、カラオケは進んだ。

 依然としてボーッとしている、進晴すばる以外は。





 あれこれ逡巡しても、答えは出ず。

 進晴すばるは、直談判に出ることにした。

 


 校門が開いてほどくして、意気込んで教室に入り。



 すでに渦中の相手が、箒を持って中にことに。

 進晴すばるは、動揺を隠せなくなりつつあった。

 しかし、ほどくして、平静を装い。



「おはよ。

 早いね、織守おりがみさん」

「……」



 口は開かず、目線を合わせるだけ。

 名指しで挨拶もしたのに、無反応。

 軽くうなずいたりもしない。



 思った以上に、難問だ。

 そう思いつつ、自分の席に座り、鞄を机のフックに掛け。



「『けんぷふぁー』」



 くだんの呪文を、唱えられた。



 進晴すばるは、耳を疑った。

 こちらには一瞥もくれず、さも独り言をつぶやように放ったのだ。

 これでは、紺夏かんなからの刷り込みによる「幻聴」と捉えても、色々と無理はい。



 が。

 進晴すばるえて、そこで切り込む。



「それって、アレかな?

 ひょっとして、『ナツル』つながり?

 そっちも主人公、『ナツル』だし」



 再び、進晴すばるを見る凪鶴なつる



 先程、きちんと目が合ったのに。

 この数ヶ月、同じ教室で勉強してるのに。

 なんなら、席も割と近いのに。



 不思議なことに。

 進晴すばるは今、ようやく、凪鶴なつるの視界に。

 彼女の世界に、入れた気がした。



「……合格」

「え、しゃべった?

 てか今の、試験だったの?」

「パス・ワード。

 君は、創作に明るい。

 現に、元ネタを知っていた」

「ま、まぁ?

 これでも、小説、書いてるしぃ?

 てんでアマチュアだけどぉ?」

「前言撤回。

 調べたばかり。

 嘘き」



 速攻で看破された。

 


 現に昨日、軽い気持ちで、スマホで検索して偶然、辿り着けた。

 付け焼き刃もい所の知識である。



「……お見逸れ致しました」

「修行が足らん。

 下手ヘタに見栄なんて貼るから、こうなる」

おっしゃる通り……。

 てか、アレかな?

 合格、取り消し?」

「しない。

 君が、最初の合格者。

 そんな勿体い愚行、しない」

「でしょーねぇ……」



 なんとなく、察せられた。

 いきなり、あんな謎ワードを出されたら。

 大抵の人間は、引くか、急冷する。



功刃くぬぎ 進晴すばる

 君は、めずらしく、興味を持った。

 凪鶴なつるか、あるいは原作に。

 凪鶴なつるは、それがうれしい。

 だから、寛大な御心で、無罪放免」

「あ、ありが、とう?」

「どいたま」

「いや、可愛かわいいな」

「……?」

「ご、ごめん。

 不愉快だったかな?」

「別に。

 されど、凪鶴なつるは、可愛かわいくない」

「……いやいやいや。

 思いっ切り可愛かわいいでしょ、あなた。

 じゃなきゃ、コクられたりせんでしょ」

「……盲点だった。

 君、慧眼」

「ど、どうも?」

 


 ややズレた会話をしつつ。

 なんしに、進晴すばる凪鶴なつるを眺め始めた。



「……?」



 不思議がられた。

 手を止めずに、小首をかしげているのが、妙に抜けてて。

 やはり、可愛かわいらしかった。



「いや。

 なんで、掃除してくれてるのかなって。

 確か今日、当番じゃないでしょ?」

「ボランティア」

「……そんな、町内のゴミ拾い活動みたいな感覚?」

「違反?」

「そんなこといよ。

 むしろ助かるし、立派だよ。

 格好かっこいし、憧れる」

「そう」


 

 感謝も、照れもし。

 進晴すばるは、持てはやした自分が、馬鹿バカみたいに思えてならない。



 淡白なスキットをしつつ。

 再び、教室を掃き、塵取りの埃をゴミ箱に捨てる凪鶴なつる

 進晴すばるは、背凭れに顎と手を乗せ、振り返る。



「あのさ。

 もしかして、昨日。

 俺が置き忘れたノートを、回収してくれたのも」

「掃除中に、見掛けた。

 読んだ。

 文章は、まぁまぁ。

 ただ、設定が弱い。

 寄せ集めで、噛み合っていない。

 選考外」

「色々、サクサクぎる。

 RTAかな?」

「PTA?」

「惜しい。

 字面似てるって意味でも。

 てか、なんで?

 昨日も、織守おりがみさんじゃないでしょ?

 そもそも朝は、掃除とかいでしょ?」

「その日の、放課後の当番、常習犯。

 だから、先んじて済ませておいた。

 あの人、嫌い。

 掃除を無断でふけるなんて、言語道断、人誅待ったし。

 全然、エコじゃない」

「……ごめん。

 それ、山門やまと

 俺の友達。

 通りで、最初からカラオケにわけだ。

 なん稚児ややこしくなりそうってか、空気悪くしそうだったから、黙ってたけど。

 あいつ、サボりやがったな。

 本当ホント、ごめんね。

 今度、俺から叱っとく」

「別にい。

 凪鶴なつるが代われば事足りる。

 というか、他の人なんて、最初から当てにしていない。

 コスタイ」

「へ?」

「『コスパ』、『タイパ』が悪い」

「あー、そういう……」



 独特な子だなぁと思いつつ。

 頬杖をつきながら、進晴すばるは観察を続ける。



 かと思いきや。

 今度は凪鶴なつるが、進晴すばるに質問する。



「小説」

「……え?」

「小説。

 今日は、書いていない。

 どうして?

 凪鶴なつる、疑問」

「……」



 ちょくちょく、気にはなっていたけど。

 そんな、オートマタみたいな口調だったんだ。

 合ってるな。



 などと意表を突かれつつ。

 進晴すばるは、答える。



「……なんでだろ。

 俺にも、く分からない。

 けど、強いて言えば」

「言えば?」

「『今は、織守おりがみさんと話したい気分だから』。

 ……かな」

「ナンパ?」

「ごめん。

 そんなもりじゃないよ。

 気分を害したなら、謝る」

「害されてなどいない。

 凪鶴なつるの心は、常に清廉潔白。

 略して、『清潔』。

 それくらいで、汚染されなどしない」



 感想ボイスが気持ちばかり増えた所から察するに。

 その割には、気になってはいるらしいのだが。

 藪蛇でしかない気がして、進晴すばるは伏せておいた。



すごいね。

 見習いたいなぁ」

「三日坊主の常套句」

「バレたか」

「浅はか」

「どっちが?

 俺の『思考』?

 それとも、『発言』?」

「両方」

「わー、シビアー」



 悪くない空気感、リズム感、相性。

 彼女と、こんなふうに会話出来できる日が、訪れようとは。



 それはそうと。



「なんてーか。

 織守おりがみさんて、面白いね」

「……っ」



 不意に、箒と塵取りを、床に置き。

 凪鶴なつるが、進晴すばるに擦り寄って来る。

 思わず進晴すばるは、距離を取り、パーソナル・スペースの維持、テリトリーの拡大に努める。



「え、え、え?

 な、なに

 俺、なんか変なこと、言った?」

「言った。

 今も」

なにってか、どこが?

 ごめん。

 謝るよ」

「君。

 凪鶴なつるを、『面白い』って。

 そう、言った。

 初経験」

「『初体験』みたいに、言わないでくれる?

 ほら、その……多感、複雑な時期、なんで……。

 てか、そこ?」

「どこが?

 どこが、面白かった?

 具体的に、述べよ」

なにその、テスト問題みたいなの……。

 てかなんで、そんな、急に、グイグイ来るの……?」



 進晴すばるに突かれ。

 距離感がバグっていることに、凪鶴なつる気付きづき。

 空かさず、進晴すばるから離れる。



 ほんの少しだけ。

 惜しかったと、進晴すばるは思った。



「……功刃くぬぎ 進晴すばる

「え?

 あ、はい」

凪鶴なつるは、『エコで面白い人間』になりたい。

 凪鶴なつるは、『普通』『退屈』『ポンコツ』だから。

 もっと、『愉快』、『エコ』になりたい」



 再び、進晴すばるに近付き。

 両手で、彼のてのひらを包み。

 凪鶴なつるは、懇願する。



 が、しかし。



「……えと、ごめん。

 ……どこが、『普通』で、『退屈』なの?」

「??」



 無自覚らしい。



 乗り掛かった船だ。

 流石さすがに、懇切丁寧に拾うのは、アレかもなので。

 えず、触り程度。

 取り分け特徴的な、『エコ』の部分を、進晴すばるは伝えることにした。



「じゃあ、織守おりがみさん。

 仮に織守おりがみさんが、『普通』『退屈』だとするよ」

「ふ、ふふふ」

「え、なに

 急に、無表情で、声だけで笑わないでくれる?

 シンプルに怖い」

「やはり、凪鶴なつるは、退屈、偏屈、ポンコツ。

 こんな凪鶴なつる、嫌い。

 ついでに君も、きらい」

「『ついで』程度で、俺を嫌わないで?

 あと、『仮に』ね?

 そういう『設定』『前提』の話ね?」

「ならば、そう予告すべき。

 コスタイ」

「言ったよ? 俺。

 ちゃんと、『仮に』って」

「……言った?」

「うん」

「……真実?」

「うん」

「……嘘は?」

いてない」

「……神に誓って?」

「神に誓って」

「……」

「……」

「……」

「……え、ローディング中?」



 顎に手を当て、長考し、記憶を整頓し。

 そして、腰に手を当て。



凪鶴なつるの、どこが面白かった?

 具体的に、述べよ」



 キンクリして来た。

 ローディングではなく、初期化だった。

 


「……ご、ごめん……。

 やっぱ、面白いよ、織守おりがみさん。

 今のとか、特に……」

「『今の』?

 く分からない。

 もっと、具体的に」

「ご、ごめん……。

 ちょっと、近い」



 再び、詰め寄る凪鶴なつる

 が、進晴すばるに制され、下がる。



「……ケチ」

ひどくない?」

「……あ。

 ケチ。

 =エコ。

 功刃くぬぎ 進晴すばる

 凪鶴なつる、君、許す。

 同士、大歓迎。

 凪鶴なつる、同担拒否らない」

「うん。

 ず、なんで、そうなった?

 そもそも俺、織守おりがみさんから怨み、買ってないと思うよ?

 手前味噌かもだけど」

「『可処分時間』。

 略して、『カショジ』。

 の、窃盗罪。

 現行犯」

「やっぱ、ひどくない?

 いや、確かに俺も、質問攻めにしてるけどさ。

 長めに返答してるのも、質問返してるのも、織守おりがみさんだよね?」

「……凪鶴なつるの、どこが」

「Bot化しないで、パワプレ味占めないで。

 そう簡単に、瞬時に、同じ手は食わないから。

 気不味きまずくなったのは、分かるけどさ」

気不味きまずい。

 =空気が悪い。

 =エコじゃない。

 功刃くぬぎ 進晴すばる

 君、降格、除隊」

「だから、なんで?

 そんでもって短いなぁ、入隊期間」



 摩訶不思議な、凪鶴なつるの反応。

 それを受け、進晴すばるは腹が捩れそうになる。



「……はーっ。

 久々に、ガチで笑った。

 もう、涙出てくるレベル」

「涙。

 =心の浄化。

 =エコ。

 君、昇格、復職」

「やりー。

 あと、今のは、なんく分かった」

「昇格。

 そのまま、エコどうを邁進すべし」

「まさかの、二階級特進」

「パチパチパチパチ」

「わー、ありがとー。

 でも、口だけで拍手されるの、ウケるー。

 てか、あとにも先にも、いー。

 そして、それもう、『拍手』って言わなーい。

 ただの、『拍口はくくち』ー。

 言いづらいし、パクチーみたーい」

「コスタイ」

「ちょっと手ぇ叩くのでさえ!?」

「そこまでカショジ割くほどの仲でもない」

「二階級特進してもっ!?」

「じゃあ、降格、除隊」

「『じゃあ』て、なにっ!?」



 進晴すばるは、改めて思う。

 そして、羨ましがる。



 こんな人が、『普通』『退屈』なわけいと。



「……俺もさ。

 同じなんだよ。

 織守おりがみさん」



 目元を拭いつつ。

 進晴すばるは、自供する。



「俺も、『特別』『エゴ』になりたいんだ。

 だから、ずっと探してる。

 そのためえて、どのグループにも入らないで。

 無所属のまま、色んな人達と関わってる。

 話して、笑って、ぶつかって、仲直りして。

 その果てに、見付けたいんだ。

 俺だけの、『オリジナル』。

 ……俺の、『原点オリジン』を」

「仲間」

「俺と、織守おりがみさんが?

 まぁ、うん。

 そう、なるかな。

 てか、考えを改めた。

 そんなペラペラした関係で、ベラベラ、ヘラヘラしても、なにも変わらないし、叶わない。

 心機一転。

 一人に絞って、とことん、向き合い、付き合ってみる。

 だからさ、織守おりがみさん」



 椅子いすから降り、凪鶴なつるの前に立ち。

 進晴すばるは、自然と微笑ほほえむ。



「俺と、友達になってくれない?

 俺、君を研究し尽くしたい」

「……却下。

 そんな軽い間柄あいだがら、コスタイ。

 なにも、信じられない」

「そっか。

 どういうのが、希望?」

「『生涯の戦友、伴侶』」

「じゃあ、それでいや。

 いずれ、そんなふうになるためにも。

 ずは、俺と、仲間に。

 同士に、なってよ」



 恥も外聞もく、手を差し出す進晴すばる



 一方、凪鶴なつるは違った。

 悲痛そうな顔で、目を見開き、泳がせ始めた。

 今までのコスタイ信者っりが、嘘のようだ。



「それは、つまり……。

 ……『カモフラ婚』?」

「え?

 ま、まぁ……。

 行く行くは、そうなる、かも?」

「……っ!!」



 本気で怖がりつつ、胸を抑え、呼吸困難に陥りかける凪鶴なつる

 しくったと、進晴すばるは焦りを見せる。



「ご、ごめん!!

 流石さすがに、急ぎ過ぎたっ!

 今の、普通にアウトだよねっ!?

 俺達まだ出会ったばっかだし、ちゃんと話したのも昨日からだし!

 そもそも、付き合ってすらいないのにっ!

 本当ホント、ごめんっ!!」

「ち、違っ……。

 そうじゃなく、って……」



 パニクった顔、心を整え。

 凪鶴なつるは、進晴すばるに返す。



「……なる。

 君と、同士に。

 凪鶴なつる……君は、嫌いじゃない」



 少し、けれど熟考したあと

 凪鶴なつるは、進晴すばるとシェイク・ハンドした。



「『オリジン』。

 只今、結成」

「え?

 それ、名前?

 もしかして、俺達の名前、組み合わせた?

 ダブル・ミーニングで、格好かっこっ」

「念の為、君のも聞く。

 なにか、候補は?」

「『エコエゴ好協こうきょう団』」

「……否決。

 君、やっぱセンス、微妙。

 プリキュ◯みたい。

 内のお母さんレベル」

「ごめん、後半の二つは、く分からない。

 俺、君のお母さん、知らない」

「既知なら、ドン引く」

「……織守おりがみさん。

 今、晴れて最初に、正しい反応したよ。

 イフの話だけど」

「祝う?」

なんで?」

「祝え」

「ハハーッ?」

「『母』だけに」

「違うよ?」



 またズレ始めた。

 そう何度も、ニアピンは続かなかった。



「『オリジン協定』第1条。

 『嘘と遠慮は、ほぼしない』」

「お?

 公約出来できた。

 本当ホント、話早っ」

「当然。

 さもなくば、コスタイ」

「だね。

 それじゃあ、織守おりがみさん。

 改めて。

 これから、よろしく」

「……」

「どうかした?」

「……名字+『さん付け』。

 =コスタイ」

「ははっ。

 確かに。

 その内、磨り合わせしよっか」

「心得た。

 これから、よろしく。

 功刃くぬぎ 進晴すばる

「言ってるそばから、フル・ネーム……。

 やっぱ、織守おりがみさん、面白っ……」



 色々とったが。

 こうして二人は、同士となり。

 そして、『オリジン』を結成するのだった。



 不意に、外が少し賑わって来る。



 凪鶴なつるは、上目遣いをしつつ。

 進晴すばるに、げる。



「君と凪鶴なつる、仮カップル。

 けど、基本的に、おおやけにしない。

 凪鶴なつるは、時間も節約したい。

 君以外と一緒にるのを、現時点では、良しとしない。

 了承?」

「りょ、了承」

「多謝」



 そう言い、スマホを出し。

 凪鶴なつるは、RAINレインを起動する。

 一連のさまを、進晴すばるいぶかしむ。



「……なに?」

「や……RAINレイン、してるんだな、って。

 こういう時は、機械音痴ってのが、セオリーかな、って」

凪鶴なつる、侮るべからず」

「そう、だね。

 ごめん」

「お母さんに、入れられた」

「独りでじゃないじゃん。

 俺の謝罪、返して」

「コスタイ」

「うん。

 もう、それでいや」

「『オリジン協定』、ノートする」

「お願い」


 

 そんなこんなで、ID交換を済ませ。

 なにごとかったかのように、互いの日常に戻る。



 この日から二人の、秘密の関係が始まるのだった。



「あ。

 別れたい時は、フル・ネームで呼ぶ」

「……結成から数分後に、解散の合図決めるの、さない?

 てか、それ、愛称決めるまでの間に呼ばれたら、もう終わりじゃん」



 中々に、アレな幸先で。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る