第1条「カイジンー嘘と遠慮は、ほぼ禁止ー」
「
「どうかしましたき?」
「大丈夫か!?」
放課後の、カラオケにて。
しかも、いつもと異なり。
設定だとか、
そういう、後ろめたさを覚える類でもない。
そもそも、現実世界の事象。
彼女は一体、どういう
そんな不安に苛まれ、無意識に考察に
現状が構成されてしまった、という
「……ごめん。
「そりゃそうだよ。
そうじゃなくても、
「確かに。
待てよ……。
あれなら、堂々とサボれるな!!」
「こーら。
あんたが休んで、どーする。
今は、『
「はは……」
「……あれ、板書じゃないです。
自作の三文小説です。
俺そんな、真人間じゃないです。
確かに、メモも取ってるけど」
などと、自白
簡単に、おいそれと明かせる内容でもない。
名前を出した所で、確実に、
三十六計逃げるに
頭を切り替える
グラスを持って、席を立った。
「
ちょっと、飲み物取って来るわ」
「俺、コーラ!!」
「あんたね〜……」
「
他の
「お気遣い
「あんがと、
「どういたしまして。
じゃ、ちょっと行って来るわ」
追加で、もう一人分のグラスを持ち。
ドリンクを補充しつつ。
「ジン。
お疲れ様。
どうやら、お困りのご
気を抜いている所を見られ、ビクッとし。
自分を『ジン』と呼ぶのは、
ではなく、
「……ユウ。
来てくれたのか」
「気にしないで。
私の、独断専行だから。
今のジン、
「いや……助かったよ。
丁度、誰かに相談したかった所だ。
気心の知れたユウなら、厄介な
「助けましたし、次も助けます。
それで?
一体、
「あ、ああ。
ところで、平気か?
俺、
「それなら平気。
今、熱唱中だから」
「あー。
そういや、あいつの番だったっけ。
確かに、そこで持ってっても、飲まないか。
にしても、
「ジンには負けるよ」
「俺、そんな
「そんな
ところで、話って、
誰かに聞かれたら、
外に出て
「あ、ああ。
頼むわ」
「頼まれました。
少々、お待ちを」
言うが早いか、カウンターへと向かう
持っていたグラスが、いつの間にか彼女の手元に移っていた
「『君、
今朝、
今日ずっと、それが、どうも引っ掛かってて……」
「へー。
これは男女問わず、ポイント高いのでは?」
「ユーウー?」
「ごめん、ごめん。
ちゃんと聞くから、怒んないで。
にしても、『エコ』かぁ。
確かに、
入口付近で、壁に
そんな話をする二人。
「そもそも、ジン。
「……想像にお任せします」
「ふーん。
歴戦の
これは、アバンチュールな芳香がするなぁ」
「いや、どんな?
てか、重複してる。
いつも通り、フィーリングで喋り
あと、そういうんじゃないから。
断じて」
「誓って?」
「……多分」
「あははっ。
ジンも、
「……変、かな?」
「ううん。
……ちょっと、寂しいけどね。
少し
「にしても、
彼女、妙な噂が絶えないんだよねぇ」
「そうなの?」
「そうなのです」
「例えば?」
「お?
気になる?」
「……なる、かも」
「
その素直さに免じて、特別に進呈しよう。
クラス切っての消息通。
を自称する私が知ってる、
その情報量として、釜焼きホットケーキをダブルで」
「片方で」
「ちぇっ。
覚えてろよぉ」
「
危うく調子に乗りそうになったのを、
「ほら。
「ユウの主観は、分からないけど。
やっぱ、そうなの?」
「
見てるだけで涼める、雪の
どこかアンニュイな、エメラルドの瞳。
ノー・メイクでも映える、ナチュラル美顔。
ハーフだからこそ醸せる、ファビュラスでエキゾチックなルックス。
和風なネーミングとの相乗効果で生まれる、インパクト抜群のハーモニー。
普段、
休み時間には決まって姿を眩ませる神出鬼没、ミステリアスさ。
庇護欲を掻き立てられる、孤独なオーラ。
細い腰と、長い手足と、バースト。
他にも」
「ユーウー?」
「おっとっと。
ごめん、ごめん。
つい、熱くなって、脱線しちゃった。
私とした
「気にすんな。
いっつも、そんなだ。
んで、脱線したら、俺が正しいレールを引き直すだけだ」
「助かるぅ」
照れ笑いで
少し髪を掻きつつ、
「それで?」
「あー、うん。
そんな一際目立ってる
結構、狙ってる人、多くてさ。
で、校舎裏に呼び出して、実際にアタックした勇者が
告白する前に、開口一番に、言われたんだって」
「『エコ』云々って?」
「『けんぷふぁー』。
って」
「……ちょっと待て。
謎解きパートで、
「
現に、そうなんだし」
「そうだけど。
それはそうとして、消息通の看板、撤去した方が
「マジかぁ。
これで、探偵業も終わりかぁ。
次の
って、こら。
ジンまでボケになって、どーする。
ツッコミ不在になるじゃないのよ」
「ボケの自覚は
「失礼なっ」
長年の経験で培った
その心地良さが、疲弊した体に染み渡る。
利用され煽られたのが、腹に
「あ、そうだ。
「そのサービス、
「ここさぁ……出るらしいよ?」
「俺の話、聞いてる、聞こえてる?」
「
『くりんりねす・びーむ』とか、『あーるてぃめっとこうせーん』とか」
「どっちもビームじゃん。
しかも、またエコ絡み。
てか、
「忠実に再現した結果。
こんな感じで、投げ込みしてるらしいよ」
「『投げ込み』って言わなくない?
そんな、フワフワしたの。
てか、え、
今、女性の間で、エコが
「さぁ。
私が知ってるのは、それ
「色々、疑われそうだから。
そろそろ、戻ろっか。
コーラ、補充し直した上で」
頼まれていたコーラは、茶色い砂糖の塊と成り果てた。
「あ、言い忘れてた。
人の生き血を啜って、食べちゃうらしいよ」
「……それ、
そして今、言う?
俺、アセロラ飲もうとしてるんだけど?
いや、真っ赤じゃん。
確実に、意識するじゃん、
「だから今、適当に言った。
これが
なんちゃって」
「ハントしてやる」
バンパイアみたいなポーズを取り、口を開けている
遅れた
その
依然としてボーッとしている、
※
あれこれ逡巡しても、答えは出ず。
校門が開いて
しかし、
「おはよ。
早いね、
「……」
口は開かず、目線を合わせるだけ。
名指しで挨拶もしたのに、無反応。
軽く
思った以上に、難問だ。
そう思いつつ、自分の席に座り、鞄を机のフックに掛け。
「『けんぷふぁー』」
こちらには一瞥もくれず、さも独り言を
これでは、
が。
「それって、アレかな?
ひょっとして、『ナツル』
そっちも主人公、『ナツル』だし」
再び、
先程、きちんと目が合ったのに。
この数ヶ月、同じ教室で勉強してるのに。
不思議な
彼女の世界に、入れた気がした。
「……合格」
「え、
てか今の、試験だったの?」
「パス・ワード。
君は、創作に明るい。
現に、元ネタを知っていた」
「ま、まぁ?
これでも、小説、書いてるしぃ?
てんでアマチュアだけどぉ?」
「前言撤回。
調べたばかり。
嘘
速攻で看破された。
現に昨日、軽い気持ちで、スマホで検索して偶然、辿り着けた。
付け焼き刃も
「……お見逸れ致しました」
「修行が足らん。
「
てか、アレかな?
合格、取り消し?」
「しない。
君が、最初の合格者。
そんな勿体
「でしょーねぇ……」
いきなり、あんな謎ワードを出されたら。
大抵の人間は、引くか、急冷する。
「
君は、
だから、寛大な御心で、無罪放免」
「あ、ありが、とう?」
「どいたま」
「いや、
「……?」
「ご、ごめん。
不愉快だったかな?」
「別に。
されど、
「……いやいやいや。
思いっ切り
じゃなきゃ、コクられたりせんでしょ」
「……盲点だった。
君、慧眼」
「ど、どうも?」
ややズレた会話をしつつ。
「……?」
不思議がられた。
手を止めずに、小首を
やはり、
「いや。
確か今日、当番じゃないでしょ?」
「ボランティア」
「……そんな、町内のゴミ拾い活動みたいな感覚?」
「違反?」
「そんな
「そう」
感謝も、照れも
淡白なスキットをしつつ。
再び、教室を掃き、塵取りの埃をゴミ箱に捨てる
「あのさ。
もしかして、昨日。
俺が置き忘れたノートを、回収してくれたのも」
「掃除中に、見掛けた。
読んだ。
文章は、まぁまぁ。
ただ、設定が弱い。
寄せ集めで、噛み合っていない。
選考外」
「色々、サクサク
RTAかな?」
「PTA?」
「惜しい。
字面似てるって意味でも。
てか、
昨日も、
そもそも朝は、掃除とか
「その日の、放課後の当番、常習犯。
だから、先んじて済ませておいた。
あの人、嫌い。
掃除を無断でふけるなんて、言語道断、人誅待った
全然、エコじゃない」
「……ごめん。
それ、
俺の友達。
通りで、最初からカラオケに
あいつ、サボりやがったな。
今度、俺から叱っとく」
「別に
というか、他の人なんて、最初から当てにしていない。
コスタイ」
「へ?」
「『コスパ』、『タイパ』が悪い」
「あー、そういう……」
独特な子だなぁと思いつつ。
頬杖をつきながら、
かと思いきや。
今度は
「小説」
「……え?」
「小説。
今日は、書いていない。
どうして?
「……」
ちょくちょく、気にはなっていたけど。
そんな、オートマタみたいな口調だったんだ。
合ってるな。
などと意表を突かれつつ。
「……
俺にも、
けど、強いて言えば」
「言えば?」
「『今は、
……かな」
「ナンパ?」
「ごめん。
そんな
気分を害したなら、謝る」
「害されてなどいない。
略して、『清潔』。
それ
その割には、気になってはいるらしいのだが。
藪蛇でしかない気がして、
「
見習いたいなぁ」
「三日坊主の常套句」
「バレたか」
「浅はか」
「どっちが?
俺の『思考』?
それとも、『発言』?」
「両方」
「わー、シビアー」
悪くない空気感、リズム感、相性。
彼女と、こんな
それはそうと。
「なんてーか。
「……っ」
不意に、箒と塵取りを、床に置き。
思わず
「え、え、え?
な、
俺、
「言った。
今も」
「
ごめん。
謝るよ」
「君。
そう、言った。
初経験」
「『初体験』みたいに、言わないでくれる?
ほら、その……多感、複雑な時期、なんで……。
てか、そこ?」
「どこが?
どこが、面白かった?
具体的に、述べよ」
「
てか
距離感がバグっている
空かさず、
惜しかったと、
「……
「え?
あ、はい」
「
もっと、『愉快』、『エコ』になりたい」
再び、
両手で、彼の
が、しかし。
「……えと、ごめん。
……どこが、『普通』で、『退屈』なの?」
「??」
無自覚らしい。
乗り掛かった船だ。
取り分け特徴的な、『エコ』の部分を、
「じゃあ、
仮に
「ふ、ふふふ」
「え、
急に、無表情で、声だけで笑わないでくれる?
シンプルに怖い」
「やはり、
こんな
「『
あと、『仮に』ね?
そういう『設定』『前提』の話ね?」
「ならば、そう予告すべき。
コスタイ」
「言ったよ? 俺。
ちゃんと、『仮に』って」
「……言った?」
「うん」
「……真実?」
「うん」
「……嘘は?」
「
「……神に誓って?」
「神に誓って」
「……」
「……」
「……」
「……え、ローディング中?」
顎に手を当て、長考し、記憶を整頓し。
そして、腰に手を当て。
「
具体的に、述べよ」
キンクリして来た。
ローディングではなく、初期化だった。
「……ご、ごめん……。
やっぱ、面白いよ、
今のとか、特に……」
「『今の』?
もっと、具体的に」
「ご、ごめん……。
ちょっと、近い」
再び、詰め寄る
が、
「……ケチ」
「
「……あ。
ケチ。
=エコ。
同士、大歓迎。
「うん。
そもそも俺、
手前味噌かもだけど」
「『可処分時間』。
略して、『カショジ』。
の、窃盗罪。
現行犯」
「やっぱ、
いや、確かに俺も、質問攻めにしてるけどさ。
長めに返答してるのも、質問返してるのも、
「……
「Bot化しないで、パワプレ味占めないで。
そう簡単に、瞬時に、同じ手は食わないから。
「
=空気が悪い。
=エコじゃない。
君、降格、除隊」
「だから、
そんでもって短いなぁ、入隊期間」
摩訶不思議な、
それを受け、
「……はーっ。
久々に、ガチで笑った。
もう、涙出てくるレベル」
「涙。
=心の浄化。
=エコ。
君、昇格、復職」
「やりー。
あと、今のは、
「昇格。
そのまま、エコ
「まさかの、二階級特進」
「パチパチパチパチ」
「わー、ありがとー。
でも、口だけで拍手されるの、ウケるー。
てか、
そして、それもう、『拍手』って言わなーい。
言い
「コスタイ」
「ちょっと手ぇ叩くのでさえ!?」
「そこまでカショジ割く
「二階級特進してもっ!?」
「じゃあ、降格、除隊」
「『じゃあ』て、
そして、羨ましがる。
こんな人が、『普通』『退屈』な
「……俺もさ。
同じなんだよ。
目元を拭いつつ。
「俺も、『特別』『エゴ』になりたいんだ。
だから、ずっと探してる。
その
無所属のまま、色んな人達と関わってる。
話して、笑って、ぶつかって、仲直りして。
その果てに、見付けたいんだ。
俺だけの、『オリジナル』。
……俺の、『
「仲間」
「俺と、
まぁ、うん。
そう、なるかな。
てか、考えを改めた。
そんなペラペラした関係で、ベラベラ、ヘラヘラしても、
心機一転。
一人に絞って、とことん、向き合い、付き合ってみる。
だからさ、
「俺と、友達になってくれない?
俺、君を研究し尽くしたい」
「……却下。
そんな軽い
「そっか。
どういうのが、希望?」
「『生涯の戦友、伴侶』」
「じゃあ、それで
同士に、なってよ」
恥も外聞も
一方、
悲痛そうな顔で、目を見開き、泳がせ始めた。
今までのコスタイ信者っ
「それは、つまり……。
……『カモフラ婚』?」
「え?
ま、まぁ……。
行く行くは、そうなる、かも?」
「……っ!!」
本気で怖がりつつ、胸を抑え、呼吸困難に陥りかける
しくったと、
「ご、ごめん!!
今の、普通にアウトだよねっ!?
俺達まだ出会ったばっかだし、ちゃんと話したのも昨日からだし!
そもそも、付き合ってすらいないのにっ!
「ち、違っ……。
そうじゃなく、って……」
パニクった顔、心を整え。
「……なる。
君と、同士に。
少し、けれど熟考した
「『オリジン』。
只今、結成」
「え?
それ、名前?
もしかして、俺達の名前、組み合わせた?
ダブル・ミーニングで、
「念の為、君のも聞く。
「『エコエゴ
「……否決。
君、やっぱセンス、微妙。
プリキュ◯みたい。
内のお母さんレベル」
「ごめん、後半の二つは、
俺、君のお母さん、知らない」
「既知なら、ドン引く」
「……
今、晴れて最初に、正しい反応したよ。
イフの話だけど」
「祝う?」
「
「祝え」
「ハハーッ?」
「『母』だけに」
「違うよ?」
またズレ始めた。
そう何度も、ニアピンは続かなかった。
「『オリジン協定』第1条。
『嘘と遠慮は、ほぼしない』」
「お?
公約
「当然。
さもなくば、コスタイ」
「だね。
それじゃあ、
改めて。
これから、
「……」
「どうかした?」
「……名字+『さん付け』。
=コスタイ」
「ははっ。
確かに。
その内、磨り合わせしよっか」
「心得た。
これから、
「言ってる
やっぱ、
色々と
こうして二人は、同士となり。
そして、『オリジン』を結成するのだった。
不意に、外が少し賑わって来る。
「君と
けど、基本的に、
君以外と一緒に
了承?」
「りょ、了承」
「多謝」
そう言い、スマホを出し。
一連の
「……
「や……
こういう時は、機械音痴ってのが、セオリーかな、って」
「
「そう、だね。
ごめん」
「お母さんに、入れられた」
「独りでじゃないじゃん。
俺の謝罪、返して」
「コスタイ」
「うん。
もう、それで
「『オリジン協定』、ノートする」
「お願い」
そんなこんなで、ID交換を済ませ。
この日から二人の、秘密の関係が始まるのだった。
「あ。
別れたい時は、フル・ネームで呼ぶ」
「……結成から数分後に、解散の合図決めるの、
てか、それ、愛称決めるまでの間に呼ばれたら、もう終わりじゃん」
中々に、アレな幸先で。
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