16

 場所は変わって、学校内のとある場所。


 広大な土地を所有するエルメラロード魔法学校には、あらゆる地形と自然が広がっている。それはまるで世界の自然全てをギュッと圧縮してスポッとはめ込んだかのような不思議な場所だ。


 開口一番そんな言葉を口にしたのは「地理・地政学」の先生である「ジオ・ジ・ダンダ」先生だった。


 まるで巨人の様に大きな背丈ではあったが、その分横幅と厚みが少ないナナフシの様なジオ先生は、終始ニコニコとした様子でそう語っていた。

 笑顔が多いせいか、どこか不気味にも感じてしまうようなジオ先生はつづけて今回の授業内容について喋り始めた。


「それでは今回の授業についてですが、おそらく斑鳩先生から魔法の基礎であり属性について学んでいる事でしょう。

 魔法や属性といったものは、環境に影響を受けます。つまり、我々魔法を扱う者は自らの置かれた環境を重視しなければいけません」


 先生は、環境という言葉に重点を置きながら話を進めた。


「つまり、高い状況把握能力と知識、そして環境への適合能力が必要になってきます。熱いからダメ、寒いからダメ、湿気てるからダメ、乾燥してるからダメ、じゃあ立派な魔女にはなれませんからねぇ」


 なんとも厳しい言葉であり、インドア派の私にとっては少し苦難を強いられそうな展開に思わず気がめいってしまった。

 

 そうして、フィールドワークの開始がなされようとしていた時の事、私は唐突にジオ先生と目が合った。そして、彼は私と目が合うと、興味深そうにまじまじと見つめてくると、歩み寄ってきた。


 そうして私のもとまでやってくると、彼は私の持っている杖に非常に関心んを持った様子でい詰めていると、顎を撫でながら私の顔を覗き込んできた。


「おやおや、君の名前は?」


「あ、えっと、大角カイアです」


「大角君、君は優秀だっ」


 感心する様な、ため息交じりの声色に周囲の注目が一斉に集まってきた。私が一体何をしたというのだろうか?


「えっ、えっ?」


「フィールドワークにおいて杖は必須道具だ、それをわかって持って来ているとは君は素質があります」


「えっと、これは、その」


「ちゃんと物事の道理を理解しようとする気持ちが伝わってきます、君の様な魔女見習いは指で数えるくらいしかいない。現にこの場において杖を持っているのは君だけですからね」


 ジオ先生の突然の言葉に困惑しながらも、私はなるべく目立たないように身を縮めていると、ジオ先生は嬉しそうに何度かうなづいた後、フィールドワークの先導をし始めた。


 そんな背中を見ていると、そばにいたアーモンド先生が「良かったですね」とニコニコ笑いながらほめてくれた。

 それがなんだか嬉しくて思わず杖を撫でていると、ちょうど近くにいたペラさんが私に体を寄せてきた。


「ちょっとカイア、私にも言ってくれればよかったのにぃ」


 彼女はニヤニヤと笑いながら冗談交じりの様にそんなことを言ってきた。


「い、いえ、授業で杖が必要になるとは思っていませんでした、たまたまです」


「ふふ、ちょっとした冗談よ、知ってるわ。カイアはいつもその杖を大切に持っているものね」


「はい、杖は肌身離さず持っているようにしているだけで、今回はたまたまです」


「それでも、魔女とはどうあるべきかを改めて認識させられた気がするわ、私も杖を常備しようかしら」


 本気で検討するペラさんの横顔の惚れぼれしつつも、フィールドワークが始まると、私はすぐに現実をたたきつけられた。

 山中を歩くことの大変さ、自らの体力のなさ、そのすべてを体験しながら最後尾を任されているアーモンド先生と共にカメのような足取りで先頭を追いかけていた。


「はぁはぁ、先生私はちゃんと先頭に追い付けるでしょうか?」

「はぁはぁ、大丈夫ですよカイアさん、あなたならできます、できるに決まっています」


 私も疲れていたが、アーモンド先生も疲れている様子であり、互いに息を荒げながら山を上り下りしていた。

 授業の最初に褒められたというのにこの有様は、やはり私という人間の本質はこの程度なのだと改めて実感させられた。


 むしろ、先を行く同期の魔女見習い達の体力には脱帽だ。

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