14

 図書室の地下へと向かうと、そこにはすでに待ち構えていた天川先生の姿があった。彼は天川先生に興味津々といった様子で彼女を見つめており、


「来たかモンスの手先」

「あのぉ、それはどういう意味でしょうか?」

「そのままの意味だ、要するにお前は最悪で災厄だっ」


 相変わらず第一印象が最悪の様だ。そして、不機嫌そうな天川先生は近くにあるテーブル席に座るよう指示してきた。

 着席して早々に天川先生は天を仰ぎ始めた。両手を広げながらぶつぶつと何かをつぶやいている様子はかなり怪しげだった。

 先生の口から発せられる音は耳では聞き取ることのできないものであり、私はただ先生を見つめる事しかできなかった。やがて、先生の中で区切りがついたのか、深呼吸しながら私を見つめてきた。


「やはりお前は実に危険な存在だ」

「あの、私が何かしましたか?」

「何度やってもお前はこの魔法学校に災いをもたらす、それも多くの軍勢を伴いやってくる未来が見える、そして星達もそれを暗示している」


 その言葉たちはまるで私を悪の総大将であるかのようなものだった。しかし、その言葉たちは私という存在からかけ離れているものばかりであり、信ぴょう性が感じられなかった。


「あの、私にそんなことができると本気で思っておられるのですか?」

「あぁ、お前しかいない」


「なんだか決めつけの様な気がしてならないのですが」

「いいか、私の専門は占星学だが、召喚魔法についての知識ならこの学校でも指折りだ、それにお前が下宿しているベリル屋敷の方角から禍々しい魔力が湧きあがっているのを幾度も確認している」


 先生の言葉にどきりとした。確かに私は自主学習の時には胸のネックレスに宿る幻獣である「スー」に付き合ってもらう事もある。だから、私は思わず黙ってしまった。すると、それを図星だと思われたのか天川先生はにやりと笑って見せた。


「やはりな、やはりお前はモンスの手先でありこの学校に災厄をもたらす悪魔なのだ」


 天川先生は私を指さしてそう言った。その姿はまるで小説に出てくる探偵の様であり、私はさながら犯人にでもなって気分になった。しかし、そんな感傷に浸るのも束の間、私の耳に聞きなじみにある声が聞こえてきた。


「ちょっとちょっと天川先生、随分な口ぶりですねぇ」


 声の主はアーモンド先生だった。彼女はむすっとした表情で腕を組みながら天川先生をにらみつけていた。普段は温厚で気弱な性格の彼女だが、今日は一味違う様子を見せていた。


「ぬ、貴様は校長の腰巾着」

「だ、誰が腰巾着ですかっ、私はれっきとした教師であり、ここにおられる大角カイアさんの付き人です」

「なにっ、付き人だと?」


 アーモンド先生は自己紹介しながら私の隣に座った。距離が近く、私は少し緊張した。


「さっきから聞いていれば、うだうだとカイアさんに否定的な言葉ばかり吐いていましたねぇ、天川先生」

「そ、それが何か問題なのか?」


「えぇ、問題だらけですね。彼女は大角雄才様の推薦で入学された方ですよ、それを知っての発言ですか?」

「ぬっ、それは・・・・・・」


 雄才様の名前が出た途端、天川先生は歯をむき出して苦い顔をした。その様子はどこか新鮮で面白かった。そして、隣のアーモンド先生は黙らせたことに満足しているのか満足げにうなづいていた。


「そうですそうです、それでいいのですよ天川先生」


 しかし、そんなアーモンド先生の様子に、天川先生はいらだった様子ですぐさま言い返してきた。


「し、しかしだな、そもそも大角家だって怪しい奴らじゃないか、大角雄才はそりゃあ魔法界では英雄扱いで生きる伝説だ。しかし、あいつらが交わした契約のせいでモンス事変が起こり、そして、どれだけの魔女を失ったと思っているんだっ」

「あ、あぁっ、天川先生、その件についてはあまり大きな声で話さないでください」


「ふざけるなっ、私は絶対に忘れないぞ、モンス事変は語り継がなければならない出来事であり、その真実は暴かれなければならないのだ」

「そ、それは無理ですよ先生、残念ですがモンスとの扉はもう閉じられているのですよ」

「ふんっ、臭いものに蓋をするというのか、私は何が何でもあの扉を開き、諸悪の根源を突き止めてやる」


 天川先生は興奮した様子でそう言った。そして、私の話題はすっかりどこかへと飛んで行ってしまっていた。

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