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私が魔女見習いになって今日で三ヶ月という月日を経た。今日からは、いよいよ本格的な授業が行われる事になるらしい。
これまでの授業はいわば入門編、魔女見習いとしての心構えと環境の適応を目的とした機関であり、今日からは本格的に魔女見習いとしての日々が始まるといった所らしい。
これまでの授業もとても興味深かったが、それ以上の事がこれから繰り広げられるとなると私はワクワクが止まらなくなっているはずだった・・・・・・
しかし、私は今、ワクワクではなくドキドキで体を支配されていた。
教室では斑鳩黒卯之助先生が不愛想な顔をしながら私たちを見下すかのように顎を上げて授業を繰り広げていた。
その様子は、初めての授業とは違い緊張感にあふれており、教室内の空気もシンとしていた。
「であるからして、魔法とは空間の支配であり、支配こそが魔法であることは周知の事実である。つまり圧倒的な力を持った魔女になるには自己鍛錬は勿論の事、空間を支配するための手段をどれだけ準備しておくかが重要となる」
斑鳩先生は授業が始まってからというものの、こうしてペラペラと喋り通しであり、私は彼の口から飛び出す言葉や黒板に記される文字を必死にノートに書き写していた。
「ちなみに魔法の「属性」というものは「時」や「場所」といった環境で影響を受ける特徴があり、状況に応じた対応が必要不可欠になってくる事は絶対に忘れるな。
無論、今のお前たちはまだ魔女見習いのさらに見習いレベルであるからして、複数属性を習得するのは時期尚早であり、無理に習得するのは身を亡ぼすだけだから絶対にしないように・・・・・・と、一応の忠告はしておく」
すると、斑鳩先生の口がここでようやく閉じられ、彼は喋り続けて酷使したのどを潤し始めた。そうしていると、静まり返っていた室内に「先生」というどこか聞き覚えのある声が響き渡った。
その声に室内を見渡してみると、ひときわ目立つ赤紙の魔女見習いが手を上げてにこやかに笑っていた。そして、それがワーテリオンだと気付いた私は即座に視線をノートに戻した。
「ワーテリオン、質問を許可しよう、なんだ?」
「はい、ここエルメラロード魔法学校は水が豊富な場所だと存じています。それは間違いありませんか?」
「あぁ、その通りだ」
「では、つまるところこの場所で水属性の魔法を学ぶのは最適であり、水属性の適性がある魔女見習いは有利だという事ですね」
「その通りだワーテリオン、現にこの魔法学校の歴史を振り返っても水属性の学生が大成し、魔法界に多大なる貢献をしていることは間違いない、お前が言っていることはおおよそ正しい」
「質問にお答えいただき感謝します」
教室の後方ではどこか盛り上がりを見せる、にぎやかな声が聞こえてきた。すると、それを鎮めるかのように斑鳩先生の声が響いた。
「よろしい、ではこの流れで今回の授業の本題に移ろうとしよう。今日は魔力計測を行おうと思っている。せっかくだからワーテリオンこちらへ来なさい」
斑鳩先生はワーテリオンに向かって手招きをした。すると、彼女は嬉々とした様子で教壇の方へと向かっていった。
教壇では斑鳩先生が、試験管が四つ並べられた土台を取り出した。それが一体何のか、興味津々にみていると、斑鳩先生は試験管の土台にある黒い水晶の様な丸い物体に手を置くように促していた。
ワーテリオンは恐るおそるその黒い水晶に手を置いた。すると、四つある試験の一つに異変が起きた。確かに何も入っていないはずの試験官の底から青い液体の様なものが湧きあがり、試験管の七分目あたりを行ったり来たりしながら不安定に上下していた。
その様子は実に不思議であり、くぎ付けになっていると、斑鳩先生が説明を始めた。
「うむ、良いぞワーテリオン、お前は優秀な水属性の適合者だ、これからも精進するように」
「はい、ありがとうございます」
今日はつくづくワーテリオンの嬉しそうな笑顔を見せつけられる日だ。しかし、その笑顔は私をいじめている時よりも明らかに曇っているように見えた。
きっと、彼女は私をいじめている時の方がよっぽど楽しいのだろう。
なんてことを思っていると、ふと、斑鳩先生目が合った。そして、先生は私をじっと見つめた後私の名を呼んだ。
「大角、前に来なさい」
私の心臓がどきりと跳ねた。まさか、私もあれをやらされるというのだろうか。そう思うと一気に憂鬱な気分になり、入学当初に斑鳩先生から受けた落第者の烙印を押されたことを思い出した。
あの時から比べれば私だって魔女見習いとして相応の努力をしたから多少の自身はついているのだが、それでもこのタイミングで斑鳩先生に呼ばれることに私は不安しか感じなかった。
しかし、それでも私は先生の指示に従い教壇へと向かった。先生は静かに「手をかざしなさい」と言った。私は指示に従い黒い水晶に手を置いた。
出来る事ならばほんの少しだけでも試験管のどれかが液体で満たされることを願った。
心の中で願いながら、この三ヶ月の日々が少しでも魔女に近づけるものであったに違いない、そう信じながら四つの試験官を食い入るように見つめた。
しかし、試験管のが液体で満たされることはなく全身の血液がズドンと足元に落ちていくような感覚を覚えた。
それは、まさに貧血状態によく似たものであり、立ち眩みすら覚えるような状況の中、私の隣にいたワーテリオンがクスクスと控えめに笑った。普段はもっと下品で恐ろしい笑い方をするというのに、こんな時ばかりは上品な笑いをして見せた。
そして、その控えめな笑いは、まるで火のついた導火線の様に教室内を徐々に嘲笑ともとれる薄気味悪い笑い声を生み出した。
クスクス、クスクスとまるで魔女の森にでも迷い込んだかのような気味の悪い空間の中、ついには斑鳩先生までもが笑った。
「ふはははは」
その笑いはどこか豪快で男らしい笑い方に聞こえた。そして、私はむしろそれくらい豪快に笑ってくれている方が気分が良かった。まさに笑うなら笑ってくれと。
「なんてことだ大角、お前の様な見習いは初めてだ。やはりシチフクの目は間違っていなかったようだな。お前はとことん魔女としての素質がない様だ、ふはははは」
斑鳩先生の言葉と態度は、おおよそ先生と呼べるにふさわしくないように思えた。しかし、それと同時に私が魔女としてふさわしくないという事の方がショックが大きいことに気づいた。私は先生から目をそらし、目線を下げて地面を見つめた。
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