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「おい、そこのでかいのっ」
そんな言葉と共に現れたのはアルバ様だった。彼は少し微笑みながらリチャードさんを見つめていた。
「強そうだ、俺の相手をしてくれないか?」
「・・・・・・すまない、他をあたってくれ」
リチャードさんは私をじっと見つめながらそうつぶやいた。その様子はどこかアルバ様をないがしろにしている様であり、即座に緊迫した空気が感じられた。
しかし、それを感じているのは私だけらしく、アルバ様はあっけらかんとした様子で、気さくに再びリチャードさんに話しかけた。
「そう言うな、こんな相手だとお前も練習にならないだろう?」
「俺は今、大角さんの相手をしている、他をあたってくれ」
その言葉にアルバ様は軽く私を見つめてきた。その目はまるで「またお前か」とでも言いたげな様子に見えた。しかし、彼は何も言わずにため息の様なものをつくと、すこし口元を動かした。
まるで独り言をつぶやいたかのような様子を見せた後、アルバ様は持っている杖をクルリと一回転させたかと思うと、ものすごい勢いでリチャードさんへと向かっていった。
それは紛れもなくリチャードさんに対する挑戦的な動きであり、アルバ様は持っている杖で思い切りリチャードさんに襲い掛かった。
すると、リチャードさんはアルバ様の行動にそれほど驚く様子は見せずに最小限の動きだけでアルバ様の杖を受け止めた。
『カンッ』と乾いた木の音が鳴り響いた。それは周囲で聞こえる同様の音と違ってはるかに大きな音であり、鼓膜に直接響いてくるような鋭いものだった。
「随分と乱暴な奴だ」
「強くなるためにやれる事はしたい、一秒でも早く成長したいんだよ」
「噂通りの男だ、悪いが今はお前の相手をするつもりはない」
「そういうな、あまり舐めていると痛い目にあうぞっ」
二人は互いに杖をぶつかり合わせながら、すごいスピードで攻防を繰り広げているように見えた。その様子はどこか格好よく、思わず見とれてしまうような状況だった。
しかし、その直後互角の戦いに思われた光景が一瞬にして変化した。それは誰の目にもわかる圧倒的な違和感だった。
つい先ほどまで、互いに地に足つけて組み手をしているはずの二人だったのだが、リチャードさんが強い踏み込みと共に杖を動かした途端、アルバ様が宙に浮いてしまっていた。
アルバ様はクルクルともすごいスピードで回転しながら、やがて地面にたたきつけられようとしていた。
だが、アルバ様は回転を支配するかのようにうまく体をねじらせて全身を使って着地して見せた。
その様子はすぐに立ち上がることができないほどの様子であり、彼が息を荒げながら立ち上がろうとしなかった。
「ははっ、こいつは予想以上、思っているより差がありそうだ」
アルバ様は息も絶えだえにそう言うと、まだまだやる気で満ち溢れている様子で顔を上げた。
そうして、アルバ様は立ち上がって姿勢を直して構えなおした。彼はまだまだやる気に満ち溢れている様だった。しかし、アルバ様が再び動きを見せようとした瞬間、警笛の音が鳴り響いた。
それは水原クワイ先生によるものであり、その音と共に組み手の終了が宣言された。
息を切らしたアルバ様とは落ち着いて静かなリチャードさん、対照的な二人は互いに何も言わずにしばらく向かい合った後、アルバ様が大きなため息を吐いた。
「俺もまだまだだな、お前、名前は何だ?」
「リチャード・ボーン」
「そうかリチャード、俺はアルバだ、お前とはまた手合わせをしたいんだが、その時は受けてくれるか?」
「暇だったら付き合おう」
そうして、二人はまるでこれまでの事がなかったかのように握手をした。なんだか対照的の二人だったが、握手している様子だけ見ればどこか仲良さげに見えた。
二人は握手の後、アルバ様はそのまま元居た場所に戻る様子を見せており、リチャードさんはというと、駆け足で私のもとに来ると一礼してきた。
「すみません大角さん、せっかくの鍛錬の時間を無駄にしてしまいました」
「いえいえ、そんな、お二人の姿を見ていたら私も頑張らないといけないと思いましたよ」
「そうでしたか、まずは構えの鍛錬から始められたら良いと思います。空いた時間に構えの訓練をしてみたり、あとは気軽に杖を触ってみたりするのも良いと思います。杖道では杖と触れ合うのが一番の上達法ですから」
「わ、わかりました」
リチャードさんは、まるで私の先生であるかのように様々なアドバイスをくれた。それだけで、彼がとても素晴らしい人であるのかが分かった。
つくづく人の出会いに感謝するばかりの私の人生は、深いふかい谷の底から見晴らしがよく空気がきれいな山に登っていく様な幸せな気分だったが。
ネガティブな私は再び谷の底に落とされそうな気持ちもどこかにあった。
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