少女文武編
1
私は今学内にある大図書館へとやってきていた。
魔女と本の歴史は深く、入学してからの授業では読書についての話をよく聞かされた。
個人的には読書が大好きなため、暇があればここにきて読書に夢中になっていたのだが、つい最近この図書館で最も人の少ない場所を発見した事に私はとても喜びを感じていた。
それは図書館の地下にある区画であり、そこでは召喚魔法やモンスについての書物のレプリカがたくさん保管されていた。
当初は興味本位でその場所に入っただけだったが、保管されている本は召喚魔法や幻獣、モンスの歴史が細かく記されており、私は徐々にその場所に通うようになっていた。
人の少ない場所であり興味のそそられる書物がある。私にとってこれほど心地良い場所はなかった。それは自室にいる時よりもはるかに居心地が良い様子ら思えた。
そうして、今日も我が家と言っても過言ではない図書室の地下で読書を楽しんでいると、ふと人の気配を感じた。
それはかすかに聞こえてくる足音によって気づかされ、近づいてくる足音に目を向けた。すると本棚の陰から人の姿が現れた。
その人は私と同じくらいの背丈で制服のローブのフードを深くかぶっている人だった。
なんだか不気味で怖い雰囲気が漂いその人は、まるで私の視線に気づいたかのように振り返った。
「ひぃっ」
思わず出た悲鳴をローブの袖で覆ってふさいだ。すると、フードを深くかぶったその人は私のもとへと歩み寄ってきた。そして、私の目の前でそのフードを脱いで見せた。
すると、そこには猫耳を生やした女の子と思われる人の姿があった。まるで人と猫のハーフのような、とても幻想的で神秘的な姿を前に私は思わず見とれた。
創作物ではよくあらわれる獣人の様な存在を前に、私は何度か強く瞬きして目の前の人が幻ではないと確かめた。
すると、どうやら私の目の前にいる猫耳の人は確かに存在しているようであり、彼女はかすかに猫耳を動かしながら私をじっと見つめてきていた。
「こんにちは」
聞こえてくるのは、語尾に独特のイントネーションがついた喋り方と耳心地の良い可愛い声だった。
「こ、こんにちは大角カイアです」
思わず自己紹介すると、猫耳の彼女は耳をピンと立てて少し驚いた様子で私を見つめてきた。
「あなたがあの・・・・・・」
「私をご存じなのですか?」
「禁忌を犯した魔女見習いですね」
この学校における私の評価はやはりその様なものらしい。とても残念ではあるが仕方のないことなのだろう。
「私はシュー・ペルツェンです、ペルツで構いませんよ」
「あ、よろしくお願いします」
ペルツさんは深々とお辞儀すると、遠慮気味に私の正面の席を指さして「座っても良いですか?」と聞いてきた。
その様子に、どこか親近感を覚えた私はすぐに立ち上がって「どうぞ」と言って頭を下げた。
すると、ペルツさんは少し驚いた様子を見せた後、柔らかい笑顔を見せてくれた。そうして、二人で微妙な距離感のまま席に着くとペルツさんが話しかけてきた。
「少し質問してもいいですか?」
「はい、何ですか?」
「どうしてこの場所に来たんですか?」
「なんと言いますか、私にとってこの場所は居心地が良いのとモンスについて興味があるからです」
「モンスに興味があるのですね」
「はい」
「そうですか、実は私もここにはよく来るんですが、この場所を訪れる人は一人を除いてあまり見られませんでしたから、つい話しかけてみたくなったのです」
ペルツさんの言葉は心が高鳴るうれしいものだった。しかし、それをどうやって受け止めてどのような返答をすればよいのかわからなかった。
「えっと・・・・・・一人を除いてということは、どなたかはここによく来られるのですか?」
「はい、髪の長い少年がよくここに来ては楽しそうに読書をしていきます。まるで幼い子どもが絵本でも読んでいるかのようで、とても奇妙でしたよ」
ペルツさんが語る人物は、私の脳内で一人だけ該当している人物がいた。それはまさに同じベリル屋敷の同胞であるモモちゃんであり、ここが召喚魔法やモンスについての書物があるという事も踏まえると、やはり彼一人しかいないであろうと予想してみた。
「そうですか、ところで、ペルツさんもここにいるということはモンスや召喚魔法について興味があるのですか?」
「もちろん、私はそれを知りたくてこの学校に来たのですよ」
それはまるで、モモちゃんと同じ目的のように聞こえた。私はそんなミステリアスな存在である彼女にすっかり探求心をくすぐられてしまっており、彼女という存在についてもっと知りたくなってしまっていた。
そんなことを思いながらペルツさんをじーっと見つめた。
彼女の美しい青い瞳はずっと見ていたくなるようであり、それでいて見つめすぎるのもよくないと思っていると、彼女はかすかに微笑んだ。
「そんなに見つめられると恥ずかしいですよ」
「あ、あぁ、すみませんすみません」
何度も頭を下げて謝り、再びペルツさんに視線を戻すと彼女はとてもやさしい顔をしていた。その様子はまるで旧知の仲であるかの様な安心感を感じさせるものであり、思わず口元が緩んだ。
「そんなに謝らなくてもいいんですよ」
「すみません癖で、つい」
「私のことが気になりますか?」
「それはもちろんっ」
「どのあたりが気になりますか?」
私はペルツさんの猫耳にしか見えないそれと、先ほどからかすかに見え隠れする尻尾を指さした。
「大角さんは古代人を見るのは初めてですか?」
「古代人・・・・・・?」
聞きなれない言葉ではあるが、どういう意味かはなんとなく分かる単語だった。
「はるか昔にいたとされる人々のことですね」
「それはつまる所、ペルツさんは私達のご先祖様という事ですかっ?」
自分でも興奮しているのがわかってしまう程に声が上ずって大きくなっている。けれど、そんなことが気にならない位にペルツさんとの会話はワクワクさせられた。
「先祖というよりは兄弟姉妹という表現かと思いますよ」
「姉妹ですか?」
「えぇ、姿かたちは違うかもしれませんが、兄弟姉妹であればいいなと思っています」
なんだか心温まる言葉にほっこりしつつも、それではどうして「古代人」だなんて呼び方をされているのかが気になった。
「でも、どうして古代人だなんて呼び方をされているのですか?」
「それは見てわかる通り、私たちは半人半獣ですから」
そうしてペルツさんは自らの耳や尻尾を動かしたりなでたりしながら私に見せてきた。その様子があまりにも可愛らしくて、思わず撫でまわしたくなる感情があふれ出たが、ぐっとこらえた。
「こ、古代人というのはみな半人半獣なのですか?」
「はい、ですが争いによって途絶えた種もいくつか存在していますよ」
「争いですか・・・・・・」
「我々は絶えず争いを繰り返して今に至ります、それはまるで我々という生き物の運命の様に思えますが、私はそう思いたくありません」
なんだかとても大切なことを聞いているような気がした私は、ペルツさんから放たれた言葉をしっかりと受け止めて私なりの返事を考えた。
「・・・・・・争うのではなく、話し合いで解決できれば良いのでしょうか?」
「私もそう思いますよ、だから我々は地下から出てきたのです」
「ペルツさんは、地下に住んでおられたのですかっ」
更に好奇心をくすぐられる状況に私はもうすっかりペルツさんの虜になっていた。
「ここ数十年で我々は地上に上がったのですよ」
「あの、それはどうしてですか?」
「約束の時が迫っているからです」
「約束の時?」
「それはですね・・・・・・ま、また今度のお楽しみということで」
何やらペルツさんは気まずそうな顔をしたかと思うと、まるで隠れるかのようにローブのフードを深くかぶった。すると、騒がしい音が聞こえてきた。それはパタパタと可愛らしい音と共に私達の前に姿を現した。
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