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 その音が意味するのはつまり、私たち二人に危機が迫っているということ。私とアルバ様が口論している間に見つかってしまったのだろう。しかも、今回の音はこれまでに聞いたことがないほどに大きな音であり、思わず体が硬直してしまうほどに恐ろしいものだった。 

 まるでこの地下庭園自体が私たちを追い出そうとしているかのような、そんなうなり声にすら聞こえてくる音の到来に、アルバ様が真っ先に動き出した。


「もういい、とにかく今は逃げる事だけを考えるぞっ」


「はいっ」


 私とアルバ様は一目散に大烏の巣を後にすると、ここまで来た方向とは別のルートでの帰路を目指した。


 地下庭園とやらに来たことがない私にとって、それはまるで博打を打つかのような選択だったが、選べる時間もなければ道は一つしかないという状況であり、とにかく力を振り絞って帰路への道を進んだ。しかし、すでに疲労が私の体を蝕んでおり、気づいた時には足がまともに上がらなくなってきていた。

 そして、それは「つまづく」という最悪の形で現れ、体制を立て直す反応すらできない状況のまま私は徐々に近づく地面にただただ、その身をささげる事しかできなかった。

 

 だが、あと数センチといったところで私の体は止まり、それと同時に息を荒げたアルバ様が私を抱えてくれていたことに気づいた。


「ふっざけんなよお前、こんなところですっ転んでる暇はないぞ」


「す、すみません」


 私はすぐに体制を立て直して自らの足で立った。


「まったく、てめぇが運ぶって言った卵、責任もって最後まで面倒見ろ」


 その言葉を発したアルバ様の姿に私は奇妙な色を見た。それは昔から感じているキラキラの輝きであり、私が尊敬してやまない人達によく見えるものだった。思わずそのキラキラに見とれていると、アルバ様は「急ぐぞ」と言って再び前を走り始めた。

 アルバ様の心強い言葉とキラキラに力が湧き上がってきた私は、卵を背負って走り出した。運の良いことに、私たちは追っ手につかまることなく道なりに進んで地下庭園の入り口までたどり着くことができた。


「問題はこの扉だ、向こう側から施錠なんてされていたらもうどうしようもないからな」


 不吉なことを言うアルバ様に生唾を飲み込んでしまった。


 そして、アルバ様は扉に手をかけて力の限り押し込んでみるも、大きな木の扉は何かに突っかかってるいるかのようにギシギシときしむ音を鳴らすだけで開くことはなかった。その様子を見た私は、たまらず力が抜けてその場で座り込んでしまった。


「くそっ」


 アルバ様は悔しそうに扉を何度か叩く様子を見せた。その様子に私は思わず申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 それは、私のような存在のためにアルバ様のような素敵な方をこんなことに巻き込んでしまったこと、そして、私のわがままに突き合わせてしまったこと。ここに来てからのすべてが彼に迷惑をかけてしまっているかのような感覚の中、私はたまらずアルバ様に謝罪した。


「アルバ様申し訳ありません、私のせいでこんな事になってしまいました」


 頭を下げてそう言った。彼がどんな顔をしているのか、そしてこの後どんな言葉を吐き捨てられるのか。いろんな感情が入り混じる中、私はただただ頭を下げ続けた。


「ふざけるな、今すぐその頭を上げろ」


 アルバ様は落ち着いた口調でそうつぶやいた。


「ですが・・・・・・」


「俺はベリル屋敷の理念に従ってお前を導くと誓って行動しているだけだ。自己満足な謝罪をしてくるな、虫唾が走る」


 その言葉に私は瞬間的にはショックを受けたが、徐々にその言葉をかみ砕くように理解することができた。そして、自らの愚かさを痛感した。

 つまり、この状況において私は自分の心をさいなむ罪悪感に耐え切れず、それをアルバ様に向けて吐き捨ててしまったのだ。


 反省すべきであるが、それをできないほどに私は自らの未熟さを知り、そして疲れによって黙りこくってしまった。しかし、そんな時目の前の大きな扉の向こう側からガタンゴトンと何かを取り外すかのような音が聞こえてきた。

 それはどこか希望に満ちた音の様であり、私とアルバ様は扉のそばから離れると、ゆっくりと大きな扉が開き始めた。ギシギシと音を立てながら開かれていく扉の向こう側には師匠の姿があった。

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