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小さい頃に比べて大人っぽくなった様子のアルバ様はとても素敵だった。初めて会った時と比べると少しクールになったというか、大人になったという表現のほうが正しいのかもしれない。
年は同じはずだが、それ以上の差があるようにも思える彼の雰囲気に、より一層の魅力を感じていると、扉がノックされていることに気付いた。
コンコンと何度も響き渡る音に、少し警戒しながら音のする部屋の入り口まで向かうと「おーい」という聞き覚えのある声が聞こえてきた。
それは先ほど私に絡んできた黒髪長髪の人の声によく似た音であり、思わずたじろいだが、すぐに扉を開けることにした。
扉を開けると、予想通り黒髪長髪の人が立っており、ぶかぶかの制服の袖をフリフリと揺らしながら私に挨拶してきた。
「やぁ、モンスター」
「モンスター?」
モンスターという言葉の意味は知っている、そして私は怪物と言われていることも知っている。けれどこうして真正面からそういわれたのは初めてだ。
「魔法界では召喚獣を扱う者の事をそう呼ぶんだ、知らないわけないだろ?」
どうやら私が知っているのとは違う解釈があるらしい。私が盛大な勘違いをしていたのか、それともからかわれているのかどちらなのだろう。
「えーっと、知りませんでした」
「君はすごいよ、召喚魔法は禁忌だけどそれ以上に扱える人はごくわずかだといわれているのに、それを入学早々にやってのけるなんて、君は生粋のモンスターだよ」
「そ、そうですか」
「うん、ところで君の名前は?」
「私は大角カイアです、失礼ですがあなたの名前は?」
「僕の名前は
「モモちゃん・・・・・・」
なんだかやんちゃそうな様子とは裏腹に、可愛い呼び方を希望してくるのはすごいギャップで頭が混乱しそうになった。いや、むしろ同年代のはずなのにとても年下であるかのような雰囲気がすごく漂ってきていた。
「うん、そんなことよりもさぁカイア、召喚魔法を見せて欲しいんだけど」
「え、そんなことを突然言われてもできません」
「どうして?僕はそれを学びにこの学校へと来たんだよ?」
「でも、召喚魔法は禁忌なのでは」
「そうだね、でもここでは召喚魔法についての知識を学ばせてくれるんだよ、だから君もここに来たんじゃないの?」
「いえ、私は・・・・・・」
言葉に詰まる、けれどまるで私から何かを聞き出そうとするかのようにモモちゃんは私の目を覗き込んできた。
「まぁ、とにかく僕は今日からこの独居屋敷で暮らすことになったからよろしく、同じ一年生同士仲良くしようよ」
はきはきと喋り、ここに来た明確な意思をしっかりと伝える様子に私は圧倒された。それと同時に、こんな流暢に喋ることのできるモモちゃんをすごく尊敬した。
「え、はい、よろしくお願いします」
「じゃあそういう訳だから」
そう言うと、モモちゃんは制服のサイズが合っていないのか、腕の余った袖を振り回しながら去っていった。
その後ろ姿はやはり同年代には見えず、その背中を見送った後、私は再び部屋に戻ることにした。
すると、ふいに何者かの気配を感じた私はモモちゃんとは反対の方向へと目を向けた。
すると、そこには先ほどアルバ様と行動を主にしていた綺麗な銀髪の人がいて、私が突然振り返ったことに驚きでもしているのか、きょとんとした表情で私を見つめていた。
「あら、驚かせてしまいましたか?」
銀髪の人はクスクスと上品に笑って見せた。そのしぐさからアルバ様と同じく格式高い家の出身の人間であるように思えた。そのせいで私はわずかに頭を下げて、あまり目を合わせないようにしてしまった。
「いえ、何か御用でしょうか?」
「えぇ、挨拶をしようと思いまして」
「私にですか?」
「えぇ、アルバにも声を掛けたんですが、少し機嫌がよくないようなので私だけ挨拶に来ました」
「あ、えっと、初めまして大角カイアです」
「えぇ初めまして、私はペラ・クアトロよ、よろしくねカイア」
「・・・・・・」
返す言葉がなく、ただただ美しい人を前に地面とにらめっこしていると、クアトロさんがクスクスと笑った。
「ふふふ、噂に聞いていたけれど噂よりも随分と普通な人なのね」
「え、それはどういう意味でしょうか?」
「あなたの事よ、もうこの学校であなたの事を知らない人なんていないくらいに話題になっているもの、禁忌を犯せし魔女見習いってね」
「あ・・・・・・」
覚悟はしていたが一か月たってもこの噂は絶えないのだろう。人の噂も七十五日ということわざがあるから、あともう少しの辛抱という所だろうか?
「でも、なんだか安心した」
「え?」
「禁忌を犯せし魔女見習い、それがどんな人かと思えば人畜無害そうな普通に可愛い女の子、第一印象はそんな感じね」
「えっと、クアトロさんもとてもお美しいです」
「え?なに、どうしたの急に?」
「いえ、褒められたような気がしたのでお返しをしないといけないと思いまして」
「ふぅん、随分とかしこまった態度なのね、私はあなたと同学年つまり同じ志を持った同志よ、そんなにかしこまらなくてもいいのよ」
「でも」
「それとも、人に気を遣わなければならない、何か後ろめたい事でもあるのかしら?」
その言葉と同時にクアトロさんの鋭い視線が突き刺さってきた。彼女の目は鋭く私の心でも見通してきそうなほどだった。しかし、後ろめたいことも隠すようなこともない私にとってそれはただの怖い視線でしかなかった。
「いえ、そんなことはなくてですね、これは癖というか」
「癖?」
「はい、幼い頃から言葉遣いには気をつけろと言われてきましたので。とはいっても、喋るのも言葉を覚えるのもあまり得意ではなくて何もかもが中途半端といった感じなので」
「それは時と場所によるものよ、こうして同年代といる時くらいは楽に喋ってもいいものだと思うけど?」
「こ、こうして学校に通ったり、同年代の方とお話しするのは初めてなものでして」
「そう、アルバに聞いていたとおりね」
唐突に聞こえてきたアルバ様という言葉に今まで下げていた視線をクアトロさんに向けると彼女はニコニコ笑っていた。そこにはさっきまでの怖い印象はなく、柔らかで優しそうな綺麗な人がいた。
「ようやく目を合わせてくれたわね」
「え、あの」
「あなたがアルバと交流があったとは聞いていたけれど、どうして彼は挨拶にも来てあげないのかしら、不思議だと思わない?」
「交流があったとしても私はただのメイドでアルバ様はロイ家のご子息様ですから、私の様なものに挨拶だなんてそんな・・・・・・」
本当は挨拶に行きたかったし、来てくれたら・・・・・・なんてことを一瞬だけ考えてみたりもした。
「なんだか複雑なのねあなたたち、まぁ、今日は挨拶に来ただけだからそのうちみんなでお話でもしましょう」
「はい」
「うん、じゃあねカイア、あ、同期なんだし名前で呼んでもいいでしょう?」
「はい勿論です」
「じゃあカイアも私の事はペラと呼んで、クアトロは代々受け継ぐ名前みたいなものだからあまり好きじゃないの」
「はい、わかりました、ペラさん」
「んっ」
そう言うとペラさんはさっそうと立ち去って行った。その後ろ姿にすら気品を感じさせる彼女を見送った後、私は一息ついて部屋へと戻った。
この一か月間、まるで同級生と話してこなかった私にとって今日という日はこれまでの孤独な日々を取り戻してくれるかのようで、内心ドキドキしていた。
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