第15話 新しいメガネを作るぞ!

 メガネ屋に着いた【すて】はストレートに言った。

「友人のメガネかけさせてもらったら良く見えたんですよ。それで度数教えてもらったから、その度数でメガネ作りたいんですけど」

 するとメガネ屋の店員は困惑した顔で言った。

「それってお友達のメガネのデータですよね? 【すて】さんには合わないかもしれませんよ」

 メガネ屋の店員が言う事にも一理ある。と言うか、普通に考えたらそりゃそうだ。だが、今回は実際にその度数のメガネをかけて良く見えたから、同じ度数で自分のメガネを作ろうとしているのだ。言ってみればメガネの処方箋を持参した様なものだ……って、ちょっと違うか。

 まあ、視力検査用メガネで見え方をテストして、合わなければ再度調整すれば良いだけの話だ。やってみて損は無い。


 まずは視力検査用メガネのフレームに遠距離用のレンズをセットしてもらい、かけてみると、思惑通り遠くはとても良く見えた。『これなら楽しくバイクに乗れる』と喜ぶ【すて】にメガネ屋の店員は言った。

「良い感じみたいですね。じゃあ、近距離用のレンズを入れますね」

 友人の遠近両用メガネだと目が回って気持ちが悪くなりそうだったが、検査にはお金がかからないのだ。物は試しだと【すて】は視力検査用メガネを遠近両用仕様にしてもらい、かけてみた。

「うわ、やっぱ目ぇ回りますわ」

 呻く様に声を上げた【すて】にメガネ屋の店員は衝撃の事実を告げた。

「遠近両用のレンズは度数とグレードで歪みが全然違うんですよ」

遠近両用メガネは一枚のレンズに遠く用の度数と近く用の度数が混在するのだから周辺部やその境目周辺は歪みが生じる。その度数の差が小さい方が歪みも小さいという事だ。

 そしてグレードによって歪みが違うというのは、グレードが高いレンズは歪みが少ないという事で、言い換えれば『良い物は高い』という資本主義社会では当たり前の事だ。


 同じ度数で高いレンズに付け替えてもらった視力検査用メガネをかけてみて【すて】は驚いた。歪みが全く無いわけでは無いが、普通のレンズとの差は歴然、これなら目が回ったり気持ち悪くなったりしなさそうだ。だが、聞けばレンズだけで五万円程するらしい。さすがにそれは手が出ないが、せめて少しでも歪みが少ない物をと思った【すて】はそれなりの値段の遠近両用レンズを試させてもらったところ、なんとか使えるだろうと判断し、それに決めた。メガネフレームと合わせれば結構な金額になってしまったが、まあ仕方があるまい。ついでに言うと、去年作った四本のメガネの残り三本は保証期限が切れる直前にレンズを交換してもらうつもりだ。


 そして数日が経ち、【すて】の遠近両用メガネが仕上がった。早速かけてみた【すて】の感想は『遠距離用から近距離用に変わるポイントがもう少し下だったらもっと良かった』といったところだった。と言うのは、遠近両用メガネはレンズの上の方で遠くを見て、レンズの下の方で近くを見る仕様になっているのだが、その遠距離用から近距離用に変わり始めるポイントがレンズの上の方だと遠くを見るエリアが狭くなるし、逆に下の方だと近距離を見る為の度数が出せなくなってしまうのだ。特に【すて】はレンズの天地が比較的狭いメガネを選んだのでその影響が出やすく、少し目線を落とすだけで遠距離用から近距離用へ切り替わり始めるポイントに入ってしまうのだ。まあ、これは【すて】が遠近両用メガネにまだ慣れてないだけかもしれない。とにかく、これなら目が回らないみたいだから普段から使って慣れるしか無いだろう。


 少しでも早く慣れようと新しいメガネをかけて家に帰った【すて】は車の運転席に座ってみた。遠くを見るのは問題無い。そして目線を下げ、メーターに目をやってみた。両目だとメーターの文字は読み取れた。次に左目を閉じ、右目だけで見てみると少しぼやけてはいるが、メーターの文字は読めない事は無い。少しほっとした【すて】は車から降り、家に入った。メガネが変わっている事を妻M

が気付くか気付かないかドキドキしながら。



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