『戦後文明論』

北風 嵐

第1話『戦後文明論』(1) アメリカの間違いその①

 東西ドイツの統一、ソ連の崩壊を持って戦後45年、核戦争の危機を含む緊張関係は終わり、世界はそれを歓迎した。コロナ禍の中にあってロシアのウクライナ侵攻、米中の激しい対立、台湾有事の際には日本の参戦も検討されている。新冷戦と云われる事態になっている。

 どこで間違ったのか?私の生まれは1945年である。人間は間違いを犯す動物と云われている。間違いから学ぶしかない。戦後の歴史を振り返ってその間違いを見つけてみたいと思ったのだ。

 ローマ帝国、イスラム帝国、中国王朝、大英帝国、それに倣うなら今はアメリカ帝国の時代と見たらいい!第2次世界大戦はアメリカの参戦なしでは連合国の勝利はなかった。戦争に正義はないと云うが、正義の戦争と評価していいと私は思っている。ドイツと日本が勝った戦後に私は生きたいとは思わないからだ。

 但し一つの汚点(間違い)を除いてはになる。それは原爆の投下である。作ったのと使ったのとは大きく違う!戦争終結に使う必要がなかったのに使ったとしたら、それは人道に反する行為ではなかったか、事実、アメリカ政府にも異論があったのである。今回はその辺を書いてみる。


アメリカの間違い その①

 

 アメリカの間違い その①


私はアメリカに批判的と見られている。大学時代ベトナム反戦で国会にデモにも行った。何と酷いことをするのだろうと憤激していた。しかし、アメリカからはたくさん素晴らしいものを貰った。チョコレートは田舎少年には感激であった。一番は今の憲法を貰ったこと!いいものは押し付けでも結構ではないか。ジャズにジーンズにTシャツ、ハンバーガーetc

貰いたくなかった最大のものはあの原爆であった。

原爆投下には、トルーマンは本土上陸作戦に伴う犠牲をなくし、戦争終結を早めるのに必要であったとしているが、政府内でも異論があったのである。筆頭は陸軍長官スティムソンと海軍長官ジェームズ・フォレスタルと大戦前日本大使を勤めたジョセフ・グルー(国務省極東局長)の3人である。極東軍最高司令官マッカサ―、欧州軍最高司令官アイゼンハワーも反対であった。アイゼンハワーはスティムソン陸軍長官に対し「アメリカが世界で最初にそんなにも恐ろしく破壊的な新兵器を使用する国になるのを、私は見たくない」(1963年の回想録)と何度も抗議したとされている。意外と軍人たちに反対論が多かったのである。このことは原爆を使用しなくても戦争終結は近いと軍関係者は見ていたことを証明している。


 トルーマンは戦後の対ソ連を考えてが一番の理由であろう。日本は実験台にされたわけだ。使われたのは日本であったが、ソ連がこれを脅威と感じない筈はない。遅れること4年でソ連も核を持つこととなった。トルーマンは対共産圏封じ込め政策を取る。こうして核を背景にした冷戦構造が出来上がった。


 戦争の終結が見えて来た45年4月で亡くなったルーズベルト大統領なら落とさなかったか?歴史に「もし」はないが・・私は落とさなかったと断言できる。開発を承認したのはルーズベルトである。しかし、彼は何よりこの戦争を『アメリカの名誉ある戦争』としたかった筈と私は思うのだ。

 さらに落とさなかったと断言できるのは、彼の妻エレノアの存在である。最初の最高のファーストレディとされるエレノア・ルーズベルトは、女性やマイノリティに関する考えはフランクリン・ルーズベルトの数歩先を行き、国民のはるか先を行ったと讃えられている。エレノアはルーズベルトが第二次世界大戦中に推し進めた日系アメリカ人強制収容に反対している。ルーズベルトはエレノアを深く尊敬していたと言う。


 ルーズベルトの急死で棚ぼた大統領になったトルーマンが異論を封じて実行したのである。何より戦争終結後の対ソ連を考えてが一番の理由だと考える。副大統領は退屈極まりない飾り物的な存在か、次期大統領候補の有力者かどちらかであった。トルーマンは重要会議には呼ばれることもなく、原爆の開発計画すら知らされていなかった。トルーマンが原爆計画を知らされたのはスティムソン陸軍長官からであった。実験の成功の報告はポツダム会談が始まってすぐに知らされた。英国首相チャーチルは急にトルーマンが元気になり、強気の発言になったことに驚いたと言っている。

 グルーは駐日大使の経験から天皇が日本人にどれほど重要か理解していたため、ポツダム宣言に「天皇の地位保障」を盛り込む事によって原爆投下をしなくても降伏をさせられるとトルーマンに進言していた。事実、陸軍次官補ジョン・マクロイはこの線に沿って日本への降伏文書を立案し、ポツダム宣言の第12条に盛り込まれることとなった。ところが、対日強硬派のジェームズ・バーンズ国務長官の意見を取り入れ、トルーマンは宣言の内容を変更した。

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