第72話 入学試験



「……ここが、会場か」



 その後時間には間に合い、俺たちは入学試験の会場に着く。正確には、俺たちの入学試験の時間には間に合った、というべきか。


 そこにはすでに、かなりの数の人間がおり……そのほとんどが貴族だ。


 ここにいる全員が、今から試験を受ける。



「……ふむ」



 さて、試験の内容とは……事前に、聞かされていく。技術試験、そして筆記試験……この2つだ。技術試験とは剣の腕を見ること。だがただ披露するわけではない。


 2人が、それぞれの技術を持ってぶつかり合う。要は、入学者同士で一対一の打ち合いをしろというものだ。木刀ではなく真剣だが、もちろん命の取り合いはなし。


 剣は、学園から借りることができる。が、自前のものを使ってもいい。それこそが、入学者に自前の剣を持っている者が遥かに多い理由だ。


 俺は持っていないので、学園から借りる。正直、家にはたくさん剣があるし、それこそ幼い頃から使っているものだってある。だが、それではダメだ……自分の手に馴染むような、使いやすいものでは。


 自前の剣を持っていたって、いつなにが起こるかはわからない。剣がない場合だってある。そんなとき、自前の剣でなければまともに戦えない、なんてことになれば笑い話では済まない。


 どんな剣であろうと、一流に扱えることこそが騎士になる絶対条件、だと俺は思っている。ゆえに、俺は幼い頃から数々の剣をバラバラに扱ってきた。


 この場で剣を持っていないのは、ミライヤのような貧乏な者の他に、そう考えている者だっているだろう。


 それにいざというとき、どんな剣でもあの男を、殺せるように腕を磨いておかないと。



「で、俺の相手はと……」



 すでに打ち合いは始まり、次々と入学者の試験が始まっている。基本的には、勝った方が入学負けた者は去る……だ。だから、この試験で必ず半分は落ちることになる。


 その後筆記試験で落ちる者がいたりする。まあ、剣を教える学園なのでよほど結果が悪くなければ問題はないだろう。


 逆に、負けても実力が拮抗していたり、技術面に素晴らしいものがあれば、その後の筆記試験の結果の如何いかんでは入学できることも、あるとかないとか。



「あ、どもー」



 俺は学園から適当な剣を借り、会場へと足を踏み入れる。会場は、いわゆる闘技場のような造りになっている。ここで行うのか……見物の席もたくさんあるな。


 もちろん、会場は複数だ。幾人もの打ち合いをわざわざ一つの会場で行っていては、一日では終わらないからな。別会場の様子は、入口のモニターで見ることもできる。


 ノアリやミライヤとは、別会場になる。ノアリなら大丈夫だろうが、ミライヤは大丈夫だろうか……剣の実力もだが、それ以上に精神的な意味で。


 まあ、今気にしても仕方ないか。なんせ俺の相手は……



「はっはぁ、まさかこんなに早く再会できるとはな!」


「……」



 ガルドロ・ナーヴルズ……さっき会ったばかりの相手だ。妙な因縁を付けられたため、向こうから接触してこないとも限らないと思ってはいたが……まさか、こんなに早く会うことになるとはな。


 見物人の中には、当然ガルドロの取り巻きもいる。が、再会した俺を見た瞬間と今とでは大きな違いがある。それは……



「お、おい、聞いたか?」


「あ、あぁ、あいつ……いやあの方……」


「あの、ふ、フォン・ライオスの家系だって……」



 そう、先ほど試合をするにあたり『ヤークワード・フォン・ライオスとガルドロ・ナーヴルズの試験を開始する』とアナウンスがあったわけだ。するとどうなるか。


 貴族と平民の身分の違いに偉そうにする奴ら……まさにガルドロの取り巻きのような奴らだが、そいつらは身をすくめることになる。なぜなら、そこに身分の違いがあるからだ。


 貴族にも位がある。その上位に存在するのがナーヴルズ家で、だからこそ取り巻きはへこへこしている。が、称号ミドルネーム持ち、つまり俺は一般の貴族よりも上の立場だ。


 なので、取り巻きの慌てぶりはまあ、納得だ。会場でも見物人がざわざわしているから、なるべく内緒にしておきたかったんだが……こうなっては仕方ないか。


 俺は身分とか気にはしないが、まあ勝手に恐れてくれるならしばらくはこのままにしておこう。



「お、驚いたぜ……まさかあの、『勇者』フォン・ライオスの長男とは……」


「別に偉ぶるつもりはないけど、なんなら棄権でもするか?」


「冗談!」



 青ざめそうな表情だったが、首を振り、ガルドロは剣を抜く。



「相手が平民だろうが称号持ちだろうが関係ねえ! 俺は俺だ、俺が最強なんだ!」



 なるほど……その言葉の内容は意味が分からんが、こいつは名前だけで怯む後ろの取り巻きとは違うようだ。名前を盾にするだけのバカと思っていたが、違うらしい。


 相手が誰でも強気なその精神は嫌いじゃない。それで平民を虐げるのは、いただけないがな。



「むしろ、思い知らせてやるぜ! 称号持ちだからって偉ぶりやがって……その鼻っ柱へし折ってやる! ここでなら、存分にぶちのめすことが出来る!」


「……」



 偉ぶってないし、その言葉は見事に自分に跳ね返ってくると思うのだが……まあ、いいか。


 とにかく力を示せば話が早い。ま、そういうことだ。



「はっ、そんなもんでこの名刀が負けるかよ!」



 俺も、剣を抜く。これは学園で、ついさっき借りたものだ。つまりは、模擬剣。対してガルドロのものは、本人持参の剣だ。


 名刀と言うが……なるほど、確かにいい剣だ。切れ味は、相当なものだろう。もっとも……



「使い手が良ければ、の話だけどな。使い手がお前じゃ、その剣も泣いてる……いや、ナーヴルズ家が泣いてるぞ」


「! てめえ……!」


『始め!』



 試合開始の合図。入学試験が、始まる。

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