幕間 目標



「と、いうわけなんですが……」



 先生から聞いた、騎士学園の話。先生との稽古が終わった日の夜、、両親に早速話した。


 これから、もっと剣を上達させるなら、騎士学園で腕を磨いた方がいいんじゃないか。そう、先生からの提案があったことを。



「なるほど……」



 それを聞いて、机を挟んで正面に座る父上は、腕を組み小さく頷く。その隣では母上も座っている。



「先生の話だと、その学園を作るよう進言したのは父上だとか」


「ん、あぁ……ちょっと、気がかりなことがあってな」



 気がかりなこと、ね……両親は、俺に昔の話をしたがらない。もっとも、自分から話すものでもないとは思うが。


 とはいえ、経歴が経歴だけに両親の昔のことは誰でも知ってるくらいだし、もちろんアンジーや先生だって知っている。両親だって、俺に頑なに内緒にしたいわけでもないだろう。別に、隠そうとする必要もないだろうに。


 それとも……俺を殺したことを、思い出すから忘れようとしているのか?



「先生から聞きました、父上が、魔王を討伐した後、そう進言したと」


「あぁ、そうだ。父さんたちの昔の話だが……魔王と呼ばれる存在を、討ったことがある」



 知ってるよ……一緒に、旅をしていたんだからな。



「その魔王の散り際、気になることを言っていてな……いや、大袈裟にとらえすぎだとは思うんだが。万一を考えて……今からでも、若い力を育てておこうと、思ったんだ」


「……そうなんですか」



 俺の考えていた通りの答えだ。父上……ガラドは、あのときの魔王の言葉に影響されて、学園を設立させた。


 王族としても、魔王を討伐した勇者の言葉……無下にはできなかったのだろう。となると、騎士学園が設立されてから、長くても11年ってことか。新設されたばかりといっていい。


 そこで、力あるものを育てる、か。ま、以前のように『国宝』で俺のような役立たずが選出されるよりも、力を蓄えた騎士を選んだ方が何倍も役立つだろう。



「それで……ヤークは、どうしたいんだ。わざわざその話をするということは……」


「……はい。俺、騎士学園に通いたいです」



 まっすぐと、目を見て……伝える。先生から話を聞いたときから、考えていたことだ。


 強くなる……目の前の男を殺すための、技術を向上させる。しかしそれ以外に、ただ純粋に剣の腕を磨いてみたいと……そう思う、自分もいて。



「や、ヤーク……でも、そんなのまだ早いでしょう? こんな急いで決めなくても……」



 と、戸惑いを見せるのは母上だ。確かに、8歳の息子から、学園に入学したい、という話が出るなんて思ってもみなかっただろう。


 俺も、考えていなかったことではあるが……



「でも、それが今の目標なんです」



 今の目標は、間違いなくそれだ。剣を始めた動機はともあれ、せっかくの第2の人生……やりたいことを、謳歌したい。



「そうか……それがヤークのやりたいことなら、好きにやってみるといい」


「父上……」


「ただし、母さんも言うように、まだ時間はたっぷりとある。その間、他にもいろいろと考えてみることだな」


「はい!」



 母上も、それ以上口出しするつもりはないようだし、一応は納得してくれたようだ。まだ数年の時間がある……先生に、もっとその学園のことを聞くのもいいかもな。


 だが、学園設立を進言したのは父上なのだから……より詳しいのは、父上かな。



「父上は、騎士学園についてどこまで関与しているんですか?」


「うぅん……正直、設立を進言した以外、たいして関わってはいないな。たまに、学園に足を運ぶくらいか」



 どうやら父上は、学園のことにはあまり詳しくないらしい。自分から設立を進言したのだから、もうちょっと関われよとも思うが……ま、忙しいのだろう。


 まあ、いいさ。わからないなら自分で調べるだけだしな。


 ……そして、翌日。



「え、騎士学園?」


「あぁ」



 今日は稽古の日ではないが、それでもノアリはちょくちょく遊びに来る。今日はノアリに、俺が昨日決めたことを話している最中だ。


 騎士学園に、進路を決めたと。



「でも……なんで、私に?」


「ん? なんで……なんでだろうな」



 自分でも、なぜかはわからないが、ノアリに話していた。同じ鍛錬仲間として、話しておきたかったのだろうか。


 答えになっていないのに、なぜかそれを聞いたノアリは嬉しそうだ。



「ノアリ?」


「な、なんでもない。……そっか、騎士学園、か……」



 まだ早いだろうとは思うが……目標を早くから持つのは、悪いことではない。


 すごい、今からわくわくしているや。そしてこの決断はきっと、後悔することはないだろうと、思っていた。

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