幕間 騎士学園



「騎士学園?」



 ある日のこと。いつものように先生に剣を習っていた日のことだ。剣を習うばかりが修行ではないと、いつも休憩時間も含まれている。そこでの会話。



「えぇ。知っていますか?」


「いや、初めて聞きました」



 先生から話題に挙がったのは、とある学園の名前だった。


 騎士学園……その名の通り、騎士を育てるための学園らしい。転生してからそのような学園の名前は聞いたことがないし、転生する前だって田舎に住んでいたからか聞いたこともない。俺が生まれ変わる年の間に出来た可能性もあるが、まあどっちだっていいことだ。


 さてどうしてそんな話になったかというと、それは俺の熱意に打たれたと話す先生からの言葉から始まった。



「えぇ。ヤークの剣を習う姿勢……特にこの数日はたいしたものです。もしも、まだ上を目指したいというのなら……しかるべき場所で、身を揉まれるのも悪くはないかと」



 どうやら、俺が強くなりたいというのを真剣に考えてくれたらしい。もっと強くなりたいのなら、騎士を育てる学園に行く選択肢もあると。


 しかも、剣の先生が勧めるのだ。そこはさぞ有意義な場所なのだろう。だが……



「……そりゃ、もっと上を目指したいのは確かですが……先生に習っている分でも、充分に感じますよ」


「はは、ありがとうございます。けれど、やはり設備が整った場所の方が良い環境で強くなれるでしょう。私としても、ヤークにここまでの力と決意がなければ、言う出すつもりはありませんでした」


「設備……」



 なるほど、道理だ。ここでは先生に、剣の正しい打ち方や動き方、攻撃や防御、それだけでなく剣の礼についても詳しく教わった。


 それでも、先生の言うように、マンツーマン指導と学園、どちらが設備が整っているかは考えるまでもない。



「なにより……競い合える相手がいるというのは、それだけでモチベーションが違うものですよ」


「競い合える……相手」



 競う……か。確かに、同じように強さを求めている連中と一緒にいた方が、なにかと努力できそうだ。今も、ノアリとだけでは互いの成長はわかっても、どれほどのものかはわからない。


 とはいえ、俺が強くなりたい……というより、剣を習っているのは、父上ガラドを殺すためだ。そのために、一番効率の良さそうな剣を始めた。こんなこと、言えやしないけど。


 そのために姿勢がたいしたものだと言われるのは、なんだか複雑な気分だ。しかも、この数日は特に、らしい。この数日って……まさか、ノアリも一緒に習い始めたから、とかじゃないよな。


 そしたら恥ずかしすぎるぞ、俺。



「どうです……といっても、これも選択肢のひとつです」


「選択肢?」


「えぇ、将来の選択肢、です。将来は冒険者になるか、それなりの役職につくか……しかし新たにこの学園ができたことで、将来騎士として育つという、新たな道も示されました。実は騎士学園ができたのはここ最近のことなんです。それまで、騎士を育成するためを主とした学園はありませんでした。作られる要因となったのが、ガラド様の発言によるものです」


「父上の?」



 騎士学園……それができた理由は、父上にあるという。どういうことだろう。



「あれは、何年前のことか……私もよくは知らないのですが、確か魔王を討伐したガラド様たちが帰って来たときです。きたる日に備え、騎士を育成する学園を建てようと。そう、王族に進言したと」


「……」



 魔王討伐から、帰って来たあと? それは、俺が殺されたあとのことだよな。来る日ってなんのことだ?


 そのとき、ふと頭の中に思い出される言葉があった。



『21年の月日が経った後、我は再び甦る……その時が、楽しみだよ』



 散り際の魔王の言葉だ。単なる負け惜しみのようなものだとガラドは言っていたはずだが……もしも、その言葉を真に受けていたとしたら?


 また復活するだろう魔王に備え、騎士……要は戦える人材を育てるために、その学園を建てた。そう考えれば、辻褄はあうか。


 あれから21年後……つまり、俺が18歳になった頃ってことだ。俺だってあの言葉に、引っ掛かりを覚えないわけではない。学園に入れるのは特に年齢は関係ないが、仮に16歳で入学したとして、約3年間そこで学ぶことになる……もしその学園に入学したら、そのタイミングがあれから21年後、か。



「ヤーク?」


「! あ、な、なんでもないです!」



 また考え事に耽ってしまったか……いけないいけない。悪い癖だぞ。


 ともあれ、学園、か……考えたこと、なかったな。それに、行きたい理由なんてものが明確にあるわけじゃない。剣を習っているのだって、邪な理由からだ。



「まあ、そういう道もあるという話です。頭の隅にでも、置いておいてください」


「……はい」



 田舎の出だった俺は、学校なんてもの自体、行ったことがない。ない、が……


 競い合える相手、か……その言葉はなんだか、とても心を揺さぶってくるような、気がした。剣なんて、復讐を遂げるためのひとつの手段だと、そう思っていたのに……


 少しワクワクしている、自分がいる。

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