第58話 犯人探し:前編
『呪病』とは病でなく呪いであり、その術者が城にいる……そう聞いた時は、なんの冗談かと思った。
しかし、普段冷静だったり時々年齢のわりに大人びた姿を見せる……そんな息子の初めてにも思える焦りを孕んだ声に、ガラド・フォン・ライオスはそれが戯言の類ではないことを即座に理解した。
数日前にいきなり連絡がとれなくなったかと思えば、先ほどようやく向こうから連絡が来たのだ。
「まったく、聞きたいことはいろいろあるってのに」
『呪病』の正体、術者の存在……いったいそのような情報をどこから得たのかとか、そもそも今までどうして連絡がつかなかったのかとか。
聞きたいことはもちろんたくさんある。しかし、顔も見えない息子の剣幕に押されてしまった。
「帰ったら、しっかり説明してもらわないとな……」
「ガラドさん、これなんですが……」
口の中でひとり呟くガラドの下に、一冊の書物を手に男がやって来る。
現在ガラドは、自らの権限を大いに振る舞って夜の城、その書斎にいる。
息子の話によると、『呪病』の術者は国の内部にいるが、それを判断するにはこうして国の外へ出た者を洗い出す必要がある。
要は、『呪病』が発生した時に国にいた者、『呪病』が発生していない時に国にいなかった者……それに、限定して調べる。城の書斎では、国の外に出たことのある者を纏めた名簿が残っている。
さすがにガラドひとりで探すのは骨なので、こうして信頼できる者たちにも手伝ってもらっている。
「どうかしたか?」
「この男なんですが、どうにもにおいますね……条件にも一致していますし、一部では怪しげな術を研究してたと噂されています。他にもいろいろと黒い噂が……」
「そうか……この男は、俺も知っている。王族ではないが、専門の学者とかで城への出入を許可されていた男か。わざわざ調べてくれたのか、ありがとう。悪いなこんな時間に……今度、一杯おごるよ」
「はは、楽しみにしています」
こんな時間にも関わらず付き合ってくれるみんなには、感謝だ。改めてお礼をしなければいけないだろう。
さて、黒い噂の絶えないというこの男……今ガラドが話したように、王族ではない。が、学者というか研究員というか、とにかくそういった者で、特別に城への出入りが許可されている。
これまでも国への貢献として、様々な手柄を挙げてきたのだとか。人徳はよく、城の外へ出れば国民から好かれているほど。……あくまでも表向きは。
しかし彼をよく知る者からは、よく黒い噂を耳にする。非人道的な実験を行っているとか、夜な夜な怪しい薬を作っているとか。それに加え、疑念がガラドには1つある。
「……セクニア・ヤロか」
書類に書かれた男の名を、呟く。思い浮かべるのは、彼の顔だ。
ガラド自体、王都に住むようになってまだ10年と経っていない。そして、彼を見かけてからまだ数年しか経っていないが……どうにも、まったく容姿が変わっていないように思えるのだ。
たった数年、それにセクニア・ヤロとは高齢の男だ。大きく見た目が変化することはない。……とはいえ、なぜか違和感があった。
「直接尋ねてみるか」
セクニア・ヤロについての記述はここにある。文字を読むだけなら簡単だが、それだけだ。ただそこに書き連なってあるものを読むだけでは、物事の真意はわからない。
ゆえに、彼が本当に『呪病』を……呪いを引き起こした張本人なのか、確かめる必要がある。直接会って。
現状呪いの術者の最有力候補。彼ほど魔術の類いに熟知している者は、それこそ魔術を直接扱えるエルフ族を除けば人間族の中にはいないだろう。それほどの大物が、このような大虐殺とも呼べることをしているのか。
「そうであってほしいような、ほしくないような」
セクニアとは直接会ったことは数回程度……仲も計れるほどの関係ではない。それでも、自分が住まうこの王都に、城に、大虐殺犯がいるとは考えたくはない。
とはいえ、最有力候補であるセクニアが違えば、ほとんど振り出しに戻るようなもの。なので、セクニアが犯人でなかった場合を想定し、手伝ってくれている者数名をここに残し調査を続けさせ、残る数名はガラドと共にセクニアの下へと向かう。
その中には、先ほどガラドに書物を持ってきてくれた若者も含まれていた。
「さて、行きますか」
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