第56話 解決に向けて
『呪病』の正体……それは、その名前の通りに呪いであるとのこと。呪いのような病が、まさか実際に呪いだったとは。
その呪いをかけた者……つまり術者を倒せば、『呪病』を消すことができる。そうなれば、『呪病』に苦しんでいるすべての人を救うことができる。ノアリ以外を救わない、という選択肢も消えることになる。
とはいえ、ノアリを救う代わりに何人死んでも構わない、なんて……俺は、こんな薄情な人間だっただろうか。
「……」
結果的に全員を救うことができることになったとはいえ、この考え方は……こんな考え方ができるようになったのは、果たして正解なのだろうか。
「ヤーク様?」
「! なんでもないよ」
とにかく、とにかくだ。全員を救えるなら、それに越したことはない。今はそれでいいじゃないか。
となると、呪いをかけた術者を見つけないといけないが……
「それで、術者ってのはどうやって見つけたら……」
「基本的に、呪いの範囲はそう広くはない……せいぜい国ひとつの範囲。遠隔で別の場所からは呪いの効果は表れないということじゃ」
範囲は広くない……とはいえ、国ひとつも充分な広さな気がするが。まあいいや。
とにかく、呪いの範囲が決まっている、ということは……
「術者は、国の内部にいる?」
「そうなる。それに加え、呪いをかけている間、術者はその場から離れることは出来ん。離れれば呪いの効果は消えるからの」
「ということは……術者は、国から一歩も外に出たことがない人? そんなの……」
「よく思い出せ。その『呪病』とやらはいつから流行りだした?」
そう言われ、俺は咄嗟にアンジーを見る。『呪病』の存在はノアリが発症した時に知ったんだ、いつからなんて俺にはわからない。
だけどアンジーなら、それを把握していてもおかしくはない。
「ええと……奥様は、最近と。ですが……確か、それと似た病が出た時期があります。そう……8年ほど、前かと。その時点ではまだ名前なども付いておらず、流行るほどではなく途絶えたはずです。ただ、今回流行り始めるまでにも何度か症状はあったはずです」
「ふむ……つまり、その術者は8年前に実験的な意味で『呪病』を発生させ……その後何度か呪いの効果を試した後、ここに来て呪いを流行させた、ということか」
8年前……初めて聞く情報で、アンジーとザババージャさんが推論を立てていく。
確かに母上はこの頃流行ってる、としか言ってなかった。だが、実際にはそんな前から起こっていたのか。継続的ではなく、断続的とはいえ。
……俺が生まれた、いや転生したのと同じ時期か。
「その、呪いが起こった時期に必ず国にいた者に限定して、調べるしかないじゃろう。ただ、呪いは魔術とは違うとはいえ、根本的には同じものじゃ。つまり……」
「……魔法を人間が使えないように、呪いも使うことはできない?」
「例外はあるがの。それに、呪いを使うにはかなりの力量と知識、そして邪な心が必要……少なくとも、そこいらの民草に扱える者ではない」
「てことは……」
王族か、それか貴族……その中に、『呪病』の術者が高い。しかも、人間ではない者……
これだけ限定できれば……
「ここから出て、通信の魔石でガラド……父上に状況を話せば、早期解決に動いてくれるはず!」
あ、あぶねー……思わず、アンジーの前でガラドと呼び捨てにしてしまうところだった。誤魔化せたか?
……ぎりぎりだったが、特に気にしていない様子だ。
「なら、さっそく……」
「まあ待て坊主」
急ぎ、結界の外へ出ようとしていたところへ、ザババージャさんの待ったが入る。
逸る気持ちが、抑えきれそうにないんだが……
「結界の外へ出る、それはこの村を後にするということじゃが……」
「あ、そうか……そしたらクルドやザババージャさんともお別れに……」
「ザバちゃんでええいうのに。いや、問題はそこじゃなくての」
なにを言いたいのかわからない。首を傾げる俺に、ザババージャさんはおもむろに袖を捲り腕を露に。
か細く、血管の浮き出た腕だ。
「えっと……?」
「ここを出ていく前に、ほれ。血ぃ抜いていかんか」
ザババージャさんは、己から血を抜けという。確かに、ここに来た理由は『竜王』であるザババージャさんの血を分けてもらうこと。
だがそれは、『呪病』を治す手立てがそれしかないから。術者を倒せば治せるとわかった今、無理に血をもらう必要はない。
「ありがたいですけど、でも……」
「あぁ、術者を倒せば呪いは解ける。が、呪いなんぞを使う輩は頭のねじが外れとる、なにが起こるかわからんぞ。やると言っとるんじゃ、貰っといて損はないと思うがの?」
術者を倒して、それですべてが解決するわけではない……そのような意味の言葉を告げられ、俺は口の中が渇いていく感覚がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます