第13話 いつもの日常



「~♪」


「にいさま、なんだかきげん良さそう」



 先生が帰ったその夜……俺は、楽しみで胸がいっぱいだった。


 剣の稽古。それを受けることに、自分でもわかるくらいに気分が良くなっていた。そしてそれは、弟であるキャーシュにも丸わかりのようだ。



「ずっと楽しみにしていたものね、剣の先生が来るの」


「はい!」



 独学では、剣が上達するにも限界がある。元々、剣の先生を雇おうと提案してくれたのは母上だが、実際に雇おうという話になってから、俺は楽しみで仕方なかった。


 実際に今日会い、諸々の計画を決めた。今日は顔会わせと、実力のほどを見る程度……本格的な稽古は、また後日となる。


 これまで数々の生徒を持ってきたが、5歳の生徒はさすがに初めてだという。数々の生徒を受け持つほどに、実績と信頼がある……それが、ロイ先生だ。それだけ、教えるのがうまく、また教えられた生徒は皆なんらかの成果を出しているとのこと。


 冒険者として高い成績を納めた者、ロイ先生のように剣の先生になった者……中には、王族に仕える騎士になった者と、様々なタイプがいるようだ。実績があるため、先生は人気だ。そんな人物に教えを乞うことができるというのは、非情に幸運だ。



「そういえば、母上はロイ先生とお知り合いなのですか?」



 気になっていたことだ。先生が早めに決まったことといい、2人……というか母上の先生に対する話し方といい。なにか、関係があるように思う。



「昔の、ちょっとした知り合いなのよ。母さんたちが王都で暮らすようになってからの、ね」


「そうなんですか……」



 やはり、知り合いだったのか……それも、やはりこの王都に住むようになってからの。


 母上が王都に住むようになったのは、遅くても8年前から……5歳である俺が、転生するまでに3年かかったのだ。魔王を討った功績を称えられ、称号ミドルネーム持ちとなり、故郷である田舎からこの王都に拠点を移したってことだ。


 俺が生まれてから、少なくとも俺の見ている間では母上と先生に接点はない。まあ、赤ん坊だった俺は動けても遠くまではいけないし、昼間はアンジーがいたからあまり目立った行動ができなかったのも事実。外で会っていればわからないし。



「せんせい? せんせいってなんのです?」


「キャーシュはいなかったもんなー」



 先生の訪問時、キャーシュはいなかった。なので、話に出てくる先生がなんのことか、わかっていない様子だ。


 母上と先生の関係も、キャーシュに剣の先生のことを教えるのも、まあ追々ってことでいいだろう。



「では、私はこれで……」


「えぇ、ご苦労様。明日もよろしくね」



 いつもと同じ時間、アンジーが仕事終わりの時間となり、帰宅することに。住み込みではないため、自宅との距離も考えてこのくらいの時間には帰る。


 いつもなら父上はこのくらいの時間に帰ってくるため、入れ替わりとなることも多いが……今日は、そうでもないようだ。



「アンジー、またあしたー」


「はい、坊ちゃま」



 キャーシュも、すっかりアンジーに懐いたな。キャーシュにとっても、アンジーはもうひとりの母親のようなものだろう。


 こうしてアンジーが帰り、しばらくしてから父上が帰宅して……これが、いつもの日常だ。

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