第12話 面談
「では、早速本日より剣の稽古をつけることにしましょう。よろしくお願いいたします」
「こ、こちらこそよろしくお願いいたします」
剣を教えにやって来てくれた、ロイ先生。初めは俺が子供過ぎるという点や、俺について疑念を抱かれ断られやしないかと不安だった。雇われとはいえ、向こうにだって断る権利はあるからな。
だが、結果として先生は、当初の予定通り先生を引き受けてくれることになった。母上たっての頼みだからか、それとも稽古をつけるに値すると判断してくれたか……両方だろうか。
稽古の話を受けると決めてくれてからは、まず家に入り俺と、母上と、話し合い。軽い面談のようなものだ。
「どうぞ」
「! ありがとうございます。……んん、これは美味しい」
アンジーが淹れてくれたお茶を飲む先生が、頬を緩める。家に入っているからか、少しばかり緊張した様子ではあったようだが、その緊張も和らいだらしい。どうだ、アンジーのお茶はすごいだろう。
誉められたアンジーもまんざらではないようで、軽く会釈してから下がる。
それからは、わりとスムーズに話が進む。俺がいつから剣の練習をし始めたとか、どんなトレーニングをやっていたかとか……俺のことを知ってもらうために、必要な手順だ。
「ヤークはなぜ、強くなりたいのですか?」
その質問があったのは、お互いの距離感がわりと近くなった頃だ。それは、ある意味当然の質問……剣を習いたいと、この年で頼み込むのだ。相応の理由があると、思われてもおかしくはない。
その質問が来ることは、予想していなかったわけではない……が、それに答えられるものを用意できてはいない。
なぜ強くなりたいのか……それは、剣の腕を磨いてある男を殺すためだ。ただでさえそんな理由で剣を習うなどと言えるはずもないし、しかもその相手が自分の父上なのだ。母上もいるこの場で、そんなことはますます言えない。
「えぇ、と、それは……」
少しは用意していた答えの諸々も、全部吹き飛んでいってしまった。なんて答えよう……あまり不自然でなく、それでいて説得力のある言葉……
先ほどまでわりとハキハキ答えていただけに、突然黙ってしまった俺を不思議そうに見ている。正面の先生からも、横の母上からも。
気まずい空間……それが続くかと思われたが、その時間は唐突に終わる。
「……なるほど、わかりました」
「え?」
「変なことを聞いてしまいましたね。男児たるもの、父親を越えたいと思うもの……その父親があのようなご立派な方ともなれば、気持ちが逸るのもやむなしかもしれません」
「は、はぁ……」
まさかあきれられてしまったか、この話はなかったことにしてくれと言われるんじゃないか……そう思っていたが、その心配はなかったようだ。だが、代わりにとても嫌な勘違いをされてしまった。
要は、俺が父上に憧れ、父上を越えたいから早いうちから剣を習いたい、と思われてしまったらしい。越えたいから、というのはあながち間違ってもいないが、あんな奴に憧れているなど反吐が出る。
「そうだったのね、ヤーク……でも、そんなに思い詰めないでもいいのよ」
「そうですね。ですが、その気持ちはよくわかりました」
だが、ここで否定するわけにもいかない。なんか変に納得されたし。これならこれで、良しとしよう。
若干のしこりを残しつつ、先生は快く剣の先生を受け入れ、早速稽古の日にちを決めていった。
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