第21話 足りなかったもの
宮守の声に目が覚めて、それからぼんやりとした頭で前を見上げる。お昼休みがとっくに終わりそうな時間で、宮守は情報をかき集めて来てくれたようだ。
「いや、大変だったぜ。光希さんに頼んで
「サラッと違法行為してない?」
「まあまあ。それで一個わかったんだけど……あの後、お前が疑ってた謎が一個解けた」
その耳元で囁かれた結果は、想像以上に……。
「くだらない」
「……まー、今回俺が使った手段も褒められたもんじゃないけどな」
「多分、この騒ぎの犯人の狙いはその人間を炙り出して、それから……警察を介入させることだった。今回の騒ぎは犯人の目撃者が僕以外にいない上、事件性があんまりない怪我の仕方だったからしょうがないけど」
意識不明になった会長彼女からも、取り調べのしようがないから警察は早々に撤退したのだという。警察がどうの、というよりも正直病院にかかるべき案件だろうから。
「警察側でも割と嫌がる案件だよね。こういうのって」
「学生内での嫌がらせ、悪戯にとどめたい。そういう学校の魂胆がマルミエ、ってわけか」
「うん。じゃ、会長を呼ぼうか」
「……警察は?」
「呼んどく?面倒なことになると思うけどね。僕はお勧めしない、むしろ『彼』については学校外で逮捕させるべきだよ。学校って生徒を守る柵でもあるけれど、その柵の中に病気に汚染された者がいると思った時人がすることって、だいたい決まってるからね」
柵の中から現れた人間が、全員同じく病気だという扱いをする。それがほとんどの人間がとる策だろう。
「つまり、学校全体がそれに関わっていると思われるのを避けたいってことか。確かに……東雲会長に真実を告げたら、そうなるように持っていくか」
「うん、それから会長彼女さんもね。実際持っていたけど病院に問題なく入院して、薬物の精査を受けていないからおそらく使ったことはない」
でも、所持しているだけでそれは犯罪だ。
「じゃ、会長を呼び出そうか」
会長に連絡を取ると、会長が時間と場所を指定したようで僕たちはその場所に時間通りに向かう。そうすると、そこには会長ともう一人、まだ襲われていないひと。名前なんだっけ。
「あの……堀 慎一郎と申します。それで、今回の事件は解決するんでしょうか」
ああそうそうそんな名前だった。
「犯人もわかってますよ」
「え!?」
「犯人は一番最初に襲われた人です」
「河内くんが……?」
なんでだ、と東雲会長がつぶやくと、僕は軽く首を傾げた。
「逆に彼以外に思いつけないんです」
考えてみれば、最初の一人があそこまで固まったイメージで幻覚を見ているのはあまりにもおかしい。
「つまり、最初の河内先輩は嘘をついていた。そして次の被害者はそれを聞き──焦りはじめた」
「焦る?どういうことだ」
「この事件に警察が介入しないかどうか、ということです」
「け……!?」
二人目の被害者の名前なんだっけ。えーと……と思っていると、横からスッと印刷してあるコピー用紙が出てきた。こんなことだろうと思ったと言わんばかりの宮守のドヤ顔は気になったけど、ありがたくそれを受け取って僕は話を進めることにした。
「被害者の順番はあんまり重要じゃないんです。噂を聞いて、その被害と加害者像を広めること。元々処す、なんて言葉を聞いていたあたりからビクビクしていた内田先輩は真っ青です。これ以上被害が続けばアレがバレてしまうかもしれない──そんな心理的なプレッシャーと相まって、それの影響によって見てしまった……から、話がややこしくなっちゃったんです」
そもそもこれを仕組んだ犯人は、警察に自分の悪事を自首してくれればと画策したに違いない。しかし思ったよりも学校のことはあまり警察に一足飛びに行くものではない。
「次に狙おうとした東雲先輩の彼女は、どっちかっていうと普通にご病気で倒れられたと思いますよ」
「え」
「内田先輩はきっとここで逆に裁かれるべき自分以外にもアレをやっている人が何人もいるんだと、そう思い込んだ。だから平気で学校に来てるんです」
「さっきから、アレとかそれとか、一体なんなんですか!?」
半分絶叫のような堀先輩の声が響く。
「ドラッグです」
僕がこともなげにいうとあまりの衝撃に二人の口があんぐりと開く。驚いて口開けるの初めて見たなあ、と呑気なことを思っていると、東雲先輩が震える声で「ほ、本当なのか……」と聞いてくる。
「まあ、僕の予想を最後まで聞いてください。さて、内田先輩かと思った犯人ですが、彼以外にも被害が起きていることを知ると彼も後に引けなくなります。こうなると、目的通り警察を引きずり出さねばここまでやった意味がない。そして、次なる被害者である綾瀬川先輩を、狂言ではなく本当に襲った」
ただし警察を呼んだ僕も綾瀬川先輩が不審人物とすれ違いざまに強くぶつかったということだけで、その時いたものが本当に妖怪や幽霊の類じゃないかと疑っていたのもまた犯人にとってはひどく困ったことだっただろう。こうなれば、最後の被害者を襲うしかない──。
「というわけで、親に有力者がいて結構大事にしてくれそうな堀先輩が選ばれた。人選は最初の四人が怪しくて、最後の一人は保険のようなものだった」
「つまり、犯人は──河内、か」
「ええ。じゃ、僕はこれで。あ、チョコレートお願いします」
「ちょ、ちょっと待て!特大の爆弾だけ落としていってどういうことだ!?東雲の彼女の七海も疑わしいリストに入れられていたのは」
「七海先輩は使っていませんよ」
「……だろうな。入院の時にもそういう話は出ていなかったようだし、警察なんかも全く動いていなかったようだ」
「ええ。でも、彼女はある理由から持っていた。ある意味内田先輩からの騙し討ちのようなものです」
ここからは違法に手に入れた証拠になるため、根拠は出せないものの、内田の携帯なんかを見ればすぐにわかるだろう。証拠となる呼び出しのLINE、あれこれ残った取引。盗聴とハッキングの結果、実にあっさり手に入ったと言うことだった。
「内田先輩は七海先輩に横恋慕していたんですよ」
けれども、薬物に手を染めてしまった自分が手出しできる存在ではなく、また誰からも慕われるような清廉潔白な東雲先輩と付き合いだした。
そこで内田先輩は一計を案じる。
靴箱の中にポーチを手紙と共に置いた。それには決して開けるなと書いてあったため、七海先輩はあけずにいたものの最後に返す段になって中身が気になり、そして尋ねる。七海先輩に対して内田先輩は開けてみろ、と言う。プレゼントでも入っているかと思いきや、そこにあるのは──。
「ドラッグだった。そしてそれを取り出したところを内田先輩に撮られたのでしょう、どう頑張っても言い逃れできない証拠写真──それを隠すため、七海先輩は神経耗弱し、そして倒れた。タイミングが悪かったですね」
「そんな」
「どうやってそれ、知ったんだ」
……堀先輩の呟きは無かったことにして。
内田を呼び出さなければ、とつぶやくもののおとなしく彼が出頭するなんて顔を合わせたことのない僕ですらイメージできない。
「そんなことしたら七海先輩の写真だけ流出して終わりですよ。面白おかしくモザイクありの画像だけ載っけられればネットは躍起になって制服からありとあらゆる方法を駆使して七海先輩を特定するでしょう。そうなったら彼女は二度と普通の生活を送れなくなる」
「だが、どうしたら……」
「あの、内田先輩を橋の上で問い詰めて、彼が取引記録なんかの残った携帯を捨てたらそこで回収、画像をクラウドからも消去できんじゃないかな、なんて思うんですけど、どうすかね」
宮守のそんな提案にその場にいた先輩たちの顔が引き攣る。
「……天才か?」
「呼び出すのは堀先輩にしましょうか。東雲先輩だと逃げられる可能性があるので、僕たちは橋の下で待機して携帯をなんとしてもゲットします」
「難易度たけーな」
堀先輩は頑張ってわたりをつけ始め、それからしばらくして内田先輩との連絡が取れた、ということで連絡が来た。僕と東雲先輩は橋の下にいる。流れは緩やかだが水底はくすんで見えた。きっとかなり深いのだろう。
「アレからきゅうり供えたりしてます?」
「あ、ああ、一応してみたが……」
「じゃ、いいことがあるかもしれないですね」
「???」
首を捻っている東雲先輩だが、とりあえずこれで問題なくことは進むはずだ。
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