第20話 おくすり
東雲会長はあれから彼女を見舞ったそうだが、どうやら昏倒していて意識はないようだ。数日間このままでいるがいい、と筆川曰く例の河童が息巻いていたそうだから僕からできることはない。とりあえずアドバイスとして、良いきゅうりを川べりにおいていくと良いですよ、と言ってみた。
「そんで、なんか目星はついたのか?」
宮守がそう言ってくるが、僕としては七海何某を守りたかった会長の願いは叶わなかったわけだから、正直どうでも良いじゃんと思っている。チョコレート程度で軽く引き受けたのが間違いだったなあ、という感想しかない。
「宮守の方は?」
「ああ、河内先輩と内田先輩にはどっちにも話を聞けたよ。てか二人ともクラスが別で、会うのもほとんど生徒会の用事くらいだったそうでさ……」
河内と内田はどうやら、あまり接点がない同士だったらしく、今回親しい仲間内で互いに話し合って嘘をついたということはあまりなさそうだ。
「内田先輩ってめっちゃ色々関係ないことも教えてくれたんだよな」
どうやら口が軽いようで、なんだかんだ色々と話していたらしい。
「東雲会長から連絡は宮守にあったの?」
「それはもう、しつこく。今回も、やっぱり周りの人は何も見えなかったらしくて、やっぱり集団幻覚じゃないかとか色々」
「あー……ん?待って、そのなんだっけ、東雲先輩の彼女……名前忘れた」
「七海先輩な」
「あ、そうそう。七海先輩は意識不明なんでしょ?それってどうやって犯人像伝えるのさ」
「……確かにィ!?」
明らかに、誰かが噂を恣意的に歪めている。そう思ったものの、次の標的がどう襲われるかで変わってくるな、なんて僕は呑気なことを考えていた。
呑気だった。
まさか、目の前で実在するガスマスクの人物に襲われているところを目撃してしまうなんて。
しかも、目撃者に当たる人物が僕しかいないなんて。
いや、あの、それ、心霊現象かもしくは実在する犯罪者かどうか、そんなのわかんないんですけど……。
急に角から飛び出してきたカッパの人物はガスマスクをしていて、目の前を歩いていた女生徒を半分突き飛ばすようにして走り去っていった。ちなみに防犯カメラもない。女生徒は何が何だかわからないという顔をしながらも、あっさり立ち上がって歩いて行こうとしたが立ちくらみを起こしたようでまた尻餅をついた。
僕は溜息を吐きながら、110番してついでに東雲先輩に電話をした。
次の日の朝から僕は生徒会室に呼び出しを食らっていた。昨日の取り調べは微に入り細に入りしつっっっこく聞かれていい加減イライラしつつ帰宅したわけだけれど、どうやら目撃者が被害者の他には僕しかいないようで東雲先輩もまた切迫した様子だった。
「ガスマスクと、青いカッパをきた人物が綾瀬川を襲った。これは間違いないな?」
「ええ、まあ……」
「体格はどんな感じだった?」
「綾瀬川先輩より大きかったのは覚えてます」
「……!!」
そこで東雲先輩は息を呑み、それから慎重に僕に聞き出していく。
「靴なんかは何を履いていた?」
「運動靴ですね。メーカーとか詳しくないからわからないけど」
「……最後の質問だ。あれは、男だと思うか、それとも女だと思うか?」
「男じゃないかな、と」
骨格的におそらくガッチリしている男だと思う。そこまで聞かされてようやく、僕は生徒会長が何を考えているのかわかった。
「会長。最初の二人から、そういう話は一切聞いてなかったんですね」
「……」
無言の頷きで肯定すると彼は少し息を吐いた。
「すまない、授業前に。ありがとう」
「いえ、別に。これじゃチョコレートだと割に合わないです」
「……いい肉の詰め合わせでも送るとしようか」
気づけば僕は生徒会長の両手を握りしめていた。食べ物をくれる人はいい人である。
さて、やる気が出て来たところで整理をしよう。決して食べ物に釣られたというわけじゃないけど。
まず、一人目の被害者と二人目の被害者は確定で『嘘つき』である。二人が擦り合わせていないことを見るあたり、二人目は便乗で嘘をついている。
三人目、先輩の彼女に関してはカッパの仕業だろう。ここで、先輩の彼女は薬を河に撒いてしまって河童に襲われた。捨てたものはドラッグの類であろう。
四人目、運の悪いことに僕しか目撃者がいない時に襲われてしまったが、細い道には全く監視カメラなどがない場所が狙われていたので犯人は土地勘があるんだろう。妖怪の仕業というよりも人の仕業に近い。大きな道で襲ったって、霊感のある人間以外には妖怪は見えないのだから。
五人目に関する情報は宮守が集めてるらしいけど、聞いてないからスルー。
最初に犯人は処す、と言っているあたり害意があるのは間違いないんだけど、と思ったところでふと思う。
先輩彼女はどうして、そんな麻薬めいたドラッグなんてものを所持していたのか。
譲られた、買った、いずれにしろ犯罪行為なのだし、もらった写真を見てみたがそんな行為に手を出すような人間には思えない。
それじゃあ、もしかするとそれは信用できる人間からもらったのかもしれない。
その犯人は色々と口車に乗せて先輩彼女にドラッグを持たせたが、それを先輩彼女は川に捨てた。ということは彼女はドラッグだとわかっていて受取り、そして捨てたのだろう。
「最初の男は、嘘をついている」
じゃあ、その次の男は?
宮守に聞くべきことがもう一つ、増えた。
結果は割とろくでもないものだった。
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