第13話 それぞれの事情
「やっほー、みんなお待たせ!あ、兄さん、一応この教室がその現場だから、全部一度で済むようにしておいたよ!」
「……よくできる妹で助かったよ」
「あ、あの、結ちゃん……あの、どうしてここにみんなを呼び出したんですか?それに、その他校の人たちは……」
そうオドオドした女の子が胸を押さえて一歩進み出てくる。態度こそ下手にでているものの、普段はそれなりに発言権があるのだろう。こうして前にでてきても、しゃしゃり出てくる人がいない。
「ああ、宮前さん。今回のチャーリーゲームの件でね、ボクの兄さんに手伝ってもらおうと思ったんだよ」
彼女が宮前 彩なのか、と思いつつABCDで呼んでたからわかんないなという感想をもつ。女の子はおどおどしながらも、ちょっとだけ微笑んでこちらに歩み寄ってきた。
「そうなんですか。よろしくお願いします」
宮守に手を差し出した彼女に「いやいや、俺じゃなくてこっち」と僕の方へ指を差した。
「えっ?こんなちっちゃな人がお兄さんなんですか?私てっきりもっとイケメンな高身長の人がお兄さんなのかと思ってましたよ。狭霧さんがよく褒めてるって聞いたことあるから……」
「ちょっとマミ、辛口!」
きゃらきゃらという笑い声に僕は少し面倒くさいなあ、という気持ちが湧き上がってきたものの、この後のお肉のためには頑張るしかない、というのと後は一応『父親の依頼として』処理したこの件について、多少は頑張らなくてはならないという気持ちがある。
実は今回の依頼をこっそり自分でやってしまおうかと思ったのだけど、それだと実際に家の収入には繋がらないし、神社の営業の方も好感触ではあったけどあの後連絡があったという話は聞いていない。
「今回の件は、父の『代理』、ある意味アルバイトとしての行動でもあるから、一応知識は詰め込んできたつもりだよ。そもそも、チャーリーゲームしかり、こっくりさん然り、ほとんどの場合は空間の歪み、人間の無意識下での筋肉の動作によるものだっていう。この教室だって、完全な平行を保った密閉空間ではないはずだよ──現に上の方、小窓は開いていて風が吹き込んでいる。人間の意識はそこまで細かい動きを察知できるものではないんだ」
さて、と僕は準備してきた同じチャーリーゲームを机の上に置いた。
「ある意味集団ヒステリーによる発狂という線も考えられるけれど、今回は『一人』。つまり何らかの霊的なアクションがあったと考えるのが、普通の人の思考だけれど、僕はそこにもう一つ考えるべきだと思っているよ。つまり、今回の被害者、発狂した人物が『発狂したという嘘をついている』と、ね」
「はあ?そんなわけないじゃん、あんた現場見てないからそんなこと言えるんだよ」
一人、髪をやや薄い茶髪に染めたような女の子が噛み付いてきたけれど、僕はまあまあ、と両手で押さえるような動作で落ち着かせる。
「そもそもチャーリーゲームのチャーリーの正体は、メキシコの創造神テスカトリポカっていう神様っていう説が有力でね、この程度の儀式で神様を呼び出すなんてできないとは思うけれど、仮にこの場に神様が現れたのだとしたら……人を発狂させるなんてことすると思う?」
いや、神が現れたら多分そのくらいの理不尽さはあると思うけれど。
「い、いやでも、そんなのはおかしいでしょ。だってあんなハルカのことなんて、私見たことないし……」
ハルカって子が発狂したのか、と思いつつ僕はだからね、とカバンから用意してきたものを取り出した。
「試しにここにいる全員で、チャーリーゲーム。やってみようかな、と思ってさ」
「そんなッ!?」
「わ、私は嫌です……」
宮前 彩はそう言いながら挙手するが、僕は別に強制するつもりはない。ただ、僕がするべきことはここに来てからただ一つ。
「いや、言葉を間違ってしまったね。チャーリーゲームは呼び出したものを『返す』ことが必要なんだよ。つまり、君たちはチャーリーを呼び出した後、まだ彼のことを帰していないんじゃない?」
「そ、それは……そうだけど、でもそんなのただのオカルトでしょ?さっきあなた自身が言ってたじゃない、ほとんどは科学的に説明できる、って」
「そう、ほとんどだよ、Dさん」
「D……?」
あ、やべ。
「まあ、君たちの懸念も理解できるよ。そもそも、胡散臭いオカルト話なんだから半信半疑でしょうがない。だけど、僕らはその半分信じた心に対して何とかしなければいけないからね。全く面倒なことをしたもんだよ──」
だから、席についてくれるとありがたいんだけどね。
「……わ、わかりました……でも、私だって、今回ハルカちゃんがおかしくなったのは、明らかに演技じゃないことなんてわかりますから」
オドオドとしていた少女、宮前は椅子に座った。それに続くように、咲川、そしてマミという少女、そしてD……ごめんDだけ名前わかんないや。
「そう。じゃ、始めようか」
これはある意味、公開処刑を始めるための布石なのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます