第12話 妹の学校

巫女バイトの人は自らの名を咲川 深澄さきかわ みすみと名乗り、彼女の妹は咲川 三來さきかわ みらいというようだ。どうやら同じ高校の先輩だったようだけど、まあいずれわかることだから考えなくてもいいか、と思考を放棄する。

『じゃあ、今回の件について説明してもらってもいいかな』

『ええ、大丈夫です。一応一通りの話については妹から聞き出しているので』


そんな文言から始まった説明は、ちょっと簡単には信じ難いものだった。

まず、発狂した友達をAとしよう。咲川 三來はチャーリーゲームの概念を持ち出して、それから放課後その友人も含めた五人が集まりチャーリーゲームをすることになったのだという。Aはそのゲームに対して異様に拒否感を示していたものの、咲川を含めた他の五人には強く出られずに結局チャーリーゲームに参加したらしい。

他の友人たちをB、C、Dとしよう。

彼らはむしろチャーリーゲームをやりたがった側であり、特にBはAと仲が良かったため説得に回ったようだ。

そして、チャーリーゲームを始めた後、一時間ほどした時だった。

突然Aが立ち上がって絶叫し、咲川とBが立ち上がって止めたにもかかわらず暴れ回り、そして唐突にぼんやりとしたようになってどんな呼びかけにも応じなかったようだ。Cが教師を呼びに行き、チャーリーゲーム自体はお開きになってしまったのだという。そこからAは完全に学校に来なくなってしまい、そこからクラスの中でも何があったのかを知りたがる人が出てきた。


『それで、チャーリーゲームをやろうと言い出した妹に対して、非難の目が向けられてしまったんです』

『なるほど、話の流れ自体はよくわかりました。明日、妹の学校に行って実際に話を聞ければ、と思ってます』

『なるほどです!ありがとうございます』

そんなわけで、僕の明日の予定は決定した。


「で、なんで宮守がいるんだろう」

「ハハハ、まあ成り行きっていうかその件俺も妹から聞かされててな。気になってたから、ちょっと聞きたくてよ」

「……ハア……高橋さんはいいの?」

「ああ、彼女にもどこに行くかはきっちり伝えてあるし、妹が悩んでるのも盗聴してたから知ってるよ?」

「ダメだこいつ」

さも当然のように盗聴されている生活を受け入れているあたりもう性癖というか日常になっているんだろう。というか、僕は宮守と友人になった覚えはないんだけれども。


「まあまあ、気楽に行こうぜ!」

「気楽にねえ……」

玉城中等教育学校は立ち入りに身分証明書の提示が必要になるけれど、いつでも見学可能であるという開かれた場所であることも特徴的である。そのため、僕らが学生証を提示さえすれば立ち入ることも可能なのだ。

校門のところにある守衛さんのところで、入校許可証を手に入れるとそれを首からぶら下げたままスリッパを鳴らして歩き始める。


ふと、廊下の向こう側から人がこちらへ勢いよく駆け寄ってくるのを見つけてちょっと目を細める。

「にいさーーーーーーん!!」

大声で駆け寄ってくるその姿は僕よりも身長が高く、そしてより母親の美貌を受け継いでいて綺麗な姿である。

狭霧 結。

「結、ちょっとおちつ……ッ!?」

「あ、やばい止まれないやごめん兄さん」

勢いよく走り込んできた彼女が勢いよく衝突し、僕はその体を抱えて倒れ込む。ジンジンと痛む背中をさすりつつ起き上がると、彼女はえへへ、と笑いながら僕の胸の中から見上げてくる。

「いやあ、つい。止まれなくなっちゃった」

「気をつけてよね、今の仕事、体が資本でしょ」

「うぅーん、まあいいじゃん細かいことはさ。兄さんはボクに会いにきたの?」

「いや、違うよ」


そう言った瞬間、結はしょんぼりとした表情になった。けれど、「ちょっと調べたいことがあるから、手伝ってくれると助かるよ」と言うと彼女の顔は輝いた。

「兄さんが調べたいことって何かな!ボクにできることならなんでもするよ?」

「はいはい、女の子がなんでもするなんて言っちゃいけません」

「え……あの……え???待って、めちゃくちゃ妹の持ってる雑誌の表紙とかで見たことあるんだけど……?」

「ああ、宮守。妹の狭霧 結だよ、むっぴって呼ばれてたりするけど」

「え、苗字が違うのは……」

「親は離婚してて僕は父親に、結は母親について行ったんだよね」

「しかし、兄か……でっけえなあ……」

僕の頭に手を当てて、それからほとんど同じくらいの身長である結を見る。悪意のある行動にちょっとイラッとしたものの、やはり栄養状態の違いだろうか、と思う。


「やっぱり牛肉とかも食べなきゃダメなのかな……」

「何言ってるのかわからないけど、今日は一緒に美味しいもの食べに行こうよ。お母さんに、お父さんに連絡してもらって焼肉行こ!」

「いいの……!?」

僕は妹の手を握りしめ、そして涎を拭い取って目を輝かせた。妹はにっこりと笑って頷く。

「お、おお……いつになくちゃんとした顔になった……」

まあ、お肉が待ってるんなら僕は頑張ろう。事態が解決して食べる肉は間違いなく最高に違いない。


現在の状況を話すと、彼女は「ああ、あれか!」とすぐに思い至ったように手を叩いた。

「三年二組、ボクのクラスのお隣の話だよ。ちょっとこっちにも噂が流れてきてね、当人たちの一人とはボクも話したことあるから」

「あ、そうなんだ?」

「うん、その子は宮前 彩みやさき いろって言うんだけど、イロちゃんは結構顔が広くてね。ボクも前、クラス対抗のイベントがあってその時ID交換したりしたからよく知ってるよ」

「じゃあ、直接話せるかな?」

「うん。多分まだ学校にいると思うよ。今ちょっと連絡取るから、待っててね!」

そして、十分もしないうちに全ての関係者を教室に集めることができたからと言って結はとある一室へと僕たちを案内してくれたんだけど、あの……関係者全員を集めるって、普段どれだけの人望を持ってるの?僕の妹って。

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