6.
そして、三日目の朝である。カロルは五時に目を覚ました。
身支度を整えてから庭に出てみると、中年の品の良い女性が、薔薇の世話をしていた。
カロルは軽く息を飲んだ。写真と映像のみではあるが、見覚えのある女性だったからだ。
「おはようございます。前侯爵夫人でいらっしゃいますね?」
カロルが、失礼のないよう細心の注意を払って声をかけると、女性はちょっと驚いた表情をしたが、すぐに笑顔になった。
「おはようございます。よく眠れましたか」
「お陰さまでよく眠れました」
人前に出ることを嫌った前エドバルド侯爵の伴侶であるこの女性も、数えるほどしか公の場に出ていないし、カロル自身も前侯爵夫人と直接会ったことはない。
だが、写真や映像ではよく分からなかったが、こうして直接顔を合わせると、その目元がある人物によく似ていることが分かった。
後ろから人が近付いてくる気配がした。
「カロルさん、朝食が済んだら少しお時間をいただきたいのですが」
その凛とした声で話しかけてきたのは、クレアだった。今朝は紺色のワンピースを身に着けている。
「私こそ、お時間をいただけるのをお待ちしておりました。エドバルド侯爵」
カロルの言葉に、クレアは少しの遠慮もなく眉をしかめた。
「いつから気付いていた?」
「お屋敷の人達の雰囲気でなんとなく…。でも、確信したのは、お母様にお会いした時です」
前侯爵夫人は、娘とよく似た目元を細めて、困ったように笑った。
「ごめんなさい。カロルさんに会わないように気を付けてたんだけど…」
「お母様のせいじゃないわ。それではカロルさん、また後で」
クレアはすたすたとどこかに行ってしまった。
ちなみに、クレアという名前は三番目の名前だそうだ。アリシア・カロリーヌ・クレア・デ・レメディアス・フォン・エドバルド。これが彼女の正式な名前である。
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