5.2
ジョフはさっそくカロルを客室に案内した。
「部屋にはシャワーが付いています。夕食は七時にこの部屋に運びますので…」
カロルは、ふと疑問に思ったことがあったが、口には出さなかった。
侯爵が留守にしているのは聞いているが、侯爵の母上である前侯爵夫人も留守なのだろうか。本来なら、挨拶しなければいけないのだが。
機会があったら聞いてみよう。さすがに今日は疲れた。
七時にジョフが夕食を運んできた時、カロルはもう一度電話を借りた。
「今夜は侯爵家に泊めていただくことになりました。もしかすると、何日か帰れないかもしれません」
カロルの上司は心配そうに言った。
「了解だが…、無理はしなくていい。ご不興を買うかもしれない」
「侯爵様も、いつかは国王家からの親書を受け取らなければいけないのは分かっているはずです」
「焦るな。私達は王宮の職員に過ぎない。国王家やその血筋に当たる方々の気持ちが、本当の意味で分かるはずがないんだ」
「…。分かりました。でも、もう一日だけ…」
電話は誰もいない別室でかけたので、誰にも聞かれていないはずである。
だが…。
カロルと上司との間の会話を、クレアは無言で聞いていた。
侯爵家の全ての電話は、一か所に収音されて録音されている。本来はセキュリティの一環だが、それを悪用しているのだ。
クレアは唇を嚙みしめていた。
そして、そっと部屋を出て行った。
翌朝、朝食を運んできたジョフが、侯爵は今日も帰らないとカロルに告げた。
ジョフはカロルに一度王宮に帰ることを勧めたが、カロルはその日も一日中、侯爵の領地内で汗を流した。
クレアの姿が見えないので尋ねると、早朝に外出したという。
カロルはその夜も侯爵家に泊めてもらった。
カロルは昨日の電話で上司に言われたことを考えていた。
おそらく上司の考えが正しいのだろう。
しかし、どうしても帰ろうという気になれなかった。
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