5.1

 その後、カロルはもうひとつの畑にクワを入れて、牧場で放牧されている馬を移動させるのを手伝い、厩舎の掃除まで手伝った。

 もうとっくに夕方だった。侯爵の屋敷を取り囲むように広がる牧場と、その先の丘にある葡萄とリンゴ畑が夕日で赤く染まっている。

 クレアが困った顔をしてカロルの元にやって来た。

「侯爵は今夜はお戻りにならないそうです。いろいろと骨を折っていただいたのが無駄になって申し訳ありません。すぐにお帰りになったほうが…」

 しかし、カロルはきっぱりと言った。

「侯爵がお帰りになるまで待たせていただきます」

「出直されたほうがいいと思いますよ。泊まるところもありませんし」

 クレアは冷たく言い放ったが、カロルも頑固に主張した。

「町のホテルに行きます」

「今のシーズンはどこも満室です」

 侯爵領は人気の観光地でもある。

「では、車の中で寝ます。野宿したっていい」

「………お好きにどうぞ」

 クレアはぷいとどこかに行ってしまった。しかし、しばらくしてからジョフがやって来た。

「今夜お泊りになる部屋を用意しました」

「ああ。でも…」

「クレアさんのお許しが出ました」

 これを聞いたカロルは、思わずジョフの顔をまじまじと見た。

 ジョフはちょっと苦笑いをしてから、さらりと言った。

「国王家と侯爵家の仲が悪いのはご存知ですよね?国王家から来た人を野宿させたなんて知れたら、大変なことになってしまいます」



 国王家と侯爵家の仲が悪いというのは、本当のことである。

 中世の頃より敵対関係にあった、現国王家であるマルク家とエドバルド家の争いは、17XX年の「セントシャギャウルデーの戦い」において、マルク家の勝利で幕を下ろした。

 そして、マルク家の当主は、パブロ王国を建国して国王となった。エドバルド家側は国王に和睦を申し入れ、国王はその印として、エドバルド家に爵位を与えたのである。

 しかし、和睦はしても、両家の仲は悪いままだった。それは今日まで続いている。

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